王子様を放送します

竹 美津

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本編

ふにふに

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竜樹は、野外ステージのリハーサルを午前中こなして、3王子達と、心幼く逆行よしよし中の青年ヴィフアートと、何でも実現バーニー君と、寮に一旦帰った。言うまでもなく、護衛のマルサ達やカメラのミラン、お助け侍従のタカラは1チームとして一緒である。

まだリハーサルの残る野外ステージでも、吟遊詩人や音楽家達、スタッフもお昼休憩を皆でとっている。竜樹のいた世界の、どこか、こうじゃなきゃ!空き時間滅死!な放送でなくて、お昼休みは放送も競演会も休憩を入れる、お国柄に合わせた、のんびりタイムを採用なのである。

呪いをかけた婚約者候補ジャスミン嬢(多分確定)と、マーブル伯爵ヘリオトロープ当主、ミモザ夫人、タイラス眠り呪われ長男、お兄様想いの次男コリブリ君、もう1人の婚約者候補キリッと美剣士ポムドゥテール嬢の一団に話を聞くために、彼らをさあさあと連れてきた。
ミモザ夫人が、かなり取り乱していたのでーー曰く、信じてたのに、タイラスに献身的に尽くしているから、私にも良い顔して、本当に良いお嫁さんになるかって、それなのにーーリハーサル中に落ち着かせて、ジャスミン嬢は逃げようとしたので軽く拘束して。何を思って呪いなどかけたのだろうか。
始め、竜樹は呪い呪われコリブリ君率いる一団を、王宮の別室に連れて行ってもらって、お昼を食べさせて、から聴取と思っていたのだが。
待ち構えていたオーブが、コココ、寮に連れてコココイ、と鳴いたので、オーブが言うなら危険もないでしょう、と竜樹の後から寮の交流室に入ってきた。
こちゃ、とした子供達に驚きながらも靴を脱いで、あまり聴取な雰囲気でないのが、却って話し合うには良いかもしれない。

3王子が、とてとて入ってくれば。

「待ってたぞ!また来たぞ!オランネージュ、ネクター、ニリヤ、こないだ振りだな!」
交流室には、ファング王太子が、弟のアルディ王子とお昼の支度、配膳のトレイを手にしながら、お尻尾ブン、ニコニコと。
そしてその後ろに、ワイルドウルフのご学友達、男子3名女子2名と、その弟妹ちゃん達、3名の合わせて8名が、先に帰っていたジェム達や小ちゃい子達と混じりながら、期待のこもった目でお耳尻尾で、3王子と竜樹を見ている。
テレビ電話で自己紹介をし合っているから、会うのは初めましてだねーって、子供同士は早速お手てを取り合ったりして、ウフフと照れ臭嬉しそうにしている。

「良くいらっしゃいました、ワイルドウルフの子供達!ギフトの竜樹だよ、お会いするのは初めての子が多いよね。明日から、3日間、テレビのレポーターとして、少しだけお手伝いしてもらいます。よろしくお願いしますね。自由時間には、護衛の方や大人のお付きの人の言う事を聞きながらも、収穫祭を楽しんでね!」

「「「はーい!よろしくお願いします!!」」」
「よろちくおねがいちます!」
「ちまつ!」
「しますぅ!」
ふこふこのお耳ぴこぴこ、お尻尾ピンと、皆良いお返事。
じゃあ、お昼ご飯にしましょう。

「さあ!お昼ご飯の時は、思い煩う事なく、存分に味わって美味しく頂きましょう。今日は栗と猪挽肉のそぼろ丼だね。菜葉の漬物もちょっと入って、美味しそうだね!」
昼食が増える旨、ケータイ電話で伝達済みなので、量を気にする事はない。
呪い呪われ1団には、纏まって1テーブルを多く出して、ちょっと呪った犯人のジャスミン嬢は居心地が悪いだろうが、ご飯を食べて貰おう。

いただきま~す、と、うまうま食べる。ワイルドウルフのご学友と弟妹ちゃん、ファング王太子は、細かい挽肉のそぼろ丼は初めてである。どちらかと言えば塊肉、しかし最近は、アルディ王子が帰ってきたら美味しく食べてもらおうと、ワイルドウルフでも塊ばかりじゃなくなりつつある。それにハンバーグやツクネ、生姜焼きや野菜炒めも美味しいし。
このそぼろ丼も、美味しかったらきっと、レシピを欲しいとファング王太子は言うだろう。お父様、お母様にも食べさせてあげたいと。
スプーンで混ぜ混ぜ、どこを食べても味がするようにして、パクリ!
小さな鳥の卵で作った、目玉焼きが乗っているのも、また美味い。

そろそろ朝晩は、ヒヤッとした空気を感じたりもする満実の月は、竜樹世界に換算すれば、大体Octobre
、10月だそうである。なれば、10月31日が収穫祭初日という訳だ。秋も真ん中を過ぎて、本当に満ちる実の季節もふくふくと過ぎゆく所だろう。
収穫祭の3日間は、冬支度の為の買い込み市ともなり、商人達も活気付いている。
豊富に採れた、季節の野菜達、ナスやほうれん草、小さなお麩のたっぷり入ったシンプルな味噌スープは、お口に深く滋味があり、また食欲をそぼろ丼に戻らせる。
10月31日といえば日本茶の日、と竜樹調べで出てきたので、あやかって季節最後の採れたて作りたてな秋番茶を。
子供達は、カップにもらった程よい温度のお茶を啜っては、っあ~、ふ~、なんて味わって、なかなかの通である。一個だけ付いている、こちらでのさつまいも、ドゥ芋団子も甘ジョッパくて、良き。

「•••そんな気分じゃないのに、確かにこのお昼、美味しいわ。」
ミモザ夫人が、しょも、となりながらも、スプーンでそぼろ丼を、お上品にモリモリ(難易度高い)食べた。
「タイラスにも、食べさせてあげたいわ•••。」

いかにも母、家族の発想であろう。
交流室テーブル横に、家族の食事に加わるように、車椅子で眠ったタイラスもいる。少し、頬に赤みが差している、ような気がする。周りの環境を全くシャットアウトしている訳でもないのだろうか。
コリブリ君も年齢に見合った食欲を見せ、お兄様タイラスを慮りながらも、ムニュとみたらしのかかった、ドゥ芋団子を食べた。
ジャスミン嬢は、流石に食が進んでいないようである。スプーンでご飯をこねこね、色悪い悩ましい顔をしている。

「お代わりは、貰えるのだろうか。子供達の分が、ちゃんとあるなら、で良いのだが。」
ポムドゥテール嬢が健啖な所を見せる。あちゃー、とミモザ夫人が視線を遣るが、竜樹としては料理長と、こんなのどう~なんて頑張って作った献立が美味しいと評価されて嬉しい。

「大丈夫ですよ。目玉焼きはないけど、ご飯もそぼろも、お代わりあります。子供達の分もちゃんとありますよ。」

嬉しくなって手ずからご飯をよそっちゃう竜樹なのだ。配膳台に立って中振りのお茶腕を差し出したポムドゥテール嬢に、この位?と聞きながら、3分の2杯程を作ってあげた。ありがとうございます、と丁寧に言って、お茶を一口飲むと、ポムドゥテール嬢は再びお代わり丼に匙を入れ、綺麗な所作で、はぐり、はぐりと美味しそうに食べた。

「ぼくもおかわり!!」
「おれも~!!」
「少し、たべられるかなぁ。くりとおにくが、たべたいなぁ。」

子供達の要望に応えて、飯盛りおじさん竜樹は、はいよー、この位?くりもね?とよそってやる。

「竜樹とーさ、お客さん、どんなひと?」
こんにちはー、の挨拶したくらいで、これこれこういう人です、の案内もなかったお客様達を警戒しているのだろう、ジェムが、竜樹に聞いてきた。
ニリヤがすかさず。
「のろいなんだよ!みゅじーくしんさまが、あしたパチーンとのろいをかえすって。おんがくを、たいかに!」

「????どゆこと?」

もぐ、ごっくんとしたオランネージュが。
「そこの、ジャスミン嬢ってのが、婚約者になるかなーって予定のタイラスに、呪いをかけてたんだって。眠ったまま、衰えるっていう、ひどい呪いだよ!ミュジーク神様は、タイラスの弟のコリブリに神託をして、助けてやるってなったんだ。だけど、神様が、簡単に助けてやってたら、人のためになんないから、って、明日の歌の競演会で、みごとな歌を歌った人の音楽を対価に!ってしたの。タイラスが呪いから解放されるかどうかは、明日の歌次第、ってこと。そんで、呪いを解いた人には、ミュジーク神様が祝福する、って特典があるから、誰が?俺が!って、みんな盛り上がってるんだよ。」

「ミュジーク神様、歌の競演会もりあげたかったみたいよね。」
うん、ネクター、バレバレだよな、ミュジーク神様は。

「ヘェ~。でも、竜樹とーさも呪い解けるんじゃね?エルフの時にやってたじゃん。竜樹とーさ歌う?」
ジェムの素朴な疑問だが、竜樹とーさは歌いません。

「何か特別な呪いで、ミュジーク神様のおはからいじゃないと、ダメっぽいよ。あと、呪い解いても、何でそんな事したのか分かんないと、またやるから、ってお話し合いに連れて来たんだ。明日の本番に逃げるな!ってね。」
オランネージュ、解説ありがとう。
それを聞いたサンが、いかにも憤慨した、って感じで。

「のろい、いけないんだよ!エルフのマレおねえちゃんや、ベルジュおにいちゃんたちとか、ロテュスでんかとか、かわいそうだったじゃない!サン、おこるよ!」
「そーだよ、そーだよ!」
「エルフは、のろいで、くるしんだんだ!」

小ちゃい子なりに、善悪は分かる。親しいエルフに思い入れもある。
お助けエルフの辛子色スモックも似合う2人、眼鏡っ子で優しくて賢いマレお姉ちゃんや、細マッチョで頼り甲斐あるベルジュお兄ちゃん、そして竜樹の伴侶予定なロテュス殿下を、虐めていた呪いは、メ!なのだ。
聞いていたマレお姉さんとベルジュお兄さんは、子供達の食事をお助けしながら、その優しい怒りの気持ちに、ニコニコ!と嬉しそうに笑った。

「やなことあったら、のろわないで、やだよって、いえばいいじゃない!ジャスミンおねえちゃん、なんで、のろいなんか、したの!メだよ!おこるよ!」
ぷんすこ。
「そうだよなぁ。やな事あったら、やだよーって、言えば良かったんだよね。簡単な事なんだよ、本当は。」
竜樹が、ウンウンして、サンの頭を撫でてやると、うん!と大きく頷くサンである。

ううう、とジャスミンは、呻くばかり。

コリブリ君が、ふ、と冷たい声で。
「喜んでたんだよ。ジャスミン嬢は。タイラスお兄様の看病をする、って、何か良い人風に、ミモザお母様にも気に入られて色々やってたけど、ぼく、思ったんだ。見てて、ジャスミン嬢すごいわ助かるわ、って、あなたがいてくれて、ってお母様や他の人が言うと、いえいえ、当然ですもの、なんてすごく嬉しそうな、にたーって。何かおかしいって、思った。何でタイラスお兄様が具合悪いのに、嬉しそうなの?だからぼくは、ジャスミン嬢がお兄様の婚約者になるのは、いやだったんだ!」

大人が気にしなかった矛盾を、コリブリ君は見逃さなかった。

あー、看病している私すごくない?チヤホヤされてる!って満足感のために、子供や身近な家族を病気と偽ったり、わざと害する、っていうやつ、あったよね。代理ミュンヒハウゼン症候群っての。

どこまでジャスミン嬢が病気なのか、はたまた恋の駆け引きで、段々とそうなっちゃったのか、タイラスを独り占めした嬉しさなのかは分からないけれどさ。そこに快感の報酬があったのは、確かなんだろう。

「???わかんない?いいひとにみられたかったから、のろいしてかんびょうした???のろいしないで、いっしょにたのしくしたほうが、いいひとじゃないの?」
「だよねー!」

ウンウン、サン。
竜樹とーさは、君たちの健全なこころを、とっても愛しく思います。

食事が終わって、お話し合い。
ジャスミン嬢は黙りこくっていたけれど、呪いをした事は、渋々認めた。白状石においで願った。

「どうしてよ!!確かにタイラスは、あなたより、ポムドゥテール嬢を好きだったわ!私が無理を言って、ジャスミンに婚約者候補になって、ってねじ込んだわよ!でも、だから呪って良いようにしたって訳!?私が、悪かったの!?私が•••。」
ミモザ夫人は嘆いた。タイラスのお嫁さんに、あらまほしき要素が、ジャスミン嬢にあった。ように見えた。
その目は、節穴だった。

「私が、女だてらに剣士などやって、騎士として働いて、女らしさのかけらも無かった事が、ミモザ様をそうさせてしまったのだ。だから、ミモザ様、この状況は、私のせいでもあります。私は騎士をしている事に、誇りもあるし、何の恥もないけれど。幾らタイラスが私を好いてくれているとは言っても、お嫁さんになるなら、ご家族は、大人しく、家政も充分に取り仕切れる、主婦たる嫋やかな女性が、それは、好ましいだろうよな。」

ポムドゥテール嬢は、女騎士であるからか、なかなか現実を見た、実際的な物の見方をする人のようだ。
女騎士が悪い訳ではない。
だが、迎える側の好みは当然あろう。と納得している。

「そ、そうよ!そ、そ、そうよ!あなた、ポムドゥテール嬢が、もう少し、分かりやすかったら、私だって!あんまりお喋りしてくれないし、話せば固いし、お家の事も、爵位だって足りないし、おしゃれもしないし、私、私、つまんなくって、こんな人がタイラスの奥さんになるなんて、嫌だなって思っちゃったのよ!ごめんなさい!!」
ウワァアアアア!!!!
ぶっちゃけ後、号泣である。

マーブル伯爵家当主でミモザの夫なヘリオトロープが、うぅーうぅ、と唸ると、「ポムドゥテール嬢、ミモザがすまない。今は取り乱しているから、許してやっておくれね。」と謝った。

「勿論です。ヘリオトロープ様。私には、タイラスの婚約者など、いや、人の嫁になるなど、荷が重かったのでしょう。呪いが解けたら正式にタイラスに断りを入れます。どうか、ジャスミン嬢をとは流石にお勧めしませんが、優しげな女性と幸せに結ばれるよう、タイラスに促してやって下さい。」
かっちり、としたポムドゥテール嬢は、ふわふわとした感じのミモザ夫人と、確かに合わないかもしれない。だけれど、タイラスを好きな気持ちは?

「なによ!ひっく、それじゃ、わ、私が薦めたジャスミンに呪われて、と、解けたら、す、好きだったポムドゥテール嬢にフラれて、タイラスが可哀想過ぎるじゃない!!やめてよ!私が悪いの!ごめんなさいいいいい~!!」
「ミモザ•••あぁ~もう•••。」
ヘリオトロープが、ガックリして、妻、ミモザ夫人の背中をトントンしてやっている。

「お母様は、見えてないんだ。ポムドゥテールお姉様は、そりゃ、お口がお上手ではなくって、お喋りなお母様とは合わないかもだけど。いつだって、ぼくには優しくしてくれた。ギターを弾いてる時、一緒にいてくれたり、勉強でわからなくて家の先生に叱られた時も、お話聞いてくれたりだとか。」
控えめな、時間を一緒に、本当に寄り添ってくれる、アピールでない優しさ。
コリブリ君は、気づいていたのだ。

「コリブリ•••。お前は真実が見えていたんだね。私も、ミモザも、馬鹿だった。ミモザと仲が良くないお嫁さんじゃなあ、ってジャスミン嬢に反対しなかったんだから、私も同罪だなあ。」
ショボン。
ヘリオトロープがしょげた。

「ミモザ夫人。まあ泣きたい気持ちは分かりますが、今回、話し合う機会が得られたのだから、ご自分の気持ちを正直に話してみては?それで、拒絶するのではなくて、ポムドゥテール嬢は、タイラス様と好きあっているのでしょ?受け入れられるかどうか、妥協点を探ってみては?」

竜樹は、もはやジャスミン嬢の事はどうでもいい。いや、どうでも良くないが、まだダンマリだから、こっち先にしよ。

「いや、私はタイラスとは、結ばれないご縁だったのでしょう。無理されない方が良いです。•••その、私、私にも、タイラスと結婚するには、その、そうだな。きっと、そうだったんだ。結婚に向かない事情もあって、ですね。」
「タイラスが可哀想よおおおお!!!ウワァアアアア!!」

ひとまず、泣き尽くしてもらい。

ポムドゥテール嬢は騎士爵の娘なのだそうだ。騎士爵は一代限りの爵位なので、このままだとポムドゥテール嬢は平民となる。
ミモザ夫人は、それも確かに気に入らなかったのだが。
「私の母は、やはり騎士でして、幼い頃に、獣から、石化の怪我を負いました。タイラスのように、眠ったまま、段々と石化していくのです。今でも彼女は、眠っています。私は父に育てられ、母の愛や、女性のたしなみは、直接母など近しい女性から、教えてもらえていません。」

無骨な、男式に育てられたポムドゥテール嬢を、ミモザ夫人は、何となく、その無知も、あれーって感じだし、今まで付き合ってきた女性達との付き合い方では上手くいかなくて、ジリジリしていたとの事なのだ。最初は、だからこそ仲良くして、愛を注ごうと思っていたのだ、とミモザはハンカチを揉む。

そこへ、私、タイラス様をお慕いしています、と同じ伯爵の家から勧められたジャスミン嬢が現れて、しかも彼女はミモザ夫人の好みに合わせたので、気に入ってしまった。
タイラスの気持ちも分かるけど、候補として、暫く2人のお嬢さんを、競わせても良いのでは?やっぱりポムドゥテール嬢が、となればミモザも納得もいくし、ジャスミン嬢になれば、お嫁さんとしての嗜みは充分で、タイラスにも後々良いし、ミモザはやりやすい。2人のお嬢さん達にも、失礼ながら、1年と区切って、と同意を得てーー女性の婚活期の1年は貴重だから、流石に同意なしでは出来ないーーうくく、とここまでが、ミモザの皮算用だったのだ。

ひっく。
「たわいもないお喋りが、したかった。お嫁さんと。ひっく。お家のことや、ぐすっ。だけど、ポムドゥテール嬢のお家では、ひっく、お茶会すら、開いてなくって。あぁ~、イチから教えるのかぁ~、って、思っちゃったんだもの。」

「貴族のおばちゃん、ばかだなあ。」
聞いていたロシェ、めんどりと卵のお世話を楽しくやっている彼が、ズバリと。
「お、おばちゃ•••?」
目を白黒させるミモザに。

「めんどりだって、卵からひよこ、ひよこからめんどり、ってイチから育てたら、すっごくかわいく思うんだ。ポムドゥテールお姉さんは、何か、良い人っぽいし素直そうだから、イチから育てたら、きっとすっごくかわいい、って思うんじゃない?なのに。」
その機会は、良きものであると。

ぐすん、と涙を拭いて。
「そうか•••そう、そうよね。不精しないで、最初から向き合えば良かったのだわ。」
捻じ曲げた、その結果が、呪いである。

「いや、その、だから、私は結婚には。」
「どうして?私が、ジャスミン嬢と競わせるなんて、嫌なことしたから?幾重にも謝りますから、どうかタイラスを、捨てないで、ポムドゥテール嬢!」
「ポムドゥテールお姉様、ぼくも、お兄様と結婚するのは、お姉様が良いです!」
うんうん、とヘリオトロープも頷いて。

う。
と口篭ったポムドゥテール嬢は。
顔を真っ赤にして。

「チ、チガウのです。あー、言わねば分かってもらえますまいね。私の、恥です。恥ずかしい。幼い、いやらしい、私など、タイラスとは•••。」
ボボボ、と熱く汗までかいて、必死に言わんとする、その事は。

「私、寝る時に、お、お、お、」
「お?」
「お?」

はてな?

「自分のお胸を、ふにふにしないと、眠れないのですっ!!!」



え。
遊んでいた子供達も、ピタ、と止まって、ええ?とはてなした。
竜樹が、あわわ、と焦る。
いやそんな、そんなね、個人の性癖は別に良いじゃないの?タイラスが良ければさぁ。えーと、やらしい事なのかどうかもまだ分からないけど、詳しく聞いてしまっても良いものか。

「た、たぶん、母の事が、関係してるのです。私の中に幼い、母の乳を請いる気持ちがあって、成長してきた時に、なんの気なしに寝る前に、ふにふにしたら、凄く安心して、やめようとも思ったんですけど、なかなか止められなくて、訓練や勉強や人間関係で嫌な事があったり疲れたりした時なんか特に、えーと、えーと、でも、何だかその、ソワッとした興奮した気持ちもちょっとするっていうか」「ストップ!待って待って。うん、それ全然悪い事ではないから。」
竜樹が止めると、ポムドゥテール嬢は真っ赤なまま、ハイ、と縮こまってしおらしく返事をした。

「た、竜樹様は、笑わないって思っていました。わ、私、同期の女性騎士に、この事がバレた時、すごく笑われたんです。子供なのね、って。確かに、私は、タイラスに好かれても、同じ熱量で返せないというか、人との関係が幼くて拙いというか、•••多分、人として欠けているんです。そんな者が、結婚をして、上手くいくものか、と。」

いや待って待って、全然だよ、大丈夫だよ、繊細な女性の気持ちは詳しくは分からないけど、と竜樹は言おうとして、サッと胸前を手で制された。ヴィフアートだ。

「バッカじゃないの!」
赤くなって慌てている男性陣の中で、花街の男娼あがりなヴィフアートだけが、へっ、と普通の、いや少しバカにした顔をしていた。

「花街に攫われたり捨てられたりしてきた子達なんかは、皆そうだったよ。指をしゃぶんないと寝れなかったり、太ももの間に手を挟まないと寝られなかったりさ。後は、誰かとやらないと寝られないなんて、人肌恋しく思うやつもいた。そういうのさ、別にふつうのことなんだよ。軽い性癖だよ。それって、タイラスとかいう、お相手と、仲良くしながら話す事だろ。親に大人になるまでにしてもらえなかったよしよしはさ、普通、男女か、まあ寝たりする相手と、甘え合って解消したりして、仲良くなるんだからさ!!」

だから、竜樹様に、そのフォローをさせないで!!!
「アンタ、竜樹様と仲良くしたい、寝たい訳じゃないんだろ!!!」

俺の竜樹様に、手出しすんなよな!!

ふにゃあ。ガックリ。
「ヴィフアート•••。」
「あっ、いや俺も竜樹様と寝たい訳じゃないけど!竜樹様はでっかくて、父ちゃんしてくれる人だから、俺は、良いんだ!」

ヴィフアートよぅ。

「アーにいちゃん、たつきとーさとねんねしないの?おひるねしない?」

うん。そういう事ではないよ、サン。

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