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本編
花街組は新聞寮へ
しおりを挟むスーシェとミェイルは、荷物を出来うる限りの速さで小さくまとめ、タカラの時止め何でも入るバッグに入れさせてもらい。仲の良い同僚の花達にサッと挨拶をすると、ロワジールを出て、それから他の店の所属だった3名を拾って、竜樹の後ろにわらわらとくっついて、いざ、花街の外へ。
呆気ない。あんなに苦しみ、囚われていた花街なのに、入る時の怒涛と同じ位、出る時も、話が通ってさえいれば、あっさりなのだ。
同僚の花達は、話を聞いて、真剣に。元気でね、頑張ってね、私たちも、もし人手が足りなかったら、エステサロンに呼んでね、可能ならでいいの、夢を頂戴。花街から抜け出せた貴女がいるなら、って、毎日を過ごせるから。
そう言って涙ぐんだ。
竜樹は、有望な働き手を後々スカウトできるかどうかも、スーシェさん達の頑張りによって、かなり可能な現実になりますよ。でも、気負わないで、ゆっくりやろうね。と笑った。
スーシェの片手で、ベタベタになった棒つき飴は、荷物を準備している間に舐めきった。竜樹が、わざわざスーシェ達の為に用意してくれたお菓子だもの、無駄になどしない。
「そういえば、スーシェさん。ミェイルさん、リュネットさん、クラモワさん、レガーメさん。こちらのお名前は、花街での名前、源氏名、ってやつでしょう?もし気になるなら、名前も新しく変えて、生き直す。そんな事もアリだから、良かったら名前を考えておいてね。」
「「「「「! はーい!」」」」」
すっかり親鳥の後ろをピヨピヨついて行くひよこになって、花だった5名は、興奮に頬を赤らめて、素直に一列。
マルサが。
「今度は花街の花までたらし込んじゃって、全く、竜樹はさぁ。あと、お嬢さん達、ギフトの御方様を蹴っ飛ばしたりしたら、護衛筆頭の俺も怒らない訳にいかないから、今後、気をつけるようにな!」と、満更でもない顔で、一応ぶつくさ言った。
「それと、ヴィフさんも、お名前変えたりしたいですか?考えておいてね。」
「はい、ありがとうございます!竜樹様。」
花だった5名に加えて。あの、見目だけはいい、大店ロワジールに勤めて、いつも虚ろな顔をして雑用接客をしていた、扉の所で控えて話を聞いていた青年も、花街からの足抜けに加わっていた。
必死な顔をして、竜樹の前で頭を下げて、頼み込んだのだ。
「ヴィフって言います、俺も見目が良いからって、子供の頃、攫われてきたんです!おれ、おれ、貧しいけど、元の家ではちゃんと可愛がられてたんだ!花街なんか来たくなかった!でも、逃げ場所なんてないぜ、って連れてこられて、無理矢理ヤラレたんだ!男好きの野郎や好きものの女に抱かれる店にいたけど、とうがたったから、って、扱いも低くなって、ここで仕方なく雑用係や、目が止まれば身体も売らされて働いてた。花街、2分の1健全化計画するんだろ?俺みたいなのは、どうしたら良い?!どこにも行けなくて、俺、俺、野垂れ死ぬのは嫌だよ!」
連れてって、一緒に連れて行って!
お願いします!
長い前髪、青みがかった銀。ぱらり、と下げた頭から落ちる。ヴィフは震えて必死で、そして虚ろな目は髪と同じ蒼銀、ひりひりと冴えて揺れて尖って、傷ついてきた者のそれだった。
幸せに、なりたいと。
今、それを掴まなければ、と。
竜樹は、ヴィフの肩をポン、ポン、と軽く叩いて。
「人員は、お店が回る程度になら、好きに抜いて良いよ、って言われているんだ、大店主さんに。ヴィフさんも、エステの世界で活躍してみる?それとも他の事がいいかな。俺が、花街の苦しんでいる人を全員、救ってあげられるなんて驕りはないけれど、今この時、この場にいた運ってのがあるんだと思う。一緒に行こう。」
「竜樹!」
マルサが、調査もしてない奴をいきなりは、と難しい顔をしたけれど。
「大丈夫大丈夫。ウチには、神鳥オーブの、めんどりセキュリティがあるからね。もしヴィフさんが、子供達に危害を加えるなら、黙ってないと思うよ。それに、花街を抜けて、俺たちに危害を加えるなら、ヴィフさんはその後、どこに行く?ってなると、何処にも行く所が、ないでしょ。ね?大丈夫だよ。」
「魔法誓約してからでも良いです、決して皆さんに害のある事は致しません!」
ヴィフの心からの様子にも、何とか納得をしてーー途中で魔法院に寄って、竜樹や子供達、関係する者全てに絶対に危害を加えない、と魔法誓約をさせて、というのをマルサは譲らなかったのでやってーー寄り道はしたが、やっとこ王宮内の寮へと。
ヴィフは、肩が緩んで落ちて、気を抜いてチラチラと竜樹を見ている。ヴィフも好意を抱いたのだ、竜樹に。
スーシェが、ひそそ、と。
「ヴィフ、竜樹様と寝ようなんて、やっちゃダメよ!ラフィネ母さんと恋愛中なんだから!」
花街へ、竜樹のじりじり恋愛模様は伝わっていて。その、大人の臆病で慎ましやかな2人の関係は、花達を心のほんわりした場所で、良いなぁ、と憧れさせていたのだ。ラフィネが、花街あがりなのもまた、竜樹の株を上げている。
「まさか、寝たりしません!そんな穢らわしい事、竜樹様になんて。ただーー。」
ただ?
「•••ほんの少しだけ、父ちゃんみたいに、頭を撫でてくれないかなあ、っては、思います。」
ポポッ、と顔を赤くしたヴィフの、大事に残っていた心の片隅、純真な子供の気持ちを。ほわほわ穏やかな、ショボショボ目、くしゃり黒髪な竜樹は、もう記憶の中で朧げな父ちゃんと、似てるとは思えないのに、痛く刺激し、切なく求めさせるのだ。
うんうん。5人の元花達も納得して微笑んで。
「竜樹様なら、撫でて下さるわよ。後で頼んでごらんなさいな。」
「私たちも、泣かせて下さったわ。」
「ねえ。竜樹様の事ですもの。」
マルサも聞いていて、ふー、と少し、大丈夫そうかな、と胸を撫で下ろした。
結局、名前は、本名に戻る事にした。スーシェが、ルーシェ。ミェイルが、ミィル。リュネットが、リュネル。クラモワが、クラリス。レガーメが、レガシィ。
ルーシェ、ミィル、リュネル、クラリス、レガシィと、今この時より名を変えて、一度踏み外した道の先でまた、真っ当に生きられるよう、願いを込めた。
ヴィフは、ヴィフアート、と本名に戻した。父ちゃんは、アーちゃんって呼んでました、と恥ずかしそうに言うので、皆して、アーちゃん、アーちゃん、と呼んでみた。嬉しそうに笑うヴィフアートである。
王宮の門番に、また竜樹様なんかやってんな、とニコニコされつつ目礼されて通り、ずんずん進んで新聞寮へ。
寮の建物が見えて、近づくと同時に、花街出身の6人は、コクン、と喉を鳴らして緊張する。
子供達、受け入れてくれるかな?
庭で馬跳びして遊んでいた子供達が、竜樹に気付いた。
「あっ、ししょう!おかえりなさ~い!」
「竜樹ぃ!お客様だね!」
「竜樹とーさ!おやつしよー!」
わぁわあわあ。
子供達に集られた竜樹は、はーい、と手近な子供の頭を撫でると、さて、と息を吐いて。
「今日は、しばらく新聞寮で一緒に暮らす、5人のお姉さんと、1人のお兄さんを紹介するよ。ルーシェさん、ミィルさん、リュネルさん、クラリスさん、レガシィさん。お兄さんは、ヴィフアートさん。皆、ちょっと大変な辛いお仕事で、苦しんでた所からやってきたから、皆もそうだったみたいに、少しのんびり、寮でお休みするからね。そしたら、皆とおんなじに、生活のあれこれを勉強しながら、お姉さん達は、エルフ達とエステってやつを。ヴィフアートお兄さんは、やる事を探し中だな、俺のお手伝いでも、しばらくしてもらうかな。ーーって事です。皆、よろしくお願いしまーすだよー!」
「「「よろしく、おねがいしまーす!」」」
わらわらわら。
どんなお姉さんなんだろ?やさしい?どこからきたの?何のお仕事?エステってなーに?
口々に、大体が自分の半分以下の身長の子供達にわいわいされて、花街組は、あわわわ、と慌てた。大人の男なら、何とでもあしらえるが、誤魔化しのきかない沢山のつぶらな目に、むぐ、と口が開かない。
庭でコココと鳴いて放されている、めんどり達の中で、こいつがトップだな、とありありとわかる、一回り大きな片足曲がっためんどりが、コココ?ココーッ!とこちらにやってきて、ぐるぐる6人の周りを回る。
うんうん、コココ。
納得したらしく、首を上下させるめんどり、神鳥オーブを皆で見守り。
うむ、ヨシ。
ふわぁ、と子供達がお墨付きをもらって、お姉さんお兄さんの服を握ったりして、寮に案内する。
「あ、あの、あの、よ、よろしくね。私、ルーシェよ。」
「ミィルよ。仲良くしてね。」
「リュネルです。お、お勉強、一緒しようね。」
「クラリスです。み、みんな、お肌スベスベね!」
「レガシィです!お、お手て、かわいい、ちっちゃいのね。」
「ヴィフアートです、あの、あの、アーお兄ちゃんって、呼んでね。」
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