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本編
妊婦さんとすやすや
しおりを挟む出来上がったオムツは、一人一人、別撮りでこんなのよ、と顔と出来上がりをタイルで3人ずつ見せる。
それぞれ糸選びや、縫い方に特徴があって面白い。丁寧な子、大胆な子。案外、視覚障がいのある荒野チームが、引き攣れもなく等間隔の縫い目で出来ていたりして。
ニリヤのはガッタガタだったけれど、5歳ならば集中力を切らさず良くできた、物として出来上がっただけ凄い、と思える。
側机や、針と糸に、布を片付けて。
ふわふわ、ほわぁのコクリコおかあさんは、サンの隣にお布団を敷いた。そして、もそもそ、と籠の中から、パジャマのズボンだけを出す。織りを工夫して、伸縮性のある柔らかい布が足され、腰辺りでキツくなく、ふわっとフィットする。お腹の上で布紐で縛ってとめるのだが、それが緩くても落ちてこない。
「はーい。コクリコおかあさんは、お昼寝の時、こんなおズボンはいています。緩くて、汗をよく吸って、気持ちいい手触りなのよ。スカートだと、めくれちゃうからー。」
ねむねむだけど見せてくれて、目の前で履いてくれる。布紐を縛る時、お腹の薄い下着ーー可愛いスリップが見えたけれど、コクリコは気にしなかった。何だか細かい事が気にしないになってきていたし、テレビで同じ女の子達に、この些細な現実を、必要な人に。こんなだよ、って見せたい気持ちもあった。破廉恥!と悪意をもって目を背けたり、むしろ爛々として見たりする感じの人の事は、勝手にしろである。
誰に対して開くか。
その芯が通った時、恥ずかしさは、残りはするけれど、突き抜けて真剣に見てもらいたいとなるものだなあ、とコクリコはねむねむしながら、感じている。
竜樹やステュー、ルムトンはそっと、目を逸らしたり、手で目を隠したりしてくれている。紳士。護衛さんは、コクリコの側にいる護衛対象から、何があろうと目を離さないが、チョッピリ、ポポッとしているかも。
けれど、妊婦の奥さんがいる旦那様ならば、きっと、変な意識でなく、興味を持って見てくれるだろう。
「スリップをズボンの中に入れまーす。何か隙間があると、寝てる時冷ってするかも。冷やすの良くないんですって。私は、スカートの下、下着の上に、裾の長めなフレアショーツ履いたり、ペチパンツ履いたりするわよ。季節なんかで、それぞれ工夫するといいかも。」
コクリコに頼んで、見せてもいい、可愛いけれど過度にいやらしくないフレアショーツと、ペチパンツも別撮りを後ほど。
お布団を交流室に敷いて、大きな、2本の棒状クッションを間隔空けてU字にくっつけた抱き枕。ずるずる持ってきて、コロリン、と横になった。もぞもぞ、身体を動かして、左を下にして、抱き枕にはまり、ギュッとして足にも挟んで寝る。裸足は流石に、サンダルでもないから見せられない。元々薄い靴下を履いていた。
くわぁ、とあくびをするニリヤが、その隣にお布団を並べて、竜樹をおいでおいでと呼ぶ。
お昼寝したりしなかったりのニリヤ。竜樹がいなくても、ジェム達やお兄ちゃん王子がいれば、お昼寝してくれるのだが、竜樹がいる時は近う寄れなのだ。
お昼寝する年齢の子も、そうでない子も、少しだけ静かにしててみようか、と竜樹がお話して、お布団する。
ひそそ、と教えてあげる。
「もうすぐ産まれるよーっていう妊婦さんは、うつ伏せにも寝られないし、仰向けもダメなんだよ。赤ちゃんのいる子宮が、大きな血管、血の通る管だね、それを押しちゃって、具合悪くなっちゃうからねえ。左を下に寝るといいんだって。妊娠の、最初の頃は大丈夫なんだけどね。寝る姿勢までこうがいいよー、なんて、ずっと同じ姿勢じゃ、疲れちゃうだろうよねえ。抱き枕とかで、少しでも寝やすくさせてあげられたら、良いよね。」
「ぼくも、なんか、ぎゅしたい。」
あいあい。
竜樹は眠くて、くしくしお目々を擦っているニリヤを、お腹に寄せて、抱っこしてあげた。
「はい、じゃあ、眠れなくてもいいから、少し、シーでね、どうしても眠れなくて、騒ぎたくなっちゃったら、周りの大人の人に言ってね。お外に連れてってくれますよ。無理しないで、コクリコおかあさんを、眠らせてあげましょう。」
「「「はーい•••。」」」
子供達も、ひそそ、と囁き声でお返事である。
「ありがとうねー。ふわわぁ。」
まったり、コクリコおかあさんもお礼を言う。
パタパタ、と外に遊びに行く子や、むぐ、と枕に鼻を寄せてお昼寝の子。しばらく静かにしていたが、お布団の子は皆寝入ったようだ。
抱き枕をギュッとしたコクリコを中心に、静かな寝息の、安らかなサークルを、カメラはジーッと撮った。
竜樹はしばらくすると起きてきて、交流室の端っこで、ちゃぶ台出して、ラフィネとお茶を飲み始める。
ひそ、とカメラに話しかける。
「さて!竜樹とーさと。」
「ラフィネかーさの。」
「妊婦さん関係あれこれです!」
ちゃぶ台に、周りに散っている品を上げて、説明しはじめる。
今竜樹が持っているのは、たっぷりした重量のある枕だ。
「ある、見つけた樹液を泡立てて、低反発の枕って作れたんですよー。低反発って、見たことないでしょ。見本、これ、ギューってすると、ゆっくり戻るやつね。妊婦さんの抱き枕に、って。コクリコさんが今使ってる抱き枕も、低反発です。オーブの神鳥羽毛枕はどうかな、すやすやできるかなって思ったけど、羽毛だと柔らかすぎるし、沢山羽毛を使い過ぎるからねえ。」
「幾つか試したのですよね。ていはんぱつ?は、何だか、もふーっとして、気持ちよく沈み込んで、程よく包み込むのですよねー。」
ラフィネが見本のクッションを、むぎゅむぎゅと掴んでみせる。
ちなみにコクリコの抱き枕は、見本の3号である。
「妊婦さんや赤ちゃんに良いものの、商品も少し、売ってみようか、ってしてます。元の世界から、やっぱり参考にしてるけど、何でもじゃなくて、あったら良いなっていうものを、厳選して。こちらの発想でも、開発して欲しいですもんね。最初に作った人の権利の分、細かく神様に頼んで、幸運を払ってもらってます。それで言うと。」
カタン、とちゃぶ台に、大きな缶を載せる。
「これは、乳糖不耐症の赤ちゃん用の、粉ミルクです。『サンテ!みんなの健康 乳糖不耐症』の回を見てくれた人は知ってると思うけど、赤ちゃんの中に、生まれつき、乳糖、っていうお乳の中の糖分を、消化吸収できない子がいるんですよね。下痢ピーピーになっちゃう。一時的になる子もいます。赤ちゃんが下痢して長いって、大変な事ですよ。」
ラフィネが、うんうん、と缶を撫でる。
「私たち、知らないだけで、具合の悪い子の中に今まで、そういう子がいたのでしょうよね。」
「うん、だよね。一つ、それに対処ができたら、嬉しい事だよね。」
竜樹も、缶を撫でる。
乳糖不耐症の赤ちゃん、段々ふくっとしてきたグランドールと、そのお母さん、キュイールさん。お父さん、侍従のレテュ。お産してすぐだから、負担をかけないように。スタジオじゃなくて、お家にお邪魔して撮影させてもらった、あの笑顔の、ミルクの匂いのする3人を、思い浮かべて。
「そんな子用に、乳糖を分離した粉ミルクなんですけど。調べたら、俺のいた世界の専用粉ミルクには、しょ糖、ってのが入ってたのね。乳糖じゃない、普通のお砂糖が、足されているみたい。そうだよね、山羊ミルクは本当に優秀な粉ミルクになるんだけど、そこから乳糖分を抜いたんだから、その分足りなくなってる訳だよね。この缶の粉ミルクは、乳糖を分離した後、足す割合も鑑定で見極めて、ちょうど良くお砂糖入れたものです。最初の分離しただけの粉ミルクより、もっと良いと思いますよ。」
「これも、売るんですよね。」
売ります。
「困ってるお母さん、是非、下痢の続く赤ちゃんを鑑定してもらって、一時的にでも乳糖不耐症ってなったら、この粉ミルク使って下さい。概念を発表したら、お医者さんが知れば、鑑定に出るそうなのでね、お医者さん達は良くテレビを見て下さってるみたい。有り難いし、もっと広めたいですね。」
是非是非。
本当は、ミルクアレルギーの子用のミルクだって作りたいのだ。
まだ出来ていないからジクジクする胸で黙っているけれど、きっと今この時に、祈るような気持ちで赤ちゃんを抱きしめているお母さんが、どこかにいる。
分離のできるアトモスと、鑑定師のリールが鬼気迫る勢いで、材料を調べ、タンパク質?を、低分子化ってすれば良い?と全く知らなかった知識をこねくり回して、できなくて。
ロテュス王子が、何かエルフの里に、植物から採れるミルクあったなあ、などと教えてもくれたので、2人は土下座すら厭わない感じで植物ミルクをもらって、調整している。
そこにはもう、あの、力が出なかったしょんぼりのアトモスは、ピティエに、んん?と思われて、甘えた事を言うアトモスは、いない。
あと少し、もう少し。
ひそそ、と竜樹は、そんな焦燥をお首にも出さず。
「後で皆で、粉ミルク飲んでみようよね。赤ちゃんがどんな味のミルク飲んでるのかな、ってね!」
「私、山羊ミルクなら飲んだ事あるわ。サンが残したやつをね。ちょっと甘いのよ。」
ラフィネの言葉に、おお~、とマルサやタカラ達が、なるほどしている。
「そういえば、竜樹様。侍従も脇毛は剃っていますよ。どんな時も、見えない所も、恥ずかしくないように身だしなみを、というのが侍従の心得ですからね。」
寝ている王子達を撮るのはお休みして、竜樹の側にいた、カメラマン兼侍従のミランが、思い出して言う。
「ええ!?侍従さん達も!?」
こりゃ本当に、エルフの脱毛サロンが流行るかもしれないな。
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