王子様を放送します

竹 美津

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本編

歌う情報屋さん

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さて。
『チーム貴族と荒野へ向かう者達』である。
足が悪い、歩行車のエフォール、視覚障がいのある、ピティエ、プレイヤード、アミューズの4名が、ハンデをものともせず意気揚々と、お仕事検証に挑みます。

広場をゆっくり歩いて、ベンチで少し散って座って、静かにお話聞いてみよう、と計画していた4人だったが。程よい所のベンチには、既に人が座っていて、空いているのは中央のシンボル的な大きな長いベンチ、1基のみである。
そうなのだ、他は、親子連れや恋人達など、近くきゅっと座りたい人たちが、大きなベンチを避けて親密に。うふふ、きゃっきゃ、と楽しんでいて。

「おっきなベンチしか空いてないねぇ。とりあえず、そこに座ろうっか?」
唯一はっきりと見えるエフォールが、自然とリーダー、相談すると、ピティエも。
「うん、仕方ないね。そうしよっか。」
と頷いた。
「良いよー!」
「逆に皆でお話聞けるから、良かったかもねえ。」
良いお返事のプレイヤードに、こうでなきゃ!じゃなくゆるりと見方を変えるアミューズ。
カタ、カタン。カチ、カチン。
歩行車の音と、白杖を持ち探り探り歩く音とが、ゆっくりと。
ベンチを確かめて、普通のベンチ3基分はある長い座面に、エフォールは、よっこいしょ、ちょこん、と座った。
ピティエ、プレイヤードも、エフォールの両脇に、すとん、ちょん、と座った。広いベンチだから、ぎゅうぎゅうじゃなく、ゆったりと座っていられる。ふーっ、と皆で息吐いて、そして何故か、うふふふ、と笑って顔を見合わせた。ここまで来るのにも、何かと一苦労な4人であるから、やったね!て気分なのだ。
アミューズは1人、座る3人の前に止まって立って、足を少し開いて、楽な体勢をとる。

「じゃあ、早速始めようっか。」
「うん。アミューズ、何を歌ってくれるの?」

「あ、あ、ううん。あー、あー♪そうだね、何が良いかなぁ。」
「あれが良いな、竜樹様の聴かせてくれた、ほら、旅路を花が、ってやつ。」
ニコニコと、プレイヤードが思い出して薦める。

ゆったりした繰り返しの音が、まるで旅路のその、歩みを表すように。そして難もあるだろうその旅路も、紫の花に、照らす月、穏やかに続いていくのは人生めいて。
忙しい世の中から一歩外れて、少しのんびりめに、マイペースに、生きる冒険を繰り返し、花咲ける旅路をゆく、そんな4人にピッタリの選曲であろう。

「じゃあ、歌います。」

スゥ、と息を吸って。

~♪ ~~~♪


アミューズは堂々と、朗々と、歌う。人を急がせないその歌に、足を止める人多数。美しい少年の、繊細なのにしっかりした声。
原曲は女性が歌った曲だけれど、その人生の深みをも感じさせた声とはまた違った、アミューズの初々しい声が、高く、響く。

荒野を切り開いて歩んでゆく4人なのだが、その旅路がふくふくと、花で祝福されていても、良いでしょう?むしろその後を、花が次々と咲き追いかけてくるようにも。


ふん、ふん♪

3人は頭をゆっくり、音に合わせて振って。エフォールはゴソゴソと、歩行車の荷物入れから、途中だった編み物、5歳の女の子、ジゥ用の、若葉色髪に垂れ目のクマちゃんを取り出し、スッと編み出した。

ひと編み。舌ったらずなジゥを思って。かぎ針を、ゆん、ゆん、しゅ、とリズム良く、自然と曲に合わせて。

ひそ。
「素敵ね!あの子たち。」
「うっとりしちゃう。」
ああ。

素晴らしいものには、アリンコさんみたいに、誰でも足が吸い寄せられて。

アミューズは、次々と歌を歌った。
花つながりで、泣けよ笑えよと、花を咲かせてと、ゆるく切なく、その明るさがカーンと響いて。またそれも女性が歌った歌だが。深い人生を思わせる歌詞を、アミューズのまだ幼い声に歌われると、何だかむずむずするような、ギャップある清らかな感じがいじらしくて、老若男女、ふ、ふ、と足を止めずにいられない。

「すげえな、あの子。」
「••••••。」
ひそひそ。そして無言で目をつぶって、~♪と音に心を乗せて、まずまずの人だかり。

ゆん、ゆん、しゅ。 ゆん、  ゆん。  ゆん。


あら、あららら。

カメラマンを検証中!のエフォールの母、パンセ伯爵家リオン夫人は、膝を柔らかく曲げて落ち着いた体勢を取り、ジーッと息子達を撮影していたのだが。思わず、ふはっ、と笑ってしまった。

素敵なゆったりした音楽に、高い空、清々しい空気。ちょうど良い気温に、少し昨夜、お仕事前で興奮して眠れなかったのか、コックリ、コックリ。

エフォール、居眠り。
ハッとしては、一目、一目。
そして、コックリこ。

(エフォール、ダメよ、起きてぇ!)
リオン夫人も思わず、気持ちの呟きを漏らして、エフォールどアップの映像と共にマイクに録音されてしまった。

花ときたら、風である。
風が強く吹いて、箱根駅伝、走り抜ける若者達の物語の主題歌。
途端にアップテンポで刻み始めた、青春の歌に、聞いていた女性が胸に手、組んでぴょんと飛んで、走り出す鼓動を皆で共有して。
ああ、駆け出したい!でも、聴いていたい!

エフォールも、ビクッとして、歌が始まると同時に、ニコッとして。チーム荒野を行く者達は、タンタンタ、と足をリズムに乗せて踏み、エフォール、プレイヤード、ピティエも一緒に口ずさんで。


ルムトンが目をつぶって、手を振ってリズムをとる。風の歌が終わるまで、何も言えなかった。曲を邪魔したくなくて。
「•••素晴らしいね!アミューズ、もう、歌い手じゃん、天職だね!」
「~~~♪ ハッ、いやいや、のってる場合じゃないよ、情報屋だろ?吟遊詩人じゃないんだからさ!」
ステューがノリかけて、いやいやと気を取り戻す。
「もう良いじゃん、歌も情報って事で。この荒野を行くチーム、なぁんかまったりとして、いい雰囲気なんだよなぁ。」
「それは言えてる。」
モルトゥが、ううん、と唸る。
「何でもして良いんだけど、こんな方法があるとはね。アミューズにしか使えないけど、このチーム、期待できる。」
俺もこんなスゲェ歌声がありゃあなぁ。
柄にもなく憧れ、モルトゥの頬はポッポと赤くなっている。


歌が終わり、拍手大喝采、ミニコンサートは一旦休止となって、いやー良いもの聴いた、と立ち去り難く皆が話し合っているので。

すく。ゆるゆる。と編み物を傍に置き、歩行車を支えに。立ったエフォールが、リーダーらしくこう口切り。

「皆さん、お集まりいただき、聴いてくれて、ありがとうございます。私たちは、今、『アンファン!お仕事検証中!』のテレビ番組撮影で、きています!」
(頑張って、エフォール!)
口だけぱくぱくと、応援のリオン夫人。

プレイヤードも。
「私たち、情報屋のお仕事を検証中なんだ!もし、もし良かったら。」
ピティエも。
「何か、これ!っていう•••何でも良いんです、情報を教えて、聞かせてくれませんか?」
「「「「お願いします!!!」」」」

お願い事を、叶えてあげたい。
聞いていた聴衆達は皆、そんな気持ちになったけれど、かと言って何を話したら良いものだか、どうする?どうする?とわやわや話している。
えーと、えーと、と、聞いた方も、聞かれた方も、どうしたら、と困っていると。

「あらあらあら。エフォール様。ピティエ様にプレイヤード様も。アミューズ、歌、素晴らしかったわ!」
「ミゼリコルドおばぁちゃま!」

やり手の商人、ニリヤの祖父、クレール・サテリットじいちゃんと合わせて時々寮に来ていて、エフォール達と顔見知りになった優しい老婦人。ニリヤのお母様、リュビ妃様方のおばあちゃん、ミゼリコルドのおばあちゃまが、ヒョコ、と聴衆の中から顔を出した。
たまたま散歩で通りかかって、歌を気持ちよく聴いていたのだけど、エフォール達と聴衆が困った様子なのをジリジリと、黙っていられなくて出てきたのだ。

「可愛い情報屋さんね。何でもお話して良いのかしら?ちょっとここに座っても?」
ニコニコと灰の瞳も眉も優しく笑いかける。ふくっとした老婦人に、エフォール達もホッとして、ニココ!とした。
「はい!おばあちゃま!」
「何でも、お話してください!」
「私たち、聞きます!」
アミューズも、白杖を、スッと出して確かめながら、声のする方、ベンチへと向かって、手を出してくれたエフォールの導きで、プレイヤードの隣に腰掛けた。ミゼおばあちゃまも、反対側、ピティエの隣に座る。

「そうね。私の、お悩みってやつを、聞いてくれないかしら?皆。」
「おなやみ?なあに?」
ハテナの顔をする子供達に、ミゼばあちゃまが語るところによれば。

ニリヤのじいちゃん、クレール爺ちゃんは、今、竜樹がちょくちょく持ち込む仕事で大忙しである。
仕事をするのが趣味のような人だし、やればやるほどニリヤ、孫にも会えるので、嬉々としてやっている。
ただ、竜樹から新しい案件を持ち込まれても、自由に動けるように、今まで堅実にやってきた商会の実務からはゆるりと遠ざかり、信頼できる者に任せて監督だけして。依頼があったら遊撃隊のように八面六臂の活躍で走り回る。

「クレールは良いわよ。楽しそうだもの。それに竜樹様が、ちょいちょい使って下さるので、本当に充実しているみたい。私も、そろそろ後進達に任せて、と育てるためにちょっと、仕事から引いたの。」
「ミゼおばあちゃまは、どんなお仕事してたの?」
アミューズが問えば。
「接客、会計ね、主に。税金を払うための書類の作成や、毎月の収支をつけて、ここはこうだったわー、とか、この仕入れが響いたけど、まあ回収できるわねー、とか、クレールの相談にものってたの。」
「すごいばあちゃんなんだね!ミゼばあちゃま!」
「色々できるんですねえ。私も、お店やってるけど、収支を考えながら、こんなお茶を出そうかな、とか、やる事いっぱいあるのですよね。」
それが楽しくもある。やりがいもある。
ウフフ、と笑い合うミゼばあちゃまとピティエである。苦労を分かり合えるって、とっても親しみがあるのだ。

「お仕事引いて、教えてるんですか?」
「教えて•••それも、事細かに教える段階は、もう過ぎちゃったのよねえ。」

私、暇になっちゃったのーーー。

ミゼばあちゃまは、ほとほと困った顔で、ため息を吐いた。


ーーーー

本日は短めご容赦です。
月末ですね、忙しい皆さん、今月も何とか乗り切って行きましょう!
雨も、危険じゃなければ、嫌いじゃないよ。

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