王子様を放送します

竹 美津

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本編

イーヴの嘆き

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「さてこちらはチームエルフです。」
「イヤホント、みめ麗しいよね。街中を歩いているだけで、ふわぁ!って見惚れている人が何人もいます。俺だって!俺だって!美しくて優しくて朗らかなエルフの嫁が、ほし~い!!」
「ステュー、独身だもんね•••。エルフはまた、触れ合ってみれば、美しいのに、性格がスレてなくて、素朴な子が多い、って大人気なんだよねぇ。」
「何でポッコリお腹のルムトンに嫁がいて、俺に嫁がいないのよ!まぁ、人柄かな•••。」
「自分で言うかよ。まぁまぁ。エルフは自分達が美しいからか、相手に外見の美しさは、あまり求めないらしいよ。ステューも、チャンスはあるんじゃない?中身が気に入られるように、男っぷりを上げていこー!で、まずはお仕事ちゃんとしましょうよ。」
「うむ!頑張るよ!エルフじゃなくても、嫁がもらえるかもしれないしね!チームエルフは、さっきからキョロキョロしつつ、街中を歩いているけど、特に当てがある訳じゃないのね。」
「だねー。」

チームエルフ、竜樹の伴侶予定のロテュス王子、黒髪のエクラ王子、カリス王子、ウィエ王女の、4人兄弟妹である。
商店街の中を、ゆっくりと歩いて、立ち止まってぽわぁとなっている人に、まずは話しかける。

「こんにちは。私たち、今、『アンファン!お仕事検証中!』っていう番組の撮影中なんです。今日は、情報屋さんを検証している所なんだけれど、少しご協力願えませんか?」
「何か、これ!っていう情報を、何でも良いのだけど、知ってたら教えてくれませんか?」
ロテュス王子が、今日でチーム毎の中、一番ちゃんと、趣旨説明ができている。エクラ王子も補助して、なかなか良い滑り出しである。

「そうそう、聞いて足で稼ぐのも良いんだぜ。」
モルトゥも頷いている。

「え、え!あの、ええと、ううん!」
話しかけられた男性は、ギュッと手をロテュス王子に握られて、ぽわーとして。
「あ、あの俺、この先の商会で働いてて!竜樹様の流行らせた、プリントの布を扱っている布問屋なんですが、結構儲かってるし、真面目に働いてます!」
「ええ、はい?」

ニッコリ、と花の顔(かんばせ)で、はてなだけれど頷く、ロテュス王子である。
「あの、あの、俺、プルミエって言います!23歳です!次男です!身軽な身分だし、それにそれに、貯金もしてます!」
「はい?ちゃんとしてらっしゃる、素敵な方なんですね。」
「自己紹介は良いけど、情報は?」
気の強い、ウィエ王女が、バサっとした金の睫の間から、碧のうるうる瞳で、ムン!と不機嫌に見上げる。
「ああっ!こっちもこっちで、麗しい、わわわ。う、ううん、あの!もし良かったら、お暇な時間がある時に、今度お食事でも•••!」

「「ナンパかよ!!」」
ルムトンとステュー、声合わせツッコミである。竜樹も、ハハハと笑う。

「ええと•••お友達になりたい、っていう事で良いのかな。私はロテュスと言います。エルフの、第一王子です。将来、竜樹様の伴侶として、こちらのお国で、エルフと人とが仲良くしていくためにも、頑張っている所です。お食事は、竜樹様が良いと言ったら、予定が空いてる時にご一緒でも、良いですか?まだ一人で、皆さんと接するには勇気がなくて、竜樹様がいてくれたら、話も弾むかな、って•••。」
プルミエのポワッとした笑顔は、引き攣りながら。
「ああ~そうデスかぁ。竜樹様の伴侶になられるのですねぇ。•••はぁ。イヤイヤ、竜樹様、素敵な方ですもんね、ロテュス殿下と竜樹様とご一緒に食事が出来るなんて光栄だなぁ!•••はぁ。」
「! 貴方も竜樹様の素晴らしさを、分かって下さいますか!?ですよねですよね、一緒にいるだけで、ほわっと嬉しい優しい気持ちになるお方なのですよね、竜樹様って!是非お食事、ご一緒しましょうね!お仕事の事や、こちらのお国について、色々教えて下さいませ。エルフ達の就職先の参考にもなるかもしれませんし。布は美しいもの、美しいものを扱うプルミエさんも、美しい心の持ち主なのでしょうか、誘って下さって嬉しいです!」
ニコニコ!と白磁の肌をポポッと赤らめて、清廉な中にも色っぽい微笑のロテュス王子は。長いまつ毛を、憂いを帯びたエメラルドの瞳に、はた、はた。キラキラ瞬かせ、ナンパ心に止めを刺しつつも、知らず追い討ちをかける。
うん、ロテュス王子は、天然かもしれない。

「ちょっと、ナンパじゃないんでしょうね!?ロテュス兄様にちょっかい出そうなんて、500年早いわよ!」
ウィエ王女が、腕を組んで、むむんと見上げる。それもまた、幼い彼女のスラリとした肢体を、何故か艶かしくも見せて、プルミエは、こくんと喉仏を上下させた。

「いえっ!ナンパじゃナイデス!純粋に、ロテュス殿下と竜樹様、エルフさん達に何か良いお話が出来ればと!!」
「嬉しいです!パシフィストのお国の方は、皆、親切で、私たちエルフがどれだけ感謝している事か。他のお国の方々のご支援も合わせて、本当に嬉しく、有り難く思っているんですよ。ではでは、空きの予定が分かったら、どちらにご連絡すれば?」
「あっ、はい!この先のクーリエ商会に、プルミエ宛にメッセージいただければ!」

ナンパは意見を聞く夕食会になり、プルミエはロテュス王子と竜樹の仲良しを見ながら商会の事などを話す羽目になったが、会話のおしまいにまた、ロテュス王子のあの、悩殺の眼差しで、じっ、と見上げられて手をギュッと握られて。
「では後日、ご連絡致しますね。ご親切に今日はありがとう。楽しみにしています!」
「ふぁ、ふぁい!わた、わたしも楽しみれす!!」
ポワワわぁん、となった生贄が1名、ふらふらと職場に戻っていった。

それからも、話しかける事、多数。

「••••••色々な職業の方に、お食事に誘ってもらえてお話出来るのは良いんだけど、中々これっていう情報って手に入らないんだねぇ。」
「ロテュス兄様が魅力的すぎるのよ!」
「うん、あれってナンパだと思うよ、大半が。」
「皆ロテュス兄様見て、ポワワっとしてるもんね。」

誰が言ったか。
美しさは、罪である•••!

街中をほてほて、順調に犠牲者を引っ掛けて歩いていたエルフ兄弟妹であったが、ふと、足を止めて、路地の少し入り込んだ所にトトトっと。

「何か見つけたようですね。」
「何だろ、何だろ!あと、竜樹様と一緒でも良いから、俺もお食事会参加したいな。」
「ステュー。我が身を切る戦法だね。」
「だって!ロテュス殿下はもう、お相手が竜樹様って決まってるけど、カリス王子様やエクラ王子様、ウィエ王女ちゃんなんかは、相手がまだじゃん!」
「エルフの王族と恋仲になりたいなんて、ステュー、身の程を知りなさいよ。」
「恋に身分は関係ないの!あんなに美しかったら、一緒にお食事出来るだけで嬉しいじゃない!純粋に素敵だな、って思う気持ちなんだよこの男ゴゴロ!」
「はいはい。あら?また話しかけるみたいですよ。何か、蹲ってる女の人だね。」

昼間っから、薄暗い路地裏の片隅で。蹲って、ひっく、ひっく、と泣いている、黒髪に赤のメッシュ、纏めたそれがゆるゆるだらしなく落ち、二の腕を出したワンピースに裸足の女性。手にサンダルを引っ掛けて。
ロテュス王子は、心配になったのか、眉を顰めて、しゃがんでそっと、声をかける。

「あの、あの。どうされました?どこか、痛いの?」

ふ、と上げた顔は、ポーっと桃色で、ひっく、としゃくりあげるのは、泣いているだけじゃない。匂いまでは映像では伝わらないが、酔っ払い。
「心が、ヒック、うぅ、心が痛いのよぅ•••!」

ぐすぐす。
あらー、また面倒なのに捕まったなあ。

「あぁ。どうされたんですか?心が痛いって?」
しかし親身になって、隣の木箱に座って話を聞き出すロテュス王子である。エクラ、カリス王子、ウィエ王女も、側にしゃがみ込む。
ちんまり膝を抱えるエルフの子供達の輪なんて、そこに異分子の酔っ払い女性がいなければ、妖精が現れるサークルみたいな、常ならぬ美しさである。

「•••あいつが、またやってくれたのヨォ。」
「あいつ。あいつとは。あ、あの、私はロテュスと言います。エルフの第一王子です。貴方のお名前は?」

ぐす、ぐす、抱えた膝、組んだ腕に湿った瞼を擦りつけて、ひっく、と。よく見れば女性の隣には、半分空いた酒瓶がある。空瓶も転がっていて、ワイン、もしそれだけ女性が呑んだのなら、そりゃあ酔っ払いもするだろう。
「あいつは、あいつヨォ。アムーレよぉ。また、他の女に優しくしやがって、私は置いてけぼりよ!ヒック。金だけせびりやがって、でも、でも。何でか切れないのよ•••うっ、うっ。」
「アムーレさん?恋人の方?」
「旦那よぉ!結婚、してるのぉ!私が妻なんだから!アムーレのことが、本当に分かるのは、私だけなのぉ!!」


「あー。こりゃ本当に面倒なのに捕まりましたね、ロテュス殿下は。」
「心が素朴で綺麗なエルフ達に、この酔っ払いお姉さんがさばけるのかしら。ちょっと心配だね。」


「アムーレさん。旦那様。他の女性と仲良くしてるから、奥さんの貴方は、ヤキモチしちゃったんだね。分かるよ、私も竜樹様の、将来伴侶になるのだけど、彼って、本当に男性にも女性にも、大人気なのだもの。そ、それが誇らしくもあるんだけれど•••!」
えへへ、と通常運転の、惚気エルフ、ロテュス王子。
「そうなのよ。大人気なの~他の女ニィ!そりゃそうよね、顔も良いし、私の稼いだお金だけど金払いは良いし、優しくしてくれるし。竜樹ってやつも気をつけた方が良いわよ!きっと私みたいに、結婚した女には餌をくれないで、他の女にうつつを抜かしてるに違いないんだからぁ!」
ぐぷん、と酒瓶をあおって、ごく、ごく。口周りを手の甲で、ぐいっと拭いた女性は、あははぁ、と笑う。

ムッ、と眉を顰めて、ロテュス王子は反論する。
「竜樹様は、不埒な事などされませんよ?ちゃんとした方です。そりゃあ、ラフィネさんとは、お母さんとお父さんの間柄だから、仲良くされるし、今度クラージュを作るって、ホテル・レヴェにお泊まりに行くって話してくれたけど。それは私も納得の事だし、ラフィネさんが赤ちゃんを産んでくれたら、私だって嬉しいし、可愛がりたいし•••。」

竜樹をジッと見る、ルムトンとステューである。
「竜樹様。竜樹様って、ロテュス殿下を弄んでるの?」
「あんな綺麗な子を、キープだなんて、許せない!」
いやいや。
「ちょっと俺、アクシデントで寿命が長くなりまして。ラフィネさんと夫婦として添い遂げた後、成人したロテュス殿下と、仲良くしようね、って、ラフィネさんも納得で、約束してるんです。あー、長い人生を共にしてくれる子がいて、嬉しいなぁ、って、大事にしてるんですよ、俺だって。」
「ええっ!そうなの?」
「何故に!何故にこの地味な竜樹様がモテる!!」
「「人柄だな。」」
だな~、と頷き合うルムトンとステューに。タハっ、と笑う竜樹である。
ここで、チームジェムに動きがあり、布屋プティフールに行く騒動で、ルムトン、ステュー、竜樹にモルトゥの視線は、チームエルフのモニターから一旦外れた。


「何よお!やっぱりアンタも遊ばれてるんじゃない!それって愛人じゃん!男なんてみんな似たようなもんよね!竜樹ってのも、ロクなもんじゃないわよ!」
「そんな事ありません!将来、ラフィネさんが身罷られた後は、私と結婚してくれる、って!!」

「なぁによ!あはは!それって!」

女性はとても嬉しそうに、顔を上げて笑った。蔑みの、醜い笑顔。

「それって、そのラフィネって女が死ぬのを、アンタ待ってるって事じゃない!超性格悪う。そりゃそうよね、愛人やってたら、正妻なんて、死ねば!って思うわよねぇ!でもおあいにく様、妻は私よ!私なんだから!」

すーっ、とロテュス王子の血の気が引いた。
「わ、私は、ラフィネさんの死ぬのを待ったりなんか•••!」
「嘘よ!自分だけに、優しくしてくれないかな、あの女死んじゃわないかな、って思ってるのよ、アンタは!ああ性格悪う!こんな性格悪い奴の、どこが良いんだかねえ!その竜樹って奴も!!」

「ちょっとアンタねえ!私たちエルフよ!長生きなんだから!だったら、人の一生くらい、死なないかななんて思わないで待てるわよ!ロテュス兄様は、性格悪くなんかないわ!それに、アンタの下らない旦那の、浮気なんかと竜樹は違うんですからね!!」
いつもは竜樹に辛辣なウィエ王女だが、これは聞き捨てならない、と思ったのか、擁護である。
「うん、ちょっと人の伴侶の作り方と、エルフの時の流れとで、普通じゃないかもだけど、ロテュス兄様と竜樹様は、とっても良い関係だと思うよ。」
エクラ王子も、うんうん、と援護する。
「エルフ全体にも、凄く優しくしてくれるもんね、竜樹様って。頼り甲斐のある、兄婿だな、って、私も思ってるよ。」
カリス王子も、認めている所があるようだ。

「何よー!私だけが、粗末に扱われてるっていうの!!何なのよ!!」
ぐいっ、とまた酒瓶。

ロテュス王子は、膝の間に顔を埋めていたが、スッと上げて、真剣な目をして、女性を見た。
「な、何よお。アンタまで私が悪いって言うのお!?」

「お名前。貴方のお名前、教えてください。」
すくっと立ち、女性に手を差し伸べる。

「貴方の旦那様、アムーレさんが、本当に浮気しているんだか、本当にどう思っているのか、聞いてきてあげます。貴方もはっきりした方が良いでしょう。浮気なら浮気で、貴方がどうしたいのか。このまま、粗末に扱われていても、側にいたいのか。私たちが情報を探っている間に、お酒を抜いて、真剣に考えておいでなさい。ーーー大切にしてくれない相手と一緒にいても、虚しいだけなのだから。」

例えそれが、貴方の愛、なのだとしても。

ロテュス王子は、エルフの王族、第一王子である。
リュミエール王がいない間、エルフ達の心の支えとなり、エルフ一族を守ってきた、子供とはいえ一本芯の通った、並々ならぬ経験をしてきた者である。
その威厳ある言葉に、酔っ払い女性も、惚けて、とろんと聞いていたが。
素直に。

「•••イーヴ。」
「イーヴさん。アムーレさんは今、どこにいますか?」

「あの女の酒場よ。•••あの女は、私と同じ、酒場の女主人なの。私より、ずっと若いんだけどさ。」
「そうなのですか。イーヴさんは、ご自分の酒場に戻られますか?」
ひっく、としゃくり上げ。

「戻るも何も、ここよ。ここが私の店よ。」
女性が蹲る、木箱の後ろ、ぶら下がる看板には、『酔い処イーヴ』と記されている。
「相手の女性の酒場は、どこにありますか?」
引っ張って立ち上がらせたイーヴは、足元がフラフラしている。酔い処イーヴに、肩を貸して入ってみれば、中は荒れていて、食器や酒瓶が、テーブルから片付けていなかった。

「3軒向こうの、『酔亭フランカ』よ。あの女は、フランカっていうの。金髪の、媚びた、いけすかない奴よ。•••わたし、私、捨てられちゃうのかしら。ここで、ここで、一人で。こっ、子供だって、欲しかったのに•••!」
ひっく、うっ、うっ、うっ。
カウンターの椅子に座り、突っ伏して本格的に泣き始めたイーヴに、ロテュスは静かに、そこにあったベージュのショールを掛けてやり。
とん、•••とん、•••とん、と一定に背中を叩いてやった。
ひっく、ひっく、泣いていたイーヴだったが、次第に泣き声は小さくなり、そして、すう、すう、と寝息が聞こえるように。

「どうするの?ロテュス兄様。」
「『酔亭フランカ』に行ってみる?」
「まあ、これも情報屋の情報収集と言えなくもない•••かもしれないかも?」
ウィエ王女、エクラ王子、カリス王子が取り囲み、俯いたロテュス王子の手を取る。
「でも、この酔っ払いの依頼を聞いたとしても、お金が稼げるとは思えないけどね。」
「まあエルフが一度やると言ったのだから、やりましょうよ。ねえ、ロテュス兄様。」

ふ、とロテュス王子は笑って。
そのままフラフラと表に出た。
そして、入り口の木箱の所まで辿り着くと、ガクン!と膝を折った。
「「「兄様!!!」」」

「わ、わたし、せ、性格、悪いの、かな。うっ、ひっく、うっ、うっ。せ、せいかく、わるいこ、竜樹様、きらいって思ってたら、ど、どうしよう。ど、どうしよ、えっ、えう、ひっく。」

え、えぇ~ん!
うえん、うええええ~ん!!

膝を抱え、号泣エルフ。
わたわたと弟妹達が取り囲み、そんな事ないよ、大丈夫、竜樹様はそんな奴じゃないし、ロテュス兄様は性格悪くないし。
だが、そんな慰めは、ロテュスの心の奥にはしっくり来なかった。

ラフィネが、早く死なないかな、と思った事はない。
けれど、早く大人になって、竜樹と結婚して、仲良くしたいな、と、るんるんに思っていたのは真実である。
竜樹と話せば嬉しくて、撫でてもらえばポッポとして、心の中が温かく、いつだってほんわかする。
けど、それは、ラフィネを、イーヴみたいに悲しませていたのか?
結局は、ラフィネが死ぬのを待っていたのと、同じ事じゃないのか?

ロテュスの心は傷ついて、ズキズキ傷む。私は悪い。汚れてる。こんな私を、竜樹様が受け入れてくれていたのは、私が子供だったから、甘やかしてくれていた、だけなのでは?

それら全ての思いが、ロテュス王子を苛んで、悲しくさせる。
弟妹達が、オロオロしているのに、泣き止む事が出来ない。気持ちが止まらない。どうしよう。どうしたら。

酒瓶ゴロゴロの横で、イーヴみたいに悲しく泣いていたロテュスに、その時。

トゥルルルル。

「え。」
ぐす、ひっく、と涙を拭いて、慌ててポケットから、その音の鳴る、電話を取り出す。あちらから電話がかかってくるとは思わなかったので、驚き、涙も一旦止まり、ポチ、と出る。

「はい、ロテュスです。」
ぐすっ、となっているのが、伝わりませんように、と涙を手で拭いて。エクラ、カリス王子、ウィエ王女も、そっと見守っている。

『あ!もしもし!竜樹です。ロテュス殿下、今、なんか家の前で蹲ってたみたいだけど、大丈夫?』

ロテュス王子は、竜樹の声だけで、ふわっと嬉しくなる自分を感じた。
いつだって竜樹は、ロテュスを助けてくれる。

「はい、大丈夫です。何でもないです。竜樹様、心配して電話くださったのですか?」
ニコリと顔も笑っちゃう。現金だけど、本心なのだ。仕方ない。弟妹エルフ達も、ほっとして、ロテュス王子にくっついて笑った。

『うん、心配もあるけど、ちょっと問題が起こって、ロテュス殿下に転移で送ったり、人を呼んでもらったりしたい用事も出来てさ。お仕事検証中だけど、今どう?大丈夫?ダメなら他に考えるから、断っても大丈夫だからね。』
「すぐそちらに戻ります!転移の要があるんですね!お役に立ちます!」

ぶつ、と電話を切って。
「エクラ、カリス、ウィエ。竜樹様が私を必要として、呼んで下さった。すぐに用事を済ませて帰ってくるから、その間、『酔い処イーヴ』をお掃除しながら、待っていてくれないかい?」
少し晴れた顔のロテュスに、弟妹達は、ほんのり笑顔で応える。
「いいわよ!ロテュス兄様!竜樹はちょっとは見どころのあるやつね!褒めても良いわよ!」
「うんうん、待ってるよ、ロテュス兄様!」
「竜樹様と仲良くしておいでよ!」

そうして、ロテュス王子は、竜樹の所に転移したのである。
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