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本編
2人の夜の優待券
しおりを挟む竜樹は街中へ出ていた。ジェム達の新聞売りにくっついて。
王都宿屋の、色々に使える時間貸しや、夫婦の子供預かり含み宿泊、『夫婦のちょっと特別な夜~たまには恋人同士の気分で~』を、テレビのニュース特集でも一昨日放送した。
実施もその日から、経過はどんなかな、と心配に思って聞きに来たのである。
宿屋のポールさんの所、クレプスキュール組合長、ホテル・レヴェのオーナーでもある、裏社会のボス、ミニュイ•••いやいやううん、また他にも宿屋関連の親父達に会いに、これから巡るつもりである。
その前に、朝、酒屋のビッシュ達と、あの成人向け商品会議についてーーまだ話を聞くと言ってから、新聞販売所に集う男達と会ってなかったのでーーどうだったか感想を聞こうかなと思っていた。
ちなみに女性達の竜樹待ちと、眷属2人の出現で、3王子達とジェム達に聞いていなかった感想は。
オランネージュ
「え~と、あの、その。恥ずかしいけど、きっと、竜樹が公認にして制御必要っておもったの分かるし。うん、私は竜樹の味方だから、大丈夫だからね!」
ネクター
「みずぎで川遊びするのに、何で写真集の女の人は、ギュッとおむねをよせてたの?へんなかんじ、するー。」
(ポッポとほっぺを赤くして)
ニリヤ
「せいじんて、おとなってこと?みずぎの、おとなの、せいじんむけしょうひん、すごくすごいの?みたーい!!ネクター兄さまは、かわあそびっていってた。きれいなおねえさんよー。」
(これまたポッポ)
ジェム達
「ああ、あんなもんじゃん。前からあるちゃちな絵姿のやつより、ずっとキレイだよな!竜樹とーさが公認でしごとにするなら、あんまり女の人とか、酷いことにならないだろうから、良いんじゃん?」
「ねー。でも、お金が手に入るなら、私も私も!ってやるおねえさん、街にけっこういるかもしれないなー。」
「ウンウン。」
「みずぎ、きれい。」
「キレイじゃなくちゃだろ?酒びたりで、おとこにみついでるようなのは、あんまりだったりしない?」
「やつれてる!」
「テレビで見た写真集の女の人みたいに、キレイで元気そうで脱ぐひと、探すのたいへんだね。」
「花街のはなのおねえさんとかがすればいいじゃん。キレイにしてるし。」
「あっ、そっかー。」
うん。手っ取り早くは、花街からスカウトする事になるのかもね。花街の人気お姉さんシリーズが出たりして、って、えーと、ううん!参考になりました。
因みに、喘ぎ声って結構難しくて。成人向けアニメに、普通の声優さんと、アダルト女優の人とが出演していたのを見た事があるのだけど。
声優さんは普通の演技は上手で、濡れ場になると、声が健康的すぎたし、うわっ滑りしてる感じで、なんだかな、だったし。アダルト女優さんは、普通のお話場面での演技はド下手だったけど、濡れ場は、もう、本当に、すげえな、って位に突然上手で。
あー、プロって、どの職業でもプロなりの技術があるんだなあ、と全く興奮する事なく思った次第である。
だから、きっとお客さん全員に本気じゃないだろうし、気持ち入った演技を毎日してる、花街のお姉さんを成人向け商品に。特に映像部門に、というのは、理にかなっているかもしれない。
うん、これは報告案件だな。
真面目に考えて、ハッとして。
いや、友人に、面白半分で見ようって、その当時レンタルだったやつを。積極的に見た訳じゃないし、むにゃむにゃ。と脳内、誰に言うでもないのに言い訳する竜樹である。
「竜樹とーさ。今日もビッシュ親父達と話すんの?」
ジェムが、販売所の準備をせっせとしながら聞いてくる。真新しいピンとした新聞が、その小さな手で器用にタワーになって丸められて立ち、スタンドで買われるのを待っている。焼きたてのパンも、プランにトレイ毎セットされて、ガラスケースの中、美味しそうだ。
オーブは満足そうに、定位置のクッションに蹲って、コココと鳴いた。
「うん、『アンファン!お仕事検証中!』の撮影が明日あるだろ。ビッシュ親父さんには、商店街の人達にもだけど、街中に撮影で子供達が行くから、歓迎し過ぎたり厳しくし過ぎたりどっちもしないよう、普通に応対してやって下さい。街中に慣れない子もいるんだけど、どうか温かく見守ってやって下さい。ってお願いもしとかなきゃだからね。」
普通はテレビ局の、アシスタントがやる仕事かもしれないが、そしてそちらからも話がきちっといくだろうが、大事の子供達なので、直接竜樹も頼みたかった。
ウンウン、と腕を組んで真面目くさって言えば、ジェムもプランも、ニシシシ!とキャスケット帽を揺らして笑った。
「はよーさん、ジェム、プラン。!竜樹様も、いらしてたんですね!おはようございます!」
「おはよう、いらっしゃい!ビッシュ親父!」
「おはようございますー!親父、いらっしゃ~い!」
「おはようございます、ビッシュ親父さん。まあ、まあ、ゆるりといつものパンでも買いながら。少しだけお話させて下さいな。」
ビッシュ親父は、皺のある目尻をハシハシさせつつ、ええそりゃあ良いですよ、とちょっと笑顔で心良く。
「それにしても竜樹様、あの会議にゃあ参りましたよ!あんなに腹が座らなかった事ってねえよ。まぁ、話は成人向け商品の意見が、俺なんかでも出来たから、少しは良かったのかな、なんて思いますがね。」
「その節は大変ありがとうございます。凄く助かりました。思春期の男の子を呼ばなかったのが心残りですが、まあ、何と言うか、発言もしづらいかなぁ。」
「でしょうねえ。案外、正義感で、成人向け商品やめやめ!って言ったかもしれませんよ。まだまだ純な頃だからさ。」
ビッシュ親父さんも、真新しいインクの匂いがする新聞を手に。
「うん、案外そうかもしれませんよね。俺としては絶対通したかった案件なのですが、意見としては聞いてあげたかったかな。•••という訳で、親父さん達にも、ざっくばらんに感想聞きたいなって来たんですよね~。」
後は『アンファン!お仕事検証中!』って番組の。
とお願いよろしくをすれば、ビッシュ親父も、そこに来た商店街の親父息子連中達も、大丈夫!請け負ったよ!と太鼓判を押してくれた。
「子供達の番組か。楽しそうだね。」
「賑やかで良いよねえ。俺たちの知らねえ職業とかもやんのかなあ。」
「だねだね!」
ニコニコの商店街の皆さんは、とても友好的で、明日の撮影にホッとする竜樹であった。
成人向け商品の感想を聞けば。
「仕方ねえな、竜樹様の言うのが一番良い案かなって思いますね。」
「そうそう、街が荒れないよな。」
「正直、期待もある。」
「女衆達も言いたい事はあるみてえだから、ハガキで投書してたよ。」
「俺、嫁さんもいないしさ、早々花街ばっかりも行けないから、さぁ。」
など、などであった。
花街の人気お姉さんシリーズがあったら買うか?と聞けば、金狼楼のシンディちゃんとか出ないかな、と具体名が出てきて。いや、少し昔になるが、茉莉花のビビアンちゃんが、そりゃもう色っぽくて、今頃は大商会の大旦那に引っ張ってもらって、子供の2、3人もいるかねえ。と花街の往年人気お姉さんの懐かし話と、現在の売れっ子についてが入り乱れ、竜樹が花街事情に詳しくなりつつ。
「そういえばぁさ、もぐ。竜樹様。荷運び達がすげえ喜んでたぜ。毎日今は楽しいんだってよ。もぐ、もぐ。夜の報告会も、テレビも。」
冒険者風の男が、最新作のデニッシュサンドイッチを食べながら、教えてくれた。続けて。
「ペール神様の薔薇のお花の巡礼も、助かるぜえー。ごくん。皆、期待してるんだ、巡礼の護衛の仕事。実入りもありそうだし、前に言ってた、これからの変化に、何とかやっていけそうかな、つなぎができたかな、って感じがするじゃんね。」
「うんうん、助かるー。」
それにさ。と地方出身の男が受けて。
「地方だと、やっぱり教会や神殿の言う事なら間違いねえかな、って所あるから、良かったよ。巡礼でこれからが変わるよ、ってやってくれるだろうから、田舎の連中も、慌てて相談所に行ってるんじゃねえかな。神殿教会関係は話が回るの早いから。種まきの祈りとか、収穫とか、良い風が吹くように祈ってもらうとか、生活と関係してるし。」
「農作物とかあるとこは、特にそうだよね。」
うんうん。それについては。
「教会に、冒険者組合からの出張相談所を移動したんだ。地域の皆にも、地方の荷運びさん達にも、気軽に相談してもらいたいな、って思って。段々と運送の商会が立ち上がりつつあるし、転移魔法陣があるから、地方でも一斉に採用と教育が出来るように、今根回ししてるとこなんだ。」
教会に相談所を移したら、相談件数が爆上がりして、竜樹もホッとしている。申し出てもらわなければ、何ともしてやれないのが、実情なのである。
「宿屋さんも、沢山相談してくれるようになったよ。まずは巡礼特需の事を聞きたいみたいなんだけど、その時に今後の変化についても話してくれるよう、王都の取り組みとかも、今やってて地方でも認定して出来るように、来た宿屋さんにはアナウンスしてる。」
おお~やるね、良いね良いね、と男達も納得である。
「やっぱり、個々の努力も必要だし、それだけでもダメだから、ちゃんと補助の言葉が届くって良いやね。」
「小さなラジオも開発してるよ。ポケットや腰かなんかに付けて、持ち歩いて聞けるようなの。もう少ししたら発売すると思う。」
やったね!と飛び上がって喜ぶ、冒険者の男達である。
あの、寝所の母ベッタリ子供に困っていた男性も。
「早速予約した!宿屋の子供預かり夫婦宿泊プラン!奥さんの都合も聞いてさ、相手も何か、凄く嬉しそうみたい。明日なんだけど、凄く楽しみだ!」
と、ニコニコした。
三角まなこの魚屋のおかみさんにまた蹴散らされるまで、ワイワイと井戸端会議をしていた男達だ。
気になったので聞いてみたら、おかみさんは、成人向け商品については黙認くらいの気持ち。諸々宿屋運送業については、良かったねと喜ぶ気持ち。巡礼は、神様の薔薇の巡礼なんて、素敵!と浪漫を感じるそうである。
男達を追い飛ばす為のフライパンと、木ベラを持ってやってきて、アハハと豪快に笑って、猫の子のように萎れた旦那さんを連れて帰った。
そして案外、連れ帰られる旦那さんも嬉しそうである。
「夫婦喧嘩は犬も食わない。喧嘩じゃないか、じゃれあいか、あれは。」
「竜樹とーさ、良くある事だぜ。男は女に、かていで逆らっちゃいけねえんだ。」
したり顔で、うんうんと腕を組み言うジェムであった。プランは、ほへ、と笑っていた。
子供達と別れて宿屋巡り。
ポールさんの所は、時間貸しが冒険者に受けて、移動前の装備確認なんかの待ち合わせに良く使われているそうだ。荷物を安心して広げて確認出来る所が良いそう。女性達の身だしなみ、着替えもそこそこ需要があり、旅のちょっとした休憩の拠点にも使われる。夫婦の宿泊も、そこそこ予約済み。
「儲けも以前にもう少しで届くかな、ってくらい。それに加えて、皆が喜んでくれるのが、張り合いありますね!」
と、宿屋の掃除をしながら、ポールは嬉しそうであった。
着々と巡って、後はホテル・レヴェ。キュール組合長はオーナーだから、そこにいるとは限らないが、ちょっと緊張する竜樹である。
「•••こ、こんにちは~。あの、今日は宿屋さんの夫婦宿泊なんかが上手くいってるか、ちょっと聞きに来たので、良ければ担当者さんを。」
そう、担当者さんで良いのだが。
受付コンシェルジュの清楚な、キリッとしたお姉さんに、訴えてみる。
「はい、お話伺っております。竜樹様がいらしたら、是非オーナーのクレプスキュールがお話したいと言って、待っておりました。今呼びますね。少々お待ちください。」
最新の電話を使って呼び出し。
あぁ~、逃げられない。
すぐにニッコリニコニコのキュール組合長、いやオーナーが、お馴染みの秘書君を連れてスッとやって来て、竜樹に嬉しそうに。
「またお会いできて、ようございました、竜樹様。『夫婦のちょっと特別な夜~たまには恋人同士の気分で~』の初動をご確認下さりにいらしたとか。立ち話も何ですから、喫茶室でゆっくりと。」
誘われてしまった。
竜樹はクレプスキュール組合長に、そしてミニュイに、特別に苦手や仲良くしたい気持ちは持っていない。仲悪くもしたくない、フラットな感じである。
ただ、竜樹だけがキュール組合長の影の正体を知っているので、何となく喋りにくいのである。
「で、どうでしょうか。夫婦の宿泊。」
「ええ、ええ。中々良く予約が入っております。宿泊された、とある貴族のご夫婦などは、お子様も一流の子守について楽しそうだったし、ご自分達も恋人同士に返って新鮮な気持ちで泊まれた、と褒めて下さって、仲良く帰ってらっしゃいましたよ。商人のご夫婦なども、この方達はお子様が大きくていらして、ご夫婦のみだったのですが、ゆったり寛げた、自宅じゃないもてなしの空間で、久々に話がゆっくり、今までを振り返り、これからの人生について擦り合わせが出来たと、心から満足そうでした。」
キュールオーナーも、ポッと頬を上気させ、本当に嬉しそうである。
お仕事好きなのかもな、キュール組合長。と竜樹は、ちょっと微笑ましく思い。
「それは、良かった!良かったです。ホテル・レヴェは、簡単に揺るぎそうにない儲かりでしょうけど、それでも影響あったでしょうからね。喜んでもらえて、儲かれば、お客様も嬉しいし、従業員もやりがいあるし、オーナーも喜ばしいでしょう。ご夫婦の楽しみともなって、皆で良い案が出来て、良かった!」
ニココ!と竜樹も笑った。
ええ、ええ。
キュール組合長は、ミニュイは、竜樹が自分の正体を知っても態度を変えないので、くすす、と嬉しく。上機嫌に笑いつつ。
「それでね、竜樹様。」
何故か朗らかで悪魔的な笑顔である。
「はい?」
「『夫婦のちょっと特別な夜~たまには恋人同士の気分で~』の特別ご優待券をお渡ししますので!お礼と、どんな風にサービスが行われているか、確認の為にも、『ラフィネさんと』是非ご一緒にお泊まりにいらして下さいませんか?」
ビラリ。
その手に扇のように開いた優待券は、大盤振る舞い半額チケット10枚。
ヒュイ、と息飲み、ボフ!と真っ赤になる竜樹に。
「是非是非、ラフィネさんと!この券を使い切るまで、検証していただきたく!あ、他の方に譲られないで下さいね、これ、特別なお客様への優待券なのです。ご記名もしちゃってます⭐︎」
ムフフフ。
固まっていた竜樹だが、ぎこちなく遠慮を。
「いえ、いえ!そんな高価なものを、いただけません!」
「いえいえこちらにも、利がある事です。それに、ラフィネさんも偶には子供達のお世話を一夜位はお世話係に任せ、竜樹様とゆっくりお話もしたいでしょう?」
お話。お話ね、お話。
「レポートもお待ちしてます⭐︎ご自分の案がどのように現実になったか、ご確認されたいでしょう?それに、これは、お礼でもあります。我がホテル・レヴェ、従業員一同、竜樹様をお迎え出来ればこんな嬉しい事はないと、本当に心待ちにしているんです。」
フニャ、と老いても色気のある眉を下げて。
「無理にとは、勿論申しません。お忙しいでしょうから、いつでも良いのです。ホテル・レヴェは、いつでも竜樹様をお待ちしております。」
「は、はあ。はい•••。」
あ~ミニュイ様、本当嬉しそう。
シャトゥこと、今は秘書のシフォンは、黙って付き従いながら、ミニュイが楽しそうに竜樹を追い詰めるのを、内心くすすと眺めていた。
「私共、竜樹様には、格別なご恩がありますから。いつでも、いつでもお待ちしておりますよ。」
ニッコリ。
それから、デュランの力を制御する腕輪の話に何故かなり、ピカリと眼光鋭く聞いたミニュイは、竜樹にそれを普及させるつもりか、と問うた。
「犯罪に使われないよう、持ち主固定で届出制で、力が制御できにくい人に渡るようには、させたいですね。」
ワイルドウルフのブレイブ王とも、相談ですけど。
言った竜樹に、いかにもいかにも、と返事をして。
ゆっくり、深く背を折り、胸に手を当てお辞儀をして。
「私共の生活に、ご配慮下さる竜樹様に、深く感謝を。」
としみじみ礼を言った。
竜樹は、あたふた、頭を上げて下さい、などと慌てていたが、結局有耶無耶の内に優待券は貰う事になり、レポートも渡す事になり、ラフィネと宿泊する事になりーーーちょっとぐったり疲れて帰る羽目になった。
「ミニュイ様。楽しそうですねぇ。」
「ふふふ、シャトゥ、若者は、押してやらねばならぬ時があるのだよ。」
優待券が渡せて、満々足のキュールことミニュイなのであった。
竜樹はといえば。
帰りの道で何故か、強面の、裏家業らしき若い衆達に。ズラリと並ばれて。
「竜樹様、お勤めご苦労様です!!!」
とビシ!とお辞儀され、ふわわあ!と驚くのであった。
「はい、ありがとうございます。がんばります。皆さんも、頑張ってくださいね。」
何言ってるんだろう、と思いつつ、当たり障りのない事を言ったのだったが、そのリーダーらしき若い衆が、またまたビシ!と。
「はい!頑張らせていただきやす!お邪魔になりやすんで、俺たちは、これで!」
きっちり礼して去って行った。
「何なんだったんだ•••。」
マルサが、ブハッ!クククと笑って。
「好かれたなぁ、アイツらに好かれるとはなぁ!流石竜樹!」
と腹を抱えていた。
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