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本編
仲間はずれはしないよ
しおりを挟む獣人の国、ワイルドウルフのブレイブ王は、テレビ電話会議を終えて、ふつん、と接続を切り、ふーっ、と息を吐いた。
中々良い。中々良いぞ、今回の神様のお花事業。どこにも利益がある。発展が望める。神様の御手が、等しく人々に優しさを運ぶ。
こんな未来ある仕事の話を終えた後は、ブレイブ王だって満足である。
喋り疲れて、休憩部屋のソファに深く座り、お茶を淹れてもらう。
「ファングとアルディの、いもけんぴも、少しだけ食べようかな。」
届けて貰った2人の息子の手作り芋けんぴを、ブレイブ王とラーヴ王妃は、大切にちょっとずつ食べている。
「ではお茶受けにお持ちしますね。ラーヴ王妃殿下もお呼びしましょうか。」
狐耳の老侍従がにこにこと言うのに。
ああ、そうだな。ふふっ、とブレイブ王は笑う。
「1人で食べては、ラーヴが拗ねようね。呼んでおくれ。会議のテレビ放送も見ていたろうから、色々お喋りでもしながら、どう見たか、ゆったり聞いてみよう。」
黒い狼お耳が、愉快げにピルピルした。
ラーヴ王妃は、アルディ王子のプレゼントした可愛いサンダルで、廊下をスタスタと急ぎ、いそいそと休憩部屋にやって来た。
サンダルは、薄くクッションがあり、歩きやすい所も気に入って、アルディ王子経由でパシフィストのマルグリット王妃にお願いし、幾つか似たものを作って貰った。ローテーションで大事に履いている。
マルグリット王妃とはテレビ電話友達になり、時々四方山話をしては、お互いの国についてより良きようにーーたまに夫への惚気や愚痴もありつつーー色々とざっくばらんに親しんでいる。母友達、うれし。
また、ワイルドウルフでも、動きやすく可愛い、かっこいいをテーマに、工夫してスポーツタイプのサンダルを。来年の夏に売り出して良いかと聞いたりして、ファッション談義もウフフと楽しいのだ。獣人は運動能力のせいか、パシフィストの民達より甲が広い事が分かって、各々の国で合わせて作るのがいいね、という話にもなった。
そして休憩部屋のブレイブ王も、上はきっちりした服装でテレビ電話会議に出たが、足下はリラックスのサンダルであった。リモートあるある。
「あなた、会議お疲れ様でございました。とても良い会議でしたわね。」
「ああ、実りある会議だった。パシフィストの、そしてギフトの竜樹殿には、頭が上がらないよ。」
ふふふ、と顔を見合わせて微笑む夫婦である。
けんぴを摘み、ポリ、ガリゴリと甘味を噛み締めつつお茶を啜り、ふーっと安堵。こんなに安心して話が出来るのも、嬉しい最近のワイルドウルフ王室である。
「ラーヴは会議、どうだった?気になる所はあった?」
「そうですわねえ。大体は、あれでとても良いように思いますわ。後は、それぞれのお国での、腕の振るいどころですわよね。どういう感じに巡りの儀式にするか、お金の割り振りや、人員の配置。時止めのガラスケースの作成で、竜樹様が『ばぶるは弾けるから気をつけて』って言ったのも、慧眼でしたわ。」
各国数が多いので、エルフに時止め加工の手助けを依頼、そしてガラス工芸、台座の金属、木工加工、など製造が盛り上がる!と得意な国がそれぞれ意気込んでいる所、竜樹が、いやいや、と一つ、楔を打ったのだ。
「これって特需ですよね。盛り上がるのは良いんです。問題は、その後です。バブルは必ず弾けます。儲かったお金、増えた設備や人員、それらで後々どうするか、考えて増やしたりした方が良いのですよ。」
昔々、猫にツッパリの格好をさせたグッズが大流行りした事がありまして。
ツッパリ?など不明な点はあるが、皆ふむふむと、喜びに水を差したにも関わらず、竜樹の忠告を、真剣に聞いた。
逃してはならない言葉のように、思ったからだ。
「沢山売れたから、印刷屋さんは、猫の紙袋や缶ケースや•••兎に角沢山、いっぺんに作って売って儲けましたよね。その間、普通にあった印刷の仕事は、猫を扱ってない違う印刷会社に流れました。増えた仕事に、設備も増やして、その為に借金もしたのかな、と推測します。そしてーーー人気は、盛り上がり、ぱたりと落ちました。一度に流行ったら、一度に行き渡り、その結果、廃れるんです。時代遅れで売れなくなります。普通の仕事は、別の印刷会社に取られています。沢山売れた印刷会社が、何軒潰れたか。ーーーという話を、印刷会社を渡り歩いてきた、老年の先輩から聞いた事がありましてねぇ。」
竜樹は、その後の時代のバブルの恩恵は受けなかったが、先輩の話は重々心に響き、記憶していた。
流行れば廃れる。盛り上がれば落ち着く。その、後の事をちゃんと考えに入れて、浮つかないで、いや、ちょっとは浮ついて盛り上がるのもアリなんだけど、つまんないからね。
身の破滅を呼ぶような浮つき方をしないよう、より良く特需を使うべき。
ゾッ、と各国それぞれの王様や商人達が、それを聞いて想像した。
天国から地獄へ。
はしっこく売り抜ける、そんな考えもあるけれど、この事業は、そういうタイプの、売れれば良いものじゃない。
皆の礎にすべき、神の恩寵を生かす、後々まで続くための、しっかりと地に足着いた事業にすべきだ。
『『『御忠告ありがたく!!』』』
各国王様達は冷や汗で威厳を保ちつつ、商人達も、そして宗教関係者も、ビビッと姿勢を正して認識を新たにした。細かい調整。どこか1ヶ所に過剰に集まらない、ちゃんと分散した、それでいてある部分は今後を考えつつ集中して発展させ、より良いモノづくり。
また一入真剣な話し合いになるのも、当然であった。
神殿教会だって、一時だけ観光に来られて嵐の様に過ぎ去られても困る。
だから、時間をある程度かけて、歩いて巡る、というのを含む案は、ちゃんと向いていると思うのだ、と竜樹は言う。
「皆、その足跡を、転移魔法陣や飛びトカゲを便利に使いながらも、徒歩でも追って巡りたいーーー四国八十八ヶ所巡礼、ってのがありましてね、悩み、憂いがある時、心機一転したい時、そこまで重くなくても旅の目的として、人生が落ち着いた時の楽しみとしてーーー色々な方法で教会や神殿の名所を、薔薇の巡礼、できたら良いですよね。御朱印帳に、来たよ!ってお印を頂く、その教会や神殿独自の、地方に伝わる神話なんかの素敵なお札があったりして、歩いて集める楽しみがあったりなんかも、とか、とか?」
うん、うん。
トレカ集めるみたいに、収集する楽しみ、この世界でも、アリかな?
宗教関係者は、手を組んで感激し、竜樹を拝んだものだ。
やっぱり竜樹は面白いな!とファヴール教皇は、以前竜樹から聞いた色々な教会の集金の案を思い出す。それがここに来てまた生きる。お賽銭箱など、全部使うのは難しかったが、とても参考になるのだ。
「御朱印帳?お札?良いではないか。神のお姿を独自に印刷したものも、有り難い品になるであろう。皆が各家庭に貼って、祈りを捧げる場を飾って作り上げられるような。教会に合った方法にしつつ、そんなにお金がなくても巡るだけでも味わえて、また竜樹殿の案を取り入れて、ここに来たから買えた、という品も授けたい。」
「巡礼目当ての宿屋や護衛、お土産物屋に食事所、アリですな!」
お接待、ってのもあるんですよ。
竜樹が加えて言うに。
何の見返りも期待せず、やって来たお遍路さんに対して、お茶やお茶菓子、お休み所、時によっては民泊、簡単なご飯の提供など、出来る事をできる様に、その巡礼道の付近の人々が親切にするのだ、と。
「お金がなくても、気持ちがあれば巡礼できる。温かく迎える文化がある。勿論、そうしろと、強制ではないんです。お金、重要です。見知らぬ人への警戒、防犯の気持ちも、必要だしね。ただ、土地の人々が、受け入れてくれる気持ちを持って、ほんの少し、親切にしたら、きっと巡礼は根付きやすいんじゃないかな。救いがある、気持ちがある所に、人は集まります。実際、無心に歩いて、自分を見つめ直す事が出来ると言いますね。」
それを自然に知らしめ、神のお力がある土地だぞ、その土地に住まう民であるぞ、ならば出来る事は、ふるまいは、と伝え自覚する為に、薔薇巡りの儀式は、とても良いと思いますね。
巡礼するための羽織る衣装や杖に傘、バッグなんかもありまして、巡る最初のお寺で揃えたり出来て、とまだまだ続く。
ほぉ~う、とため息が漏れた。
何だか、巡礼、やってみたいではないか。
細々とした悩みの、ない人間など、いるだろうか?
いつもせせこましく、次から次と働いて、それが良いではあるけれど、いつしか澱のようなものが溜まっている事も。
しみじみと、重責を担う代表達が、思いを馳せて。
『巡礼、良いですな。』
『私も、仕事を退いたら、行ってみたいかも。』
各国からも、商人からも、人の流れが増すのは、より良い。とも頷きが得られたのだった。
ラーヴ王妃も、旅してみたいなあ、歩いてみたい。と魅力的に思う提案だった。ふーっ、と思い返す。もし、ファング王太子が王に立ち、アルディ王子がそれなりの地位と仕事を得て落ち着き、自分達が第一線を退いたら、夫のブレイブ王とゆっくり巡るのも良いなあ、なんて。
今まで巡礼といえば、特別に敬虔な、宗教関係者が主にする事だった。
でも、そうじゃなくて良いのだ。皆がしたって、良い。
「それから•••エルフ達を呪った、ジュヴール国への温情も、考えさせられましたわ。」
へにょ、と眉を下げながら、お茶を一口啜った。女性の立場から言えば、エルフを奴隷に使って、意思に反して子供達まで産ませたジュヴール国に、薔薇をやりたくはない。だが、しかし。
『皆様、この度の会議に、ジュヴール国も呼んでいただき、ありがとうございます。』
恭しく礼をするのは、各国連合の中、ジュヴールを監督しようとパシフィストから派遣され代表に立った人物。
オール先王の弟の息子、ハルサ王にとっては従兄弟にあたる、ルプランドゥール・リュンヌ、平民側妃の血を引く王族である。
茶色の髪に、太い、強い意思を感じさせる眉、キラリとした虎目色の瞳に、愛嬌のある大きな口の、壮年の男性だ。
幼い時から、王族でありながらも、仕事としては市井に降る予定だった彼は、実際的な人物であった。王族の誇りはあるが、下げる頭を恥じる事はない。ましてや、問題だらけのジュヴール国を、押し付けられ、いや、その立て直しの栄えある仕事をいただき果敢に奮闘する彼は、見栄なんか持っちゃいなかった。
ジュヴール国のしでかしは、自分がした事ではないけど、当たり前に責任感をもって。
『神の薔薇を、などと、厚顔である事は分かっています。けれど、今、ジュヴールは、力を失った農地の再生や、エルフ達に協力を得るなどとんでもない、ジュヴールでは実施されない、転移魔法陣の他国への普及によって、一歩も二歩も、皆さんのお国から出遅れています。今後、益々その差は開くでしょう。』
うん、うん。
この会議の放送は、ジュヴールでも、勿論放送されている。仲間はずれ感が、民達の誰にも感じられているだろう。自分達がやった事だ、と反省しても遅いし、反省するなら良いが、我々の奴隷エルフを奪還すべき!なんて、的外れで一度吸った甘い汁を忘れられない愚か者も、結構いる。
だからといって、厳しくするばかりでは、食糧難で人死にも出るし、勘違いの恨みも増える。仲間はずれにされる、って、相当堪える事なのだ。
完全に仲間はずれにするべきではない。それは分かっているけれど、何もなく恩恵が得られる、と思っているのも甘い。
『ジュヴール国の罪について、長く時間をかけて償う気持ちがあります!ですが、償うにも、生きていなければ始まらないのです!恥を忍んで、お知恵をお貸し下さい。エルフの子供達を、再び攫おうという不穏分子を抑えるのに、苦慮しております。勿論、指一本でもエルフ達に触らせはしません!転移魔法陣が、ジュヴールに作られないのは、もっともな事だと思います。それでもどうか、僅かな救いを下さい!どうか、1輪でも2輪でも良い、ジュヴールも神に各国に見捨てられてはいないのだと、そのお印にと、お花をほんの少しだけでも、いただきたい!どうか、どうか!』
この、ジュヴールの為に頭を下げて願う人を見て、ジュヴール国民はどう思うのだろう。
エルフのリュミエール王は、冷たい目を光らせながら、一口、お茶を飲んで黙っていた。
エルフの子供達を再び攫おうと?
そんな事が許されてたまるか!
呪いを受け付けなくなった、魔法得意なエルフ達が、後れをとるとは思わないが、そのふざけた考えが癪に障る。
しかし平和を調整するエルフとして、見捨ててはならないとも、リュミエール王は思った。
モヤモヤとした気持ちに、すぐに口は開けなかったけれども。
各国代表が、リュミエール王の発言を待つ。
「あ、子供達に悪さをしたら、多分、神の眷属たる、レザンとエタニテに、超怒られると思いますよ。子供達は無事に取り返されると思うし。」
竜樹が、お茶菓子、胡桃のゆべしをウマウマ食べながら、ずずっと緑茶を啜って、爆弾発言をした。
『神の?』
『眷属????』
うん。言ってなかった。
誰も知らないのである。会議に出ている各国の人々は。
特に宗教関係者が、(ファヴール教皇とノノカ神殿長除く)はや!と心を躍らせてガタリガタン!と立ちあがろうとして、あ、画面から外れる、と焦って座り直した。
『神の眷属とは?竜樹殿、説明。』
トントン、と机を指で叩いて、ファヴール教皇が冷静に催促する。教会孤児院にはレザンもエタニテも行っているのだが、まだトップまで話が伝わっていなかった。
「デュランてシロクマ獣人の孤児が、俺の寮にいるんですよね。その、亡くなったお母さん、エタニテ母ちゃんを、メール神様が、子供を置いて逝かなければならなかった母達の未練と恨みを集めて、悪いモノになりかけてたのを、眷属にして。救いを下さったんです。亡くなったお父さん、レザン父ちゃんも、父神たるペール神様が、眷属にして下さって。2人とも、子供達を見守るお役目を持って、この世にいます。』
『聞いてないぞ、竜樹殿。』
ブレイブ王が、お耳をヒコッと片方伏せて、誉れあるけども突然で複雑、と驚きのあまり言葉を漏らした。
うん、いつ言おうかなって、思ってたんだよな~、とハルサ王はちょっと視線が空にいっている。
「すみません、ここ何日かの出来事なんですよ。まあ、それで、特にレザン父ちゃんは、お力の強いペール神様の眷属という事もあって、本気で怒らせないでね、ってランセ神様からも言われてるんです。王宮位は軽く壊せちゃうらしいですよ。穏やかで優しい、子供達を良く遊ばせてくれる父ちゃんなんだけど、瞬時に行きたい所に飛べるみたいだし、エルフだって子供は子供、きっと守ると思うんですよね。怒ると思うな、レザン父ちゃんは。もしそんな事件が起こったら、朝夜関係なく、各関係者様、竜樹まで連絡下さい。レザン父ちゃんに取り次ぎます。」
そしてそれをやったら、薔薇を頂くどころの騒ぎじゃないですね。
サーっ、とルプランドゥールの血の気が引いた。しかし、ホッともした。
本当に神の鉄槌が下りるという事だ。
聞いたか、不穏分子ども。お前ら、詰んでるんだ!
ふ、ふっ、ふふふふ!
リュミエール王が不敵に笑う。
「神もエルフに味方した。ジュヴール国民には、早々に教育を、と思う所だが、食うや食わずでは染み通らない、というのも分かるよ、ルプランドゥール殿。交換条件といこう。エルフに今後、攻撃してこない、と約束できるなら、エルフは薔薇をジュヴールにやるのに、口添えしても良い。エルフへの間違ったやり方を、反省する教育を、国主導で求める。エルフも、そもそもそのつもりだったが、教育には協力するよ。テレビもあるし、ラジオもある。段々だとは思うが、農地が荒れたのは、土地の力を無理やり、私を拘束して出させたせいが一番強いのだから、落ち葉を使った自然の肥料や、虫など生き物達の力を借りても尚、時の力を待たねばならない。そういう事もテレビで少しずつやっているの、見ているか?』
『かぶりつくように見ていますよ。民も、私たちも。お心遣い、有り難く!その条件、是非に飲ませて頂きたい!もし破ったら、その眷属の、レザン父ちゃんに、多分、ジュヴールは•••。』
「うん、結構な被害を受けるでしょうね。」
うんうん、と皆頷く。
ぶるるる!とルプランドゥールは顔を振って。
『そんな恐ろしい事を。愚か者が出ないよう、徹底して周知させます。流石に神には逆らいますまい。それと、前ジュヴール王、キャッセの処刑が決まりました。どうしてこうなったのか、話を聞いていたのですが、今回の責任を、僅かなりと負わせるのに、時期としても、ちょうど良いと言えましょう。皆、関係者は捕まえておりますが、責任から逃げて、ジュヴールの今後を憂う者などいやしません。良くジュヴールが国として機能していたものです。だからこのまま、私が指揮をとる形で収まりたいと思っています。各国の皆様、それでよろしいですか?』
よいです、良い良い、と了解が得られて、ジュヴールも仲間はずれじゃなく、数は制限されるけれどーーー薔薇だけ多くても国力が足りないので、そんなに輸送に力が割けないのだーーーお花を頂ける事になった。
どこも悪くなく、ホッとした雰囲気が流れる会議である。
『ちょっと、お待ち下さい!皆さん落ち着いてらっしゃるけれど、眷属様ですよ!!メール神様とペール神様の!!それは、教会で、崇めて称えさせていただかなければ•••!』
あ、また教会関係者が、面倒くさい事言い出したなー、とファヴール教皇は思った。いつもの事である。教会愛が溢れてるのは良いのだが、神の眷属が、思い通りに崇めさせてくれるものかよ。それも、子供達を見守るお役目がある。
「デュランて子供もいるし、レザン父ちゃんも、エタニテ母ちゃんも、うちの寮や地方孤児院で、子供達の面倒みるのがとても楽しそうなので、どうかそっとしておいてやって下さいよ。孤児の子供達から、父ちゃん母ちゃんを、取らないであげてください。」
竜樹の言葉に、でも、でも!と大人のわがまま、納得出来ない様子。
ふおん、と竜樹の背後に、白のふさふさお耳の2人が、不意に現れた。
あ、と驚く面々に。
エタニテ母ちゃんが。
《わるいこ!かあちゃ、とうちゃ、独り占め、ダメ!!》
ムン!と怒った。
神の気配の欠片は、テレビ電話越しでも伝わるのだろうか。神殿教会関係者は、ビビビッ!と背筋を正して、ハイイイィ!!と良いお返事をした。
《ブレイブ王様、デュランに腕輪を、ありがとうございます。俺たち、幸せにやっています。お国の皆にも、よろしく伝えてください。》
レザン父ちゃんが、ペコリとお辞儀をして、ブレイブ王にお礼を言う。側にエタニテも寄り添って、ニコニコと笑う。
ああ、良かったな、とブレイブ王は報われる心地がした。
『良い、良いよ、レザン父ちゃん。何でもない事だ、獣人の子供に気をかけてやるなんて事は、当然だ。クマの里から、きっと会いたいと連絡が来るだろうが、会ってやってくれるか?無理に連れ帰ったりなど、決してさせないから。』
ブレイブ王も、しがらみがあるので、会わなくて良いよ、とは言ってやれなかった。眉下がりのその様子に。
《はい、ブレイブ王様。今ならちゃんと、エタニテもデュランも、このパシフィストで、竜樹様の元、俺も一緒に幸せに暮らしていけると、安心して欲しいと、言ってやれますから。もし会いたいなら、会いますよ。こちらから、会いには行きませんけど。》
『うんうん、それで良い。』
一件落着である。
「ジュヴールもこれから大変ですわね。そして、エルフは優しいですわ。優しいから蹂躙されてしまった、なのにまだ、力強く優しい。それをどこまで分かっているかしら。変わらなければ、ジュヴールは恥ずかしいですわね。」
「ああ、そうだな。でも、本当に反省して再生するのは容易ではあるまい。もしかしたら、世代を交代するまで、頑なに直らないかもしれない。それでも、これからの者達には、希望がなければ、とも思う。」
竜樹の、エルフの、テレビやラジオで放送するという、教育番組が待たれる。倫理、道徳とは。そんな、考え方の勉強も、やっていくのだと。
ラーヴ王妃は、ポリ、と皿の最後の芋けんぴを口にすると、すすす、とお茶を含んだ。
対話で削られ、そして新たに生まれ変わる。皆、そんな気持ちがしている。このテレビ電話会議を見た者は。
胸に灯る、希望。
「そういえば、ファングは、パシフィストのお国で、子供達とテレビ番組に出るのですってよ?凄く楽しそうに報告してきましたわ。そう、何て言ったかしら、え~と、確か『アンファン!お仕事検証中!』って番組よ。」
「ふふふ。ファングも楽しんでいるね。アルディとも、仲良くやっているようで、ウチは安心だね。」
そうですわね!
ふふふ!
笑い合う夫婦は、とても和んで、そして相手が慕わしかった。この人だから、やってこれた。この幸せは、周りの皆のお陰でもあるが、細糸一本、どうにでもなれと放り投げたりヤケになったりしなかった、そんな家族の、やっと得た宝物であるのだ。
嬉しいな、とラーヴ王妃は、ブレイブ王の手に手を重ねて、笑った。
ブレイブ王は、ちょっと照れて、でも嬉しそうに、その手を握った。
「ファングとアルディは、情報屋のお仕事を検証するんですって。」
「ほう、ほう!それはまた。良い街の勉強になるだろうね。」
そうね、そうね。
ふふふ。
狐の老侍従は、ニコニコして、仲良し夫婦を見守るばかりである。
ーーーー
会議の話が前回で終わったようでいて、今回もでした。
すみませぬ、書き足りなかった。
なめんな◯猫の話は、半分実話です。少し盛ってます。
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