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本編
枯れないように、注いでね
しおりを挟む「こんばんは、クレール様、バーニーさん。それから、そうね。お話する前に、そちらの小さなお客様達を紹介して下さいな。」
寮の前で待っていた女の子達とラフィネ母さんだが、5人の子供達とモルトゥに視線を移すと、ニッコリ紹介をねだった。
笑いもせず、やっと来たー、とばかりに竜樹を囲む女の子達に、えーと、とほほ、となっていた竜樹だが、ハッとしてそうそう、新しい仲間を紹介しなくちゃ、と気を取り直した。
「こちらは、大きい順に、ネフレ、プーリュ、スァラン、ドレ、ジゥ、だよ。ジェム達もいる?」
「いるよ!竜樹とーさ!」
いるー!!とわらわら、女の子の後ろから成り行きを見守っていたーー成人向け商品については前から絵姿とかあるし、花街に行くよりマシだし、何て事ないと思ってるけど、女の子達やラフィネ母さんにはさからわないほうが、いいぜ。というキビシイ現実男の子目線、賢明な判断のーージェム達もヒョコ、と顔を覗かせて。フロンを治療してくる、とは聞いていたが、突然増えた新しい子供達5人に目を丸くした。
「ジェム。今夜からこの5人と、デュランもだけど、新聞寮に一緒に暮らす事になるからね。お釣りの計算や接客をちゃんと教えてあげてから、新聞販売所でも働けるようにしてあげようと思ってるんだ。そうしたら、ジェム達も、今のキツキツスケジュールじゃなくお仕事できて、今よりもっと子供新聞作りや、勉強もできるんじゃないかな?って思う。今だと、もし誰かが風邪でもひいて具合が悪くなったとしたら、お助け侍従侍女さんに助けてもらわなきゃいけなかったものね。ジェム達みたいに困ってた子達だよ。どうか、寮の先輩として、優しく色々教えてあげてね。ラフィネさんも、女の子達も、新しい仲間によろしくしてあげてね。」
はーい!と良いお返事が皆から返ってきて、5人は、よろしくお願いします!とペコリ、パラパラ、ちょっぴり緊張して頭を下げた。
「俺、ジェム。この新聞寮の子の、一応リーダーだよ。もうご飯食べた?」
「た、食べたよ!竜樹様に、すいとん、って作ってもらって、皆で食べたんだ。」
一番歳上のネフレが、ジェムに応えると、ニパッ!とジェム達が笑った。
「すいとんおいしいよね!」
「おいしい~。」
「俺、すき!」
ウンウン、美味しかった。
ネフレ達が頷くと、パラパラ寄ってきて、こちゃこちゃくっつく。
「食べたなら、良かった!俺達、親がいなくて、街で貰い仕事して暮らしてたんだ。竜樹とーさに拾ってもらった。ネフレ達も親がいないのか?」
「ウン。そうだよ。こっちにいる、モルトゥのとこでお世話になってたんだけど、竜樹様が、モルトゥが鞭で叩くのを、ダメ!ってして、神様もモルトゥをよろしくね、ってしたもんだから、ええと。何でか分からないけど。急にだけど、今日からこちらでお世話になる事になったんだ。」
「ふーん。」
「神様が言うんじゃあ、なっとくだな!」
「竜樹様じゃなくて、今日から竜樹父さんだよ。」
「そっちのおじさんがデュランに鞭したのかよ!ダメじゃん!」
ムムム、とジェム達の顔が険しくなる。なにせ、あのデュランの酷い背中を見たばかりなのだ。そして街にいる時、自分達も心無い大人達に蹴られたりした記憶がある。そういう奴かよ、と警戒もする。
「ごめんねしたんだよ。ないてあやまったんだよ。だから、ゆるしてやったんだよ。」
ニリヤが、眉を顰めて偉そうにウンウンしつつ言い、腕組みをしながらオランネージュとネクターも、ウンウン、許してやった、とする。
「デュランにあんなに鞭するなんて、本当はちょっとかんたんに許しすぎるかな!って私は思ったんだけど、神様が、モルトゥに、よしよし、ってしたんだよ。きっと、何か、りゆうがあったんだな。だからって鞭はダメだけど、これから子供達のために働くってゆうし、竜樹様が子分にしたし、罪ほろぼしするってゆうから、まぁ、しょうがない、許してやってね、皆。」
アルディ王子が、腰に手を当てて尻尾をブンブン、お耳をひこひこしながら、フス!と鼻息、モルトゥをチラッと見て、説明した。
「アルディ様がそう言うなら、それでまあいっかー。」
「このおじちゃんも、りょうにすむの?」
住むの?
と一斉に視線が竜樹に集まった。
「住みます。俺のお役に立ってもらうんだー。情報屋なんだって。皆みたいに、困ってる子供を見つけるのが上手だから、それをお願いしようと思って。しばらくは寮で、人に優しくする事を覚えてもらおうと思ってるよ。鞭でいうこときかせなくても、皆ちゃんとお仕事もして、良い子達なんだからね、って、付き合い方を学んでもらう。そういえば、オーブは?」
「いるよー。オーブ、今日俺たちと寝たいみたい。」
ひょい、と控えめに顔を覗かせたロシェ。コココ、と親切なめんどり、神鳥オーブはロシェの頭の上に、ふっくら乗って、頭あったか、瞼を半分閉じて鳴いていた。
「オーブ。ちょっとだけ、モルトゥさんに、鞭打ちされるとどんなに嫌な気持ちになるか、夢を見させてやってくれない?」
竜樹が頼む。
ココ?ココケコケ~?
と首を傾げて、まじまじとモルトゥを見るオーブだったが。う~ん。いやいや。ふるふる、と否と首を振った。
んん?翻訳スマホの出番である。
モルトゥは今までも押し潰されてきた男である。自分がやってきた事を知るのは良い事だけど、今に加えて押し潰されて、それが、罰で仕方ない、とするのは。モルトゥと同じやり方を、竜樹達もする事に、ならないか?
コココケコココ!
『モルトゥ、痛くされるのが、当然の罰だって思ってる。痛いのが嫌だから、いうこときく。それって、しちゃダメなこと。なのに、痛みで制御するのを、オーブがやっちゃ、ダメだなー。やりたくもないし。』
それを聞いた時のモルトゥは、悲痛な声を上げた。
「俺は鞭打ってたんだぞ!子供に!抵抗できないやつらに!罰も与えてもらえないのかよ!それって、それって、なん、なんなんだよ!」
ヒン!と涙ぐむ。
コケ、コケココ?ココココ!
コケ、コケコ、コッコッ!
『モルトゥ、君に必要なのは、心をふっくらほこほこにさせる、優しく温かい、そして厳しいお父さんの愛情だよ。それが君に足りなかったもの。どんな生き物も、温かな水をあげなければ枯れてしまう。モルトゥは、枯れかけていたんだ。枯れた心で子供達に接すれば、擦れてボロボロになって、苛々して、何かの拍子に手が出ちゃう。さりげなく混ざる差別や偏見に、心が押し潰されてたら、それに対抗する栄養をもらわないと、誰だってどんどん枯れてっちゃう。毎日、誰かから、ほんのちょっとの愛情をもらうのが、ふっくらほこほこに生きていくのが、人がお互い、幸せに過ごすのに必要な事。ちゃんとそこにある、愛情をもらうにもコツがいる。』
「コツ?」
3王子とアルディ王子、ジェムが、むむ?と首を傾げる。エルフのロテュス王子は、うんうん、と頷いて、竜樹をほっこりした目で見上げて。
ココココ、コケココ。
コケ、コココ!
『差別や偏見、だけじゃなかった。でも、やっぱり、それはあった。嫌だよ、ダメだよ、モルトゥはちゃんとやってるよ、って認めてもらわなきゃ、心が枯れちゃう。差別や偏見はいらないよ、でも、ささやかな愛は受け取るよ、って上手に出来れば、皆、苦労しないね。皆、上手くできなくて、もがいてるんだ。モルトゥだけじゃない。その方法を、学び逃してきた。それを、竜樹が教えてくれるでしょ。何があっても、君に愛情を注いでいた人がいたね?その人はもういないけど、確かに何のお咎めもなしじゃ、良くない。ダメな事は、ダメ。だからね。』
コココ!
『その人が、モルトゥが子供達に鞭打ってどんなに悲しかったか、教えてあげる。』
ひう、とモルトゥは息を呑んだ。
ロシェはモルトゥに近づいて、とオーブに言われて、とことこ寄っていく。モルトゥの腕を引いて、腰を曲げて頭の上のオーブに、顔を近づけさせると。
エクレとシエル元王女にしたように、乱暴にではなく。
そっ、と。オーブは、震えるモルトゥの額に、片足の指3本、足先を、ぽん、と押した。
ガクン!と膝を折ったモルトゥは、灰色の夢見る目をして、そこで。
客観的に見る事ができた。
子供達を鞭打つ、希望を失い、世の中に絶望し、それを、子供達にも良かれと押し付け、押し潰されて誤ったモルトゥの後ろで、悲しげな瞳で見守り、ハラハラとする、もういない父の魂。
その大きな大きな愛情と悲しみを、感じた。
ポロ。
つう、ポロポロ。
呆然と涙を流すモルトゥ。
ロシェは手を引いてやる。とぼとぼと、引かれて夢中に、ゆらり、歩く。
「まぁ、寮に入ろうぜ。竜樹とーさも、女の子達と話があるんだろ。ここでずっと立ち話も、なんだぜ!」
ジェムが、うん、うん、とモルトゥの顔を見て何か納得をし、その場を纏める。
「そうね。ネフレ、プーリュ、スァラン、ドレ、ジゥ。よろしくね。私がラフィネ、皆のお母さんになるわ。寮に入って、もう夜だけど、麦茶でも一口飲みましょう。急にここに来る事になって、びっくりだし、疲れもあるでしょう。ゆっくりしてね。ジェム達、頼むわね。ロシェも、モルトゥさんをお願いね。」
私達は、お話しますからね。
ニコリ!
竜樹の、ロテュス王子と繋いでいる手とはまた反対の、ねむねむデュランを抱いた手に、腕をゆっくり、するりと掛けて。
ラフィネ母さんは、穏やかに緩めた瞳で、モルトゥと子供達を見ると、竜樹と視線を合わせて、ふふっと笑った。
何だかんだ言って、頼りになる竜樹をあてにしているのだ。だから、待ってた。
「ウン!」
「うん、わかった!」
「いこ、いこ!」
ジェム達もだが、女の子達も、ふっと緩んで、互いに手を取り合って寮に入った。
「パイ!ぱいよ!」
「あれ、ラマン?」
交流室には、そこそこ地方教会の子供達がいて、寛いでいた。竜樹に会いに来た女の子達にくっついて、会いたい子らが来たらしい。トランプや、人生すごろくして遊んでた模様。
ぽっこりお腹の赤ちゃん、ラマンも、竜樹を見て、よちよち寄ってきた。
「ぱいよ~!」
「ウンウン。パイだったねぇ~。」
ラマンと同じ、アンクル地方の教会のお助けエルフお姉さん、サンティエが、ニコニコとラマンに頷いて、竜樹にもニッコリ笑いかける。
「??パイなの?ラマン?サンティエさん、パイって?」
ああ、それはね。
「昼間、成人向け商品の会議をテレビでやったでしょう。ラマンったら、お昼寝から目が覚めちゃって、寝付けなくて、テレビ見ちゃったのです。それで、水着のお姉さん見て、おっぱいよ~、ってね。ねー、ラマン。おっぱい、おっきかったねー!」
ええ、ええええ。
タハ、と笑う竜樹に。
「ウン。パイ。」
むにゅ。と肩を寄せて、細くきゅっとするラマンである。
「??ラマン、それどういうこと?」
「水着のお姉さんが、お胸を、そんなふうに、きゅっと寄せてたんだよね~。」
サンティエよ。そんな無邪気に受け入れオッケーで良いのか。
「ん!ん!」
ラマンは、お胸を両腕で、きゅっと寄せたポーズと、ふりふりオムツで、でっかいお尻で、画面からは下にパンして見えてなかっただろうに、偶然にかゴロリと。女豹のポーズを、とった!
「ぱ~い!」
ニコッ!
褒めて!って感じの満面のニッコリである。
ブハッ!アッハッハ!!
かわいいかよ。崩れ落ちて手を打って笑った。
「竜樹父さん。私達、将来、成人向け商品にでなきゃいけないの?」
一口の麦茶。円座になって、寛いで、手を繋いだラフィネと竜樹とロテュス王子の周りで、女の子会議である。
クレールじいちゃんはニッコリと、濡れた髪のお風呂上がりなニリヤをお膝にして。温かい麦茶を飲みながら、バーニー君と談笑、荷運び達の運送業商会の話をしている。
オランネージュとネクターとアルディ王子もお風呂を出て、夜着に着替えて、新しい仲間と、それから男の子達とトランプ遊びの真っ最中だ。
「皆が成人向け商品に、出なきゃいけない訳なんか、絶対にないよ!むしろ、出ないで欲しい。あれは、やっぱり、精神も女性としての尊厳も、ゴッソリ削るから!」
焦って言い募る竜樹に、ホッとした空気が流れる。
「それでも良い、覚悟した何か事情のある大人の人にだけ、それも安全にやってほしくて、皆を巻き込みたくなくて、俺は成人向け商品の話をしたんだ。皆、大人になって、孤児院から出て、お金に困る事もあると思う。そんな時、女性は、その身を狙われやすい。だから、そんな時は、ネックレス、忘れないで。たんぽぽの印、ここが実家、竜樹父さんと、ラフィネ母さんに、相談に来て。いつだって、いつだって、待ってるんだから。」
伝えたい事。それが伝わるなら、何度でも言おう。
「ウン!分かった!」
「実家だもんね!」
「かれしに、花街に売られたり、成人向け商品に売られたりしないように、ちゃんと相談するー。」
安心してニコニコの女の子達だが、一部イヤに具体的である。
「竜樹父さんの世界の女の子たちも、成人向け商品に出てたんだね。すごくすごい?花街もあった?どんなお仕事してたの?」
「私たち、どんな大人になればいいの?」
「お仕事あんまりないもんね、おんなのこ。」
「結婚して、子供産んで、そだてる。」
「私、キャバレーの衣装作りの仕事したいんだぁ。」
「ラフィネ母さんが、女の子たちのおしごと、増えるといいね、って。お金がないから、困る事が多いって。」
私たち、これから、どうしたらいいの?
女の子達が希望のない世界なんて、ダメだろ。
そうだ、竜樹。やる事はいっぱいある。元の世界で、事務やパートのお姉さんおばさま達と話していた経験を、今、ここに生かさずして。
何とする!
「皆。俺のいた世界で、女の子達がどんな仕事をしていたか、どんな夢をもっていたか、そしてどんな困難があって、それと戦っていたか。」
それを、お話しましょう。
ラフィネは、女の子たちは。
スッ、と入ってくる真摯な気持ちを、胸に嬉しく、そしてワクワクと受け入れた。
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