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本編
打たれたその子
しおりを挟む竜樹はお茶をゆっくりいただき、歓談の後、皆とそれぞれ挨拶をして辞した。その会議直後から歓談の様子は、テレビで『会議の後で~溢れ話のお茶会~』として、王様の提案があってから編集なしで放送された。
「俺は、成人向け、水着くれぇなら良いと思うんだけどさ。それ以上は、何か、見なくても良いんじゃねえかって気がするぜ。」
「花街もあるしなぁ。」
(俺はいっぱいすごいの見たいな。)
(な、色っぽいの見たいよね!)
(ギフトの竜樹様、良いじゃん良いじゃん!やってくれた~!!)
「彼氏にお金使って花街に行かれるより良いかなぁ。」
「私、シエル元王女の気持ち、分かるわ!」
「絶対成人向けなんてヤダ!竜樹様にしては愚策と思う!!」
「けどさ、特に手に職もつけてないのにお金に困ってるなんて時は、出演して稼ぎたいってのも、ありだと思うじゃん。」
「一時稼いで、足抜けして、お店を出す資金にしたりとか?」
「お前!出演しようだなんて思ってんのか!?」
「違うよ父ちゃん、たとえばだよ、例えばの話!」
「母ちゃんはあんまり良いとは思わないけど、男どもは仕方ないからねえ。」
「裏の悪人達と手を結ぶって、どうなのかなあ。」
やいやい、わいのわいの。
大画面広場でも家庭でも、貴族も平民も。会議について皆、それぞれの意見を話し合う。
番組の最後に、皆さんの意見をお待ちしています!それらは参考にさせていただき、これからの成人向け商品事業に反映させていただきます!とアナウンスした事もあって、それは文字の書ける者だけではなく、代書屋を使って投書となって、後日沢山集まった。
因みに大多数は、写真集では水着など、映像ではちょっとお色気のある綺麗でソフトなものが好ましい、と思っている事が分かった。
大体どれくらいまでを公認のものとするかについて、それを参考に倫理委員会で規範を作っていく事となる。
「あ~。勇気を出して帰ろう。寮に。」
竜樹がトボトボ、王宮の庭を新聞寮に向かう。
ラフィネは、くすっと笑いながら息を吐いて、ぽん!と竜樹の背中を叩き、肩に手を乗せてグイグイ押していく。
元王女シエルは、「女の子達に嫌われても、自業自得ってやつよ!」ツンツン!と得意げにしたし、元王女エクレは、「私もあんまり成人向け商品、好ましくないけど、コクリコさんをしつこい落とし屋から助けるには、他に良い考えが浮かばないわ•••。」と頬に手を当てた。
男子のお助け侍従タカラや、王弟で護衛のマルサは、覚悟の竜樹の案ならば、支持して何かあれば護る、という決心で、後ろと前を歩いている。
「あれ、皆出待ちしてるよ。おーい、皆、ただいま~。」
ニリヤ、そしてジェムが、トコトコ!走ってきて竜樹の手を左右取る。引っ張って、早く早く!と焦っている。オランネージュとネクター、そして寮の大っきい子小ちゃい子達が、早く~!竜樹!竜樹とーさ!とぴょんぴょん飛んで、来い来い呼ぶ。寮のエルフのお世話人、マレお姉さんも、小ちゃい子と手を繋いで、たかたか足踏みして焦り待ち遠しく。
「何だ何だ、どうしたどうした?」
引っ張られ歩調を合わせて大股歩きに、竜樹が聞けば。
「けがしてるの!」
「ぶたれたんだよ!」
「見てやってよ、竜樹父さん!テレビ見てて、竜樹父さんになら話するって!」
「触らせてくれなくて、手当も出来ないんです!」
んんん!?
怪我とは聞き捨てならない!
ニリヤをグイッと抱き上げて、ジェムと並んで、子供達にまみれながら入り口、靴を忙しなく脱ぎ寮の廊下に上がる。
ダダダ、ダダ!
交流室では。エフォール達と、アルディ王子が。真っ白な髪の、ちょんもり座ったその子を、俯くその顔を、しゃがんで心配気に覗き込んでいた。
はた、暗い目と合う。
ああ。
金の瞳が開いているのに、まるで痛く眩しいかのように半分押し下げられて、三角に鋭く。下から窺う。ギュッと圧をかけられ、心を潰されて、虐げられた者の目だ。
ひゅ、と竜樹は息を吸って。
腹に力を込めた。
白い丸いふさふさの毛がある獣耳。獣人の子だ。
着ている服は、ボロボロの褐色で、所々破けて、擦ったような血のポツポツが滲んでいる。
「背中がすごく血があるの!」
アルディ王子が悲しみの声を出す。
竜樹は腕を広げて、前に座って、ん?と視線を合わせた。
「•••ほんと?」
「んん?」
わ、悪いのでも、子供に、してくれるって、ほんと?
震えながらの、言葉に。
ああ、思った事は言っておくもんだ!
「うん。悪い子でも、俺の子だ!」
目を合わせたまま、ジリジリ近づいて、ゆっくり、腕の中に。
躊躇っていたが、柔らかく頭を撫でて、ポフ、と胸に顔を寄せさせると、じわじわ、じわ、と熱いものが沁みてきた。
ひっ、ひっ、ひくっ、と泣く、段々と力強くしがみついてくるのをそのままに、背中の様子を見る。服に血が、縦横斜めと滲む。酷い状態だった。
「どうしたどうした。どんな悪い事しちゃった?誰にぶたれた?俺は畠中竜樹っていうんだけど、名前教えて欲しいなあ。」
返事は期待しないで、ゆっくり喋る。
エルフのベルジュお兄さんが、小声で説明する。
「この子、王宮の門番の所で、保護者らしき男性に連れて来られて、背中を鞭で打たれていたんですって。この子が誰かに怪我をさせてしまった、その治療費を払えないから、寮に、引き取ってくれって。門番が困って連絡をくれたんです。急いで行ったら、もう保護者はいなくて、血だらけでこの子が。何も話してくれなくて、触るのも嫌がって。私もマレも治癒魔法は使えなくて。」
うんうん。
「うん、分かった。」
「保護者といっても、獣人じゃなかったらしいから、血の繋がりはないのかも。」
うん。
何も言えないよな。そんな風に打たれたりしちゃあ。自分の事を悪いという子だ。きっと怪我させた相手に、罪悪感もあるのかも。
なで、なで。
頭を撫でてやる。白い柔らかい毛の耳が伏せて、うっく、ひっく、と泣き、グイグイ擦り付ける顔が服を濡らしていく。
アルディ王子が、同じ獣人だからか、余計に何とも言えない、心配気な表情で肩に手を置きかけて、また、す、と躊躇い手を離す。
「怪我させちゃったのか?じゃあ、一緒にお菓子と治療費を持って、謝りに行かなきゃな。もう俺の子だ。俺も頭を下げるから、元気出せ?その前に、背中の怪我も手当てしなきゃな?」
「•••う、うん。ひっ、ひくっ、うん。」
シロクマ獣人、打たれたその子の名前は、デュランという。
ーーーー⭐︎
キリの良い所で短めご容赦。
そして子供達の会議の感想まで、到達しませんでした。
また、4月9日まで更新お休みいたします。
近況報告にチョコっと詳細書いておりますので、よろしかったらご覧下さい。
また9日からよろしくお願いします。m(_ _)m
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