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本編
会議後の参加者達
しおりを挟む「参加者の皆様。この後、王様から細かい意見を忌憚なく、自由に話せるよう、非公式で懇親のお茶会をとお言葉がございました。お時間ございましたら、ご参加下さい。準備でき次第、ご案内致しますので、暫くご歓談しながら、お待ち下さいますよう。」
はーい、と竜樹は机に突っ伏したまま低く返事をした。まだ、子供達に軽蔑されるかもの予想に、グッタリしていたのである。
「竜樹様。竜樹父さん!しっかりしなさい。子供達のお父さんでしょ。ーーーこれから、子供達が大人になっても、成人向け商品に出演しなくても良いように、手に職をつけさせたり、勉強させたり、お家の事をできる子にして、健康に幸せに生きられるように育てるのでしょ。」
ラフィネが、くすくす笑いながら、ポムポム、と肩を叩いて。それでも起きない竜樹に、仕方ないわねぇ、と息を吐いた。腰に両方の手を当て、胸を張って。
「私もお母さんなのだから、これまで通り当然一緒にやりますから。元気出して。もし軽蔑されてたら、お父さんは大人の男の人のお仕事で、皆に良いように考えたらああなったから、仕方ないんです、って援護してあげますよ。」
「ほ、本当ですか。ラフィネさん援護してくれますか!?子供達に軽蔑されたら、俺、生きていけないぃ。勿論軽蔑されても子供達を守るけど、けどもね!」
フフフフ、とお母さんズが笑う。
「子供達は、案外、竜樹お父さんの心配からの案だって、分かっているのじゃないかしら?」
「子供が出演したり、見たり買ったりしないように、何度も言ってましたものね。」
「信じられない!何で、皆、受け入れられるの!?」
シエルは不機嫌なまま、竜樹とお母さんズに地団駄踏みながら叫んだ。「何で!何でそんな大人の対応が出来るの!何で私は普通の女の子扱いなの!!こんなに嫌だって言ってるのに、どうして呼ばれたの!!」
「あー。うん、はっきり嫌だって言ってくれて、本当スッキリする。」
竜樹がムクリと起き上がる。
「こういう反応が、あって然るべきと思ったから呼んだんだよ。」
もーっ!もーっ!もきーっ!!!
シエルは納得出来ない。
何故姉エクレは、うんうん頷いてなどいるのか!!
ミニュイが楽しそうに声かける。
「お嬢さん。では貴方は、どういう案にすれば良かったと思われます?」
また旦那様。とシャトゥは呆れてチラリとミニュイを見る。ミニュイの旦那様は大きくて優しいお方だが、悪い人だ。血気盛んで生意気な若い者を揶揄う、悪い癖があるのだ。
「そ、それは•••。写真集なら、ドレスとか、この間の浴衣とか!そういうので良いじゃない!映像だって、別にそんないやらしいの、なくたって!!」
「若い女性は、そういう方も多いかもしれませんねえ。男性にとっては?人の半分は男性ですよ。今も、世に稚拙な裸の絵姿なんて出回っていますが、ギフトの御方様の言う通り、裏で絶対、鮮明な写真の成人向け、黙ってたって出ますよ。それを出させない何か、誰にとっても得になるような方法が?搾取される者達への止め石は、どうされる?」
「う。」
「貴族でも花街に行ったり、閨教育で万事承知した花をあてがわれたりして、経験する男性も多数いますが、そういった事にはどう思われます?」
ニヤニヤ笑う、額にラベンダーの髪を落とした色気のある老ミニュイに、竜樹は、意地悪いなー、と思いながらもそのままに。
シエルも、煽られてでも言いたい事を言った方が、絶対に良いだろうから。
「私の旦那様になる人は、花街に行ったりしません!閨教育も受けません!!成人向けの写真集も見ないし映像も見ません!いやらしい事なんて見ない清い方に決まってます!!」
顔を真っ赤にして、フーフー息切らし、肩を怒らせるシエルは言い切った。
いやいやいや。
生温い笑顔の大人達。
乙女•••よのう。
「まぁまぁまぁ。女性は性対象として、望まなくても見られる側になりがちですから、そりゃ、怖いし嫌悪感もありますよね。力では男に敵わない事が多いのだし、異性に対して夢だってあるでしょう。」
竜樹がフォローする。というか、これも重要で伝えたかった事だ。
「シエル、普通の女の子の、嫌だよっていう素直な意見が、凄く必要だったんだよ。シエルは女の子の代表だった。女性達の、嫌だよっていう訴えを、他には誰も、現実を鑑みて、言う事が出来なかったのだから。シエルは良い仕事をしてくれました。乙女の素直な気持ち、本当に大事だよ。きっとテレビを観ながら、女の子達は、そうよそうよ、って思っていたんじゃないかな。周りの人、彼氏や家族と話し合ったりも、してるかも。」
現実に合わせるばかりで、大人になると純粋な夢を忘れて妥協して、本当の気持ちを擦り切れさせてしまう事も多い。それを思い出させてくれるから、若者は眩しいのだ。
ぶつけ合い話し合って、少しずつ歩み寄り、分かり合っていければ。
急に褒められて、シエルはグッと塊を喉に飲み込んで。
「そ、そうよ。私は、普通の女の子の、代表よ!!」
少し誇らしげなのは。特別じゃない普通の女の子が、きっと1人1人皆、特別だから。
「少年にも夢がありますしね~。」
バーニー君が、会議で飲まれなかった、冷えたお茶を片付ける侍従さんに目礼をしつつ。
「自分は花街に行ったりする癖に、手垢のついてない純粋無垢な女の子と、手を繋いだりしてドキドキ恋をして、なんてね。夢みますよ。私は大分薄れてきてますけど。」
「みますよね!」
間髪入れず、チリ魔法院長が。
うん、チリは、お歳40代とお見受けするが、夢みる純情少年なのだな。まあ歳は関係ないっちゃない。誰だって夢をみていいさ。
王妃様が大変良い笑顔で、これらの会話を聞き、時折頷いている。
「自分は花街に行っておいて、女性には処女性を求めるところ、本当に男性とは勝手なものですわ~。まあ女性も、格好良い男性に、きゃあきゃあ言ったりしちゃいますけれどもね。」
扇を、開いてはパチン!と閉じる様は、内心のイラッとした気持ちを表している。バーニー君も、男も女も、そうだよねーとばかり、うんうん。チリは肩をキュ、と寄せて、すみませんの顔。
「マルグリット、私も勝手な男だが、どんな乙女より私の妻を愛しているよ?」
歌の下手な王様は、率直な男なのだ。
あら。あらあら。うふふ。
ペチン、と王様の手を軽く打つ王妃様は、何となく嬉しそうである。
男女は本当には分かり合えないとも言うが、そんな相手を尊重して、お互いに慈しんで愛し合えたら、幸せである。それが、夫婦で、末長く一緒にいられたら。
竜樹も優しく微笑み、王様と王妃様を見ていた。会議で一言も喋らなかったファヴール教皇も、元々の渋い顔立ちに似たような温かい微笑を浮かべている。
「お部屋の準備が出来ました。どうぞ皆様、こちらへ。」
「では参ろう。」
王様に誘われて断れる人はなかなかいない。参加者全員が、先導する侍従さんに王様王妃様、その後へぞろぞろと続いた。
中会議室のすぐ近く、お日様の光が程よく当たる、薄いカーテンの揺れる気持ち良い部屋に。丁度良い大きさの円卓が用意され、人数分の椅子が待っていた。
秋も進み。
お茶菓子に、栗と芋のスポンジケーキ、もうちょっとでモンブラン、が出て、先ずは皆、それをもぐもぐと食べ、お茶を飲み、一息ついた。
「皆、自由に話しておくれ。先程のように、気ままにな。その中で良い話も聞けようよ。」
王様の言葉を皮切りに、口を開いたのは、年の功からか、老ミニュイであった。
初めて食べるお菓子だ。美味しいな、とフォークを踊らせ、最後の一口を未練に残しておくと、隣のファヴール教皇に。
「ファヴール教皇もお元気そうで何よりですな。会議では、一言もお話しにならなかったが、教会の意向は、どうなさった?」
黒く長い、埃一つない清潔な上着を椅子に折って、ファヴール教皇はウマウマ菓子を食べていたが、話しかけられて、ん?と鋭い眼光をミニュイに向けた。フォークを持ったまま。
「貴方も相変わらずの巫山戯たお人ですな。裏のボスが王宮で会議に、なんて物語のようだ。教会は無言で良いのです。成人向け商品を推奨する訳にもいかないし、かといって、汚れた何だと性欲を排除して反対しても、何の良い事もない。自然な事ですからな。沈黙、黙認がこの場合、最上と判断したまでです。」
あー、だから目が合った時、ふるる、と顔を振ったんだな、と竜樹は納得した。話の分かる大人、ファヴール教皇。
「ファヴール教皇とミニュイさんは、お知り合いで?」
「ちょっとね。」
「認識阻害されていて顔は見た事ないが、ウチの若い司祭がヘマをやらかして裏の連中に連れていかれた時に会った事があって。」
くすくすくす。ミニュイは可笑しそうに。
「ファヴール教皇は熱いお方ですよ。裏町近くの教会の若い司教がやり過ぎて、ちょっと頭の悪い奴らを貶したりしたものだから、そういう連中が集まる酒場に連れていかれて酷く殴られてねえ。それを単身で助けにいらしたんだ。」
何と。
「教会と揉めて、対立したら大変な事だからと、だって悪だって神には敵わないのだからね。私が止めに行ったら、大立ち回りで乱暴な若造をぶっ飛ばしていましたよ。」
いやあ、驚いた!
ヘェ~、と皆、ファヴール教皇をまじまじと。ちょっと居心地悪そうな、武闘派の教皇なのだった。
う、うん。
咳払いをして、ファヴール教皇はお茶のカップに手を掛けて。
「それより、成人向けの商品を売るのも良いが、前に言っていた、子供達への正しい性教育を、是非とも竜樹殿には頑張って放送したり本を作ったり授業をしたり、して欲しいと思っている。」
正しい性教育。
「ああ、私も聞いているよ。教会の方で、それは大丈夫と総意が出たとみて良いのかな?」
ハルサ王様が確認をとる。
「私も、成人向けの、ある意味つくられて誇張された商品が出るならば。本来の、人と人とが愛し合って睦み合う、性行為について、それが齎す結果の妊娠についても、是非、間違った知識を与えられる前の子供達に、教えていけたらと思ったのだ。」
何しろ、子供作りは人にも国にも重要事項であるから。
「今度の事で、意見が纏まるでしょうね。何も無い状態では、破廉恥な!という分かってないボンクラどもが、私どもの中にもいた訳ですが、こうなっては正しい知識を教えない訳にはいかない。そう持っていきますし、なるでしょう。実際、知らないのは危険な事です。現実と理想を、寄り添わせねばなりません。」
黙って認めた事で、教会内の意見を纏める事に成功するだろうファヴール教皇がそう言うので。
「分かりました。番組作りなど、動き出す事にします。」
竜樹は丁寧に承った。
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