王子様を放送します

竹 美津

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本編

何でもない話を

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コクリコのお話は、少し広がって、もうちょっと続きます。
どうか良かったら、お付き合いください(^ν^)

ーーーーー⭐︎



「ヘェ~今日の午後、そんなお話し合いがあったのですねえ。」

エルフのロテュス王子が、竜樹の隣、夕飯を一緒に摂りながら、モグモグ頷く。ここ何日か、ロテュス王子はエルフ達の農作業チームのお仕事や、転移魔法陣のお仕事の視察、体育館癒しチームの様子見をしていて、寮には帰ってきていなかった。一緒にいて、同じご飯を食べて、課題を考えるのも、立派なエルフ王子の仕事である。

まあ、だから今日まで、ルージュの実は食べた事がなかったし、コクリコの話し合いの様子も知らなかった。
フォークで、ルージュの実のレアチーズタルトを一欠片切り取って掬い、目の前でしげしげと見る。
パクッと食べて、モグモグ。美味しいものは微笑みを呼ぶ。ロテュス王子は、ニッコリ、竜樹に向かって微笑んだ。

「これがルージュの実。エルフの森にはない植物です。でも美味しいですね。甘酸っぱくて、ちょっとねっとり、食べたな!って感じの甘味です。」
「美味しいでしょう。生のも少し用意してるからね。効果と注意点は、食べた後に言うからね。別に問題なく食べて美味しくて栄養のある果物だけど、食べてる最中に言う効果とかじゃないから。」
竜樹の言葉に、うむうむ、とタカラとミランが頷く。マルサが何となく面白そうな顔で、タルトを食べている。

「うん「わ~!!ニリヤ、ダメダメ!」むぐむぐ。あきゃくなるきゃふふ!」
言おうとして、竜樹にお口を塞がれてきゃあきゃあ笑うニリヤである。マナー違反、メ!

「あかくなるんだよね~。」
「ね~!」
現実に食べた翌日以降、その現象を味わい済みの寮の子達は、何だかニヤニヤ、生の実とタルトとを、モグモグしている。
寮の子達ばかりではなくて、地方と王都教会孤児院の子達にも、生の実とタルトを配ったので、今大体一緒に、ワイワイと食べている所だ。テレビ電話で、皆、普段夕食には付かないデザートを、特別に食べられて喜んでいる。勿論、明日以降、赤くなるよと伝えてある。
美味しいだけじゃない。食べ物のお勉強なのだ。

「竜樹様。今日は、本当に、うまくお話が出来て、ありがとうございます。でも、•••何で私の気持ちを、すぐに言うのでなくて、お父様に小さい頃の私の話を聞いたりしたのですか?」
コクリコは疑問を、ルージュの実にフォークを刺しつつ聞いた。何だか嘘のように上手くいったし、小さい頃、父ブレが娘の事を考えて悩んでいてくれた事も分かって、気持ちが解けたし、良かったのだが。

うん?とタルトをモグっとして•••竜樹とコクリコは、今日2度目のタルトだが、美味しいからまあ良い。竜樹は2席ほど離れた所のコクリコに、向き直った。

「人って、目的の事しか話さない、なんて事ないんだよね。それじゃあ、細かい、大事な事を見逃しちゃう。何でもないような言葉の積み重ねが会話で、積み重ねがあるから信頼感が生まれたり、親近感が湧いたりする。ーーーコクリコさんと、お父さんのブレさん、それにお兄さんのプルミエールさんは、一緒に暮らしてきたのにバラバラで、あまり話をしてこなかったでしょう。」

ああ。そうだ。その通りだった。

「だからね。コクリコさんの気持ちは聞いていたから、お父さんのブレさんの気持ちも、聞いてみたかったんだよ。気持ちを吐き出さずに、ただ受け入れるだけだなんて、お父さんもしっくり来ないでしょう。コクリコさんも、話を聞いてみて、良かったでしょう?」
「はい、良かったです。父が私の事で悩んでいたのを知ったら、何だかイライラが減った気がします。」

そうでしょう。
「コクリコさんも、自分の気持ちが言えて、何だか解放感があるでしょう?これがね、相手を傷つけるような事を、本当に思っている気持ちだとしても言っちゃうと、解放感の後に、罪悪感がふつふつと、湧いてくるんだよね~。」
人の悪口を噂話しちゃった後とかもそうだけど、その場は盛り上がって話してスッキリしても、後で、言わなきゃ良かったかなぁ、なんてモヤモヤしてしまう。

「完璧にスッキリ、なんてなかなかないし、モヤモヤしても言ってしまった方が良い事もあるけど。それでも、コクリコさん親子が納得いく話し合いができたらな、と思ったら、ああいう風に、回りくどいかもしれないけど、っていう話になりました。大人って結構、無駄に思える話をいっぱいするよ。」
パク、モグモグ。

「そうなのですねぇ。私、お喋りが嫌いな訳じゃないけれど、何となくあまり家族とは話す雰囲気じゃなくて•••でも今日は、赤ちゃんの名前の話とか、いっぱい喋れて、楽しかった。これからは、もっとお父様とお兄様とも、話をしたいです。」
そして兄プルミエールが、姪っ子を望んでいるらしい事も分かった。女の子の名前ばっかり言ってくるのだ。兄嫁ソヴェに、相変わらず半目で見られていた。

「一緒に、何でもない話をするって、仲良くするのに大事ですよね。」
ロテュス王子が、竜樹に、コテンと若葉の緑の髪をサラリ、預けながらしみじみと。
「同胞エルフ達とも話がしたいし、竜樹様ともお話がしたいです、私。」

「うんうん、ロテュス殿下とも話をしようしよう。明日は、ビッシュ親父さんと宿屋さん達と、アルジャンさんとも話をしなきゃなぁ。」

尚、食後に、ルージュの実でうんちが赤くなる話をしたら、ロテュス王子は目を見張って驚いてくれました。確かめねば!と意気込んでいた。



翌日、新聞売りの子供達と一緒に、ビッシュ親父と宿屋さんに会いに来た竜樹である。
アルジャンに会った日の翌日に、宿屋の時間休憩貸しを広めても良いか聞いて、そして夫婦などの子供を預ける事もでき、仲良くできる宿屋の利用についても話を出来たら、と思っていたのだが。
ビッシュ親父の近所の宿屋さんが、時間貸しを広めても良いか、損にならないか、王都の宿屋組合の組合長さんに相談したい、と申し出たので、それを待っていたのである。
宿屋さんにとってみれば、仲間の宿屋が助かるなら広めても良いのだけど。それが宿屋の皆に良いかも分からないし、宿屋になりたての頃から、今までの苦しい時にも親身になってくれた、組合長さんに相談してゴーを貰えたら、安心だから、との事である。

「おはようございます、竜樹様!ジェム達もおはよう。」
ひょこひょこと、ビッシュ親父さんが新聞販売所にやって来た。側に、腰が低そうな、たぶん宿屋の若い主人?も連れている。

そして、もう1人。
派手すぎない、パリッとした上品で上質な上着を着こなした、白髪にラベンダーのメッシュが入った、老紳士。
ニコリと控えめに口角を上げて、こちらをじっと、見詰めて、スッと背筋を伸ばして近づいてくる。

只者ではない。
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