353 / 576
本編
閑話 花の兄6
しおりを挟む
まず竜樹は、ニリヤの平民の方のじいちゃま、クレールじいちゃんと繋ぎを取った。
T字カミソリと、ケーキ屋さん•••アレルギー対応専用ケーキ屋と、普通のケーキ屋2つ•••について、打診をするためである。
T字カミソリは、現物のイメージをスマホで見せられるのが竜樹しかいない。ふむ、ふむ!とクレールじいちゃんは頷き、これなら自分でヒゲを剃る時にやりやすいだろう、女性も脱毛しやすかろうし、と大変興味を持った。
早速、刃物職人さんを呼んで、ああでもないこうでもない。
日本にあるような、ヘッドが滑らかに動いて薄い2枚刃3枚刃で、というヒゲ剃り専用のお高めのは、竜樹の誕生会までには無理だろう、という結論に達した。
ならば、固定されているが、形はシンプル、簡易にT字で、刃は研げば長く使えて切れ味良く、万が一にも肌が切れないよう、魔法で制限をかけた品ではどうか、となり。
サンプルを見るに、刃と一体型の銀に光るそれは、何とも渋くてデザインがカッコよくて、男心にも唆る品が出来そうだ。
完成品はお楽しみに!となり、王子達にもサンプルを見せるべく、満々と満足のクレールじいちゃんである。
ケーキ屋は、エルフのフランとナップを呼んで、まずはケーキ屋を、それぞれやってみないか、と打診する所から。
もし受けてくれなくても、誕生会のケーキは一緒に作ってくれませんか?貴方達のお菓子作りの腕と、アレルギーに対応できそうな植物材料を知っている、そのエルフの知識を見込んで!と頭を下げて頼んだ結果。
素朴で繊細な菓子を作る、フラン姉エルフは。
「私らが、本当にケーキ屋を?ジュヴールに痛めつけられてしょぼくれちまって、行き場を無くしてた私らを、助けてくれた、パシフィストの人やギフトの御方様の言う事なら、何でも助けてやりたい、って気持ちもあるけどさ。それに加えて、アレルギーで困ってる、悲しんでる子を喜ばせる事ができる、私らのお菓子で!それって、すごく、やる気が出るんだけど!」
と鼻息も荒く前のめり。
大胆な計算されたお菓子を作る、ナップ弟エルフは。
「ケーキ•••デザートの王様!すごく興味あります!姉が言うように、アレルギー対応の材料、私たちの知識で何とかなるかも、それも興味深いし!長らくエルフの子供達や皆の為に、森ではお菓子を作ってたんだ。喜ばれて嬉しかった。お店をやっていた訳じゃないけど、残りの半生、ケーキ屋、やってみたい!良いじゃないですか!その話、もっと聞かせてください!」
と大変な乗り気に。
アレルギーの材料は、少しでも混入するとまずいから、普通のケーキと作業場、店舗を分けたい。そして使った材料を一つ一つの商品に提示、添付したり。
全てのアレルギーに対応すると、材料が狭まり過ぎる事もあるし、食べたい味が食べられない、なんて事にもなるから、主にナッツとかだが、それを扱うのに事故が起きないようにするには、とクレールじいちゃんも交えて話し合った。
浄化の魔法はここでも使えるらしく、徹底して魔法チェックを入れながら、ナッツは作業場の専用の区切られた場所で扱い、材料もそこに置き。使った際には作業場全体の浄化を行い、売り場も分けて置く事に。
フランとナップは協力しつつも、フラン姉が米粉を扱うルリの店とも提携した、アレルギー対応の店、ケーキを。
弟ナップが、普通のケーキ屋をやる事にして。
店はあっという間にーーー作業場が必要であった為ーーー突貫で作られた。売り場はまだまだだが、作業場はバッチリ、クレールじいちゃんの実力と人柄をもって、仲の良い工務店が請け負ってくれ、丁寧だが急ぎの仕事をしてくれて、さて。
ここからが、試作である。
何せ、実物を食べた事があるのは、竜樹だけ。材料の調達は、クレールじいちゃんや、タカラが骨を折ってくれ、何とかなった。試作、試作、試作。
王道のスポンジデコレーションケーキに、チーズケーキ、レアにベイクド、合間にチョコレートケーキを•••健康ドリンクとして地方に流通していた、ドロドロの飲み物を発見して、エウレカ!と叫んだ何ヶ月か前の竜樹であったが、それを最近チョコレートとして流通させるのに成功したばかり。ケーキに応用するのも、間に合った、と感嘆しきりの竜樹に、ヘェ~!と珍しい食材を試すのに楽しそうなフランとナップ。
乳製品の代わりの植物は、エルフの森に生えていて、茎を切るとジュワァとそこから乳白色の液が出るのを使う。卵の代わりは、胡桃の、木になってる時のような青い丸い実が、白身の実。同じ木に、茶色い実があるが、それが黄身の実である。青い実が成熟すると茶色くなる訳ではなくて、最初から別々なのだと。
ナッツも、これならどうかなあ、とムカゴのような粒々で蔦に生える実を提示されて、試す事になった。香ばしくて、ピーナッツとアーモンドの中間みたいな味である。もし使えたら、嬉しい。
クラージュ商会で、葉っぱの鑑定をするお兄さん、リールが、効能とアレルギーの有無を調べる為にいてくれたのだが、何とかしてエルフの森で植物の鑑定をさせて下さい!と頼み込む事態に。
リールは、竜樹が渡した役にたつ植物図鑑、みたいなものを作るのが、夢になったのだそうで、とても熱心に頼み込んでいた。一般にはまだ売っていない商業用のカメラで写真も集めているそうだ。
悪い人が入ってくるとなー、と人を拒んでいたエルフの森なので、すぐには迎えてあげられないが、エルフ達と仲良くなって、信用できたら良いかもよ。と言われて、リールはエルフの救護所通いを始めた。そこでとある傷ついた、可憐な女性のエルフと出会い、恋をする事になるのだがーーそれは、また、別のお話。
アレルギーについては、パッチテストも行った。アレルギーの教会孤児院の子、小麦粉アレルギーのスリーズ、卵アレルギーのフィスキオ、乳製品アレルギーのヴィーノ、その他アレルギー持ちの子達である。
エルフの食材は優秀で、パッチテストをことごとく良い成績で終えて。使えるぞ!となった!
クレールじいちゃんと、身体の事なのでアルディ王子に付いている魔法療法師のルルーがいてくれたのだが、パッチテストに食いついた。
結局、フランのアレルギー対応のケーキ屋に隣接して、パッチテストと癒しーーーアレルギーにも癒しの魔法は効いたのだーーー魔法をしてくれる、アレルギー専門医療の小さな診療所も開設する事になった。
ケーキの試作をしながら、ご馳走ハンバーガーとフライドポテト2種類、茶碗蒸し、グラタンでも王宮の料理長と相談である。クレールじいちゃんは、このお誕生会のレシピ本を出そう、と帯同している。商機を逃さないじいちゃんである。
だがしかし、それをする事で、他の事業者、時には同業の商人達にでさえ、適する!と思えば仕事を振るじいちゃんなので、竜樹御用達でも、ずるい!とか言われず、皆に好意的に受け入れられているじいちゃんなのである。
料理長は、ケーキ、面白いところをエルフにとられちまったな、あはは!と笑っていたが、普段から竜樹には新しいレシピをもらっていたので、余裕の表情。
試作も、何回かハンバーグとソースとパンのバランス、フライドポテトのハーブの調合などで重ねたが、概ね美味しい、満足する出来になった。茶碗蒸しは、竜樹直々に伝授した。かまぼこは、やはり、おさかなのおにく、として地方に存在していたので取り寄せて。グラタンはマカロニ作りにちょっと手間がかかったが、ちょうどパスタも作っちまえ!とやりきったし、ほくほくとろーり美味しく出来た。
他に、この国の料理、お野菜を小さく切って入れた澄んだ味のスープや、豪快なお肉のロースト、カシオン風のサラダ2種類なども良い具合である。
ろうそくも、細い小さいものと、こちらの数字を模したものが出来上がってきた。ケーキのデザインと合わせて、調整、というか幾つかデザインを足して作った。フランの店にも置きたいからである。ろうそく職人が、誕生会のお菓子に使ってもらえるなんて、そんな大事なお菓子に!と大変感激したそうである。
子供達は、飾り付けの準備も余念がない。竜樹に頼んでコウキ達と連絡を密に取り合い、準備の進捗を話す中で、飾り付けの事を知ったからである。
風船はなかったから、大きな紙にみんなで、お誕生月、おめでとう!と一言ずつ寄せ書きしたり。お花やフラッグを紙で作ったりして、楽しんでいる。
生花も飾ろう、と決めて、エルフの花屋さんに発注をした。
エルフの花屋さんは、え、竜樹様のお誕生会!?とびっくりし、そして素晴らしい花々を揃えて、良い仕事をしたが。
(テレビでも放送されるんだもんね。これは、お花を竜樹様にあげたい人が、増えるんじゃない?)
と商機を感じ、エルフの生花育成農家部隊に、急遽、大量追加発注をかけた。
それが間に合わないほどになるとは、この時はまだ、エルフも竜樹も、誰も知らない。
コウキやサチ達も、テストやレポートをせっせとこなしながらも、材料を買い集め、飾り付けの小物の用意を文さんと千沙ちゃんがし、着々と準備が整う。ケーキはお店のだが、ちゃんと美味しい地元のケーキ屋に頼んで、竜樹兄33歳おめでとう、と書いてもらうつもりである。
柊尚とぽん太君は、家族に近くお誕生会に招待されて、涙ぐむほど喜んだ。主にぽん太君はご馳走に感激なのだが。
そして、そして!
さあ、お部屋を飾り付けよう、誕生会当日である!
ーーーーー⭐︎
招待する人に、アルディ王子を足しました!
閑話 花の兄4にちょこっと。
アルディ、忘れてごめんよ。
35
お気に入りに追加
173
あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました
言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。
貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。
「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」
それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。
だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。
それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。
それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。
気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。
「これは……一体どういうことだ?」
「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」
いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。
――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜
望月かれん
ファンタジー
中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。
戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。
暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。
疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。
なんと、ぬいぐるみが喋っていた。
しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。
天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。
※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

最強陛下の育児論〜5歳児の娘に振り回されているが、でもやっぱり可愛くて許してしまうのはどうしたらいいものか〜
楠ノ木雫
ファンタジー
孤児院で暮らしていた女の子リンティの元へ、とある男達が訪ねてきた。その者達が所持していたものには、この国の紋章が刻まれていた。そう、この国の皇城から来た者達だった。その者達は、この国の皇女を捜しに来ていたようで、リンティを見た瞬間間違いなく彼女が皇女だと言い出した。
言い合いになってしまったが、リンティは皇城に行く事に。だが、この国の皇帝の二つ名が〝冷血の最強皇帝〟。そして、タイミング悪く首を撥ねている瞬間を目の当たりに。
こんな無慈悲の皇帝が自分の父。そんな事実が信じられないリンティ。だけど、あれ? 皇帝が、ぬいぐるみをプレゼントしてくれた?
リンティがこの城に来てから、どんどん皇帝がおかしくなっていく姿を目の当たりにする周りの者達も困惑。一体どうなっているのだろうか?
※他の投稿サイトにも掲載しています。

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる