王子様を放送します

竹 美津

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本編

閑話 花の兄1

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お話の途中で閑話、すみませぬ。
王子達成分が恋しくなりました。

ーーーーーーー⭐︎



「あ!この世界でも、梅が咲くんだなぁ!」

いつものオランネージュ、ネクター、ニリヤの3王子とお助け侍従のタカラ、護衛のマルサ達、カメラのミランを連れて、今日は庭園に行った所である。

広場はあっても、緑地公園はないが、大きなお屋敷に造られた庭園はある。竜樹は、そのお屋敷の、広い広い自然豊かな庭園を、通りがかりに見て。王都の、大きな緑少ない街並みも、下町らしくて良いと思ってはいたが、人工でない自然の美しさ清しさに、田舎者の血が騒いで気に入った。
王宮側の森、遊歩道はあるけれど、それは街の中心から外れているし、森と人の入りやすい庭園は違うので、竜樹の好きが、どうにも気持ち寄せられたのである。
一度招待してもらい、自然を生かして、かつ整ってもいるその塩梅が益々気に入って、是非に一般の人の癒しに、公開してくれませんか?と、その持ち主、グレーヌ男爵に頼んだ。また気にせず、ちょくちょく来たかったのだ。

庭園内で、小さなカフェをやっても良いし、花が綺麗な時はライトアップしても良い。お花見なんかも良いし、もしならそれに合わせてお弁当なんかも作れる。恋人達がそぞろ歩いたり、植物や樹木の吐く新鮮な空気を(マイナスイオンの説明は難しかった)取り入れる事は、気持ちも身体も疲れた人にとても休まる、良い効果がある。そして、都市の中に、緑地があるのは、住んでいる人の心にも影響を及ぼし、豊かになり、治安にも良い効果が見込めるし、って色々あるけど何しろ気持ちいい。維持費にほんの少し、入場料の銅貨をもらっても良い。むしろその方が、イタズラはされなくなるかな?年間パスポート希望。そうしたら、気に入った人が、健康のためにも朝晩にお散歩なんてできるね。
文官達の休憩時間のリフレッシュ用に、王宮から指定してもらっても良いかも。そうしたら王宮から補助金が出ないかな。
ご協力願えませんか?

そんな話をすれば、庭園自慢、植物好きで、暇があれば庭師のような事をやっている趣味人のオジジ、グレーヌ男爵は、喜んで!植物好きな人、来てくれるかな?と、うふうふ公開してくれる事になった。
勿論グレーヌ男爵にも、少し、お弁当やカフェ、入場料や補助金などの利益があるし、竜樹と縁ができたという良い事もある。が、男爵は自分の事業で充分富んでいたし、竜樹と接するには欲が少なくいた方が、神様にも気持ちよくお参りできそうだし。利益は維持費に当ててプラスちょい、で良く、また純粋に庭園を楽しんでもらえる事が嬉しかった。
握手、の2人である。

その準備と打ち合わせで来た竜樹達は今日、庭園の全てを一度に知ることは出来ないほどのその一部を、帰りに寄って遊んで。
そこに、梅がふっくら、蕾をつけていたのである。

「うめ、ってゆうの?」
「そうだよ。寒い時期に一番に咲くから、俺のいた国、日本では《花の兄》って呼ばれていたね。」
「おはなの、あにうえ!」
「お花にも兄弟あるの?」
「弟とか妹とかいるの?」
花の弟があります。弟は《さくら》っていうんだよ。

竜樹は目を細めて、まだ匂いがしない、梅の蕾を含む鮮烈な空気を、すうっと吸った。

「によい、する?」
くんくん、とニリヤが鼻を、ひくつかせる。

「まだしないねぇ。咲いた梅は初春の匂いがする、素敵な花でね。俺、誕生日がこの月な事もあるかもだけど、すごく、この季節、この花、好きなんだ。寒いんだけど、本格的に春になるために、うずうずと飛ぶ準備をしているようでしょう。」

「ヘェ~。竜樹様は、芽孕み月がお誕生月なんですね!初めて知りました!あっ、これ、お服を誂えなくては!」
ミランが、カメラを揺らさないように、でもびっくりしながら、つい、といった風に声を出した。
「服を?何故?お披露目かなんかあるの?誕生日だと?」
竜樹が顔いっぱいにはてなで聞く。

「おたんじょうづき、おふくをあたらしく、くれるのよ。ぼくも、まえに、かあさまととうさまに、もらった!」
ニリヤがニコニコして。
「ししょうのふく、いつもおんなし、じみだから、いっこつくったらいいとおもうー!」
竜樹のマントをふりふり掴んで。
「素敵なやつ!」
ネクターも、わぁいと喜ぶ。
「みんな、少し良いやつ作るんだよ。普段着れるけど、ちょっとお気に入りみたいなやつ。」
ねー!
顔を見合わせて、頷き合う3王子である。
タカラが、焦って「是非とも良き服を作るよう、すぐに報告しなくては!」と拳を握っている。

「竜樹の世界では、誕生月は何かするのか?」
ポンポン、と首の後ろを叩きながら、マルサがサクサク庭園のなだらかに造られた道、竜樹達の後を歩く。

「誕生月というか、誕生日だね。その人が、喜んでくれそうなプレゼントを贈ったり、ご馳走や、ケーキを皆で食べたりするね。歌うたったり。」

ピキュン☆ と3王子が、良い事考えた!って顔をした。
ムフン、とお口に手を当てて、合わせた顔を、ね?ね?ふくふく、くふふ!とお互いに。
それだけで、竜樹は3人が何を考えたのか分かった。竜樹だけじゃなく、護衛のマルサにも、ルディにも、タカラにも、カメラのミランにも分かったから、大人達はにんやりニコニコした。
そうして、企みを抱えた3王子と、それを見守る面々は、いい気持ちの庭園を歩いて街に出て、ゆっくりと一角馬車に揺られて、寮に帰った。



撮影隊と新聞売り寮に帰ると、王子達は早速ジェム達に、ひそひそくすす、とお話を始めた。竜樹もいる場所でだが、そして聞こえているが、ひそひそしているので聞こえないと思っているらしい。竜樹は、すーん、と聞こえないフリをした。顔がニヤける。

(ししょう、おたんじょうづきなんだって!)
(竜樹のおくにでは、プレゼント贈ったり、ごちそうたべたり、するんだって!)
(歌も歌うって!私たちで、お誕生月のお祝い、しない?)
ふーん、とジェムは、ふむふむ聞くと。
(良いぜ!やろう。せわになってるからな、竜樹とーさんには!)
(せわになってる!)
(よろこんでくれるかな?)
(ごちそう、たべたぁい!)
(プレゼント、なにする~?)
(歌、何歌うのかな~。)


ワイワイ、ひそひそ。くすくす、ふむふむ。
段々と会議は熱を帯び、テレビ電話も使って地方教会孤児院まで話が広がった。

ああ~、そういえば、俺が貰うばっかりじゃなくて、教会孤児院の子達にも誕生月の服を贈ってあげなきゃなあ。知らなかったから、これからになるけど、切ない思いをさせたり、しちゃったんだろうか。まずは誕生日聞かないとか。
竜樹は、次第に大きくなってきた子供達の声を、聞くともなく聞かないでもなく、中途半端に流しつつ、ちょっとしょげた。
デザイナーのフィルに頼んで、毎年4季節ごとに合った布地で、男の子はシンプルでカッコいいシャツにズボンを、イニシャルの頭文字を刺繍したりして。
女の子は可愛い、やっぱりシンプルなワンピースを、腰の後ろなどにリボンをつけたり、そこにイニシャルを入れたりして。
シンプルが良いな、と思うのは、上着と合わせやすいし着やすいからだが、少し明るい、浮き立つ色にしてもらおうかな、などと竜樹は考え、タカラに言おうと。

「プレゼントなにがい?」
「ミラン、プレゼントって、大人は何欲しいの?」
ミランはニッコリ笑って、ふーむと考え撮影しつつ。
「何が欲しいですかねえ。人によりますからねえ。また、竜樹様は、あまり物を欲しがらない方ですからねえ。」

そうなんだよなあ、ひゅ~ん、と鼻を鳴らす子供達である。
「お花?」
「神様もくれるじゃん。それに、押し花になっちゃいそうじゃん。」
う~ん、そうか。
「お菓子!」
「お菓子は竜樹とーさが作ったやつが、やっぱり珍しくて美味しいからさぁ。」
う~ん、なるほど。
「おふく•••は、タカラがあげるかぁ。」
「私からというより、国王様からですかね。この国から、よく来ていただいたと、お祝いですね。」
うう~んむむ。

「ししょうよろこぶの、ぼくたちがおいしかったり、たのしかったり、したときだよ。」
「そうなんだけどさぁ。それじゃあ、なんか、お祝いっぽくないじゃん!」
うむうむ。ねー困った。

ミランが、ちょっと助け船を出す。
「喜ぶもの、もそうですけど、何か困った事とかおっしゃってませんでしたか。そういうの、何とかする便利なものがあったら、喜ばれますよ?」

あ! とニリヤがお目目をぱっちりする。

「ししょうね、あさ、おひげを
しょりしょりするとき、ひげそりのかみそり、てぃーじじゃないからやりにくい、って。」
「てぃーじ?」
「T字、ですかね!」
こんな形、とミランが空中にTを描く。
そう、この世界のカミソリは、ナイフのように一本になっていて、顎などを剃る時も、ゾリゾリ、と気をつけて添わせて剃らないといけないのだ。理容師の本職ならそういう剃刀だし、竜樹は不器用ではないが、そしてそれほどヒゲは濃くなくて毎日剃りもしないが、気にしないで剃れる便利なT字が恋しかった。でも、作ってもらう程でもないか•••と後回しにしていたのである。

「ニリヤ王子様のじいちゃんに頼んだら、できねえ?」
「できるかも!じいちゃま、なんでもできる!」
「ニリヤのお爺様にたのむの、いいね!」
ネクターが、ムフン、と笑う。
「お金は、私たちが普段稼いでるのから、銅貨1枚ずつくらい出したら、人数多いからできないかなぁ?」
オランネージュが皮算用。
「いいね!いいね!」
「ぶたさんちょきんばこ、使お!」
「みんなで出しあって!」

「「「そうしよう、そうしよう!」」」


「ねえねえ、ししょう。すまほ、コウキにいちゃまと、サチねえさまと、みんなでおはなし、したい!」
「秘密でお話が、あるの!」
「竜樹はお耳にフタだよ!」
「コウキにいちゃんなら、たんじょ、知ってそうだ、えーと、頼りになるからな!」
「ウンウン、そう!」
「では私が、竜樹様にお耳を塞ぐ魔法をかけましょうか。」
タカラがクスンと笑って、子供達を応援する。

うん、うん。わかった。
誕生日会をどんなのにするか、相談したいんだね?
竜樹は、ふふふ、と笑いを噛み殺しつつ、大きな画面で、スマホのビデオ通話を繋げてやった。
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