347 / 560
本編
償うには大きすぎる
しおりを挟む「ジャンドルとコリエの話を聞いて、私は応援したいな、と思ったから、コリエの父親、シャルルー子爵バヴァールの事を調べたわ。やはり、罪人の娘である、という所、詰めておかなければ、あちこちから、突っ込まれますからね。」
うん、それはそうだろう。しかしそれでも、罪人の関係者コリエを、良く王妃様が応援なさろうと思ったと言える。マルグリット王妃は、罪や穢れに関しても、恐らく自由で大らかな考えなのだろう。
またそれには、ここにいる、ギフトの御方様、竜樹が大きく影響しているに違いない。
慈悲深く、良き人。エルフの協力さえ、取り付ける事ができた、人の懐に入れる人物。神の覚えも目出度い。
そんな人に、ニコニコ、応援しない?と言われたら、きっとしちゃうな。私でもしちゃうかもしれない、とフィアーバは思って、目をパチパチする。
何となく、今も、背中を丸くして、ニリヤ王子を撫でたりしながら茶を啜る、ギフトの御方様、竜樹を見るたびに、好意がふっと湧き出るようなのだ。
王妃も無論、王国の仕事に関わるならば、キチンとされるだろうが。
センプリチェと目配せし合って、ウンウン、頷く。他の皆もそれぞれ頷いている。
「脱税、という事で、証拠としてとって置かれた書類も見たけれど、あまりにも、あからさまなの。バヴァールは子爵当主をしながら、税務官としても勤めていたから、そう、プロよね、それってちょっとおかしいのよ。もっと巧妙に、いくらでも誤魔化しができるはず。魔法も使って証拠書類をもう一度見たら、改竄されている事が分かったわ。税務官は個人別に、魔法痕跡を書類に残す事が決められて、職務に就いている間は自動で書類に痕が付くから、誰が改竄したか分かる。その当時、バヴァールの部下だった下級税務官クリム、である事が分かったわ。」
マルグリット王妃は、つつーくるくる、とお茶にミルクを入れてかき混ぜ、ふー、とため息を吐いた。
「それって、当時分からなかったの?って、誰もが思うお粗末さでしょう。こんなに時間が経って分かるほどですもの。でもね、その当時、税務長官だったサパン公爵家の先代、ナルが、バヴァールを鋭く激烈に批判し、税務官、自分たちの身綺麗さを証明すべきだ、と自分の事業、領地の書類から検めさせて、比べさせ、厳しく罰させたの。ちょっと派手すぎないか、という程のアピールだったそうよ。怪しいと思うでしょう。」
つ、とかき混ぜていたスプーンを、ふり、と指揮するように持ち上げて、下ろす。竜樹が伝えた、市松模様と渦巻き、型抜きでお花の形でキャラメル味と互い違いに組み替えた、3種類のアイスボックスクッキーを、一つ、摘む。
「皆も、お菓子でも食べて、お茶でもしながら話しましょう。そうでもないと、何とも言えない嫌な気持ちになる、ちょっと気が進まない話なの。さ、王子達、お菓子、きれいよ。良くお話聞いて我慢できていたわねぇ。大丈夫よ、いただきなさい。」
休み休み話すのは、本当に気が進まないのであろう。
「はーい、まるぐりっとさま!おいしいおかし、いただきます!」
「マルグリット様、このお菓子、初めてですね。」
「母上、作り方、面白いって聞きました!」
「竜樹様がこの模様、教えて下さったのよ。部品にして、組み立て、塊に作って、切って焼くんですって!」
「ヘェ~つくりたぁい!」
「教えてよ竜樹!」
「私も作りたい!」
「良いよ~。今度、皆で作ろうね。さあ、食べて食べて。皆さんも。」
勧められて、ほんときれいね、などと言いつつ、サクサクお菓子を摘む。糖分を入れると、まったりとした快い甘さに身体がふんわり弛緩して。お茶を飲みながら、秘密の話をしている事もあって、親密な空気が部屋に流れた。
「サパン公爵家のナルはね。自分の書類を検めさせたけれど、結局それは偽りの書類で、本当はバヴァールに、自分が得た脱税の分の罪を被せたようなの。ただ自分が脱税するだけじゃなく、犠牲者を作ってそちらに目を向けさせ、税務部全体の収入も変わらなくさせーーー。これ、下級税務官クリムの自白もあったけれど、それだけで全部分かったわけじゃないのよ。」
「サパン公爵ナルが、自白したの?」
オランネージュが、ちゅ、とお茶に口をつけつつ。
「ある意味そうね。ナルはね、これだけじゃなく、そんな風に沢山の家や人を陥れてきたの。得がしたいから、もあるけれど、他人を貶める、それが生き甲斐、楽しみだったのね。」
マルグリット王妃は、うぇー嫌だな~、って顔をした。
「それ、わるいひと!」
「ダメじゃない!」
「極悪人だ!」
むむ、と王子達はお口をへの字にさせる。
「そうよ、極悪人よ。だって、それで人生の道を折った人が、沢山いるんですもの。私たちも気付かなければいけなかったーーーシャルルー子爵バヴァールにも、コリエにも、ジャンドルにも、申し訳ないわ。」
目を伏せた王妃に、6人は声も、出ない。
「ナルは、それを、自分の日記に克明に書いてきた。得意気に、自慢気に、出し抜いて誰かを苦しめて甘い汁を吸った記録を、楽しみに。誰もそれを知らなかったのだけど、ね。神様はやはり見てらっしゃる。」
「神様?」
「ナルはね。」
コクン、とニリヤがお茶を飲む音が、大きく響く。
「頭が神様の国に行ったのよ。ボケたの。」
「それもありなん、っていうほどの歳をとってからじゃない。ここ1年位、まだ60代前半よ。早いわ。そして、サパン公爵次代当主のヴァーチュによれば、病状の進行も早いのですって。毎日、どんな風に誰を陥れたか、にんにんと楽しげに、話をするのですってよ。サパン公爵家のヴァーチュは、良心的な人物だから、本当なのか悩んで、調べさせたそう。そうして日記も見つけた。非常に苦しんだそうよ。だけど公には出来なかった。私たちが調べてヴァーチュに相談をした事で、彼は私と国王に、苦しみを打ち明けたわ。陥れた人が、多くて、大きすぎるの。影響がありすぎる。罪を償う、簡単に言うけれど、今それをすれば、サパン公爵家は潰れるわ。そして、その領地も、そこに住む人たちも、きっと影響を受けずにはいられない。サパン公爵家の領地って、大きいの。だからヴァーチュは、簡単に償えない。私たちも、罪を簡単には詳らかに出来ないの。」
あー、とオランネージュが、何ともし難い声を漏らした。すごく面倒くさそう、と。
「そして、先代のナルは、誰も罪を顕に出来なかったけれど、非情な人物として知られていたから、敵も多かった。次代のヴァーチュはそれを躱し、敵を懐柔してその人柄で味方にし、味方に出来なくても敵視を普通の視線に、と頑張ってきた。やっと当代ヴァーチュの時代になって、周りとも和やかにやっていけるか、という所でボケたのよ。罪は罪、という事もできるわ。でも、それはとても痛い、腐った手足を捥ぐような事ね。どこまで?どうやって?慎重にするべきよ。でも、だからといって、のんびりこのままではいられない。」
マルグリット王妃は、しん、と静かな目をして皆を見据えた。
「それで、この間、サパン公爵家のヴァーチュ様が、私とコリエに、会って下さったのですよね。」
国王様も、王妃様も、神様に繋がる竜樹様もいて、言い訳出来ない、でも部外者のいない秘密の場所で。
申し訳ない、謝罪がしたい、と地に頭をつけて。
ジャンドルが、やはり静かに、口を開いた。
コリエがジャンドルの腕に手を添えて、キュ、と噛み締めた唇で少し、震える。ジャンドルはコリエの手を、そっと摩って、握った。
「ええ。ヴァーチュは取り乱していたわ。若い頃から、父のせいで、人に厳しく当たられてきた彼だし、そうしてやっとの事で愛する妻と結婚して、幸せになった彼だから、それを失う怖さは分かる。怯えながらも、妻のエグランティエに、もしもの時は離縁をしよう、と言い置いて来たのだそうよ。妻は、一緒に一生どのようにでも償います、と言ったそうだけれどね。」
マルグリット王妃の手が、隣のオランネージュの頭を撫で撫でする。癒しが欲しい。
「この夫婦も良い夫婦でね。ヴァーチュが、子供が父のような冷血漢だったら困るから、その血が自分にも流れているから、結婚はしない、と言った時。もしそうなったら、後継を指名して、子供を殺して私達も死にましょう、と告げて、嫁いできた覚悟のある嫁なのよ。産まれた子供はすごく可愛い、良い子よ。」
それはとても、悩ましい。けれど、実際、花街にまで落とされたコリエは、罪を被せられたバヴァールは、どうなる。
34
お気に入りに追加
169
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】天候を操れる程度の能力を持った俺は、国を富ませる事が最優先!~何もかもゼロスタートでも挫けずめげず富ませます!!~
うどん五段
ファンタジー
幼い頃から心臓の悪かった中村キョウスケは、親から「無駄金使い」とののしられながら病院生活を送っていた。
それでも勉強は好きで本を読んだりニュースを見たりするのも好きな勤勉家でもあった。
唯一の弟とはそれなりに仲が良く、色々な遊びを教えてくれた。
だが、二十歳までしか生きられないだろうと言われていたキョウスケだったが、医療の進歩で三十歳まで生きることができ、家での自宅治療に切り替わったその日――階段から降りようとして両親に突き飛ばされ命を落とす。
――死んだ日は、土砂降りの様な雨だった。
しかし、次に目が覚めた時は褐色の肌に銀の髪をした5歳くらいの少年で。
自分が転生したことを悟り、砂漠の国シュノベザール王国の第一王子だと言う事を知る。
飢えに苦しむ国民、天候に恵まれないシュノベザール王国は常に飢えていた。だが幸いな事に第一王子として生まれたシュライは【天候を操る程度の能力】を持っていた。
その力は凄まじく、シュライは自国を豊かにするために、時に鬼となる事も持さない覚悟で成人と認められる15歳になると、頼れる弟と宰相と共に内政を始める事となる――。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載中です。
無断朗読・無断使用・無断転載禁止。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる