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本編
償うには大きすぎる
しおりを挟む「ジャンドルとコリエの話を聞いて、私は応援したいな、と思ったから、コリエの父親、シャルルー子爵バヴァールの事を調べたわ。やはり、罪人の娘である、という所、詰めておかなければ、あちこちから、突っ込まれますからね。」
うん、それはそうだろう。しかしそれでも、罪人の関係者コリエを、良く王妃様が応援なさろうと思ったと言える。マルグリット王妃は、罪や穢れに関しても、恐らく自由で大らかな考えなのだろう。
またそれには、ここにいる、ギフトの御方様、竜樹が大きく影響しているに違いない。
慈悲深く、良き人。エルフの協力さえ、取り付ける事ができた、人の懐に入れる人物。神の覚えも目出度い。
そんな人に、ニコニコ、応援しない?と言われたら、きっとしちゃうな。私でもしちゃうかもしれない、とフィアーバは思って、目をパチパチする。
何となく、今も、背中を丸くして、ニリヤ王子を撫でたりしながら茶を啜る、ギフトの御方様、竜樹を見るたびに、好意がふっと湧き出るようなのだ。
王妃も無論、王国の仕事に関わるならば、キチンとされるだろうが。
センプリチェと目配せし合って、ウンウン、頷く。他の皆もそれぞれ頷いている。
「脱税、という事で、証拠としてとって置かれた書類も見たけれど、あまりにも、あからさまなの。バヴァールは子爵当主をしながら、税務官としても勤めていたから、そう、プロよね、それってちょっとおかしいのよ。もっと巧妙に、いくらでも誤魔化しができるはず。魔法も使って証拠書類をもう一度見たら、改竄されている事が分かったわ。税務官は個人別に、魔法痕跡を書類に残す事が決められて、職務に就いている間は自動で書類に痕が付くから、誰が改竄したか分かる。その当時、バヴァールの部下だった下級税務官クリム、である事が分かったわ。」
マルグリット王妃は、つつーくるくる、とお茶にミルクを入れてかき混ぜ、ふー、とため息を吐いた。
「それって、当時分からなかったの?って、誰もが思うお粗末さでしょう。こんなに時間が経って分かるほどですもの。でもね、その当時、税務長官だったサパン公爵家の先代、ナルが、バヴァールを鋭く激烈に批判し、税務官、自分たちの身綺麗さを証明すべきだ、と自分の事業、領地の書類から検めさせて、比べさせ、厳しく罰させたの。ちょっと派手すぎないか、という程のアピールだったそうよ。怪しいと思うでしょう。」
つ、とかき混ぜていたスプーンを、ふり、と指揮するように持ち上げて、下ろす。竜樹が伝えた、市松模様と渦巻き、型抜きでお花の形でキャラメル味と互い違いに組み替えた、3種類のアイスボックスクッキーを、一つ、摘む。
「皆も、お菓子でも食べて、お茶でもしながら話しましょう。そうでもないと、何とも言えない嫌な気持ちになる、ちょっと気が進まない話なの。さ、王子達、お菓子、きれいよ。良くお話聞いて我慢できていたわねぇ。大丈夫よ、いただきなさい。」
休み休み話すのは、本当に気が進まないのであろう。
「はーい、まるぐりっとさま!おいしいおかし、いただきます!」
「マルグリット様、このお菓子、初めてですね。」
「母上、作り方、面白いって聞きました!」
「竜樹様がこの模様、教えて下さったのよ。部品にして、組み立て、塊に作って、切って焼くんですって!」
「ヘェ~つくりたぁい!」
「教えてよ竜樹!」
「私も作りたい!」
「良いよ~。今度、皆で作ろうね。さあ、食べて食べて。皆さんも。」
勧められて、ほんときれいね、などと言いつつ、サクサクお菓子を摘む。糖分を入れると、まったりとした快い甘さに身体がふんわり弛緩して。お茶を飲みながら、秘密の話をしている事もあって、親密な空気が部屋に流れた。
「サパン公爵家のナルはね。自分の書類を検めさせたけれど、結局それは偽りの書類で、本当はバヴァールに、自分が得た脱税の分の罪を被せたようなの。ただ自分が脱税するだけじゃなく、犠牲者を作ってそちらに目を向けさせ、税務部全体の収入も変わらなくさせーーー。これ、下級税務官クリムの自白もあったけれど、それだけで全部分かったわけじゃないのよ。」
「サパン公爵ナルが、自白したの?」
オランネージュが、ちゅ、とお茶に口をつけつつ。
「ある意味そうね。ナルはね、これだけじゃなく、そんな風に沢山の家や人を陥れてきたの。得がしたいから、もあるけれど、他人を貶める、それが生き甲斐、楽しみだったのね。」
マルグリット王妃は、うぇー嫌だな~、って顔をした。
「それ、わるいひと!」
「ダメじゃない!」
「極悪人だ!」
むむ、と王子達はお口をへの字にさせる。
「そうよ、極悪人よ。だって、それで人生の道を折った人が、沢山いるんですもの。私たちも気付かなければいけなかったーーーシャルルー子爵バヴァールにも、コリエにも、ジャンドルにも、申し訳ないわ。」
目を伏せた王妃に、6人は声も、出ない。
「ナルは、それを、自分の日記に克明に書いてきた。得意気に、自慢気に、出し抜いて誰かを苦しめて甘い汁を吸った記録を、楽しみに。誰もそれを知らなかったのだけど、ね。神様はやはり見てらっしゃる。」
「神様?」
「ナルはね。」
コクン、とニリヤがお茶を飲む音が、大きく響く。
「頭が神様の国に行ったのよ。ボケたの。」
「それもありなん、っていうほどの歳をとってからじゃない。ここ1年位、まだ60代前半よ。早いわ。そして、サパン公爵次代当主のヴァーチュによれば、病状の進行も早いのですって。毎日、どんな風に誰を陥れたか、にんにんと楽しげに、話をするのですってよ。サパン公爵家のヴァーチュは、良心的な人物だから、本当なのか悩んで、調べさせたそう。そうして日記も見つけた。非常に苦しんだそうよ。だけど公には出来なかった。私たちが調べてヴァーチュに相談をした事で、彼は私と国王に、苦しみを打ち明けたわ。陥れた人が、多くて、大きすぎるの。影響がありすぎる。罪を償う、簡単に言うけれど、今それをすれば、サパン公爵家は潰れるわ。そして、その領地も、そこに住む人たちも、きっと影響を受けずにはいられない。サパン公爵家の領地って、大きいの。だからヴァーチュは、簡単に償えない。私たちも、罪を簡単には詳らかに出来ないの。」
あー、とオランネージュが、何ともし難い声を漏らした。すごく面倒くさそう、と。
「そして、先代のナルは、誰も罪を顕に出来なかったけれど、非情な人物として知られていたから、敵も多かった。次代のヴァーチュはそれを躱し、敵を懐柔してその人柄で味方にし、味方に出来なくても敵視を普通の視線に、と頑張ってきた。やっと当代ヴァーチュの時代になって、周りとも和やかにやっていけるか、という所でボケたのよ。罪は罪、という事もできるわ。でも、それはとても痛い、腐った手足を捥ぐような事ね。どこまで?どうやって?慎重にするべきよ。でも、だからといって、のんびりこのままではいられない。」
マルグリット王妃は、しん、と静かな目をして皆を見据えた。
「それで、この間、サパン公爵家のヴァーチュ様が、私とコリエに、会って下さったのですよね。」
国王様も、王妃様も、神様に繋がる竜樹様もいて、言い訳出来ない、でも部外者のいない秘密の場所で。
申し訳ない、謝罪がしたい、と地に頭をつけて。
ジャンドルが、やはり静かに、口を開いた。
コリエがジャンドルの腕に手を添えて、キュ、と噛み締めた唇で少し、震える。ジャンドルはコリエの手を、そっと摩って、握った。
「ええ。ヴァーチュは取り乱していたわ。若い頃から、父のせいで、人に厳しく当たられてきた彼だし、そうしてやっとの事で愛する妻と結婚して、幸せになった彼だから、それを失う怖さは分かる。怯えながらも、妻のエグランティエに、もしもの時は離縁をしよう、と言い置いて来たのだそうよ。妻は、一緒に一生どのようにでも償います、と言ったそうだけれどね。」
マルグリット王妃の手が、隣のオランネージュの頭を撫で撫でする。癒しが欲しい。
「この夫婦も良い夫婦でね。ヴァーチュが、子供が父のような冷血漢だったら困るから、その血が自分にも流れているから、結婚はしない、と言った時。もしそうなったら、後継を指名して、子供を殺して私達も死にましょう、と告げて、嫁いできた覚悟のある嫁なのよ。産まれた子供はすごく可愛い、良い子よ。」
それはとても、悩ましい。けれど、実際、花街にまで落とされたコリエは、罪を被せられたバヴァールは、どうなる。
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