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本編
借金に引き裂かれしロマンス
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ジャンドルはその時、体育館にいた。
何度目かの、《縫いぐるみ手仕事でゆっくりした時間を過ごそう》の講師で、エルフ達の所に来ていたのである。
「ジャンドル先生、ここはどうやるの?」
「ああ、そこは、とんがってて窮屈でしょ?この目打ちで、ちょいちょい、って引っ掛けてキチンと裏返してね~。」
「は~い!道具があるとないとで、やっぱり違うのだなぁ。」
「うんうん、針で間に合わせる事もできるけど、あるとね、やっぱりちょっと良く、すんなりできるからね。気持ちよく作るのに、道具はちゃんとしたものがあると、良いよ。」
結構器用なエルフ達なので、いや、中には途轍もなく不器用な者もいたが、それも味。上手く出来る人は、羽毛布団縫いもやったり仕事に繋げても良いし、ただ楽しみで、癒しでやるのでも良い。あらゆる年齢の、性別の、あらゆるレベルの者が、分け隔てなく一緒に、お話したりラジオを聞いたりしながら、和やかに縫い物をするこの時間は、ジャンドルにとっても、優しく嬉しい時間だった。
突然、プツン、と音がして、ブワッと画面が空中に現れる。エルフ達もジャンドルも、もう慣れっこだ。
寮にいるお世話人エルフが、魔法でテレビ電話を繋げたのである。
『ジャンドルお父様!』
エフォールが、画面の中央で、フリフリニコニコ手を振る。そして、その隣で、恥ずかしそうに座っているのは。
「!!コリエ!?エフォール君!?」
『コリエお母さんが、花街から寮に来たよ!しばらく寮で暮らすんだって。お母さん会の話し合いもしたいし、ラフィネさんは寮からあまり出かけられないし、ウチに来るのは流石に申し訳ないんだって!リオンお母様は、お出かけが嬉しいし子供達も可愛いから、全然オッケーよ、なんだって!』
「う、うん。ああ、うん。うん?え!?」
呆然と話を聞くジャンドルは、手が震えて針などとても持てない、危険な状態だ。
「コリエ、その!寮に来たって、借金は!?」
コリエは、ぱち、ぱち、と、湿ったまつ毛を瞬かせると、はにかんだ笑顔で、静かに応えて。
「パンセ伯爵家で、一括で、一旦肩代わりして下さったの。」
フリフリ、とリオン夫人がニッコリ手を振る。
「エフォールさ、君が稼いだお金も、充ててくれたのよ!あ、あの、あの、ジャンドル。悪いけれど、これからは、これからも、借金を、一緒に払ってもらえないかしら?い、今まで会いもせず、払ってもらうばかりの、私が、言えた事じゃないのは分かってる。でも、もし、もしもよ、良かったら、一緒にーーー。」
「払う!払う払う!!え!なに!会えるの!?会いたい!いま、いく、おれ!」
カタコトになりつつ、バタバタと片付けをし、エルフ達に、ほわぁロマンスよ、恋よ!借金で引き裂かれし運命の恋人たちよ!とキラキラした目で見られても気にせず。ジャンドルもエルフ達とお話してるうちに、エフォールの事や、コリエの事を何となく話すハメになっていたから、皆知っているのだ。心を開いておしゃべりしてれば、そうもなる。
「それでは皆さん、今日はこれまで、自分でやりたい時に進めておいて下さっても全然構いません!でも根を詰めないでね!また来ます、明日、明日来ます!」
中腰になって荷物を手に、もう身体の半分は走りだす勢いだ。
「はい先生、頑張って!」
「彼女と幸せになるのよ!」
「寮で会って話すなら、このまま見てます!」
「私たちもこの先が気になるじゃない?」
「「ねー?」」
デバガメエルフは悪びれもせず。
うんうん見たければ見るがいい。
そんなの気にしてられない。
だって、エフォールが生まれて、こんなに大きく育つまで、一度もジャンドルはコリエに会えていないのだ!
体育館の、寮までの転移魔法陣に駆け込み、魔法陣番のエルフに許可証を見せる。竜樹が必要じゃないかな?と言ったので、そうかな~?なんて思っていたが、貰っておいて良かった。
「コリエ!!」
寮の魔法陣部屋、やはりエルフの魔法陣番にささっと挨拶をして、許可証を見せてニコリ、頷かれる。不審人物は魔法大得意のエルフガードが阻みます。
さあ、目指せ交流室!
「あ、ジャンドルお父様きた!」
わーい!とエフォールが手を振り、周りの子供達も竜樹もラフィネもリオン夫人も、ほんわり笑顔で、皆でジャンドルを待っていた。
「ジャンドル•••。」
はあ、はあ、はあ。
息を吐き、ジャンドルはコリエの前、胸を押さえる。胸が痛い。
「コリエ、か、変わらないね。最後に会った時のままだ!」
「そんな事ないわ、歳をとったわよ。」
「それは俺も同じだ、から。」
すう、とコリエが息を吸った。覚悟を決めたのだ。ジャンドルに思わせぶりにして最後まで言わせては、女が廃る。コリエが望むのだ。どうしたいのか、勇気を出して。
「ジャンドル。長らく待たせて、ごめんなさい。私、花街帰りだけど、色々これからも迷惑かけると思うけど、あ、あなたの、お嫁さんに、な、なりたいわ。」
「!!!うん!!」
「お嫁さんに、してくれる?」
「うん!!!!」
わっ!!とコリエの脇に手を差し入れて、がしりと持ち上げ、ジャンドルは感激のままに、ふわぁグルグル!とその場で回った。
「ひ、ひぇぇ、ジャンドル、キャア!」
「う、うれし、嬉しいよお!!!やっと一緒になれるぅ~!!」
ぎゅむ~!
降ろして抱きしめて。
ヒュ~!とマルサが口を鳴らして、エルフ達は画面の向こう側でステキ~!と身悶え、子供達はキャキャ!と笑い。大人達は微笑ましい目で見守って。
「な、長かった•••!」
「ご、ごめんなさい、ジャンドル。」
ううん、良いんだ。この手を取ってくれたのだから、もう、何でも良いのだ。
何度目かの、《縫いぐるみ手仕事でゆっくりした時間を過ごそう》の講師で、エルフ達の所に来ていたのである。
「ジャンドル先生、ここはどうやるの?」
「ああ、そこは、とんがってて窮屈でしょ?この目打ちで、ちょいちょい、って引っ掛けてキチンと裏返してね~。」
「は~い!道具があるとないとで、やっぱり違うのだなぁ。」
「うんうん、針で間に合わせる事もできるけど、あるとね、やっぱりちょっと良く、すんなりできるからね。気持ちよく作るのに、道具はちゃんとしたものがあると、良いよ。」
結構器用なエルフ達なので、いや、中には途轍もなく不器用な者もいたが、それも味。上手く出来る人は、羽毛布団縫いもやったり仕事に繋げても良いし、ただ楽しみで、癒しでやるのでも良い。あらゆる年齢の、性別の、あらゆるレベルの者が、分け隔てなく一緒に、お話したりラジオを聞いたりしながら、和やかに縫い物をするこの時間は、ジャンドルにとっても、優しく嬉しい時間だった。
突然、プツン、と音がして、ブワッと画面が空中に現れる。エルフ達もジャンドルも、もう慣れっこだ。
寮にいるお世話人エルフが、魔法でテレビ電話を繋げたのである。
『ジャンドルお父様!』
エフォールが、画面の中央で、フリフリニコニコ手を振る。そして、その隣で、恥ずかしそうに座っているのは。
「!!コリエ!?エフォール君!?」
『コリエお母さんが、花街から寮に来たよ!しばらく寮で暮らすんだって。お母さん会の話し合いもしたいし、ラフィネさんは寮からあまり出かけられないし、ウチに来るのは流石に申し訳ないんだって!リオンお母様は、お出かけが嬉しいし子供達も可愛いから、全然オッケーよ、なんだって!』
「う、うん。ああ、うん。うん?え!?」
呆然と話を聞くジャンドルは、手が震えて針などとても持てない、危険な状態だ。
「コリエ、その!寮に来たって、借金は!?」
コリエは、ぱち、ぱち、と、湿ったまつ毛を瞬かせると、はにかんだ笑顔で、静かに応えて。
「パンセ伯爵家で、一括で、一旦肩代わりして下さったの。」
フリフリ、とリオン夫人がニッコリ手を振る。
「エフォールさ、君が稼いだお金も、充ててくれたのよ!あ、あの、あの、ジャンドル。悪いけれど、これからは、これからも、借金を、一緒に払ってもらえないかしら?い、今まで会いもせず、払ってもらうばかりの、私が、言えた事じゃないのは分かってる。でも、もし、もしもよ、良かったら、一緒にーーー。」
「払う!払う払う!!え!なに!会えるの!?会いたい!いま、いく、おれ!」
カタコトになりつつ、バタバタと片付けをし、エルフ達に、ほわぁロマンスよ、恋よ!借金で引き裂かれし運命の恋人たちよ!とキラキラした目で見られても気にせず。ジャンドルもエルフ達とお話してるうちに、エフォールの事や、コリエの事を何となく話すハメになっていたから、皆知っているのだ。心を開いておしゃべりしてれば、そうもなる。
「それでは皆さん、今日はこれまで、自分でやりたい時に進めておいて下さっても全然構いません!でも根を詰めないでね!また来ます、明日、明日来ます!」
中腰になって荷物を手に、もう身体の半分は走りだす勢いだ。
「はい先生、頑張って!」
「彼女と幸せになるのよ!」
「寮で会って話すなら、このまま見てます!」
「私たちもこの先が気になるじゃない?」
「「ねー?」」
デバガメエルフは悪びれもせず。
うんうん見たければ見るがいい。
そんなの気にしてられない。
だって、エフォールが生まれて、こんなに大きく育つまで、一度もジャンドルはコリエに会えていないのだ!
体育館の、寮までの転移魔法陣に駆け込み、魔法陣番のエルフに許可証を見せる。竜樹が必要じゃないかな?と言ったので、そうかな~?なんて思っていたが、貰っておいて良かった。
「コリエ!!」
寮の魔法陣部屋、やはりエルフの魔法陣番にささっと挨拶をして、許可証を見せてニコリ、頷かれる。不審人物は魔法大得意のエルフガードが阻みます。
さあ、目指せ交流室!
「あ、ジャンドルお父様きた!」
わーい!とエフォールが手を振り、周りの子供達も竜樹もラフィネもリオン夫人も、ほんわり笑顔で、皆でジャンドルを待っていた。
「ジャンドル•••。」
はあ、はあ、はあ。
息を吐き、ジャンドルはコリエの前、胸を押さえる。胸が痛い。
「コリエ、か、変わらないね。最後に会った時のままだ!」
「そんな事ないわ、歳をとったわよ。」
「それは俺も同じだ、から。」
すう、とコリエが息を吸った。覚悟を決めたのだ。ジャンドルに思わせぶりにして最後まで言わせては、女が廃る。コリエが望むのだ。どうしたいのか、勇気を出して。
「ジャンドル。長らく待たせて、ごめんなさい。私、花街帰りだけど、色々これからも迷惑かけると思うけど、あ、あなたの、お嫁さんに、な、なりたいわ。」
「!!!うん!!」
「お嫁さんに、してくれる?」
「うん!!!!」
わっ!!とコリエの脇に手を差し入れて、がしりと持ち上げ、ジャンドルは感激のままに、ふわぁグルグル!とその場で回った。
「ひ、ひぇぇ、ジャンドル、キャア!」
「う、うれし、嬉しいよお!!!やっと一緒になれるぅ~!!」
ぎゅむ~!
降ろして抱きしめて。
ヒュ~!とマルサが口を鳴らして、エルフ達は画面の向こう側でステキ~!と身悶え、子供達はキャキャ!と笑い。大人達は微笑ましい目で見守って。
「な、長かった•••!」
「ご、ごめんなさい、ジャンドル。」
ううん、良いんだ。この手を取ってくれたのだから、もう、何でも良いのだ。
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