王子様を放送します

竹 美津

文字の大きさ
上 下
334 / 510
本編

借金に引き裂かれしロマンス

しおりを挟む
ジャンドルはその時、体育館にいた。

何度目かの、《縫いぐるみ手仕事でゆっくりした時間を過ごそう》の講師で、エルフ達の所に来ていたのである。

「ジャンドル先生、ここはどうやるの?」
「ああ、そこは、とんがってて窮屈でしょ?この目打ちで、ちょいちょい、って引っ掛けてキチンと裏返してね~。」
「は~い!道具があるとないとで、やっぱり違うのだなぁ。」
「うんうん、針で間に合わせる事もできるけど、あるとね、やっぱりちょっと良く、すんなりできるからね。気持ちよく作るのに、道具はちゃんとしたものがあると、良いよ。」

結構器用なエルフ達なので、いや、中には途轍もなく不器用な者もいたが、それも味。上手く出来る人は、羽毛布団縫いもやったり仕事に繋げても良いし、ただ楽しみで、癒しでやるのでも良い。あらゆる年齢の、性別の、あらゆるレベルの者が、分け隔てなく一緒に、お話したりラジオを聞いたりしながら、和やかに縫い物をするこの時間は、ジャンドルにとっても、優しく嬉しい時間だった。


突然、プツン、と音がして、ブワッと画面が空中に現れる。エルフ達もジャンドルも、もう慣れっこだ。
寮にいるお世話人エルフが、魔法でテレビ電話を繋げたのである。

『ジャンドルお父様!』
エフォールが、画面の中央で、フリフリニコニコ手を振る。そして、その隣で、恥ずかしそうに座っているのは。

「!!コリエ!?エフォール君!?」

『コリエお母さんが、花街から寮に来たよ!しばらく寮で暮らすんだって。お母さん会の話し合いもしたいし、ラフィネさんは寮からあまり出かけられないし、ウチに来るのは流石に申し訳ないんだって!リオンお母様は、お出かけが嬉しいし子供達も可愛いから、全然オッケーよ、なんだって!』

「う、うん。ああ、うん。うん?え!?」
呆然と話を聞くジャンドルは、手が震えて針などとても持てない、危険な状態だ。
「コリエ、その!寮に来たって、借金は!?」

コリエは、ぱち、ぱち、と、湿ったまつ毛を瞬かせると、はにかんだ笑顔で、静かに応えて。
「パンセ伯爵家で、一括で、一旦肩代わりして下さったの。」
フリフリ、とリオン夫人がニッコリ手を振る。

「エフォールさ、君が稼いだお金も、充ててくれたのよ!あ、あの、あの、ジャンドル。悪いけれど、これからは、これからも、借金を、一緒に払ってもらえないかしら?い、今まで会いもせず、払ってもらうばかりの、私が、言えた事じゃないのは分かってる。でも、もし、もしもよ、良かったら、一緒にーーー。」
「払う!払う払う!!え!なに!会えるの!?会いたい!いま、いく、おれ!」
カタコトになりつつ、バタバタと片付けをし、エルフ達に、ほわぁロマンスよ、恋よ!借金で引き裂かれし運命の恋人たちよ!とキラキラした目で見られても気にせず。ジャンドルもエルフ達とお話してるうちに、エフォールの事や、コリエの事を何となく話すハメになっていたから、皆知っているのだ。心を開いておしゃべりしてれば、そうもなる。

「それでは皆さん、今日はこれまで、自分でやりたい時に進めておいて下さっても全然構いません!でも根を詰めないでね!また来ます、明日、明日来ます!」
中腰になって荷物を手に、もう身体の半分は走りだす勢いだ。
「はい先生、頑張って!」
「彼女と幸せになるのよ!」
「寮で会って話すなら、このまま見てます!」
「私たちもこの先が気になるじゃない?」
「「ねー?」」
デバガメエルフは悪びれもせず。

うんうん見たければ見るがいい。
そんなの気にしてられない。
だって、エフォールが生まれて、こんなに大きく育つまで、一度もジャンドルはコリエに会えていないのだ!

体育館の、寮までの転移魔法陣に駆け込み、魔法陣番のエルフに許可証を見せる。竜樹が必要じゃないかな?と言ったので、そうかな~?なんて思っていたが、貰っておいて良かった。

「コリエ!!」

寮の魔法陣部屋、やはりエルフの魔法陣番にささっと挨拶をして、許可証を見せてニコリ、頷かれる。不審人物は魔法大得意のエルフガードが阻みます。
さあ、目指せ交流室!

「あ、ジャンドルお父様きた!」
わーい!とエフォールが手を振り、周りの子供達も竜樹もラフィネもリオン夫人も、ほんわり笑顔で、皆でジャンドルを待っていた。

「ジャンドル•••。」

はあ、はあ、はあ。
息を吐き、ジャンドルはコリエの前、胸を押さえる。胸が痛い。
「コリエ、か、変わらないね。最後に会った時のままだ!」
「そんな事ないわ、歳をとったわよ。」
「それは俺も同じだ、から。」

すう、とコリエが息を吸った。覚悟を決めたのだ。ジャンドルに思わせぶりにして最後まで言わせては、女が廃る。コリエが望むのだ。どうしたいのか、勇気を出して。

「ジャンドル。長らく待たせて、ごめんなさい。私、花街帰りだけど、色々これからも迷惑かけると思うけど、あ、あなたの、お嫁さんに、な、なりたいわ。」
「!!!うん!!」
「お嫁さんに、してくれる?」
「うん!!!!」

わっ!!とコリエの脇に手を差し入れて、がしりと持ち上げ、ジャンドルは感激のままに、ふわぁグルグル!とその場で回った。
「ひ、ひぇぇ、ジャンドル、キャア!」
「う、うれし、嬉しいよお!!!やっと一緒になれるぅ~!!」

ぎゅむ~!
降ろして抱きしめて。
ヒュ~!とマルサが口を鳴らして、エルフ達は画面の向こう側でステキ~!と身悶え、子供達はキャキャ!と笑い。大人達は微笑ましい目で見守って。

「な、長かった•••!」
「ご、ごめんなさい、ジャンドル。」

ううん、良いんだ。この手を取ってくれたのだから、もう、何でも良いのだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で双子の勇者の保護者になりました

ななくさ ゆう
ファンタジー
【ちびっ子育成冒険ファンタジー! 未来の勇者兄妹はとってもかわいい!】 就活生の朱鳥翔斗(ショート)は、幼子をかばってトラックにひかれ半死半生の状態になる。 ショートが蘇生する条件は、異世界で未来の勇者を育てあげること。 異世界に転移し、奴隷商人から未来の勇者兄妹を助け出すショート。 だが、未来の勇者アレルとフロルはまだ5歳の幼児だった!! とってもかわいい双子のちびっ子兄妹を育成しながら、異世界で冒険者として活動を始めるショート。 はたして、彼は無事双子を勇者に育て上げることができるのか!? ちびっ子育成冒険ファンタジー小説開幕!!  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 1話2000~3000文字前後になるように意識して執筆しています(例外あり)  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ カクヨムとノベリズムにも投稿しています

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~

明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...