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本編
喫茶店《エルフの花束》と辛子色のスモック
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『美術館前、予約の列に並ぶ人々がこ~んなにいます!3日前から開催されている《神秘なるエルフーーー歴史と絵画に残る平和への努力展》大人気となっています!』
スーリールのニュース隊が、初日の紹介だけでなく3日後の今日、朝から美術館に詰めかけた人々を、ずーっとカメラで最後尾まで追って流して放送する。並んだ人は、あの美しい印刷のチケットに予約の日付入りの、魔法ハンコをもらって、お金を払って、次々と、ニコニコと、はけていく。
スーリールも、こんなニュースの時は、嬉しくて声が弾む。
『混雑緩和の為と、説明をしてくれるイヤホンガイドの数に限りがあり、また一人一人にじっくり鑑賞してもらおうと、今回は予約制を取り入れたそうです。そして!何とかしてエルフのドラマチックで美しい絵画を、平和への努力の軌跡を知りたい、という方に朗報です!この特別展、2つ月の開催だったのですが、7つ月、来年の春まで延長して開催される事になりました!まだ3つ月先からの予約は大体空いているそうなので、ご家族、恋人同士、友達と、しっかり鑑賞の1人でも!ゆっくりご予約いかがですか?子供連れが格安の、子供デーも設けられているので、是非お子様も!そして!』
ぐる~り、と美術館の周りをカメラが映して、そこかしこに、布で飲食店らしく張られた、デザインテントたちがある。その前には、キラキラしい、キリッとした、ほんわかした、おっとりした、胸当てのあるエプロン姿や割烹着、黒いギャルソンエプロンのエルフ達がそれぞれ、手を組んだり手を振ったりして、ニコリと笑っている。
『こちら、エルフの店員さんで~す!!美術館に来て予約時間まで待ったり、鑑賞した後などに、座ってのんびり感想を言い合ったり休んだりできるよう、近くには喫茶をやるお店が開店しています。こちらも2つ月の臨時だったものを、7つ月、お店によってはこれから継続して、お客様をお待ちしているそうです!こちらのお店達、エルフの店員さんが忙しくない時に少しなら、お話もしてくれるそうですよ。まずはこちら、お話聞いてみましょう、喫茶店《エルフの花束》店長さんの、シトロンさん。こんにちは!こちらでは、エルフのハーブティーが色々飲めるのですよね!』
テーブルの上には、色も薄い茶色で小さな紫の花が浮く、綺麗なハーブティーと、これからの季節に美味しい、蜜を纏った黄金の大学芋、黒胡麻がぱらり。とろりと美味しそうである。
緑色のエプロンをした、金髪を邪魔にならないようキュキュと結い上げた、みめ麗しい男性エルフが、ニコリと笑顔で対する。
『はーい、こんにちは!《エルフの花束》店長シトロンです。そうなんです、せっかくなら、と私たちの森でよく飲んでいた、あっさりして香ばしいのや、甘酸っぱくて美味しいハーブティーなどをご用意しておりますよ。デザートや軽食もありますので、ごゆっくり休んで、お腹も満足していただけます。』
『他のお店も、それぞれエルフならではのメニューが用意されているそうです。そして~、はい、シトロンさん!エルフの願いが、あるのですよね!』
ニコリとした笑顔は崩さず、でもキラリとした瞳で真剣に、マイクに向い。
『はい!私たちは、エルフについて知って頂けるこの機会を、とても嬉しく思っています。そして、エルフの努力や葛藤を知っていただくだけじゃなくて、これからも一緒に、平和について、皆さんも考えて行動していただけたら、そのキッカケになったら、と思っています。一人一人が、できるだけのことを、平和を願って、少しの行動でーーー、今回エルフへ恩返しだと助けて下さった温かい皆さんなら、きっと、これからの平和を、長く一緒につくっていける。そんな気持ちで、私たちエルフも、皆さんの街に馴染んで、広がってゆく。絶えず、少しずつ。平和が揺れても諦めず、じっくりと。綺麗な絵を見たいだけでも良いです、美味しいお茶が飲みたい、でも。良かったら、美術館、来て下さい。喫茶店にも。』
うんうん、とスーリールも頷いて。
『転移魔法陣がありますから、地方からも、他国からも鑑賞しに来れますしね!』
『ええ!沢山の人に、来てもらって知っていただきたいです!疲れて一休みのひと時を、私たちのお店も、おもてなしいたします、宜しくお願いします!』
『美術館前、エルフさん達とニュース隊のスーリールでした、それでは、スタジオにお返ししま~す!』
もちろんこのエルフ達の喫茶店は、ニリヤのクレール・サテリットじいちゃまがプロデュースしているのだ。現場指導は安心の、じいちゃま経営レストラン、ヴィーヴのベテラン、ショー支配人が担った。他の良心的な商人達プロデュースの喫茶も、エルフの知恵と、実験的に竜樹の情報を色々もらって試み、そこには接客業がしてみたい、人見知りしないエルフ達が立候補した。
「びじゅつかん、いっぱい、こころにしったの。」
テレビのニュースを観ながら、昼ごはん後に寛いでいたニリヤが、こくんと蜂蜜水を飲みながら思い返した。
ふぅ~ん、と胸に手を当てて、お目目を瞑って、表情豊かなニリヤである。
「見応えある特別展だったねえ。みんなもそろそろ、行きたいかどうか決められたかな?」
竜樹は、買ってきた特別展の図録を、16地方と王都教会孤児院、寮の子供達に回して、美術館に行きたい子を募っている。
全員を、というには、ちょっと懐にくるし、まだ分からないちいちゃい子や、興味ない子が、飽きて時間を持て余してしまいそう。でも、少しでも興味ある子は、連れて行ってあげたい。そんな気持ちで、竜樹は図録を沢山買って、みんなに見せた。
『エルフのサンティエおねえちゃんの、えをみにいきたい~!』
『エルフ、知りたい!』
『絵の本、きれい!』
『行きたい、行きたーい!』
『私もタンブランお兄ちゃんの、エルフの事知りたい~!』
教会の子供達が、テレビ電話の画面の向こうから、ワイワイ手をあげたり、トコトコ、エルフのお兄ちゃんお姉ちゃんに歩き寄ったりしている。
『え~、嬉しいなぁ。みんな可愛いなぁ~!』
『ありがとうねぇ~、本当にみんな良い子だねぇ~!』
ニコニコデレデレしているエルフ達。ロテュス王子の共感覚での向いているか向いてないかの選抜を超え、試用期間もきっちりやって、エルフ達は子供達のお世話の、お兄ちゃんお姉ちゃんとして、どの教会孤児院にも3名から4名ほどが就職した。新聞売りと撮影隊の寮にも2名ほど、エルフが就職している。竜樹はエルフへのお給料も頑張って払う所存である。
今日も寮に来て竜樹の側にいる、エルフのロテュス王子も、ニコニコだ。
エルフだけでなく人族のお世話人や、司祭や助祭もいるので、ここでも交流が図られて、賑々しくも温かいやり取り、現実的な子供達へのお世話の技術の教えたり教わったりが飛び交う毎日である。
これを機に、教会のお世話人達は、辛子色のシンプルでシックなスモック、太もも位まで腰を隠す長さのものを着るようになった。白のインクでたんぽぽマークが小さく胸元に入った、ここにお世話人がいるよ!とすぐわかる目を引くスモックである。ポケットは沢山入るものが2つ、ついているので、便利。
ニリヤ王子とネクター、オランネージュ、そしてアルディ王子が、美術館どうだったー?と子供達に聞かれて、色々と答えている。
「エルフ達は、ずっと、頑張ってきたんだ!」
「ギフトの人の親友ができて、死んじゃうんだ!」
「慟哭のカルム、美しいけど胸が痛い、すごい絵だった。私、考えちゃった。」
「かみさまに、たのまれて、よろこびいさんで、ちょうていしゃ!」
「オグル、うんち投げた。」
ええ!?
最後の発言に、あはは!と爆笑する子もいればーーうん、うんちおしっこが大受けする年齢ってありますよねーー眉を寄せて図録の、慟哭のカルムを眺める子もいる。
「イヤホンガイドがあるのでしょ?それに、一緒に行った人に、どんな絵かお話してもらっても、いいんだよね。私も見に行きたい!」
「俺も!」
「うん、私もコンコルドと兄様と行こうかな。」
視力に障がいのあるプレイヤードと、アミューズと、ピティエも、絵を聴きに行きたいようだ。うんうん、それもまたよし!
竜樹がニコニコしていると。
「竜樹様•••。ラフィネさん•••。」
おずおずと、歩行車でカタンと近寄ってきたエフォールに、ん?と2人、視線を合わせる。
「わた、私も、エルフの特別展、見に行きたい。ジャンドルお父さんとーーー。」
コリエお母さんと。
切ない目をするエフォールは、言葉を続ける。
「もう予約はしてあって、コリエお母さんにも、お手紙で誘ってあるの。でも、お返事下さい、ってクラージュじるしのメッセンジャーに待ってもらったのに、エフォール様のお母様お父様に失礼になるから行けません、てだけ、紙に書いてあって。でも、でも、どうしても、一緒に行きたい!会いたい!お話、したい•••。」
ぽろ、ころりと涙が溢れる。
頭を撫でて、頬の涙を、竜樹が綿のハンカチで拭ってやる。
ラフィネは、似合っている辛子色のスモックを、ひゅる、と翻して近づくと、エフォールに跪き、その泣き顔を見上げた。確固たる意思をもって。
「エフォール様。わたしに一旦、任せてみて下さいな。」
「ウン。お願い、します。助けてくれる?」
ぐす、と泣きべそをかくエフォールに、ラフィネは両手をとって、ふりふり、揺すり。
「ええ。お助けします。待っててくださいね。」
自信をもったラフィネは、キリッとした顔で、すっくと立つと、少し出掛けてきます!と言った。
慌てて竜樹は、護衛をラフィネにつけるようマルサに頼む。うん、とマルサは任しとけである。
颯爽と花街に、ラフィネの凱旋である。
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