王子様を放送します

竹 美津

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本編

時代を生きるのは、歴史をつくるのは

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『ここから先は、秀でた1人の、スターエルフに引っ張られて調停者をする時代から、誰がスターかなどはなく、エルフ皆で協力して調停者をする時代になる。カルムが魔法を研究し尽くして、弟子になったエルフ族みんなの魔法能力が、飛躍的に、つまりすっごく高まったから、もある。転移魔法が出来たのも、この頃じゃよ。カルムは、よっぽどフィノメノンの救助が間に合わなかった事を悔やんだらしく、それもあって転移魔法を開発したと言われておる。』

『ここからの絵は、カルムの弟子のエルフ達が、調停者として活躍するものじゃ。時は過ぎ、段々と国々が、エルフに難題をふっかければ問題が解決したり、得をする、それにエルフを味方につけたら便利だ、と利用したり擦り寄ったりしていくようになる。次第にそれは目に余るようになった。平和になるんだからやってよ、な~んて仕事を何でもかんでも押し付けられたら、エルフだって良い気分しないじゃろ?自分でやって!って言いたくもなるじゃろ~。エルフ達は会議を開いて、人の中に住み情報を得るエルフと、森に引っ込んで安心して暮らすエルフとに分かれる、と決めた。エルフに頼り過ぎる国々を、もうちょっと自立させたかったのじゃな。この会議の絵も残っておるよ。見てご覧、エルフ達が立ち上がって、大分揉めておるじゃろ。』

「とうさまも、かいぎするよ。エルフもするんだね!かいぎ、なかなかきまらないよ、っていってた。」
「そりゃエルフだって会議するさ。意見がたくさん出たら、決まるのに時間かかるねぇ。」
「私たちも、子ども会議するよね~。」
「お酒のこと、調べて話し合いだもんね。」

悲しい場面を過ぎて、ズビ、と鼻をすすりながらも、ガイドに促され、次の絵を見ていく子供達である。

『ここで一つ問題ができた。エルフ達は長寿なのじゃが、エルフ同士だと、子供が産まれにくい。他の種族と結婚すれば、出来やすくなるのじゃが、大多数のエルフが森に引っ込んでしまったし。街に住むエルフ達は、あてにされすぎて、人の嫌な面を見るようになって、人と結婚したくなるような気持ちに、段々ならなくなった。エルフのまごころ狙いの人も、おバカさんじゃが、結構いたのじゃよ。付き合っているうちに、大抵ボロが出るのじゃがな。このへん、我々も人として、恥ずかしい事じゃのう。最低限の調停者をしながら、エルフは引きこもり、段々と数を減らしてーーーそして今。』

「いまに、なった!」
「なったね!」
顔を見合わせる子供達。ほっぺたと鼻は涙の名残りと興奮で赤く、さっき濡れた目は、キラッとしている。

『さあ、次は現代のエルフじゃ。過去と現在を噛み締め、先へ、未来へ、進め!』

絵の並んでいた壁が途切れ、角を曲がって、開けてきたのはーーー。


「!ぉおっきい!まっしろ!」

突き当たりの大きな空間、そして壁ギリギリいっぱいの、大きな大きなキャンバスは、真っ白。

真っ白の前に、1人の人物。
床に直に、胡座をかいて座り込んでいる。
生成りの簡易なシャツに、絵の具で汚れたズボン。くしゃくしゃの細い茶金の髪の毛、足の上には大きな紙を画板に広げて、シュシュ、サササ、と手を動かしている。
大きな背中は、一瞬ピンと張って、かと思えばグッと丸くなり、真剣に、懸命に、何を描いて。

「なに、してるの?」
トコトコ、物怖じしないニリヤを先頭に、みんなしてその男性に近づいていく。

ん? と振り返って、ちょっと水色の瞳を見開き、片方の眉を上げたその人。
あわわ、と慌てて立ち上がって、挨拶してくる。
「こ、こんにちは!すみません、夢中になってしまって!」
ペコ、と頭を下げて。絵を描く人は、後ろに立ち見守っているボンに、助けての目を向けた。
ボンが頷き、落ち着いた声で、説明する。

「皆様、こちら、画家のイスタンテさんです。ここでは、現在のエルフの絵画、を、今まさに描こうとしている所です。ジュヴールから解き放たれ、エルフへの恩返しをできるかもと各国が寄り合い、ギフトの竜樹様が広げた情報の改革もあり、転移魔法陣を敷き、まさにこの大陸の国々に広がり、馴染む事ができようか、とする所を描く。美術館に訪れた人は、時代を共にする芸術が出来上がっていく、その瞬間瞬間を、ここで眺めていく事が出来ます。特別展が終わるまでに描ききれるかも分からないのですけど、毎日ここで、彼は描く予定です。」

イスタンテさん、テレビで見ていた、この絵に登場する人たちが、ここにいますよ!
ボンが、ふ、と笑ってそう言えば、ビクン!と芯が入ったか、イスタンテはビシリ!と背を伸ばして、ジィッと皆を観察する画家の目になった。

「なるほど、そう、そうか。ああ、こんな風な、そう、みんな今はあの時よりずっと穏やかな顔でーーー。」
ぶつぶつ喋りはじめたイスタンテ。その背中をポン、と叩いて、ボンは。

「イスタンテさん、描いた下絵を皆様に見せてあげてくれるかい?」
「えっ、あっ、はっ、はい!どうぞ!」


それはそれは見事な時代の一瞬。

泥団子を投げ救助要請のロテュス王子、呪われそれを解いたエルフ達、呪い返しを受けたジュヴールの管理者の魔法使い達、キャッセ王と魔法師長の悪あがき、空中に浮かぶ画面、繋がれて無理に地に力を注がされているリュミエール王、種子エルフを助ける竜樹達、そして、クレル・ディアローグ神の顕現。
諍いと対話。


ほうぅ。
まだ下絵なのに、迫力ある画面。

「しゅごい•••!」
お口がまわっていないよ、ニリヤ。
「へぇぇ!」
「あ、私たちもいる!」
まじまじと集まって見る下絵を、イスタンテはアッサリと。

「それ、ちょっと変えます。」
「ええ!?こんなにすごいのに!?」
ネクターが勿体ながる。

「はい。今日皆さんに会えたから。今の、全てが済んでこれからの、そんな顔が、とても良いから。」

描かずには、いられないから。

ニコッとするイスタンテは、王様や王子様達に対するには、礼儀がとてもなってなかったけれど。でも、全然嫌な感じがしない、素朴で素直な態度で。
美術館に来たリュミエール王一家や、竜樹と王子達が、何だか照れくさいな、という感じに、くふんと笑った。
イスタンテの、焦りどもりながら必死に告げられた望みは、皆の顔のスケッチをさせて欲しい、という事だった。
短く、すぐ、あっという間に描きます!と懇願されて、クスクス笑い合って、皆、1枚ずつ、真剣な顔のイスタンテにスケッチをしてもらって。


「さあ、この先にも一つ、仕掛けがあります。」
ボンは、企みの一つが皆に受け入れられて、嬉しそうにしつつ、また促した。猛然と何かを描きはじめた画家はそのままに、イスタンテの真っ白キャンバスの壁の横、柱を越えて後ろに回ると。


ポツンと、机と椅子。
そこに小さな、メガネの女性が、ノートを開いてカリカリと書き物を。

ふい、と顔を上げて。

「皆様、初めまして、良くいらっしゃいました。」

くしゃくしゃの白髪、赤い目、だけれども小麦色の健康的な肌が、小さな身体をしっかりと見せている。立ち上がって。

「私、ソルセルリー大陸大歴史書、現在の項を書いております。当代の、イストワールと申します。」

ニコリ!

みんな、この美術館に来たら、思わずにいられない。
今この時、時代をつくり、変えて、味わい、生きるのは、この一人一人の「私」だ、と。


当代イストワールは皆に色々と歴史書に書きたい事の不明点を聞き込み、ノートに書き込みをする。
明日からの特別展一般公開では、来た人にそれぞれ、この度のエルフ救助要請からの発展、時代の大事件に思った事を書いてもらうか聞いて書き込むか、をしていく。

ノートそのものが、それぞれの立場で受け止めているその思いが、歴史の1ページとなって、記録として残るのだ。

「こんな面白い事ってありません!私、イストワールになって、本当に良かった!」

くすす、と笑うイストワールは、わんぱくな表情。

美術館のプレオープン、『神秘なるエルフーーー歴史と絵画に残る平和への努力展』を、エルフ一家と竜樹と王子達は堪能し、明日からの成功に太鼓判を押した。

ボンは最後まで皆を案内でき、驚き満足そうな面々に、胸を撫で下ろした。

明日からの特別展一般公開に、自信と誇りと、ワクワクと少しの心配を残して。



ーーーーーーーー⭐︎

長らくボンの特別展を、ご鑑賞いただいて、ありがとうございます\(^o^)/

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