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竹 美津

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本編

スターエルフ 誓約のカルム

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『次のスターエルフは、カルムじゃ。カルムは、魔法が不得意だった。そうして無口でもあったそうじゃよ。それを恥に思い、苦しみ、調停者としての活動に少しだけ手伝いをして、森で大人しく暮らしている、といった風じゃった。ところが、運命の扉は突然現れる。たまたまカルムが森から出て、その頃あったチュテレールの国の街にお使いしていた時。ギフトの御方様、この時の方は、フィノメノンという28歳の男性、が落ちてきた。最初に発見したのが、カルムだったのじゃよ。』

「ギフトのおんかたさま、ししょう、みたいの!ふぇのめの、やさしそうね!」
「ね~。優しそうな目をしてるねぇ。」
竜樹はクリクリとニリヤの頭を撫でた。

目の前の絵は、ひとつのテーブルで相対して、笑顔で会話している2人。茶髪のがっしりした、穏やかな顔のフィノメノンに、ほっそりとして針の如く神経質そうな、だけれどやはり嬉しそうに笑っているエルフ、カルム。
滑らかな陰影が、古色を纏い、けれども瞳光る、生き生きした温かい2人の間柄が、伝わってくる絵だ。

『フィノメノンは、明るくて穏やかな、良き人物であったらしい。物語を描く、作家を元の世界でしていたのじゃ。フィノメノンは、エルフの森に匿われて、1年ほどはのんびりと暮らしておった。エルフの生活にも興味津々だったようじゃ。取材ノートが残っておるよ。そして、カルムと相性が良かったとみえて、2人は親友と呼べる間柄になる。フィノメノンは面倒見が良く、カルムの魔法が不得意な理由を、沢山の選択肢が一度に浮かんで、躊躇うからだ、と看破した。無口なのも、そうじゃ。才能が無いんじゃない、ありすぎるんだ、と。カルムはフィノメノンと出会った事で、次第に魔法使いとして成長し、そして後に賢者と呼ばれるまでになる。そしてそれは、フィノメノンの悲劇をキッカケとする。かなしい、できごと、じゃな。』

「ひげき•••ししょう~。」
悲しいの? ニリヤが竜樹のズボンを握って、目で訴えてくる。竜樹は黙って、クリクリ撫でるばかりである。
ネクターとオランネージュは、真剣にイヤホンを押さえているし、アルディ王子は、クッとお口をへの字にして、耳尻尾をピン、と固く張った。
エルフの4兄弟妹は、しん、と透明な視線で、絵の向こう側、当時の2人の存在を、心で見つめている。
リュミエール王とヴェルテュー妃は、一歩引いて、静かに子供達と竜樹達を見守り、エルフに伝わる話とイヤホンガイドの内容を突き合わせている。

『フィノメノンは、この世界に慣れてくると、物語を描き出した。大人気じゃった。ギフトの御方様と知れて、元はこちらの国に落ちてきたのだから、私たちの国チュテレールとも仲良くしてください、と、ここまでは良かった。フィノメノンは作家じゃった。沢山の知識を有していた。それをカルムにも楽しく話したが、チュテレールでも話した。フィノメノンの知識のおかげで、チュテレールは栄え出した。他の国は、面白くないじゃろう?それまでもギフトの御方様を取り合って、国々で争いが起こっていたが、この時の争いは、天候不良で国々の食糧が厳しかったり、天災が多かった事もあって、困っている分、激しかったのじゃ~!終いには、頭さえ無事なら、怪我をさせても良いから、フィノメノンをこの手に!と狙われたのじゃ。』

ひゅ~ん、とニリヤの鼻が鳴る。

『フィノメノンは悩んだ。そしてカルムに言った。知識を最初から話さなければ、国々の取り合いに、狙われる事がなかったろう。しかし、話さなければ、失う命が多かったろう。各国が協力して、どこの国も得をするように、仲良くできないものかな、と。しかし、う~ん。そうはいかなかったのじゃな。カルムは悩みを聞いて、フィノメノンを護った。切実な願いに、カルムの魔法は素晴らしく成長した。しかし、願いも虚しくーーードゥートの国に戦争を仕掛けられ、チュテレールは滅び、フィノメノンは乱暴に攫われた。周りの国々も乱れて戦いを始めた。囚われたフィノメノンは、手足の自由を奪われて、この上にも戦いの為の知識を吐き出させようと、虐められた。他の国から、もっと土地や食糧を奪うためじゃな。カルムは間に合ってくれ、と祈りながら、助けの手を必死で届かせようとした。その絵がこちら、《カルムのドゥート突撃》じゃよ。フィノメノンはーーー争い合う国々を、自分の知識でつくるまいとーーー虐められて心と身体が弱っていた事もあるのじゃが、自分で、命を、絶った。カルムは、間に合わなかった。画面の右、胸にナイフを立て、今にも息が尽きようとしているフィノメノンが、血を流しているじゃろうーー傷ましい事じゃよ。』

「ーーーーー••••••。」

『国々は後悔した。死なれてしまうくらいなら、協力しても良かったかも?などと、今更言う者もおった。カルムは、泣き、叫び、怒った!この絵が、その、《慟哭のカルム》じゃ。亡くなったフィノメノンを抱きしめ、連れ帰り、弔い、エルフの森へ引きこもった。穏やかで優しい、フィノメノンが、望んでいた世界を、俺が!と死に物狂いで魔法を極めた。そうして、今更の各国平和交渉の場に現れると、円卓に着いた当時の権力者達をギロリと睨みつけ。ギフトの御方様欲しさに戦争する事を、お互いに子々孫々まで禁じる、誓約魔法をかけたのじゃ。それがこの絵、《誓約の大魔法使いカルム》じゃ。』

ぐしゅ、と鼻を啜り、ぐすんと目を擦るニリヤ、ネクター。オランネージュは静かな表情で、アルディ王子はお耳尻尾をヘタらせ、瞳うるうるしている。
エルフ一家も、ほう、と息を吐きつつ、目尻に涙を浮かべている。

竜樹も、なんとも言えない気持ちになる。先達達の、歴史あってこそ、今の自分の恵まれた環境があるのだ。人は過ちを犯し、そして取り返せないものを失い、そうしてはじめて一歩を進む。その前に、気づく事が出来ればいいのに。

「ぼ、ぼくも、うっ、ししょうがさらわれたら、お、おいかけて、たすける。ひっく、だから、ししょう、ど、どこにも、いかないでね。まっててね。」
竜樹の手をぎゅっと握って、フリフリしながら、ニリヤは言い募る。

「うんうん。ちゃんと待ってるよ。それに今は、カルムのお陰で、みんな争わないから、心配しないんだよ。」



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