王子様を放送します

竹 美津

文字の大きさ
上 下
325 / 510
本編

とくべつのかんけい

しおりを挟む
オグルの栄光を描いたニュイの絵が続く。
国同士が戦を始めてしまい、その初戦、今にもぶつかる、という所で。光と雷の魔法をもって両国の軍の兵士達や軍馬を麻痺させ立ち往生、無力化させたオグル。この特別展のチケットにもなった、救いあるオグルの魅力満載な絵である。
他にも、戦いになる前に暗躍するオグル。口で権力者を言い負かして。時には脅し、時には甘い利益を思いもよらない案で出して、そして時には互いの恨みつらみを国同士の戦いなんかにせず、直接打ち当たれ!と空気抜きに無理やり喧嘩させ。
その、ありとあらゆる場面を、ニュイが鮮やかに描く。他の画家の絵もあるが、どうやってもニュイの絵の存在感には、敵わない。
そして、ニュイが描いたもので。人々の争いにウンザリしている、画面が暗い、疲れたオグルの絵もある。ローズ姫が、後ろから手を肩にかけ、今にも大丈夫?と言いそうな表情。
オグルの絶望感漂うその絵なのだが、何も言う事が出来ない、心が波立ち、鼓動が速くなるような引力がある。
それらの様々な絵は、ニュイが、オグルの私生活を、本当にごく近くで、じっと見つめていたのだ、と思わせる。

『オグルの栄光の絵を描いたニュイじゃが、その最高傑作は、死ぬ1年前に描かれた。この大きな絵が、それじゃよ。オグルが自分の息子、生まれたばかりの赤ん坊を抱いて、微笑む絵じゃ。光が射し、明るく、清らかで、じんわり胸が温かくなるようじゃろ?オグルの苦労も、ニュイの芸術も、この絵で昇華、高みへと飛んだってことじゃな、そして結実、実った!』

『どこかに恋の苦しみをのせた、若い時代とは違い、オグルの幸せをニュイも幸せと心から思う、しみじみとした温かい愛情をもって、描かれた。恋心が、深い愛に変わったんじゃな。まるでエルフの愛し方のようなニュイの愛情は、どこかでオグルに届いたらしい。オグルは、ニュイが死んだ後、自分の生きている間は、ニュイ以外の画家が描いた絵を、認めなかったという。まあ、認めんでも画家は勝手に描いちゃうんじゃが。モデルになって、とかを断ってたらしい、と子孫の本に残っとる。ローズ姫とはまた違う、結ばれて、恋人になるより、もっと特別な関係、というのが、2人の間には、あったかもしれんねぇ。』

「とくべつな、かんけい。ぼくと、ししょうも、とくべつな、かんけい?」

ニリヤが振り返って竜樹を見た。

竜樹は、分かりやすくガイドして欲しかったのと、子供達にどんなガイドをするか知りたかったので、ニリヤ達と同じ、子供用のイヤホンガイドを聞いていた。聞くタイミングもニリヤと同じくらいだったので、ニリヤが何でそんな事を言い出したか、分かった。

むぐぐ。笑っちゃ悪いから、真面目な顔をして、腕組み応える。

「うんうん。ニリヤと俺は、弟子と師匠の関係だから、とってもとくべつだな!」

パッ!笑顔が咲いて、ウフフとニリヤは竜樹に抱きついた。ポフポフ、と竜樹は小さな背中をとんとんしてやる。

「わ、私は?」
ネクターが、お口をまむまむさせながら、聞いてくる。オランネージュも。
「そうだよ、ね、ね。私だって、特別でしょ?」

「うん。ネクターも、オランネージュも、特別に仲良しだよ~。それに、ニリヤのリュビお母さんから、3人仲良くね、面倒みてね、ってとくべつに頼まれたんだものなあ。」
「うん!」むふ。
「そうだよね~!ずっと一緒だよね!」ムフフ。
ぎゅむぎゅむと2人も抱きついてくる。

「わ、私は?」
ひこ、ひこ、とお耳と尻尾を揺らす、アルディ王子。目が期待に瞬いている。

「アルディ、俺の、初めての獣人の仲良しだな!とくべつだね!」
ムフン!鼻息フンと、竜樹の横に抱きつくアルディである。

それを見ていた、エルフのロテュス王子は。手を胸の前で組んで、ポポッと頬を赤らめた。
「私も、竜樹様に、とくべつって言ってもらえるように、なりたい!」
囁きは、特別な想い。受けて黒髪のエクラ王子は、ロテュス王子を見上げて心配そうな顔をし。
カリス王子は、ひゅん、と鼻を鳴らして眉を寄せ、ロテュス王子に寄り添って。
ウィエ王女は、ムムッとして、クルクルカールをクシャッと掴むと、竜樹をキッと見上げて睨み、口を開いた。

「竜樹様!それってどうかと思います!みんな特別は、誰でもおんなじ、って事でしょ!誰か、一番、特別に、代わりに死んじゃっても良いくらい好きな人は、いないの!?特別なニリヤ王子と、特別なアルディ王子が喧嘩したら、一体どっちの味方をするのよ!?」

あ、あの。なるべく小さい声でね、ね。
ボンの囁きも、必死だが。
ロテュス兄さまを守ろうとする、ウィエ王女だって、必死なのだ。






ーーーーーーーーーーーーーーーー
オグルをオルグって間違えてました!
たまにやるのよね、こういうまちがい。
あれっ、と思った方、すみませぬ、直しました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で双子の勇者の保護者になりました

ななくさ ゆう
ファンタジー
【ちびっ子育成冒険ファンタジー! 未来の勇者兄妹はとってもかわいい!】 就活生の朱鳥翔斗(ショート)は、幼子をかばってトラックにひかれ半死半生の状態になる。 ショートが蘇生する条件は、異世界で未来の勇者を育てあげること。 異世界に転移し、奴隷商人から未来の勇者兄妹を助け出すショート。 だが、未来の勇者アレルとフロルはまだ5歳の幼児だった!! とってもかわいい双子のちびっ子兄妹を育成しながら、異世界で冒険者として活動を始めるショート。 はたして、彼は無事双子を勇者に育て上げることができるのか!? ちびっ子育成冒険ファンタジー小説開幕!!  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 1話2000~3000文字前後になるように意識して執筆しています(例外あり)  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ カクヨムとノベリズムにも投稿しています

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~

明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

処理中です...