王子様を放送します

竹 美津

文字の大きさ
上 下
311 / 581
本編

16日夕刻 おぼんの終わり

しおりを挟む
お披露目広場は、もう一番星も出る天を上に、ざわざわと人々が集まりきって、しばらく。
ランタンが地上の星、瞬くその中を、ポッと魔道具ライトの光が増える。作った一段高い舞台に、ピアノとバラン王兄が照らされて逆光、シルエットで浮かびあがる。

ハルサ王が、スッと、バラン王兄の前に歩み出て、両腕を上に挙げ。

『初めてのおぼん、あらゆる生きとし生けるもののみ魂よ。
束の間、この世に来て、縁ある者を見守ってくださり、私たちは感謝しています。
どうか、かの地に戻り、心やすく過ごされて、来年もまた、おぼんに来てくださいますよう。
そして、また生まれ変わるその時に、再び良き出会いを致しましょう。』

スーッと息を吐ききり、吸って。

『私たちこの世に生きる者は、それぞれ懸命に生き、再会をお待ちしています。一時のお別れのしるしに、歌を捧げます。』

スッと手を下げて、ハルサ王が舞台を去る。

ポロリン♪
ピアノが一音。
バラン王兄の、低く甘い声が響く。

生まれてきたの 貴方に会いに
育ってゆくの 貴方と共に
春 花咲く 愛されたくて
貴方と出会って 私は変わる

生まれてくるの 2人の絆
愛しているの 小さな貴方
夏 大空に こころ ひらく 
貴方と出会って 私は変わる

秋 実る 私と貴方と貴方達
冬 託す そしてさよなら
私と出会って 貴方は変わる

沢山の手を取り 引いて 引かれて
空の彼方に 放り上げられるまで
楽しく 一緒に 暮らしましょう
一時はかけら そして永遠

巡る輪が交差する
その一時 一時のために
生まれてきたと いつか知る

またここで 会いましょう
私で貴方が 変わるよう
貴方で私が 変わるよう


ポロリン♪

柔らかく、ロマンチックに、堂々と歌うバラン王兄。最後の一音を弾き余韻を残して、天に捧げる歌が終わる。

と。



天上から響いてくる、地面を揺らすように、高く、同時に低い、複雑な響き。

『リンゴーン・リンゴーン・リンゴーン♪』

『私はレナトゥス、再生の神。可愛い魂達よ、縁ある者の今を見届けて、現世の未練を消化して、再び生を受ける気持ちに、少しは、なったかい?』

『まだ時が必要だ、という魂も、また来年おぼんに来る事として、生きる者は現世に、生まれる前の浄化されるべき魂は冥界に、別れてそれぞれの時を回そう。』

『では、今こそ帰れ、冥界の門へ。』

空が再び、切り裂かれる。
つつ、つつうぅ、と、両開きの扉の形に開かれた冥界の門。
開くと共に、地上にあった魂達が、ザワッ と浮き立った。

キラキラ ザザぁ 生きる者達に触れながら流れて、生命の源泉。

竜樹は3王子や3お祖母様、先王様と。
ハルサ王とマルグリット妃には、大量の無縁の、そして人ならざる者達の、魂の奔流が。

目の不自由な、けれど母の枷を逃れた、生き生きした表情のプレイヤードは。妹フィーユ、父アルタイル、祖父サジテール、祖母シームと、皆仲良く寄り添っている。ランタンからふわりと魂が浮いて離れて。

ピティエはルテ爺も一緒に、補助を担うコンコルドも連れて。父に母、そして分離ができる従兄弟のアトモス、その弟マタンとも。
大役のモデルも終えて、ほっと温かい気持ちに。魂達のザザッと頬を撫でる、命のほのあたたかい流れを体感して。

新聞売りの寮、子供達のリーダー、ジェムは。買ってもらったランタンに付いてきた、多分父や母の魂が、くるくるとジェムの周りを纏わりつきながら空へ昇ってゆくのを、目で追って。
周りで寮の子達も、それぞれ自分のランタンから離れて昇る魂に、名残り惜しく手を伸ばしたり、手を振ったりし。

子供達を見守るラフィネ母さんの側を、一つ力強い光の魂が。息子サンの周りを回ってから、ラフィネの髪をふわりと揺らして飛び立った。

体育館にいるエルフ達は、テレビで魂送りの中継を観ながら、落ち着いて夕食後のゆったりした時間を過ごしていた。
エルフの魂達も、傷つき疲れた、今この世にいるエルフ達の周りをキラキラ回って、空に向かう。
エルフの王、リュミエールはグッスリと安堵して眠っていたが、良い夢がみられているであろう、微笑が漏れて、そして魂達が頬を撫でて行く。


ワイルドウルフ国では、ブレイブ王とラーヴ王妃、そしてファング王太子とアルディ王子が、魂達の川の流れに、尻尾をブンブンと振り。

フードゥル国の王太子、カルネと、念の為椅子に座る、妊娠中の妻リアンは、手を取り合ったまま、天上を仰ぐ。

エルフを虐げたジュヴールの国では、誰も儀式はしていなかったけれど、魂達は思い思いに縁ある人の所でチカリと光り。そうして、呆然と見送る人々を置いて、天へと。

各地各国で、それぞれ送られてゆく魂達は。
天で集まって。



ま た ね (^-^)/



などと文字を形づくって、冥界の門をくぐり、消えていった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

処理中です...