王子様を放送します

竹 美津

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本編

女王と王と

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竜樹とジェム達の寮で、ただ働き中の元王女2人の兄、フードゥル国のカルネ王太子は。
妻リアンの、くるくると波打つ、耳横に垂らされた金の髪を、好ましくジッと見ながら、スッと手を出した。

今はおぼんの帰国中。愛妻リアンの朗らかな笑顔に癒され、そうして、お腹の中の、7ヶ月の子供に会い。
そう、カルネ王太子は、今日の午前中に、我が子に会ったのだ。

おぼん最終日、儀式を待つ間、ソファに隣り合わせで座ったリアン妃は、うふ、と笑って。カルネ王太子の出された手に手を乗せて、そうして指と指を絡ませながら、ギュッと握られて、すりすりされて。
くすぐったく、くすす、と笑顔のまま、肩をすくめる。
カルネ王太子の眼差しは、愛おしいものを見る目つきそのもので、パシ、パシ、瞬く黒く、ピカリと光る流し目は、リアン妃から離れない。

「私たちの、赤ちゃんは、元気に育っていたね。」
「ええ!我が君、カルネ様。とても可愛い子達だわね!このお腹の子は。」

するり、膨らんだお腹を、繋いだ手で2人は撫でる。

カルネ王太子が命を救われた、カラダすきゃなを、おぼんの里帰りに一緒に持ち帰り。その画像の見方を習得し、他諸々の検査方法も持った魔法療法師もつけて、フードゥルでも医療を発展させようと、その一歩に、リアン妃も協力したという訳である。例が集まれば集まるほど、医療の助けになる。竜樹達がいる国、パシフィストと協力し合っての事業、健康診断だ。

お腹の赤ちゃんを見るにあたり、リアン妃は、さっくりさっぱりした気性の、賢い女性であるものだから、新しい事にも変に恥ずかしがらず、ニコニコと夫に聞いた。

「我が君、カルネ様。一緒にお腹の中の赤ちゃんを、見てみますか?」

えええ!?
そうか、そうだよな、見られるんだよな。
お腹の中にいる子を?
どんな風に育っているか、生まれる前に?

カルネ王太子は、ワクワクして、そしてソワソワして、何だか妻とはいえ自分以外のお腹の中を、ハッキリと見てしまっていいのか戸惑い、しかし。
やっぱり見たい!と。

「我が妻、リアン。私にも、赤ちゃんに会わせてくれるのかい?」

おずおずと、聞いた。

「もちろんよ!」
うふ、ふふふ、と良い雰囲気の息子夫婦に。父王は、私も見たいな~、と。
「私も••••••。」「父上はご遠慮下さい。」
カッ と目をかっぴらいたカルネ王太子に、拒絶をされた。

何で何で、私なんて、カラダすきゃなで身体中あれこれ、あーでもないこーでもない、興味津々に、魔法療法師や医師達に見まくられたんだぞ。孫を、チラッと見たいと思っても良いだろう?
父王はごねたが。
「ダメです!裸より赤裸々な身体の中まで、女性に見たいだなんて!破廉恥な!私が見ます!夫の特権です!」
それでなくても、リアンのカラダすきゃんだって、勉強目的の医療関係者が鈴なりなのに!

そしてフードゥル国王の身体は、ちょっと脂肪肝だったけれど、他には特に注意すべき所はなく、健康そのもの。自分の身体の中を、興味深く見たフードゥル国王である。
あー、こんなふうになってるんだぁ、人の身体って。へー、へー。
娯楽ではないのだが、初めて見る者は皆、目をどんぐりに見開いて、そして目に見えるから、医療関係者の忠告も身に染みる。

甘いものやお酒は、ほどほどに。
と言われて、料理長とも相談し、フードゥル国王は、無理なく節制を始めた所である。

リアンのお腹の中を見る前に、何度か妊娠中の女性ーーー貴族達はこぞって協力を申し出たーーーのお腹の中を医療関係者は見て、慣れて、準備万端。
ご飯を食べないで、すきゃんに臨んだリアン妃の手を握ったまま、カルネ王太子は、ごくり、と喉を鳴らした。

カラダすきゃなは、魔法の力を使って画像を見せるから、まるでお腹の中にカメラが入ったか、そして照明も程よく当てられているかのごとく鮮明に、くっきりと見る事ができるのだ。

「リアン妃殿下。寒かったり暑かったりしませんか?これからカラダすきゃんしていきますが、ちょっと、くすぐったく感じるかもですね?ゆったり、気持ちが落ち着いたら、さて、見てみましょうね。」

パシフィストから招いた魔法療法師は、女性だったので、リアンも身を委ねやすかった。

かち、かちん。すきゃな部分についた、深度を変更するトリガーを引いて、じっくり見ていく。
首から胸、心臓や肺、食道に胃を見て。リアンは鮮やかな画像に興奮して、まあ、まあ、まぁあ!と小さく口に出した。

「私の中が、こんなふうになっているだなんて!すごく、面白いわ!」
「気持ち悪くは、ないかい?」
カルネ王太子は、自分の時に、少し怖い気持ちがしたので、リアン妃に聞いてみるが。

「全然、全く、気持ち悪くないわ!楽しいわ!うわぁ、わぁぁ~!」
うむ。瞳が興奮してキラキラである。
ふふ、とカルネ王太子も魔法療法師も苦笑して、さあ。
これから下腹部に。

「はい、こちらが子宮ですよ。大きくなってきてますよね。胃などが上に押しやられているのも、分かります?」
「分かります、分かりますわ!なるほど、これでは、少しずつしか、食事が入っていかない訳ですわ!」
「ええ、ええ、そうですよね~。私も妊娠した時、そうでした~。身体の調子を疑ってしまうけれど、物理的に押しやられているのですねぇ。」

ウンウン、と共感の女性2人。男性達も、ふむふむだ。

「では、子宮の中を見てみましょう。」
「はい!」

ズズズ、とズーム。



「うわ、ふわぁぁ。」
「あぁ•••。」

透き通るかと思うほど、肌の薄い、みずみずしい小さな赤ちゃんが、頭を下に。
そして、もう1人の赤ちゃんも、寄り添って。

「双子ちゃんだわぁ!」
「う、ウンウン、双子だ!」

ぎゅぎゅ、と手を握り合った夫婦は、力を込めて、そして驚きに画面を見つめ。

ふ、と1人の赤ちゃんが、瞼を開けて、パチリとまた閉じた。
もう1人の赤ちゃんは、小さなおててを、口元に寄せ、グイ~ッと、足を張って、お母さんのお腹を蹴った。

「あら、あらあら、あら!あんよがお腹を蹴ったわ!」
「ま、瞬きも、したな!」

「性別も、わかるかな?ああ、1人は、男の子ですね!こっちの子は、ん~。」
すきゃなで深く浅く、探るが、もう1人の赤ちゃんの股間には、男の子の印が無かった。
「女の子ですね!」

男の子、の所で、ふわぁ!と周りが浮き立ち。そして、女の子、の所で、ウンウンふむふむ、王位争いは起きないな、と誰かが口に。

カルネ王太子は、それに、ぎゅむ、と唇を結んで、気持ちの違和感を飲み込んだ。
握る手の力の強さで、それを知ったリアン妃は、口をニコリと笑みの形にすると、眉をピクンと片方上げて、不敵にふふふ、と息を低く、漏らした。



少し小さいけれど、二卵性の双子は健康に、すくすく育っていますよ、と言われて。ホッとした夫婦は、今、おぼんの儀式を待つ間に、しみじみと親になる感動を味わっている所なのだった。

「我が妻、リアンよ。」
「ええ、我が君、カルネ様。」

父王でさえ、男の子か!と知らせに喜び、そして女の子かぁ、と落ち着いたテンションで、むふふニヤリとした。

「•••私は、竜樹殿に、妹達の事で、こんなふうに言われたんだ。」
「どんなふうに?カルネ様。」

女の子だから、って、良い所に、お嫁に行くばかりを目標とされて、それしか価値がないように、育てられたら。
合っている子は良いけれど、合っていなければ、そんな息苦しい生き方は、花街の花と、あまり変わりはないのかも、って、ラフィネ母さんと話をしたんだ。

「って。君だって、実は私よりも、賢くて。でも、それを、望まれては、いないーーー補助をする女性がいてくれて、とても助かる事ではあるけれど、女性だからって、女王になれない訳じゃない。もちろん、この子が、なりたいかどうか、向いてるかどうかは、ある。でもそれは。」
「私たちの息子にだって、言える事よね。」

ああ、そうだ。

「ーーー私は、息子と娘、両方に、可能性をあげたい。同じく学ばせて、何なら、2人で、王と女王で、国を守る、それだって、良いじゃないか?」
それに、そうすれば、2人とも手元にいてくれるし。
カルネ王太子は、もう今から、息子や娘を婚姻で手放すのがイヤなのだった。

ニッコリ、満々の笑みで、リアン妃は。

「カルネ様。流石は私の旦那様。私も、それが良いと思っていたの。」

せっかく双子で生まれるのだから、役割を決めてしまって割り振って育てるより、お互いに同等で助け合い補助し合う、どちらがどうでもやっていける、そんな育て方をしてみましょう。

「もちろん、当人達が、外に出たいと言えば、考えなくもないけれど、ね。」

カルネ王太子は、へにゃ、と口を曲げて、それはイヤだな、って顔をした。
コロコロ、とリアン妃は笑う。

「国を引っ張る責任は、王族なのだから、私たちにも子供達にもあるけれど。まあ、まだ生まれてないのだし、先々まで考えるより、生まれた子供達に、男だから女だから、と枷をかけないように、私たち夫婦だけでも、そのように、育てられたら、嬉しいわね。」
「ああ。妹達も、そうしていたら、もっとーーーあんな風にではなく、生きられたかもしれない、と思うから。」

そうね。
そうだよな。

夫婦の握り合った手は解けず。
キラキラと、おぼん最終日、魂達が祝福を、足元から光のぼるように、さぁっと流れて。

「魂達が、空に向かっているね。」
「ええ。どうか、この先を、見守ってくださいますように。」

来年もここで、お待ちしています。

「私も、エルフの造ってくれるはずの魔法陣で、ちょくちょくパシフィストとこの国を行ったり来たりできるはずだから。リアン、心強く思っていておくれ。」

「はい!カルネ様!」

夫婦は手を取り、立ち上がって、魂を送る、儀式へと向かう。




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