王子様を放送します

竹 美津

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本編

16日 オーブに、おまかせ!

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『初めまして、リュミエール王様。俺はパシフィストのギフト、畠中竜樹と申します。』

『私はリュミエール、情けなくも、我が同胞、エルフ達をジュヴールの呪いなどにさらしてしまった、愚王であるよ。』
グッと握手し合って。リュミエール王は、細く長い指、節の目立つ乾いた手のひらで、今まで囚われていたとは思えない程に強く想いを込めて、竜樹の手を両手で包み、握ってきた。

『だが反省は後でもできる。共感覚で見ていたよ、竜樹殿、色々とありがとう。今は、残りの同胞らを助けるよう、重ねてお手伝いいただけまいか。』
『もちろん!』

大陸全土に今、エルフ達の現状と救出を放送しているよ、と告げると、どういう事かな?とリュミエール王は面白そうに瞳を輝かせた。

くっついてきたチリが、魔法で小さなテレビ画面を作って見せる。リュミエール王様が、竜樹達と、地下の中枢で小さなテレビを見ている映像が、確認できる。
テレビの中にリュミエール王様がいて、見ているテレビの中にリュミエール王様がいて、と永遠に続く入れ子だな、と落ち着いて竜樹はそんな事を考えていたが、時間は有限である。

『さて、残りの囚われたエルフ達を助けに行きましょうか?』
ニコッと竜樹が笑えば、周りのニュース隊やマルサにチリ、エルフの魔法使い達、ロテュス王子も笑う。
余裕のあるその態度に、リュミエール王も口角を上げた。

『ああ。残りのエルフ達は、我が息子、エクラを除いて1箇所に集められている。』
『1箇所に?』
そんな都合の良い事が、あるだろうか。

『そうだ。そこには罠も張られている。飛び込んで行けば、すぐに呪いに侵されるよう、発動条件を印した魔法陣に囲まれて。』
やっぱり都合は良くなかった。

『残りのエルフ達は、そんな中にいて、大丈夫なんですか?』
竜樹が心配すれば。

『ああ。大丈夫だ。残りのエルフ達は、あまりにも厳しい状態にあった者達で、植物の種子のように命を持ちながらも、硬く丸まって眠っているのだ。種子ならば、外部からよほどの事をされなければ、自分が守れるだろう?』
種子になった大部分は、栄養の足りなかった赤子や年寄りエルフだが、中には子供や大人の者もいる、身体だけでなく、心が辛すぎても種子になるのだ、とリュミエール王が言う。それは本当に、痛ましい事だけれど、厳しい状況のエルフ達が生き延びた、という事は、喜ばしい。

『種子になるほど制限されて、心身が痛んでいたなど、明らかにエルフを虐待していた証拠にもなろう!てれびでほうそう、大陸全土に、明らかにしてやろう!』
ウンウン、と頷くカメラクルーに、リュミエール王も、グッと拳を作る。

『眠っているのですか?お父様!だから、私の共感覚に、静かで微かな、衰弱してるのかな、って思える感じで伝わってきてたのですね?』
ロテュス王子が、少し安堵したように言い募る。
『そうだ。さて、どうやって攻めようか。』
ため息が漏れるが。

コケケ、ケコ!
オーブが、高らかに鳴いた。
竜樹がスマホの翻訳画面を見つつ。

『心配ない。このまま、皆で一緒に転移すれば良い。神鳥オーブがついているぞ。』
ケココ。とオーブも頷くのである。

『情報の神、ランセ様の鳥オーブにとって、人間の作った呪いの情報を読み取り解除し返すなど、容易な事なんだからね!』
珍しいめんどりのドヤ顔。
竜樹もニヤリと微笑んで、ではでは。

『虎穴に入らずんば虎子を得ず、だね。まぁ、オーブのお陰で、リスクはあるような、ないような。行ってみましょう!』
おー!

キラキラ、シュイン!と、触れ合って転移。



その頃。
パシフィストの体育館で、手を祈りの形に組んで放送を見入っているエルフ達、その中心のヴェルテュー妃が。
リュミエール王の言葉『我が息子、エクラ』と、ヴェルテュー妃とジュヴール王キャッセの間に生まれた子供を、当然のようにエルフの我が子と認めて発した瞬間に。
周りのエルフ共々、ほころぶ笑顔を見せたのは、言わずもがなである。
信じている。信じられる。だから、耐えてきたのだ。

そして、その瞬間を。
息子と呼ばれた当の本人、エクラも。

エルフを逃す為に騒ぎを起こしたと、縛られ紐の端を、兵に引っ張られながらも、王宮の庭に連れられて出て。
大きな幾つものスクリーンを見つめ、うりゅり、涙を浮かべ膝をついて。

「お、お前が、エルフを逃したりしたからだぞ!」
焦る兵に背中を蹴られて、地に伏したけれども。
もうこれで思い残す事はないと、深く息を吸って、吐いた。



ストン、と地に靴底がつき、竜樹達が転移先に着いたと同時に。

ヴォォン

コケコケコッコ!!

魔法陣が、先程のリュミエール王の周りで起こったのと同じく、浮かんでは、ザラザラと黒い砂になり崩壊した。

『うぁぁぁ!!』

何処かで、呪いが返された者の悲鳴が聞こえるが、知った事か。

ガランとした部屋は、王宮の中の、夜会でもする用の広間だろうか。
その床に、驚く程ぞんざいに。
ゴロリゴロリと、エルフの小さな小さな赤ちゃんや、痩せ細った壮年のオジエルフ、オバエルフ。若者子供もチラホラと、その身を守りまん丸くなったエルフ達が、敷布さえなく、直に転がされていた。
静寂。
呼吸をしているようには見えないが、リュミエール王によれば、ほんの僅かに、確かに息をしているのだという。

『眠っている者を、みだりに動かすな、傷つけず大事にしろ、と私は契約したのだったがな!結局破られる契約だったのだから、もう私がジュヴールの大地に作物を育てる力を注がなくても、誰も文句を言うまいよ。』
顰めっ面で、そっと眠る赤ちゃんに近寄り、膝をつき、ちいちゃなその手を撫でて慈しむ。

『下手に動かさない方が良いですか?パシフィストの体育館へ転移する、携帯魔法陣を持ってきましたけど、大丈夫かな。』
『も、持ってきました!』
チリとエルフの魔法使い達が、ささっと魔法陣を広げて見せる。

『いや、そっと運べば大丈夫だ。パシフィストの体育館に、エルフ達がいるなら、家族の者が受け取ってくれよう。私達エルフは、血縁の者は匂いで分かるから、赤子なら母親が喜び勇んで抱き上げるだろうし、他の者も喜びをもって世話されるだろう。』

『じゃ、じゃあ、様子が分かるように、体育館もスクリーンに映しますね。各国のスクリーン担当エルフの魔法使いの皆さんも、よろしく体育館~!』
チリが簡単に腕を振るえば、体育館が映るスクリーンが、ジュヴール含め各国、そして撮影しているパシフィストカメラクルーにも分かるように、空中に。
『待っててね、今から残り89人のエルフ達を送るからね!』

スクリーン越しに語りかければ、体育館では、おお~っ!!と魔法陣の周りにソワソワ、家族と離れ離れにされたエルフ達が、集まって待った。

ゆっくり、ゆっくりよ。
竜樹も手伝って、まずは軽くて運びやすい、赤ちゃんエルフを、そっと抱っこして、魔法陣に乗せて送る。
送られて、体育館では、母親達がそっと抱き上げてその手から手へ、抱いて運び。

『ああ!私の赤ちゃんよ!!』

自分の赤ちゃんと分かった1人の母親エルフが、喜び大事そうに抱え込む。
その側を、母親と一緒に、その伴侶、父親となるのだろうエルフが。慈しみの目で妻を促して、次の赤ちゃんを皆が受け入れやすいように移動させる。

『種子のエルフは、眠っているが周りの状況が分からない訳ではない。愛情を持って触れ合って、時々お乳や果汁などで唇を湿らせてやり、周りのエルフ達が安心して暮らしていれば、もう大丈夫なのだな、と目覚めるはず。』
『では、パシフィストの体育館側に、対処はお任せしましょう。』

せっせと抱いて運び、順に子供エルフ、大人エルフへと移り運んでいく。ニュース隊は記録する為に外れているけれども、竜樹は勿論、リュミエール王様やロテュス王子も、そして護衛のマルサ達だって、見張りの1人を残して手伝った。

オーブは、コッコ、コココ、と鳴きつつ、広間を巡る。
広間の四方の入り口出口で、どかっ、バタバタ!と当たる音はするが、その都度オーブがコケコケ鳴いて、『うわぁぁ!』と叫び声がするので、何かやっているのだろう。



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