王子様を放送します

竹 美津

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本編

16日 家族になって

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『あ、王子様達も、久しぶりだね~!元気だった?』

エルフに驚いた竜樹の弟コウキだったが、まずは3王子達の呼びかけに応えてなかった、と挨拶をした。コウキ、律儀なのである。

「元気だよ~!」

わわわ~、と3王子がぴょんぴょん、一層手をフリフリ。コウキは、アハハ、と画面で笑い、元気そうだね、良かったよ~!と喜んだ。
お互いの状況が良く分かるように、連絡を取る時は、テレビ電話にする事にしている。

「それで、コウキ、どうしたの?」
竜樹が聞くと。テヘ、とした表情になり。

『俺、その、結婚することになったんだぁ。』

「ウンウン。ウン? ぇええええ!?」
「けっこん!」
「ふわぁ!」
「すごい!」

竜樹が頷き、首を傾げ、そして一拍置いて驚いた。3王子達は、拍手して喜ぶ。
コウキは頭をぽりぽり、赤くなって、テレテレしている。

チリ魔法院長と、エルフのファマロー魔法使い、そして他のエルフの老若男女魔法使いが、わわわと竜樹を囲み。
「い、異世界と繋がってるんですよね!?」「是非、ぜひに、大きな画面でやり取り見せて!」と寄ってたかって魔法で、空中に大きなスクリーンを出し、チリが、えーい、とスマホとスクリーンを繋いだ。有無を言わさない早業である。
うわぁ、と、そこにいるエルフの皆が、大画面でコウキの、てれれを見られるようになった。

『エルフの皆さん~!こんにちはぁ!』
コウキの呼びかけに、エルフ達も、ふわわぁ!こんにちはぁ!と手を振って応える。

「結婚て。あの、付き合ってるって、紹介してくれてた、鏑木さんと?」
『ウン。今ここにいるんだぁ。あと、娘の千沙ちゃんも。今日は報告と、あの、竜樹兄の事情を、結婚するなら、知っていて欲しくって。』
「おうおう、そうか。」

一度社会に出てから再び学びたいと、女優をやりながら大学に通う、歳上の鏑木文かぶらぎふみさん。コウキは大学で出会い、付き合うように。
そんな報告を、1年前位から、確かに受けていた竜樹である。会った事も、何度もある。

小学1年生の、娘の千沙ちゃんは、実際には文さんのお姉さんの子供だ。お姉さん夫婦は、事故で他界された。また文さんの親御さんも、歳をとってからお姉さんと文さんを授かり、病も得て、早いうちに鬼籍に入られている。
文さんは、はいっ!と立候補、お母さんとなって、千沙ちゃんを引き取って、愛しく育てている。

コウキも子育てを手伝って、畠中家にも良く皆で泊まったりして。千沙ちゃんも文さんも、母マリコと父のタツヤ、兄竜樹に妹サチとも、家族ぐるみで親しんでいた。

テレビ電話の文さんは、さすがは女優さん、スマホ画面でも麗しい。
ドラマで双子の女性と男性の役をダブルで演じたのが最近の代表作で、男性女性どちらの役も自然で妖艶だと、評価も高く。
低く落ち着いた声と、美しくキリッとした姿勢に凛々しい顔がクール、艶やかな流れる黒髪が実にかっこいい、大人の女性だ。年齢は28歳と聞いている。

『こんにちは!お話しするの、久しぶりですね。あの、私、コウキさんと、この度、結婚する事になりました。』
『こんにちは!ほんとだ、王子様?と、おみみが、とんがってる人たちがいるよ、コウキお父さん!』

撮影?撮影じゃないんだよ。内緒だよ?
コウキがニコッとした顔で、小学2年生だという千沙ちゃんの頭を撫で、文さんと視線を交わす。
ああ、コウキ、お父さんの顔になってるなぁ、と竜樹は、微笑ましく嬉しくなった。

「こんにちはぁ!お久しぶりです、竜樹です!結婚、おめでとうございます!異世界から失礼します、コウキをよろしくお願いします。」
『こちらこそ、よろしくお願いします!本当に、異世界なんですね!』
『おねがいしま~す!いせかい!』
「ええ!本当に異世界なんですよ~。」
『びっくりです!』
『びっくり!』
「アハハ!俺も、ここに来た時、最初はびっくりしました。」

文さんは、竜樹に。学生結婚で、コウキさんは、まだ若くて少し申し訳ないな、って気持ちもあるのだけど。と、ポツポツ話す。
『悩んだのですけど、コウキさんと、家族になりたいな、って、自然に思うようになって。』
「ええ、ええ。」
『千沙もコウキさんや、畠中のお父さんお母さん、サチさんに懐いてるし、早くお父さんになって欲しい、って言って。幸せだな、幸せに、なりたいな、って。』
『俺も、文さん千沙ちゃんと、家族になりたいんだ。』

文さんが、ほわわ、と赤くなる。
コウキのてれれが、加速する。

『そ、そんな訳で、結婚式をしたい気持ちもあるけど、2人でお金を貯めてからでも良いね、って話し合って。その代わりじゃないけど。』

馴れ初めから、フラッシュモブプロポーズを、コウキの友達と文さんの友達を集めて、そして文さんと千沙ちゃんがコウキに、してくれた時の映像も使って。

「コウキが、プロポーズされたの?」
『ウン。文さんも千沙ちゃんも、かっこよかったです。』
アハハハ!と照れてソファに並んで笑う、ニコニコの3人である。

『結婚ご報告動画を作って、ご挨拶がわりに、皆に見てもらおう、ってなったんだ!文さんの知り合いの、映像関係のプロの人達もノリノリで、ご祝儀代わりに、タダですごく素敵な、本格的な動画を作ってくれて。』
『お恥ずかしいです。』
『千沙もでたよ!』

竜樹兄にも、見てもらいたくって。送るから、見てね!
幸せそうな3人を、竜樹も、そしてエルフ達も、ホワホワと笑って受け。

『じゃあ、送るからね!』
またね~!と手を振り、テレビ電話の接続を切って、ファイルの転送サービスで送ってきたのを。

ウン?と竜樹がエルフ達と3王子を見る。
ワクワク。スクリーンでスマホの、ファイル受け取りの動きを見守る彼等は、目をキュルン!として、期待満々である。

ロテュス王子は、オーブを頭に乗せたまま、竜樹の側で、ジッと黙っていた。
ロテュス王子が呪われていた時より、ずっとエルフ達が、明るくて。
そして、目まぐるしく起こり発される情報に、追いつけなくて。
パチ、パチ、と瞬くばかりなのだ。
竜樹のマントの裾を、ギュッと握れば。
撫で撫で、と竜樹がしてくれたので、見上げて、フス、と息を吐いた。

「ウン。君たちも、動画、見たいのね?」
「勿論!」
「ぜひ!」
「「「みた~い!!」」」




フラッシュモブプロポーズの動画は、女優、鏑木文の魅力が、これでもか!と爆発していた。

モブ達の踊りは、多分コウキの友達の拙いものと、文さんの友達のダンサーらしき上手な人達と、混ざってそれも、いい味を出し。
カメラはきっとプロが撮影していて、流れるようなカメラアングルに、自然と視線が誘導されて。
そこに、バン!とポーズをキメて、踊り始める、鏑木文。
圧倒的迫力。

歌劇団の男役か、とも思えるスラッとした足は長くて、少しドレッシーな白いシャツに黒の燕尾服がなびき、くるくると。
驚いて固まっている、いつものいかにも大学生なTシャツにジーンズのコウキに、ステップを踏み、近づいてくる。
可愛いピンクのサテンワンピースの千沙ちゃんも踊りに加わり、そうして、モブから薔薇の花を踊りながら受け取って、2人は、スッと、コウキの前に跪く。
薔薇を捧げて。

『コウキさん。どうか、私と、結婚してください。一緒に、幸せになりましょう!家族に、なりたいです!』
『お父さんに、なってください!』

ほけ、としているコウキの顔がアップに。
そうして、むずむず!と口が歪むと、ニヒャ!と笑って。
薔薇を、2人から、受け取り。

『はい!文さん、結婚、しましょう!••• 千沙ちゃんのお父さんに、なります!』

わわわわわ~!
風船がどっとふわふわ。
ヒュー!と口笛。
モブ達にパンパンと肩を叩かれるコウキ、文さんと千沙ちゃんが両腕をとって、皆、弾ける笑顔。


『まだ未熟者の私たちですが、この度、縁あって、結婚する事になりました。』
『育ててくれたお父さん、お母さん。そして温かく私たちを見守ってくださって、今もお世話になっている皆様。』
『今まで、本当にありがとうございます。』
『私たち家族は、どんな事があっても、末長く、仲良く、楽しく、暮らしていけるように、努力してまいります。』
『これからも、皆様、どうぞよろしくお願い致します。』
『よろしくおねがいします!』

挨拶も簡単にだが3人で。



竜樹は、じ~ん、とする胸、目尻を拭って、良かった、良かった、と。

ん? エルフ達、固まって、る?



「なんて、す、すてき。」

ロテュス王子が、ギュッと竜樹のマントを握ったまま、おめめを見開いて、ぽわっ、と頬を赤くして。
ポツリと言葉を漏らした。
コココ、コケ。ロテュス王子の頭の上のオーブもなんとなく、ニッコリ気味に?鳴いた。

お父さんお母さんエルフ達も、子供エルフ達も、じいっと、最後まで流れて止まった動画から目を逸らさず。

「か、かぞくに、なろう、って。」
「おどりも、すごい!」
「あの黒い服、ステキじゃない!?」
「お花を差し出すのも、何だか、カッコいい!」
「ぷろぽーず、やってみたあぁい!」

きゃわきゃわー!
エルフ達、特に女性に大ウケなプロポーズ。男エルフ達は、あんな風に申し込まれたら、絶対結婚しちゃう!と胸を押さえてポッと赤らんで。
うん、普通は男女逆なんだけれども。と、盛り上がるエルフに、竜樹は言い出せなく。

でも、本当に綺麗な動画だった。鏑木文の魅力と、プロのカメラワークゆえであろう。
ミランが、ムムムム、勉強になります、とカメラを手に、唸る。

3王子達は、「けっこん、してください。」「トゥルットゥルー♪ 」「家族に、なりたい!」と、早速、踊ったり、真似っこしたりしている。

チリとエルフの魔法使い達は、異世界映像の繋がる仕組み、竜樹のスマホがどんなに便利か、作ってみたいじゃん!と再び興奮して侃侃諤諤である。

うん、ボランティアとか、残りのエルフ奪還とか、どっかいっちゃってないかい。
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