279 / 581
本編
15日 泥合戦
しおりを挟む
泥だらけの午前中を過ごした、竜樹達パシフィスト勢と、他国の外交官や留学生達。
エルフの代表と、ジュヴールの国王代理の宰相が、午後のいつ来るか。相手が明確にしていなかったので、皆、早め行動で集まってくれた。
こんな細かい所も曖昧で、受け入れる側に対して傲慢な、来訪予定者達である。
まあ、そのおかげで、泥団子は順調にたくさん作れた。
ハルサ王様も、マルグリット王妃様も、簡素な格好で子供達に混じって。泥まみれになりながら、さながら手でコンクリを混ぜる職人さんのように、夫婦で協力して、丁度良い塩梅の水分の泥を、タライの中に量産していた。
泥団子になる前の、ふるった異物のない土は、ふみ、ふみ、とオーブが念入りに踏んで、何故か足跡をつけて回っていたもの。時々ピカリ!としたのは、何故だろう。浄化でも、してくれていたのだろうか。
たまに、できた泥団子にも足型を、べし、べし、と押している。丁寧な仕事です。
泥だらけのまま、お昼となって、どうすんべ、と泥色の手や顔を持て余して、途方にくれていた皆は。
良い顔で笑って髪まで泥まみれになったチリ魔法院長の、指先からドババと出るぬるま湯を使って、ひとまず手と顔だけは綺麗にしていく。
バーニー君も、すぐ側で。シュパパー、とシャワー形に湯を魔法で出している。強弱どちらもございます、お好みでお選び下さい。
手と顔を洗う順番待ちの間、何となく楽しい泥遊びで気が抜けた面々は、ゆっくり和気藹々とお話し。
「フレ様。ナナン様。ご存知でしょうが、私の国、マルミット王国は、森のエルフがいる国です。森のエルフ達は、凄く臆病で、こちら側に熱意があっても、あまりお話もしてくれません。そもそも、お使いに、子供のエルフしか出して来ないんです。それでもこの強引な会談の立ち合いで、エルフと関わり合いがある国として、私が前に出なければ!と意気込んでいたのですけど。」
留学生の、マルミット国アルモニカ第二王女は、不思議そうな、躊躇いを、その素朴な山鳩色の瞳に浮かべ。
「これ、本当に必要な準備なのでしょうか?」
いえ、ギフトの御方、竜樹様を疑う訳ではないのですけど•••。
真面目な人柄のアルモニカ王女には、訳が分からない事が、受け止めにくいらしい。
「フレ様、どう思われます?」
うーん、とフレは首を傾げて。
「竜樹様に聞いてみましょうか。」
「•••えっ。聞いてしまったら、気を悪くされないかしら?」
「竜樹様なら、ちゃんとお話し聞いて下さると思うわ。」
ナナンも、洗った手をタオルで拭きつつ、笑って。
お昼ご飯は外で皆で。服はまだ泥だらけ、用意したご飯は、サンドイッチや唐揚げ、おにぎり。切ったフルーツ、果実水。
ワイワイと食べる中、竜樹は、戸惑う他国の代表みたいになったフレに問いかけられ。「ごめんごめん話さなくて、何でか分からないと、やりにくいよね。」と神の鳥オーブとのやり取りを話した。
「そういう事なら、泥合戦、本気で挑みます!」
アルモニカ王女も、他国の皆も、何となく納得がいって午後、充分に準備は出来た。
不意に、しゅ、キラキラキラキラ、と光が溢れて、寮の庭に現れたのは。
「あー、見た目では宰相が虐げ側で、エルフが虐げられ側だね。」
竜樹が呟けば。
「ですねぇ。」
チリがニハッと笑う。
苦みばしった顔の、黒髪に一筋グレー混じり、仕立ての良い、バサリとしたモスグリーンに金箔の上着を着た、40代くらいの宰相と。
尖った耳をもち、麗しい若葉の緑の髪をした。ヒラヒラの上等で繊細なレースのブラウスがよく似合う、少女とも少年とも見える、お人形の白磁の肌、桃色の頬につやつや唇、少し伏せられた憂いを帯びたエメラルドの瞳の、幼いエルフ。
手を繋いだ2人が、集まった泥んこ達の中心に。
竜樹のエメラルドの留め具は、泥んこの服の胸にも輝いていたから、宰相がニヤリと笑って、竜樹に話しかけようと。
一歩、前に。
竜樹が雄叫びをあげる!
「•••泥合戦の、始まりだ!!!」
「「「おー!!!!」」」
ベシャン!どろり、ボテ。
エルフの、とても上等な、華麗なブラウスに、べったりと泥が。
投げたジェムが、ニヤリと鼻の下を泥の指で擦る。
中性的な幼いエルフは、長いまつ毛をハタハタさせ、瞳をいっぱいに見張って。服についた泥を指で掬って、スン、と匂いを嗅いだ。
ふわっ、と本当に嬉しそうな笑顔になったのは、何故だろうか。
たたた!
ニリヤが、エルフに近付いて、ぎゅ、と手を握り、庭の片方側に引っ張って連れて行く。
「エルフとーった!」
子供達、3王子、ハルサ王様にマルグリット王妃、チリにバーニー君。そして竜樹の、パシフィスト国組がエルフを囲んで。
「エルフ取られた!じゃあ私達は、宰相とーった!」
フレが宰相の腕を取り引っ張る。
「は、はぁぁぁ!?一体、何を?」
宰相が暴れるが、フレがニヤリと絡みついて。
「泥合戦ですよ、ジュヴールの宰相様。あなたはこっち、他国組陣地!」
「だから何で、泥合戦•••!」
バシリ!べた、ぼと。
宰相の顔に、まん真ん中に、泥団子。喋ってて口開いてるのに。
ぺっ、ぺっ、としている所を。
ニヤリと良い顔をしたエルフが、ぶん投げた体勢、次の泥団子もロシェに渡されて、振りかぶって。
グジャ、ボテリン。
宰相の胸の真ん中に。
コントロールの良いエルフである。
「•••き、貴様•••たかがエルフの分際で、私によくも•••!」
ハイ、と羽交締めにしているフレの後ろから、宰相の手近くに、ナナンとアルモニカが、笑顔で泥団子を差し出す。
激昂して、どんな事になっているか振り返りもせず、手渡された泥団子を、はっしと掴んで、宰相は投げた。
ビシャ、ボテ。
グジャ、ドロ。
「宰相ねらえー!!泥団子よこせー!!」
「何故私が、こんな、泥合戦をををを!!!!もっと泥団子よこせ!」
ビシャシャ、バチン!
キャハハハ!
子供達の笑い声。
大人達のヒャーッという叫び。
ベチャベチャなのに楽しい。
皆、我を忘れて泥団子を投げ合った。
用意した泥団子がなくなり、ほぼ皆が全身泥まみれになった頃。
ココケケコココ!コケーッ!
「皆~!おやつの時間ですよ!泥遊びも、ほどほどにしなさ~い!!」
オーブと、腰に手を当てた、しょうがないわね、って感じのラフィネ母さんが呼びに来て、はーい!と皆良いお返事で。
エルフの代表と、ジュヴールの国王代理の宰相が、午後のいつ来るか。相手が明確にしていなかったので、皆、早め行動で集まってくれた。
こんな細かい所も曖昧で、受け入れる側に対して傲慢な、来訪予定者達である。
まあ、そのおかげで、泥団子は順調にたくさん作れた。
ハルサ王様も、マルグリット王妃様も、簡素な格好で子供達に混じって。泥まみれになりながら、さながら手でコンクリを混ぜる職人さんのように、夫婦で協力して、丁度良い塩梅の水分の泥を、タライの中に量産していた。
泥団子になる前の、ふるった異物のない土は、ふみ、ふみ、とオーブが念入りに踏んで、何故か足跡をつけて回っていたもの。時々ピカリ!としたのは、何故だろう。浄化でも、してくれていたのだろうか。
たまに、できた泥団子にも足型を、べし、べし、と押している。丁寧な仕事です。
泥だらけのまま、お昼となって、どうすんべ、と泥色の手や顔を持て余して、途方にくれていた皆は。
良い顔で笑って髪まで泥まみれになったチリ魔法院長の、指先からドババと出るぬるま湯を使って、ひとまず手と顔だけは綺麗にしていく。
バーニー君も、すぐ側で。シュパパー、とシャワー形に湯を魔法で出している。強弱どちらもございます、お好みでお選び下さい。
手と顔を洗う順番待ちの間、何となく楽しい泥遊びで気が抜けた面々は、ゆっくり和気藹々とお話し。
「フレ様。ナナン様。ご存知でしょうが、私の国、マルミット王国は、森のエルフがいる国です。森のエルフ達は、凄く臆病で、こちら側に熱意があっても、あまりお話もしてくれません。そもそも、お使いに、子供のエルフしか出して来ないんです。それでもこの強引な会談の立ち合いで、エルフと関わり合いがある国として、私が前に出なければ!と意気込んでいたのですけど。」
留学生の、マルミット国アルモニカ第二王女は、不思議そうな、躊躇いを、その素朴な山鳩色の瞳に浮かべ。
「これ、本当に必要な準備なのでしょうか?」
いえ、ギフトの御方、竜樹様を疑う訳ではないのですけど•••。
真面目な人柄のアルモニカ王女には、訳が分からない事が、受け止めにくいらしい。
「フレ様、どう思われます?」
うーん、とフレは首を傾げて。
「竜樹様に聞いてみましょうか。」
「•••えっ。聞いてしまったら、気を悪くされないかしら?」
「竜樹様なら、ちゃんとお話し聞いて下さると思うわ。」
ナナンも、洗った手をタオルで拭きつつ、笑って。
お昼ご飯は外で皆で。服はまだ泥だらけ、用意したご飯は、サンドイッチや唐揚げ、おにぎり。切ったフルーツ、果実水。
ワイワイと食べる中、竜樹は、戸惑う他国の代表みたいになったフレに問いかけられ。「ごめんごめん話さなくて、何でか分からないと、やりにくいよね。」と神の鳥オーブとのやり取りを話した。
「そういう事なら、泥合戦、本気で挑みます!」
アルモニカ王女も、他国の皆も、何となく納得がいって午後、充分に準備は出来た。
不意に、しゅ、キラキラキラキラ、と光が溢れて、寮の庭に現れたのは。
「あー、見た目では宰相が虐げ側で、エルフが虐げられ側だね。」
竜樹が呟けば。
「ですねぇ。」
チリがニハッと笑う。
苦みばしった顔の、黒髪に一筋グレー混じり、仕立ての良い、バサリとしたモスグリーンに金箔の上着を着た、40代くらいの宰相と。
尖った耳をもち、麗しい若葉の緑の髪をした。ヒラヒラの上等で繊細なレースのブラウスがよく似合う、少女とも少年とも見える、お人形の白磁の肌、桃色の頬につやつや唇、少し伏せられた憂いを帯びたエメラルドの瞳の、幼いエルフ。
手を繋いだ2人が、集まった泥んこ達の中心に。
竜樹のエメラルドの留め具は、泥んこの服の胸にも輝いていたから、宰相がニヤリと笑って、竜樹に話しかけようと。
一歩、前に。
竜樹が雄叫びをあげる!
「•••泥合戦の、始まりだ!!!」
「「「おー!!!!」」」
ベシャン!どろり、ボテ。
エルフの、とても上等な、華麗なブラウスに、べったりと泥が。
投げたジェムが、ニヤリと鼻の下を泥の指で擦る。
中性的な幼いエルフは、長いまつ毛をハタハタさせ、瞳をいっぱいに見張って。服についた泥を指で掬って、スン、と匂いを嗅いだ。
ふわっ、と本当に嬉しそうな笑顔になったのは、何故だろうか。
たたた!
ニリヤが、エルフに近付いて、ぎゅ、と手を握り、庭の片方側に引っ張って連れて行く。
「エルフとーった!」
子供達、3王子、ハルサ王様にマルグリット王妃、チリにバーニー君。そして竜樹の、パシフィスト国組がエルフを囲んで。
「エルフ取られた!じゃあ私達は、宰相とーった!」
フレが宰相の腕を取り引っ張る。
「は、はぁぁぁ!?一体、何を?」
宰相が暴れるが、フレがニヤリと絡みついて。
「泥合戦ですよ、ジュヴールの宰相様。あなたはこっち、他国組陣地!」
「だから何で、泥合戦•••!」
バシリ!べた、ぼと。
宰相の顔に、まん真ん中に、泥団子。喋ってて口開いてるのに。
ぺっ、ぺっ、としている所を。
ニヤリと良い顔をしたエルフが、ぶん投げた体勢、次の泥団子もロシェに渡されて、振りかぶって。
グジャ、ボテリン。
宰相の胸の真ん中に。
コントロールの良いエルフである。
「•••き、貴様•••たかがエルフの分際で、私によくも•••!」
ハイ、と羽交締めにしているフレの後ろから、宰相の手近くに、ナナンとアルモニカが、笑顔で泥団子を差し出す。
激昂して、どんな事になっているか振り返りもせず、手渡された泥団子を、はっしと掴んで、宰相は投げた。
ビシャ、ボテ。
グジャ、ドロ。
「宰相ねらえー!!泥団子よこせー!!」
「何故私が、こんな、泥合戦をををを!!!!もっと泥団子よこせ!」
ビシャシャ、バチン!
キャハハハ!
子供達の笑い声。
大人達のヒャーッという叫び。
ベチャベチャなのに楽しい。
皆、我を忘れて泥団子を投げ合った。
用意した泥団子がなくなり、ほぼ皆が全身泥まみれになった頃。
ココケケコココ!コケーッ!
「皆~!おやつの時間ですよ!泥遊びも、ほどほどにしなさ~い!!」
オーブと、腰に手を当てた、しょうがないわね、って感じのラフィネ母さんが呼びに来て、はーい!と皆良いお返事で。
35
お気に入りに追加
173
あなたにおすすめの小説

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる