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竹 美津

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本編

14日 ピティエの守護乙女たち

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「ほら、あそこでルテじいが感動して、目を真っ赤にして泣いていますよ!竜樹様も、嬉しそうに、ブンブン手を振っています!」

側にこっそりいる、コンコルドに教えられて、ピティエは舞台上、照れ臭そうに、ふふ、と笑った。コンコルドも嬉しそうだ。声で分かる。

全てのモデルとデザイナー、歩き方講師のマニエールとフィエルテも、並んで豪華に、わーっと手を振る観客に手を挙げて返して。
紺の片羽ゆかたをデザインした、トラディシオンは号泣に近い泣き顔で、感激してピティエの手を、両手でグイグイ、グッと握った。

「ありがとう、ありがとうございます、ピティエ様!私の理想、夢見たゆかたが、このランウェイで、生きて飛び立ちました!嬉しい、嬉しいです、小さな改良ばかりでないデザインをするという冒険が、これほどドキドキして、そして嬉しいものだとは!」
ぐし、とハンカチで涙を拭いて。
コクン、と一つ飲み込み。

「ーーーもしよろしければ、ピティエ様。これからも、私のデザインの、モデルとなって下さい!大きな写真をお店に飾ったり、来年のファッションショーを、もうやろうと皆で話しているのですけど、そちらに出演、など!!!是非!!!」

ピティエは、勢いに呑まれた事もあったが、仕事が出来るのは、とても嬉しい事なので。
「仕事はちゃんとしたいのですが、他にもやりたい事があって。モデルさんをやるのは、きっと毎日ではないから、ラジオや茶畑管理や、喫茶室とも、両立できますよね?」
「勿論、ピティエ様のご予定を、考慮致します。」
トラディシオンが胸を叩いて、請け負ったので、ふんわり微笑み。

「では、これからも、よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」

ムフ、とピティエ付きのコンコルドが笑い、2人の再びの握手を見守った。

モデル達は、まだゆかた、じんべいを脱げない。
これから、帰ってゆく招待客達との、写真撮影のサービスがあるのだ。お気に入りのモデルやデザイナーと、写真を撮って握手が出来る。時間は限られているが、多分招待客達は、良い所の人々ばかりなので、そう混雑もしないだろう、との予測。
ファッションショーのテレビ撮影も、全体的なまとめに入って、終わろうとしている。

席を立つ招待客達に、このファッションショーのゆかた、じんべいの写真カタログ、ロゴ入り手提げ袋つき、を配るスタッフ。にこやかに手渡して。
「今年の残りの夏は短くて、少し厳しいかもしれませんが、来年の夏への、ご参考にどうぞ。」との言葉に、若い娘さんはキャッキャと喜び、胸にカタログを抱きしめる。絶対、来年のゆかた、作ってもらうわ!などと声も聞こえる。

男性も、ちょっと外れた場所で、珍しそうにカタログというより写真集な、その冊子をパラリとめくり、女性モデルの麗しさに、う~ん、良いね!と微笑む。ゆかたの夜会、なんてのも、来年は良いかもね、自分も男性用のゆかたを着て。なんて思ったり。

年配の方たちも、最後のページのスフェール王太后様とオール先王様に、仲良しでいらっしゃって、やはりスフェール王太后様、お洒落でいらっしゃる、などと、受けは悪くなかった。



「うわわ•••。」
コンコルドは、焦ってピティエと繋いだ手を、ギュッと握った。
「どうしたの?コンコルド。」
ピティエが問いかける。
人、人、人ーーー。
「ピティエ様の写真撮影の列、凄い事になってます!!」

列に並ぶやり方を、フリーマーケットで覚えた貴族の娘さん達は。退出時に位の高い順だったから、そのまま位順に。モデル毎に、写真の例付きで飾ったスペースの前に、行儀良く並んでいる。
ちょっと赤らんだ頬、並んだ列の中でも前後で楽しそうに、ピティエのあの、ランウェイの様子などを話し合って、キャッうふふ、と嬉しそう。従者に並ばせると、並んでいる間にピティエが見られないから、ちゃんと自分で。

コンコルドは、焦った。
このお嬢様達と、写真を撮るだけなら良い。でも、好かれて、婚約をドヤドヤと持ちかけられたり、あの5席しかない喫茶室に、押しかけて来られたら。
サーッと、大事な、そして繊細な所のある主人の危機に、血の気が引いていると。

ささっと竜樹、ギフトの御方様がやってきた。
ニコニコと先頭のお嬢様に話しかけて、そしてそのお嬢様も、その周りの少女達も、わぁ!と喜びの声を上げて。うんうん、と何事か、相談。

竜樹が話したのは、こうだ。
「こんにちは、シフレ公爵家のココ様。ピティエ、素敵でしたよね!」
「ええ、こんにちは!私の名前を覚えていて下さって、光栄ですわ、ギフトの御方様。本当、私、もう、何というか、ピティエ様、素敵で、素敵でーーー感動して。これから、どうしたら良いかしら。あまり急に近寄っては、迷惑に思われますよね、ピティエ様。でも、このトキメキを、どうしたらいいか•••!」
恥じらうココ様に、ニココ、と笑った竜樹は、続ける。

「では、ココ様は、ピティエ様ファンクラブの会長をやる、なんてどうでしょうか!」

「ふぁん、くらぶ???」
はてな?の顔をした少女達。
うむうむ、と真剣に、腕組みして人差し指を立てる竜樹に、皆、耳をそばだて、傾ける。
「ピティエ、今、街に喫茶室を持っているのですけど、席が5席しかないのです。ゆったりと、お茶が好きな方に、楽しんで来て欲しい、って言ってました。ピティエ、これで魅力が広まって、人気になったら、きっと、喫茶室にも、皆さん行きたいと思われるでしょう?」
「ええ•••是非、行ってみたいですわ!ああ、でもーーー皆が、そう言ったら。」

さっ、とココ様の顔が曇る。
そう、好きなピティエ様が、きっと思っている、落ち着いた喫茶室の運営が出来なくて、迷惑に思われるのに、違いないーーー。

「私達は、ピティエ様に、好きだからと迫って、却って迷惑をかけるのは、イヤですわ!あんなに麗しい方には、幸せになってもらいたいの。」
そうねそうね、と周りの少女も頷く。
純粋な推しの気持ちに、ほっこりしつつ。

「そこで、ファンクラブです。ピティエ好きな方に、わずかな会費を募って、ファンクラブに入ってもらって、統制するのです!勿論トクもあります。ピティエに許可をもらえば、メンバーズカードは、ピティエの撮り下ろし写真を使える、だとか。会誌を作って、今後の活動の、些細な情報を回したり、だとか。来年も、ファッションショーはやるみたいですよ?今度は季節を先取りに、来年の春夏向け、からですかね。ピティエも出るかも?しれないです。喫茶室への、ファンクラブメンバーの、順番こな来店スケジュールを決めて、1人ずつ来店して、楽しめば、そしてその様子をまた会誌に載せたりすれば、ピティエを迷惑がらせる事なく、もっと楽しめるのじゃありませんか?婚約申し込みだとかも、本気な方とは、ファンクラブで話し合って、醜く争いながらではなく、ピティエを幸せにする為に、公平に競い合って。」

そして、迷惑をかけそうなファンを、諭して、ピティエとも連絡をとりながら、やっていくとかーーー。

「バラバラに迫って、迷惑かけるより、皆が幸せになりますでしょ。そういう活動って、乙女心を可愛らしく、イキイキとさせるんですよね!」
「す、す、す。」

ココ様は、はっし、と胸の前で手を組んだ。
「素晴らしいですわぁ!!!それこそ、私たちが求めていた活動!私、会長、やります!!」
少女達が、わぁっ!と華やいだ声で盛り上がった。
私は会計を、私は取材のお助けを、私は会誌のデザインを、編集を、と少女達が次々立候補して、瞬く間に組織の下地が出来上がる。

その後、頬を上気させたココ嬢に、写真撮影し握手し。迷惑をかけないで、愛でる為のファンクラブの公認開設を相談されて、よく分からないながらもピティエは了解した。
ココ嬢は、対面してみて。物腰も優しく、こちらも恥じらいながら、素直で一生懸命に応えようとする人柄にも惚れた。少女達は皆、ピティエの優しい対応に二度惚れしたのである。

コンコルドは、竜樹をそっと見る。
ニシシ、と笑う竜樹に、ホッとして、ペコリ、と頭を下げた。
ピティエのささやかな平穏と幸福は、これで守られたのである。強力な乙女達の守護をも得て。

尚、このファンクラブは民達にも広がり、テレビを見てモデルに憧れた少女達や、たまに少年、青年達も応募したいと声があり、新聞の広告欄で募集され、ピティエだけでなく、人気なモデル、俳優や吟遊詩人などに、ファンクラブができるキッカケとなった。



ルテじいは、孫夫婦と、混み合いを避けてゆっくりと会場から出てきたので、ピティエとの写真撮影に丁度良く、人がきれた所で参加できた。
嬉しそうに一緒に写った写真を見る。

「ルテじいに、晴れ姿を見てもらえて、良かった!」

ピティエは、背中を摩り、抱いて、しみじみ。

「ムフォフォ、ピティエ様は、優しい方ですから、皆に愛されて、きっとやり遂げられる、とルテじいは、思っておりました。」
と嬉しい事を言ってくれた。



カタログを手に入れて、泣いてしゅんとしたグリーズと別れて、帰り支度のアロンジェが。
ピティエとの写真撮影に参加して、ララン♪ と上機嫌に。
ファンクラブの会員番号の、かなり早い方に申し込んだのも、誰も知らない秘密である。







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