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竹 美津

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本編

12日夜 竜樹とチリ魔法院長

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「家に帰らなくて良いの?チリ。」

ジェム達のいる寮に帰ってきた竜樹は、ふわふわ漂う魂達と、相変わらずサンに後追いされ、光に塗れつつ皆と夕飯の準備をしながら。
今日おぼんという日に、自分の家に居ず、この寮に泊まる気満々のチリ魔法院長に、ちょっと気遣いしてみる。

「ああ、わ、私、ここ5年ほど実家に帰っていませんのでね!両親も諦めているというか、放っておかれているというか。かと言って、1人暮らしの家は、その、えと、大変ごちゃごちゃしてて、帰っても、特別なお休みの気分に、ならないので。」

うむ、ごちゃごちゃは、多分、汚部屋なのかもしれない。容易に想像つくな。

ちなみに今日のメニューは、手巻き寿司だ。
生の魚は、食文化の違いと新鮮なものの輸送(やれば出来ても運送費がかかるので)の都合もあって用意出来なかったが、白身魚のフライ、鶏肉唐揚げや、猪肉そぼろ、チーズ、茹でた川海老の身、卵焼き、浄化した、きゅうり、レタスなどを揃えた。マヨネーズもタルタルも、つけ放題。
海苔は、今日の密かな目玉だ。海苔、っていう岩についた海藻を、こんなふうにできるよ、と海のある地方、リエーヴルに情報を伝えたら、板状の焼き海苔にしてくれた。アイデアのお礼のお試し海苔が送られてきたから、竜樹ホックホクの手巻き寿司メニューになったのだ。

今度、海苔養殖の方法、送っておこう。
その為には、顕微鏡が必要かなあ、海苔のタネ見るのに。
海苔、美味しいよね。お米のメニューじゃなくても、ちぎってサラダに入れてもいいし。簡単な海苔のレシピも送って、現地の食べ方も、詳しく教えてもらおう。

調べた事や、美味しい海苔料理の事を考えていた竜樹は、ラフィネが、「テレビ電話の用意しますよ~。」と朗らかに皆に言ったので、ほ、と我に返った。

今日は手巻き寿司だから、材料を、取りやすいように机に出すだけだ。後は野菜いっぱいの汁物、果実水。ゼゼル料理長も来て、手巻き寿司に興味津々である。

「はーい!では、今日の夜のテレビ電話をはじめます。皆も、お夕飯、準備できたかな。まだの所は、準備しながら、お話してね。急いで合わせたりしなくて、お話もゆったり聞けば良くて、皆のペースで良いからね。」
「「「はーい!」」」

毎日の事だから、リラックスしていこう、普段の様子を見せてね、と竜樹は皆に。
竜樹に纏わりつく魂達も、ふわふわ、チラチラ、と光って震え、同意している?かのようだった。

ガヤガヤしている音が、画面からも、そして目の前からも。
チリは、机の上を見て、ニヤ、と笑う。
「美味しそうですねぇ。私の好物ばっかり!卵焼き、唐揚げ!」
「野菜も一緒に挟むと、シャキシャキして美味しいですよ。」

竜樹のツッコミに、「きゅ、きゅうりは、食べられます。」とチリ。

「はーい、では、寮の皆は、準備できたから、食べ始めるね。いただきま~す。」
「「「いただきまーす!」」」

小さなお櫃に、ちょっと甘みもある酢飯。もりっと盛りつつ、説明する。
「はい、今日の寮の夕飯は、手巻き寿司、っていうのにしてみました。皆が、自分の好きな具を、自分で海苔とご飯に乗せて、好きなように巻いて食べる料理だよ。」
ヘェ~、そうなんだ、食べてみたい!
様々な声の中、竜樹は、唐揚げ巻きを作って、もぐ、と食べた。

「もぐ、もぐ、ごくん。これ、皆も、自分の地方に合った具や、やり方で、真似っこしたりしてみてね。楽しいご飯になるといいね~。この黒いの、海苔っていう海藻なんだけど、これから売り出すものだから。手に入らなかったら、レタスや、紫蘇っていう葉っぱでも巻けるかな。生の葉っぱやきゅうりは、浄化してね。」
紫蘇は、割とどこでも生えるよ。教会の庭でも。

ヘェ~、やってみたぁい!
子供達は、面白そうな事、大好きなのだ。皆、目をくりくりしているし、中には、ジィっと、手巻き寿司の材料を見つめる真剣な子もいた。食べたい欲かな、それとも、料理への興味?

「皆のご飯も、教えてね。」

はい!と、海が近い、リエーヴルの教会の司祭が手を挙げる。ヒョロ、としているが、肌が日焼けしてか、浅黒く、彫りが深い。

「はい、どうぞ、リエーヴルの司祭様。」

「はい、私、リエーヴルのセルマンと申します。てまきずし、というのですね、お料理。興味深いです。色々な具があるようですが、子供達が自分で好きに選んで食べる、となると、竜樹様の言う、えいよう、が偏ってしまうのでは?」

真面目な顔で、質問。

竜樹は、ふむふむと聞き。
「ええ、そういう心配も、あるとは思います。」
ニコニコリと笑って。

「でもね、セルマン様。毎日、食事ごとに、ピッタリキチンと!ってしなくても、少し緩みがあっても、良いんです。家庭の、料理でしょう?ちょっと沢山お芋もらっちゃったんだよね~、とか、冬は、葉っぱのお野菜、足りないなあ、なんてありますよね。」

「ええ、ええ。あります、あります。私がいた、教会に携わる者を育てる寮でも、食事は、不足を言わず、あるものをいただく、という方針でしたが、竜樹様の教えでは、子供には栄養をと。その教えには、腹ペコな子供だった私も賛成なのですが、一体どれくらいの感じかな、と。」

「そうですね、朝少し偏ったら、その分を夜で、整える。今日、お芋ばっかり多かったな、てなったら、次の日、お肉やお魚も意識的に食べてみる。お祭りの日や、お祝いの時なんかは、少し、美味しいお肉や甘いもののおまけがあったり。なるべく満遍なく食べる、と言いつつも、揺らぎがあって、良いんですよ。大人の私たちだって、今日はあんまり食べたくないな、とか、パワーのつくもの食べたい!って、日によって、欲求が違うでしょう?」

「ええ、ええ!」
セルマンが頷く。

今日は疲れて、一杯やりたい、とかな。
と、これまた夜も王都の教会で、子供達に混ざってご飯に紛れ込んでいる、ファヴール教皇である。川海老のフリッターを食べつつ、頷いていた。川海老は、王宮に食べて欲しいと進呈されたものの、教会へのお裾分けである。
ああ、今日も美味しい。
いや、ギフトの御方様の、情報たっぷりな、お話を聞きに来ているだけなのだ、私は。神様も、みえるかもしれないし。別に美味しいから来ている訳じゃない。
と言い訳モグモグ。

「ただ、繊維のある野菜と、お肉かお魚、卵なんかと、穀物と、と種類を食べると、満腹して次のご飯まで、何か余分に食べなくても、腹持ちが良くなったりもするんですよね。子供達の皆には必要ないかもしれないけれど、太ってしまった人にも、ちゃんと偏らずに食べる、って良いんですよ。今度、栄養士、っていう職業になりたい人を、育ててみましょうかねえ。」

栄養士が料理人とタッグを組んで、楽しく健康な食事をアドバイスできれば、と思うのだ。栄養成分表って、webや電子書籍でもあるよね。

「それから、手巻き寿司って、やっぱりお祝いのご馳走なんです。だから、今夜は、皆、好きなものを巻いて、楽しく食べたら良いかな、って思って、これにしました。食事が楽しかった事も、心の栄養になるから。」

「心の、えいよう。」
ふむ、ふむ。セルマン司祭は、やっぱり真面目に、納得いった、という表情。
「分かりました!心の、えいよう、私も子供の頃、痛切に欲しかったですから、分かります。今度、リエーヴルでも、予算内で、工夫してみますね!」
「はいー!よろしくお願いします!」

もぐ、美味しい。
ジェム達は、俺、甘いたまごやき、いっぱい食べちゃうもん!とか、きゅうりが好きなの。チーズと食べる。唐揚げ~!など、それぞれ個性ある手巻き寿司を楽しんでいる。

それを映像で見ている16都市と1の教会も、俺たちはね、私たちはね、とメニューの紹介をそれぞれしてくれる。
オムレツがあったり、夏にピッタリな、トマトに野菜たっぷりの冷製スープがあったり。
その一つ一つに、竜樹は関心を寄せて、お話をじっくり聞いて、どんな所が美味しそうか話した。

「さて、さて。お腹も落ち着いてきたかな?今から、この寮のお母さんと、お姉さん、管理をしてくれてる、ルシュご夫婦。を、紹介したいと、思います。特に、俺、竜樹お父さんがお仕事で、いない時なんかは、お母さんが、皆にお話、してくれるからね。」

「かーさ?」
「お母さんだって!」
サワワ!と子供達が、声あげ驚き合う。
ふふふ、竜樹は微笑ましくも、話を続けて。

「はい、こちらが皆のお母さん、ラフィネ母さんだよ。」

カメラがラフィネに向いて。
ラフィネは、ニコリと片手に、唐揚げとチーズときゅうりを入れた、欲張り手巻き寿司を持って。

「は~い、私が、ラフィネ、ラフィネお母さんです。皆、初めまして。私は、王都の寮にいます。竜樹お父さんがいない時、皆に、お話したりしますね。お話の内容は、皆元気かなぁ、とか、困ってる事、ないかなぁ、とか。楽しい事も、やっていきましょう。竜樹お父さんからの、伝言もお話しますよ。女の子で、男の竜樹お父さんには、言いにくいな~、って事も、是非、相談してみてね。」
これから、よろしくお願いしますね!

ニコニコ!とした、優しげで親しみのある美人のラフィネに、キラキラ揺れて光る緑色の瞳に、子供達は、フコ!と鼻息も荒く、注目。

お母さんも、いるんだ•••。

嬉しげにしたり、緊張したりと、子供それぞれ。ラフィネは、腹の底で、緊張したり、母の嫌な思い出があって怖がっている子供達にも、皆のお母さんをやる度胸と覚悟をしっかり決めて、ニコニコとしていた。自然と微笑めた。

それから、エクレと、シエルの元王女姉妹。管理人のルシュ夫妻。
自己紹介をして。

「ねえねえ、たつきとーさん。」

画面の中、目を眇めている、1人の利発そうな子供、エポック地方のミディが指摘する。

「たつきとーさんの隣で、いっぱい唐揚げをモグモグしている、灰色に青い髪の、よれよれシャツのあやしいひとは、誰?テレビ電話をつける時に、この教会にも、きてたけど。」

モグモグ、モグ?

チリ魔法院長が、なぁに?と顔を傾げた。寮からのモニターに、各教会で、怪しいチリが映る。

「あ~、この人は、魔法院長のチリさんです!怪しそうに見えるけど、皆のテレビ電話を設置してくれたり、魔法で困った事を解決してくれる、凄い人なんだよ~!」
「モグ、ごくん。す、凄い人です。チリでーす!」

よろしくね。
チリは、ヒラヒラ、と手を振る。
ええ!?魔法院長だって!見えない!
と素直すぎる感想を子供達は寄せる。

「凄い魔法、使っちゃうよ。ねえねえ、皆。皆の教会を、転移の魔法陣で繋いで、簡単に行き来できるようになったら、どうかな?竜樹お父さん、ちょくちょく、皆の所に来られるようになるよ。」

あっ

チリ!それ極秘って言ってんじゃん!!

あわわ。竜樹は慌てたが。

「えー!それすごい!すごいチリさん!」
「やって、やってー!!」
ワイワイ、ワイ!!
歓声をあげる子供達に、チリは深刻そうな顔をわざとらしくして。

「ん~、でもねぇ、ちょ、ちょっと困った事があって。魔法陣があって、沢山の人やモノが、簡単に行き来できると、今、荷物を運んでる人が、失業しちゃうよね?」
「「「あー。」」」
子供達の、眉が下がる。

「それに、転移の魔法陣がない所が、寂れたり?」
「「「えーーー。」」」

腕を組み、考え込むポーズ。

「繋げてみたいけど、教会だけ、ってできないし、魔法に詳しい森から転移で来るエルフに、転移の魔法陣の秘密を聞かなきゃだし。結構難しいんだ。悪い人が、転移で逃げたりしないように、もある。神様が手伝ってくれるらしいけど。ーーーでも繋がったら、お酒の調査の発表原稿も、簡単にやり取りできるよねぇ。」

あー、なんか良い案ないかなぁー。

チラリ、とカメラ目線。

子供達は、ご飯を食べ終わりつつ、真剣に話し合いしだした。

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