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本編
陽炎の月12日 竜樹
しおりを挟むピティエの、喫茶室開店祝いから帰ってきた竜樹は、新聞売りと撮影隊の寮で、これから子供達とお昼を食べる。
チリ魔法院長が、薄い大型モニターの、複数で話せるテレビ電話を交流室に設置して、あれこれ設定している。お盆前に全国の教会に飛び、テレビ電話を備え付けて設定してきたのだ。最後に、ここの交流室と繋がれば、16地方全ての教会と王都の竜樹とが繋がる。魔法で設置するモニターは、16地方と数が多いので、1つの画面に分割ではなくて、そこそこの大きさのものが、王都の教会も含めて17こ、空間に浮いて魔法であちこち止められている。
王宮の会議室での試し会議で、貯められたノウハウが生かされて、話しやすいよう、聞き取りやすいように、日々通信環境は進歩している。
何故、寮と教会にテレビ電話を設置したかといえば。それは街中に竜樹が出かけた時のこと。
2、3才の女の子の赤ちゃんと、手を繋いだ5、6才の男の子、そしてお母さん。冒険者の格好をしたお父さんとが。
家の入り口で、微笑ましくもちょっとグッとくる愁嘆場を繰り広げていたのだ。
「とーた、とーた、やぁぁぁあ!」
「おとうさん•••早く帰ってきてね!」
「ああ。なるべく早く、帰ってくるからな!」
「あなた、怪我に気をつけてね。」
「とーた!いかにゃい!やあ!やぁぁぁ!」
お父さんを追ってしがみつき、困ったお母さんに抱っこされた赤ちゃんが大暴れで背中を反って力を入れて、慕っているお父さんと離れたがらない。そんなにも身体いっぱいに慕われて、別れを嫌がられて、大人達は苦笑しながら、頭を撫でて、手を振り、帰ってくるからね、帰ってくるから良い子して待っててね、と子供達の手を何度も握って。
振り返り振り返り歩いていく、冒険者のお父さんと、遠くまで響く赤ちゃんの泣き声とが、そこを通る者達を、軒並み口角を上に引っ張らせ笑顔にさせ、胸になんとも言えない火を灯させた。
そうだよな。
お父さんって、帰ってこなくちゃいけないよな。遠洋漁業のお父さんだって、仕事で長らく居なくたって、やっぱり家に帰ってくる。
俺、まだ教会の子供達、皆に会ってないなぁ。
健康で、子供達の面倒をこれからもみるのに、会ってもない父親って、ないよな。
竜樹はそんな風に、胸に灯った火を元に、思い、そしてグッと拳を握った。
「うん。俺は、帰ってくるお父さんになる!」
「んん?えぇ?」
護衛で王弟のマルサが、竜樹の突然の宣言に、変な声を出した。
と、その一歩として、テレビ電話を設置した訳である。
おぼん初日、この昼から繋げられた画面の向こうでは、どこの教会でもワイワイと、お昼の支度と、テレビ電話にお口を開けて見入っている子供やら何やらで、騒がしい。
竜樹は、お~い、と声をかけて、16地方プラス1の教会の、孤児だったりお母さんシェルターを利用している子供達に、ニコニコ手を振った。
「皆、聞こえてますか~!聞こえてたら、お昼の準備しながらでも良いから、はーい、って返事してー!」
「「「はーい!!」」」
恥ずかしげに、隠れて覗いている、ちいちゃい子に、机を出しながら返事をする、大きい子達。
「俺、皆のお父さんだよ~!はたなか、たつき、って言います。夢で、写真をもらう時に会った子も、いるよね。一緒にいる寮の子には、たつきお父さん、って言われてるかな。お母さんシェルターの子達も、たつきお父さんでも、たつきおじさんでも、何でもいいから、呼んでみてね。」
「たつき、とーさん。」
「たつき?おじさ?」
「とーちゃ。」
「はたなか。こないだもらったペンダントに、書いてあった!魔法で無くさないように、なってるやつ!」
教会で、竜樹の面倒見になっている子供達に、孤児はハタナカと姓を足した名前入り、お母さんシェルターの子はハタナカを入れずに。たんぽぽの花デザインの線彫もしたペンダントは、順次渡されている。
子供は首に引っかかって締まる事故が怖いから、そんな時には鎖が魔法で切れるようになっているし、切れても無くならず胸にくっついて落ちない。所有者限定の魔法も、かかっているのだ。赤ちゃんでも大丈夫なように色々試行錯誤して、もし万が一攫われても、誰も竜樹の面倒見の証拠を奪えなくした。悲しい対策だが、必要な事でもある。
たんぽぽの花言葉は、竜樹の世界では「真心の愛」や、「幸せ」などである。何かいっぱい繁栄しそう、春の花だし、幸せそう、と思い選んだ。
余談だが、新聞配達の未成年の子は、親がいなかったり、片親で経済的に困難だったり、両親がいても病気だったりと理由がある子を、基本的に教会に衣食住や勉強の世話になる事に。新聞配達の寮から教会へ移動してもらい、仕事の時は教会から出勤してもらうことにした。もちろんペンダントは配った。どこまで、の線引きは難しいが、頼れる親のいない、未成年の面倒は見る、と竜樹はしたかった。だから、そこの教会の面倒見している大人達の、柔らかな対応で、困っている子供は何とかする!と決めた。
ワイワイ。子供達は口々に、竜樹を呼びながら、おじさん、いやお父さんの竜樹を見上げて。
「今日から、お昼と夕飯の時に、テレビ電話で皆と繋がるからね~!他にもお話ししたい時に、連絡してみてね~!出かけてる時もあるし、お仕事してる時もあるけど、なるべく皆とお話しするからね!わかった~?」
「「「はーい!」」」
元気よく手を挙げる、画面前の子供達に。
「良いお返事です!良いね~。今日はね、ご飯食べながら、お話し、してみようと思ってるんだ。その後で、おぼんの準備も、繋がったまま、してみよう。今日は、皆のところに、ご先祖様や、お父さんお母さんの魂達が、里帰りしてくるんだよね。一緒に、準備しようね!」
「「「はーい!!」」」
「では、まずご飯にしよう。手は洗いましたか?お手伝い、よろしくお願いしま~す!」
「て、あらう~!」
「机、だす!」
「一緒、準備?」
「とーさと?」
はてな?になっている小さい子達を促して、どこの教会も、ご飯の支度を進めた。
竜樹のいる寮では、今日のお昼ご飯は、ひき肉入りナスの味噌炒めと、ナン、ほうれん草とコーンのゆでサラダ、ちょこっとすまし汁に、レモン水。
3王子もアルディ王子も、貴族組達もいない寮は、いつもより静かだが、それでもわちゃ、として、トレイを持ってやっぱりサンは竜樹を追うし、ジェムはちいちゃい子の面倒見をしていた。
モニターを見れば、どこの教会も一緒で、大きい子が小さい子の面倒をみている。
たんぽぽの花みたいに、沢山の花が寄り添って。
「はーい、それでは、皆、準備できたかな?皆それぞれ、食前のお祈りしてね。いただきま~す!」
「「「いただきます!」」」
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