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竹 美津

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本編

陽炎の月12日 プレイヤード3

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向かい合い、黙り込んだ夫婦と兄妹。

いや、小さな妹フィーユは、おとなしくグスグス泣いていたが、その内、加減のないトレフルの拘束を嫌がって、再び、ぶんぶん繋いだ腕を振り回し出し、暴れた。

トレフルは、またギッとフィーユを睨んだが、フィーユも、涙を溢しながら、頭を庇い、ギギと足を踏ん張り、なるべく遠ざかって、トレフルを睨んだ。
それを見て、父であり夫でもあるアルタイルは、まさか、と。

トレフルは、フィーユと繋いでいない方の手を振り上げて、フィーユに向かって下ろし••••••。

がし!とアルタイルがそれを掴んだ。
護衛も、一拍遅れて、ワッと取り囲み、トレフルを抑えられる配置が一歩前に進んだ。

「君!もしかして、フィーユを普段から、叩いたりしていないよね!?」
「ーーー痛い!叩いた事なんてありません!それに、いつもみたいに言う事を聞いていれば、私だって叩いたりしません!」

アルタイルが、グクッとトレフルの手首を握ると、痛い痛い!とトレフルは騒いだ。だから、フィーユもそうなんだよ、とため息をついてアルタイルは力を弱め。
フィーユは、まだ手を握られたまま、グスグス泣いて睨んでいる。

もし本当に、何度もフィーユが叩かれていたら、流石に泣き声も隠せないだろうし、乳母やメイド達も知ってしまうだろうから、違う、と思いつつも、アルタイルは内心、もっとフィーユにかまってやるのだった、様子を見てやれば良かった、と後悔する。
何なのだ、トレフルは。偏った愛情で、囲い込んでいるとは思っていたけれど、可愛がっているのではなかったのか?

「いつもは良い子なのに、どうして!どうして今、言う事を聞かなくなるのよ!」
それは、フィーユもわかっているからだ。トレフルだけじゃなく、アルタイルとプレイヤードもいるから。
そんなに触れ合ってはいないが、良い子してなくても、怒ったりしなさそうな、甘えさせてくれそうな、2人が。

トレフルは、フィーユと同じように、アルタイルに握られた手を振って、イライラと逃げようとして。

「痛がっているフィーユの手を、君が離さなければ、私も君の手首を離す事はできない!自分がされると嫌なのに、何で子供にするんだ!」

力でアルタイルに敵う訳がない。

トレフルの心は、次第に怒りで燃え上がった。
何なの、この扱いは!
何故、私が悪者みたいに!
本当に、本当に、トレフルだけが家族の中で異端だと?
酷すぎる!
こんな、こんなの、望んでなんかいなかった!この結婚生活は、失敗だった!!!
その思いは、爆発する。

「もう!!もういい!!私は実家に帰ります!こんな家になんか、いられないわ!そうよ、私だけがまともなんだわ!皆、欠陥ばっかり!貴方の血を引いた子供なんて、私だって嫌よ!もういらない!!」

ぶん!とフィーユの手を引っ張って、アルタイルとプレイヤードに、押し付け、ぶん投げた。
アルタイルがひやっとするが、フィーユは、見えてないプレイヤードだけれども、丁度上手く受け止められた。わんわん泣く小さな妹を、プレイヤードが抱きしめて。ぽむぽむ、と背中を叩いてやった。
プレイヤードは、竜樹のいるジェム達の寮で、小ちゃい子組をあやしたりしているから、何でもなくそれができた。

アルタイルは、ホッとして、パッと、トレフルの手を離す。
2歩、3歩、と下がって、子供達を後ろに庇い、守る位置についた。

「プレイヤードもフィーユも、君はいらない。それで良いんだね。」

グッ、とトレフルは口籠ったが。
怒りは、鎮まらず、子供2人の為に、そしてフィーユの為だけにでも、負けてやれなかった。

私は、幸せな、結婚生活がしたかったのに。
何で、こんな風になるの?
どうして?

ふ、ふ、と息を吐く。

「ーーーそれで良いようだね。私が2人を責任もって育てるから、君は実家に帰って、再婚の準備でもすればいいよ。離婚の手続きは、私の方で早急に進めさせてもらうから、サインだけは頼むよ。」
アルタイルの心は、トレフルと時を重ねれば重ねるほど、冷たく尖る。

「私が実家に帰るのよ!?本当の、本当に、離婚するわよ!?」
トレフルは、じだじだしたくなるような気持ちを、ただ、ぶつけていく。

「さようなら。」
「さよなら。」
プレイヤードとアルタイルが、そそくさと最後の挨拶を。
お帰りは、あちら。
アルタイルが、手を差し出して促す。
厨房の出口から向こうへと。

愕然とする。
どうして、誰も、私が実家に帰るのを、止めないの?
まさか、本当に、私だけが。

いいえ!いいえ!
私が、ここの人達を、要らないのよ!








悔しそうな顔を、パッと切り替えて、顎をつんと上げたトレフルが去ると、厨房にいた皆が、ほーっと息を吐いた。
フィーユは、宥められつつあるが、まだプレイヤードの胸でグスグスしている。

「プレイヤード、フィーユ。目の前で騒いで、悪かったね。酷い事も聞かせてしまって。お父様が2人を大事に育てるから、大人になるまで安心して、一緒にいようね。」
「はい、父様!」
「?」
アルタイルがプレイヤードとフィーユを撫でる。フィーユは、目をパチパチして、プレイヤードに抱きつく手を、ぎゅむ、とクリームパンの握った形にした。

「アルタイル様。もしよろしければ、ギフトの御方様に勧めていただいた、アレを。」
執事フィラントが、そっと耳打ち。
「ああ!そうだ、今なら邪魔もなくフィーユもつけられるな!頼む。」
うんうん、と頷き、頼めば、一礼してフィラント執事は厨房から下がった。

「さあ、お菓子作りの続きをしようか?フィーユも、手を洗ってな?」
抱き上げて促し、手を洗わせると、くすん、と最後に鼻を鳴らした後、何するの?という風に振り返り、父と兄の顔を見た。

粉を混ぜて。
バターに砂糖。

執事フィラントが、箱を手に持ち、また入ってくる。
中には、小さいサイズのカチューシャっぽい形の先端に、ぽっちり両端、丸い部分がある、魔道具を。

「さあ、フィーユ。これをつけてみてご覧。」

頭につけて、両端は、耳の前の頬骨に。

「どうかな?フィーユ?」

ビクン!
フィーユは肩を揺らして、喋ったアルタイルの方を向いた。

「聞こえる?フィーユ?」

小さな両手を、魔道具につけて、不思議そうに。

「骨伝導の補聴器だよ。もしその魔道具と難聴のタイプの相性が良ければ、聞こえるはずだよ、フィーユ。」

ビビビ!
喋るたび、フィーユが震える。びっくりの震えだ。

「う、う?うぃー、うぃーう?」
フィーユも、自分が声を出すのは、今までも聞こえていたのだろうか?
人が喋る、その音を、どんな風に感じて、そして今、真似をして話しているのだろう?

「そうだよ、フィーユ。フィーユは、君の名前。フィーユ。」
しゃがんで顔を合わせる、フィーユの胸に指さしながら。
アルタイルの、喋る唇に、不思議そうに小さい手指をのせる。

「うぃ、ふぃ、いーう。フィーう。」

「すごいね!フィーユ、喋れた!」
プレイヤードがぽむぽむ、背中を撫でる。
「ああ!喋れたね!」

たまごをといて、ちょっとずつバターに混ぜて。
粉をバターに入れて。
生地を寝かすところは、時進めの魔法具で。
パイナップルのジャムを作って、魔法で冷やすのは料理長の手を借り。

ジャムを丸めるプレイヤードとアルタイル。フィーユが一生懸命に真似をする。

トレフルは、荷物もろくに持たず、さっさと馬車で実家に帰った、出て行った、と報告が、菓子作り中のアルタイルに入る。

異端のトレフルが弾き出されて、その痛みはあるけれど。
甘やかな菓子は、香ばしく焼き上がり。
家族は穏やかに賑やかに、楽しく、おぼんを迎えていた。




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