王子様を放送します

竹 美津

文字の大きさ
上 下
244 / 510
本編

陽炎の月12日 プレイヤード

しおりを挟む
プレイヤードは、王都の家で、おぼんを過ごす事にした。

父アルタイルは、一緒に、おぼんの準備をしよう、とワクワクした声で誘ってくれた。プレイヤードも、うん!と返事をして、竜樹が広めた、おぼんの準備が書かれた新聞記事を、文字読み上げ魔道具、本読みトーカを紙面に滑らせて聞いて、10日も前から張り切って。
鬼灯が必要だ、机は、使ってないやつ物置にある?じゃあ、それ持ってくる?などと、女主人がやるべき家のあれこれを、嬉々としてメイド長や執事と打ち合わせした。

そしておぼん初日、12日。
「プレイヤードは、こういうのの準備するの、結構好きなのかな?」
使用人に頼んで、机を運び広間に入れ。父と執事とメイド長と、被せる布はこの白い布がいいですかね、いやいやこっちの素朴な模様の入ったジャスミンイエローの布が、とやっていると、両方の布を触って、肌触りを確かめているプレイヤードは、楽しそうで、嬉しそうで。

「竜樹様がね、家事は、やらなきゃいけない!ってなると楽しくないって。全部はできなくても、自分から、試してみようかな、やってみようかな、ってちょっとずつやると、楽しいって。男も家事ができると、のちのち、いいことあるよ!って言ってた!」
「ふんふん、なるほど?では私も、それに倣おうかな?」
ふふふ、と父アルタイルは笑って、プレイヤードと一緒に布の端を持ち、そーれ、と、ふわり机に掛けた。

母トレフルと妹のフィーユは、離れにいて、こちらに触れてくれるな、と別居状態だ。ならば無理に誘うまい、と、父アルタイルも、プレイヤードも、相談はしなかったが暗黙の了解で2人の話題は出さなかった。

お供物を捧げる机が用意できた。布は、ジャスミンイエローに決めて。
綺麗な絵柄がついた、魔道具ランプもそこに置いて、王宮のお披露目広場へ行き、ご先祖の魂をお迎えする心構えもできた。

「おそなえものだけど、果物だけじゃなくて、パイナップルケーキつくろうよ!ちょっと凝ってるやつ!」
とプレイヤードが言って、メイド達と護衛と市場へ行き、材料、四角く作る型を揃えてきていたので、父アルタイルも初めての厨房体験、となった。

「お菓子なんて、良く作り方を知っていたね。」
父アルタイルが、プレイヤードと隣り合わせつつ、2人で手を洗い聞けば。
「竜樹様に、今、おぼんの準備してるから、何かお供えするといいもの、ありますか?って聞いたら、お菓子を作って供えたら良いんじゃない?って教えてくれたんだ。紙に書いて、渡してくれて。」

ふくらし粉、って知ってる?
竜樹様が、植物の茎の中身からできて、地方で使われてるって知って、事業にしてひろめたんだよ。
サクフワなお菓子ができるって!

「へえ~?フリーマーケットの時に、ふわっとしたお菓子があったけれど、それを使っていたのかな?」
「そうかもしれない!」

あのフリーマーケットの時には、プレイヤードは、まだ竜樹様や、王子殿下達、そして寮の子や、同じく目に障がいのあるピティエ達と、知り合ってはいなかった。

フリーマーケットに行きたがったプレイヤードに、母トレフルが、案の定行くなと禁止して、大揉めに揉めた後、父アルタイルが一緒に行くから、と半ば強引に行ったのを思い出す。もちろん護衛を連れて。
フリーマーケットは人が多くて、目が不自由なプレイヤードが歩くのは大変だったから、会場にいたのは短い時間だったけれど。
色々な物があるのを、説明しながら、手を繋いで2人で歩くのは楽しかったし、プレイヤードは売り手との会話を嬉しそうにして、興奮していた。

お土産に、と買ってきたお菓子を、そういえばトレフルは、食べたのだろうか。あまり嬉しそうでもなく、テーブルに置かれたそれを、手にも取らなかった。

プレイヤードは、パイナップルケーキの生地に使う粉を、一つ一つ父アルタイルと協力して計る。プレイヤードが、秤に乗せた器に、匙で粉を足していき、父アルタイルが目盛を読み上げる係だ。

フン フン フフン♪

プレイヤードは上機嫌だ。
竜樹様と友達の子供達と出会って、ちょくちょく王宮の寮に出かけるようになってから、いつも楽しそうにしている。
今も歌っている歌は、竜樹様と王子殿下、子供達が歌っていた歌。
今までの母トレフルと接する時のように、頑なに自分のやりたい事を主張、というのをやらなくなった。相手と擦り合わせて、自分のやりたい事を諦めずに、かつ柔らかく相手の都合も聞く。

天気が悪い時でも、雨コートを着て、庭にどうしても出たがるのを自然とやめた。ちょっと面白い踊りを部屋で踊って、笑って拍手するメイドに見せていたり。
トランプ、というカードを使ったゲームに、父アルタイルと執事、メイド長を誘って興じたり。

何となく、上手く自分をあやして、活発なのに穏やかに、過ごせるようになってきたのだ。
ラジオの試験も受けると、積極的に友達と話し合ったりするからだろうか、成長が感じられる。

父アルタイルは、それを喜ばしく思っている。しかし、母トレフルは、前にも増してプレイヤードの行動を嫌がった。曰く、そんな行動は、貴族らしくない、普通ではないと。

別居して、良かったのかもしれないな。

父アルタイルは、何とか妻トレフルとプレイヤードの仲を取り持とうとしたが、そして出来るだけプレイヤードのやりたい事を応援してきたが。
プレイヤードへの応援は続けつつ、仲を無理矢理取り持とうとするのは、やはり無理があるのかも。どうしても合わずに別れていくのなら、それが自然なのでは?
と、ここのところの喜ばしい平穏に、妻への想いに区切りがつき、心が段々と癒される思いがしていた。

(私は、トレフルの考え方や行動に、きっと沢山、飲み込めない思いを抱えていたのだなあ。別れる方が良いと、思えるのだものな。)

これで、娘のフィーユが、何とかなればな。
父アルタイルは、妻トレフルには言っていないが、トレフルが縋り囲う娘フィーユに、耳の聞こえ、難聴があるのを。
竜樹から教えてもらって、今は知っているのだ。

トレフルが囲い込んでいたら、受けられるべき愛情や友情、これからの未来を形作る教育などが受けられない。
フィーユにとって、それは大きな未来への損失となろう。

思い悩みつつも、手を動かして、粉を合わせて振るう。

「何で、合わせた粉を、振るうんだろうね?」
「! そうですね!何故だろう?」

側にいた料理人達(プレイヤードとアルタイルの素人菓子作りを見守っていた)は、さすが本職、知っている。
「ダマができていたりするのを細かくしたり、良く混ざるようにです。」

おお~う。
父子共々、さすが、料理長!
と褒め称え。

そこに、スッ、と執事がやってきた。
厨房にカーテンを掛けて、誰かからプレイヤードと、主人のアルタイルを守って。護衛も、ピリ!とする。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で双子の勇者の保護者になりました

ななくさ ゆう
ファンタジー
【ちびっ子育成冒険ファンタジー! 未来の勇者兄妹はとってもかわいい!】 就活生の朱鳥翔斗(ショート)は、幼子をかばってトラックにひかれ半死半生の状態になる。 ショートが蘇生する条件は、異世界で未来の勇者を育てあげること。 異世界に転移し、奴隷商人から未来の勇者兄妹を助け出すショート。 だが、未来の勇者アレルとフロルはまだ5歳の幼児だった!! とってもかわいい双子のちびっ子兄妹を育成しながら、異世界で冒険者として活動を始めるショート。 はたして、彼は無事双子を勇者に育て上げることができるのか!? ちびっ子育成冒険ファンタジー小説開幕!!  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 1話2000~3000文字前後になるように意識して執筆しています(例外あり)  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ カクヨムとノベリズムにも投稿しています

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~

明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...