王子様を放送します

竹 美津

文字の大きさ
上 下
242 / 527
本編

陽炎の月9日から12日 アルディ王子6

しおりを挟む
それは、雨の日の事だった。

雨が鬱々と3日も続いている。それは自然、天の気だから仕方がないが、ジェム達や貴族組、王子組の、寮に集まった子供達は、もはや室内の遊びに飽きていた。
身体もあまり動かないので、何となくエネルギーが滞って、発散できずにうずうずしている。

そんな時に、まずは、サンがセリューに、たまたま、ちょっとぶつかった。いつもの、良くある事で、何でもない事なのに。
セリューは、何となくムッとして、サンをぐい!と押した。サンは後ろにとと、と、とよろめいて、べたん!と尻餅をついた。

「なに、ひどい、セリュー!」
「サンが、ぶつかったから!」

むむ、むむむむ!

押して押されて、もう、なに、やだ、セリューがサンが!と、取っ組み合いになり、ニリヤが「よせ、やめろ~!」と、とっついたが、振り解かれて手が顔に当たり、ふえ、と泣き顔になり、ネクターがそれを見て、「やめなよ!」と押さえたが暴れに巻き込まれて、「止めろ!」とジェムが飛び込み、「痛い!」「何で!」「もうやめろよ!」「やったな!」あれあれあれよ。••••••という間に、全員でわちゃわちゃの大暴れになってしまった。
ちなみにピティエは、アワアワしてどこに手を出していいんだか、になっているし、アミューズとプレイヤードは嬉々として参戦。
アルディ王子は尻尾をビビビとふくらせてプランの袖布を噛みっとしているし、エフォールまで髪を引っ張られて、ポカポカとロシェを殴った。
オランネージュは真ん中で押して押されて笑ってる。

うわーん!と大きく鳥の子みたいに口を開け、上を向いてぽろぽろ、小ちゃい子組が泣き始め。

ジャンジャカジャカ♪ ジャジャンジャン♪

ジャンジャカジャカ♪

「は~い!かわいいベイビー達ィ!何をケンカしているんだぁい!」

ピッ!と片足だけ膝をくの字に、つま先を立てて、手はキラキラリ、と手のひらをすっと伸ばしヒラヒラする竜樹。

いつの間にか、寮の交流室に大きく貼られたスクリーンには、音楽に合わせて、男女高校生が踊る動画。飲料のCMになった、溌剌とした動きに、身体の底からリズムを刻む。

竜樹父さんがそれを見ながら、動画の真似をして、クルクルリン、ピッピキたたった、たん!と踊っている。ショボショボ目には全く似合わないが、踊りはなんか、キレがあって、うまい。何故だ。それは妹接待のおかげだ。

ラフィネはくすくす肩を揺らして笑っているし、エクレとシエルはドン引きだ。
久々に来ていたチリ魔法院長は、楽しげに、ふん、ふん、と身体を揺らしていて、カメラマンで侍従のミランは、ニハーとしながら、ワクワクとカメラを回している。
マルサ達、護衛は、守りながら、タン、タンと足がリズムをとっているし、何かニマニマしていた。


「「「?????」」」

ポロリ、涙をこぼし、相手の首元のシャツを掴みあいながらも、呆気にとられた子供達は、タタッタン!踊り続ける竜樹に。

「竜樹父さん、何してるの?」

やっぱりリーダーのジェムが、呆れて聞いた。

「踊っていまぁす!みんな~、家の中ばっかりで、身体動かさないでいると、なんか、すっきり遊べなくて、ウズウズしちゃうんだろ?ストレス、いつもなら、ケンカしないような、ちっちゃな事で、イライラだな?」

そんな時は、踊っちゃお!
身体動かして、スッキリしちゃおうよ~!
ヘイヘイヘ~イ!

え、そうなのかな。
雨で、からだ動かさないで、イライラだったのかぁ。と子供達は、踊り続ける竜樹に、ふ?と首を傾げながら、とたとた近づく。

「ハイハイ、踊る人~この指とーまれ!」

ハイッ!と、人差し指を竜樹が出せば、皆おずおずとそれに取っついて、指を握る。目が不自由組の3人は、周りが手を引っ張って、とーまれ、させた。

「ではでは、簡単なやつから!踊ってみちゃったよな完コピだ!」

それからは、同じ動画を繰り返し真似しながら見て、覚えて、通しで踊ったりと踊りに踊りまくって。

クルクル、ぴた!
ぺたん、と尻餅ついても、サンも今度はすぐ起き上がって、曲に合わせて、笑顔でタタン!
ピティエ、アミューズ、プレイヤードには、手を取り、足の動きを説明して、しまいには幅広のリボンで、見える子と(ピティエは大人の竜樹とペア)手首足首を繋いで、二人羽織方式で、力を抜いて動いてみせて。
エフォールは、上半身で踊りながら、動き始めた足が、車椅子に座っていながらも、ちょい、ちょい、と動いていた。

「あは、アハハハ!」
「おもしろ~い!踊り、たのしいね!」

最後には、皆ぺたんと、そこかしこで三角座りして、後ろに手をついて、はあ、はあ、と息きらせ。
汗だくで、ラフィネが用意した布で拭いて、飲み物を飲んで。

竜樹も果実水を飲みつつ。
「変にケンカするより、踊った方が楽しいだろ?自分のご機嫌も、とってやらなくちゃね。今度から、雨が降ったら、一曲踊るかね~。」
アハハハ、と笑う竜樹に、皆が。
「「「おどる~!!!」」」
とタックルして、やっぱり、今度は笑顔だけど、わちゃわちゃの団子には、なった。






と、いう事が前にあったので、アルディ王子は、大勢で踊るのを見るのも、自分が踊るのも、初めてではない。
だから、ルトラン達上手組と、コリーヌ嬢達、下手組が踊るのを見て、こ、これは、と思った。

ルトラン達は、獣人らしく、ピョンピョコと、素晴らしい身体能力で、アクロバチックに、縦横無尽に踊る。2回転4回転、身体2つ分も高く飛んでクロスする。
それと比べてしまったら、一生懸命にやっているけれど、コリーヌ嬢達には、そもそも無理な技でばかり、振り付けがされているのだ。

踊り終わって、ふむ~、とアルディ王子は考え込んだ。
一つの場所に、アルディ王子とファング王太子を真ん中に皆、集まり、言葉を待っている。

美味しそうな、艶々の焼き菓子と、あっさりした口当たりのお茶を、侍従たちがニコニコと配る。自由に食べて飲んでね、とアルディ王子は言い。
パクリ、とまずファング王太子が食べ、皆も食べ、あま、うま、とホッとして、ポソポソと隣同士、どうなるの?どうかなぁ?など、話出したりして。

サク、と焼き菓子を齧ったアルディ王子は。
コクンとお茶で飲み込み。

「私、ギフトの御方様、竜樹様たちと遊びで踊りやった事あるの。その踊りは、多分、ルトラン達みたいに、ほんとにものすごい技じゃないんだけど、大勢で踊るのに、すごく、あつくて、気持ちいい踊りなの。見てても、いい感じで•••多分、お話しだけだとわからないと思うから。」

私、踊ってみせるね。

す、と立って。

アルディ王子は踊り出した。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜

甲殻類パエリア
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。  秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。  ——パンである。  異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。  というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。  そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。 女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。 ※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。 修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。 雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。 更新も不定期になります。 ※小説家になろうと同じ内容を公開してます。 週末にまとめて更新致します。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...