王子様を放送します

竹 美津

文字の大きさ
上 下
240 / 510
本編

陽炎の月9日から12日 アルディ王子4

しおりを挟む
「踊り?」
「そう、おぼんの、魂たちに捧げる舞を、私たち子供が、踊って迎えることになったんだ。それは良いんだけど•••。」

家族の再会から一夜明けて。ファング王太子は、弟のアルディ王子を伴って、踊りの練習に体育館へ向かっていた。

ワイルドウルフにも新しく出来た、プールに体育館。国の建築関係の総力を上げて、スピーディーに、そして堅牢に、かつ美しく造られたそれらは、身体を動かす事が大好きな獣人達から、喜びをもって迎えられ、既に沢山の人が利用している。
竜樹のいる、パシフィストの国に追いつけと、新聞も先日から発行され、体育館、プールの記事も大々的に掲載されて、新聞共々大人気である。

入り口から入って、体育館の一番大きな部屋へと。

『はっきり言って、君たち、舞は、やめた方がいいよ。』
『何でよルトラン!私たちだって、できるわ!』

入り口前でも聞こえる、中からの声。
ファング王太子とアルディ王子は顔を見合わせて。そして、はぁ~っ、と萎れてため息をつくファング王太子。分からないながらも、何か揉めているんだな、とアルディ王子は、兄の手を取り、ちょいちょい、と入り口に向けて人差し指で、これ?と首を傾げて合図した。
こくこく。うん、これ。

踊る、それは良いんだけど、の後に続く言葉は、揉め事があって、なのだな。

ファング王太子は、ふ、と顔を上げて、気を取り直し、威厳を保って、扉を開けて。

「皆、すまない、遅くなった。所で、外まで、揉めている声が聞こえてきたぞ。一体、どうしたというんだ。」

ハッとして、サッ、と頭を垂れて、胸に手を当て礼をする、獣耳尻尾の子供達。1人の利発そうな身体の大きな熊耳少年、その後ろに、貴族や豊かな平民と思われる見目麗しい少年少女達がいて。そして対する少女は、ウサギ耳、車椅子で。後ろに主に、そう豊かでない平民の子や、身体の小さかったり、少し太ったりと、バラエティーに富んだ見た目の者達を控えさせていた。

周りで見守っていた貴族の保護者達やお付きの者も、ファング王太子とアルディ王子に礼をとった。舞の監督も。
しかし、何も言わない、ということは、子供達自身に、チームをまとめて踊る事を、ある程度様子をみて任せているのだ。ファング王太子の力量を見ている、ともいう。

「良いよ、直って。もうすぐおぼんなのだから、舞の練習をしようじゃないか?••••••今日は、何で揉めているんだ?」
なかなか口を切らない子供達だったが、揉め事の中心にいた、アッシュグレーの髪色、瞳の、幼いながらに精悍な、一回り皆より大きい少年が、まず話し出した。

「コリーヌ嬢達に、現実を見て欲しくて。舞はやめたらどうかと、勧めていました。」
「現実を見てほしいとは?ルトラン?」

ふー、やれやれ、とばかりに、ため息をつく、ルトランと呼ばれた少年は続ける。
「コリーヌ嬢は、見た通り車椅子で、足が不自由です。」
指摘されたコリーヌ嬢は、むぐ、と口を閉じて悔しそうに拳を握った。

「それなのにわざわざ無理をして、上半身だけの舞で踊るから、やっぱり全体的な舞の完成度としては、ちょっと見劣りします。」
「私達も、何も舞でなくとも、他にもコリーヌ様にできる事がありましょうから、あまり無理はなさらない方が良いのでは、と思いますわ。」
ルトランの後ろにいた令嬢、令息達も、うんうん、と頷いている。

「ふむ、それで?」
ファング王太子が促し、ルトランが続ける。

「先日、上手く踊れない者と、出来ている者とで、チーム分けをして、各々努力して完成度を上げる、となりましたよね。コリーヌ嬢の後ろで踊っている者達は、舞が上手くできない者、不得意な者を集めたチームです。もう、今日この段階で、このレベルでは、おぼんに踊るには、不足ではないでしょうか。何も無理せずとも、できないのであれば、踊らなければいい。せっかくおぼんに来る魂達に、捧げる舞なのだから、完璧な舞をすべきです。」

舞を完璧に収めたファング王太子殿下と一緒に踊るのですから、拙い舞を披露するべきではない。それは不敬でもあるし、ファング王太子の名を貶める事にもなる。

「私は、そのように思います。」
私は正しい、とルトラン達は堂々と。

「そうか•••だが、それでも私は、皆で踊れたら、と、やはり思う。コリーヌ、君たちも、頑張っているのだろう?」
ファング王太子は、ふ、と息を吐いて、一方だけの意見だけでなく、コリーヌ嬢にも聞いた。

「はい。おぼんまで、ギリギリまで、頑張りますから、私達は、踊りたいです!わ、私が足が悪いのは、もう、どうにもならない事です。でも、私だって、こうなりたくてなったのではないし、踊るのも好きです!皆と、一緒に、精一杯踊りたい!皆、平民の子は働いていたりもするから、練習ばかりをできない事情もあります。あまり動くのが得意ではない者もいますが、皆、やっぱり、光栄なこの舞を、やってみたいと思っているんです!」

私たちだって、やってみたい!
真剣な目をして言い募る。

「そうか。」
ファング王太子は、うんうん、と頷いたが。

「やりたいからと言って、できる事ばかりではないだろう。わがまま言わずに、遠慮したらどうだ。」
ルトランと、その後ろの令嬢令息達は、ふるふる、と頭を振って、受け入れない。


アルディ王子は、双方の意見を聞いて。

これって、コーディネーターが必要なんじゃないの。

と思った。

病気で弱くて、皆と一緒ができなかった、受け入れられない者達の気持ちがわかる、自分。

エフォールと仲良くして、自分は足がちゃんと動いて、でも、動かない車椅子のエフォールと、一緒に遊んできた自分。

今では、喘息に気をつけながら、色々な事を出来てきた、自分。

そうして、ここにいる、2つの、出来るチーム、出来ないチーム、どちらにも属さない。

真ん中で双方を取り持つコーディネーターには。

私、アルディが、ピッタリなんじゃないの??

ファング王太子は、困った顔で、何とか皆で一緒に踊れる方法はないのか?と対話を求めている。
兄様にお助けする事が、私に、できる、かも???

アルディ王子は、思い立って、ブルブルリ!と武者震いをして。


「はい!発言を求めます!」


手を上げて。

出来るチームも、出来ないチームも、え、と虚を突かれた顔で。一斉にアルディ王子を見た。
その顔は、今までこんな人いたっけ、と、誰も彼もが同じ顔をしていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で双子の勇者の保護者になりました

ななくさ ゆう
ファンタジー
【ちびっ子育成冒険ファンタジー! 未来の勇者兄妹はとってもかわいい!】 就活生の朱鳥翔斗(ショート)は、幼子をかばってトラックにひかれ半死半生の状態になる。 ショートが蘇生する条件は、異世界で未来の勇者を育てあげること。 異世界に転移し、奴隷商人から未来の勇者兄妹を助け出すショート。 だが、未来の勇者アレルとフロルはまだ5歳の幼児だった!! とってもかわいい双子のちびっ子兄妹を育成しながら、異世界で冒険者として活動を始めるショート。 はたして、彼は無事双子を勇者に育て上げることができるのか!? ちびっ子育成冒険ファンタジー小説開幕!!  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 1話2000~3000文字前後になるように意識して執筆しています(例外あり)  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ カクヨムとノベリズムにも投稿しています

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~

明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

処理中です...