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本編
陽炎の月9日から12日 アルディ王子3
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「箱は、竜樹様が、こんなのあるけど、お土産にどう?って言って、用意して下さったんだよ。すてきでしょ!私のも、おそろいで、あるんだよ。私は、宝物入れにしたの。中はね•••。」
うんうん、しゅるり、ふさ付きの紐がそれぞれ解けて、中の。
「靴?でも、随分隠すところが少ないね?」
「だから、足形を送ってくれ、って言ったんだね、アルディ。」
ブレイブ王には、チョコレート色の皮のサンダル。オープントゥ、つま先が解放されていて、甲は2本の皮の帯が組んでありホールド、踵上にも、皮帯がわたっている。ファング王太子のものは、サイズが小さく、色がオークルだが、同じデザイン。
執務をする時の上着の長い、優雅な王や王太子の服でも似合うようにと、サンダルとはいえ、ビーサン型とはならなかった。
「ハルサ王様やマルグリット王妃様が、執務室で、素足におはきになるって。足がむれなくて、サラッとして、気持ちいいって。サンダルも、竜樹様が、じょうほうくださってできた靴なんだよ。まだ、売り出したばかりなの。人気になり始めてるんだよ。」
最初は、ビーサンていう、プールの後にはくのが欲しかったんだって。ビーサンは、私もはいてるよ。
アルディ王子が説明をする中、ブレイブ王とファング王太子は靴下を脱ぎ、すぽ、とサンダルを履いた。
たっ。トントン。すた、すた、すた。
「おお~!何とも、開放感がある!確かに靴では、足が重い事があるのだよ。楽で、いいぞ、これは。」
「本当、気持ちいいね!」
ニコニコとサンダルを履いて、試しに歩き回る2人。
そこに、ラーヴ王妃が。
「かっ、•••かぁわいいわぁ!す、素敵!」
箱から出したサンダルを、形が崩れないよう、胸にそっと抱く。
アルディ王子が、今までのように、母ラーヴを恐れず、緊張せず懐いてくれた事も、とてもとても嬉しかったのに、その上こんな、思いのこもった、可愛らしいお土産をくれるなんて。
柔らかく優しい色のピンクベージュの布が、甲の真ん中に縦一本、花を作りながら咲いて、脇とつま先はオープン。つま先手前で同じ色の細い皮が3本渡っている。足首も細い皮が5重に踵布と繋がり。ウエッジヒールはかなり低めだが、程よく厚みがあり、履き心地も良さそうだ。
「ミュール、っていう、かかと紐のないステキなやつもあったんだけど、それは歩くとき、パカパカしちゃうかなーと思って、サンダルにしたの。お母様は、カッコいいおしゃれな靴はお持ちだから、可愛いの、ってしてみたのです。」
ラーヴはキリッとした美人なので、身の回りのものは自分の雰囲気に合わせると、スラッとしたスマートなものか、豪華な装飾のものになりがちである。
本人は可愛いものも、好きなのだ。あまり似合わないと思って諦めているけれど、サンダルくらいなら。一点可愛いを使い、生かすように爽やかであまクールなコーディネート、トライしてみようではないか!
「嬉しい。嬉しいわ!ありがとう、アルディ!このサンダルを履いたら、お母様は、ずっとごきげんになれるわ!」
えへへ、と笑うアルディ王子の頭に、チュッとキスをして、ラーヴ王妃はサンダルをいそいそと履いた。侍女が靴脱ぎを手伝い、スポッと履いたら、振り、とつま先を振ってみる。
ラーヴは可愛い息子と、可愛いサンダルに、心の奥底から、ひたひたと満たされ、浮き立つ思いがふーっと、湧いてくるのを感じた。
そうだ。
思えば、アルディを鍛えねばと、その度に苦しそうに咳の発作を起こす息子へと、こうあらねばならぬ、と無理して硬く強張っていた頃は、こんな風に柔らかな気持ちになる事が、なかった。
厳しくあろう、厳しくなければ、治らないのではないか、と思い込んで、辛そうな症状に、優しくしてやりたいのに、それではダメだと、心が荒んで。
現実は、硬い思い込みなど、何にもならなかった。ちゃんと、どんな時に咳が出るのか、注意深く、慎重にみてやれれば、病気が分からないながらも、あんなに苦しくさせる事は、なかったのに。
気持ちを、力強く柔らかく、大きく温かくと保つ事ができなかった。弱かったのだ。
自分が弱いと、幼く可愛い息子にさえ、自分の気持ちの持って行き場のない所を、不自然に、あててしまう。
可愛いを保つ、柔らかさを保つのは、強かでしなやかでなければ、できない事なのだ。
「これからは、お母様は、可愛い、柔らかい、温かいを大事にするわ!そして、強くなるわ!」
「? 私も、強くなりたいなぁ?」
「わ、私も!」
「アルディは、強いわよ。」
何せ、間違いをした母にも、優しい思いを返してくれたのだもの。
そしてファングも、押し付けられた過剰な理想に、嫌だできないと、やさぐれることもなく、育ってくれた。そこが心配でもあるが、アルディが助けると言った事で、気持ちの辛さを言う事ができた。
「ファングも強いけれど、私と一緒で
、柔らかくなれると、いいわね。こうでなきゃ、って自分を苦しめないで、ね。」
弱く儚く見えるものの、本当の強さを。
そしてそれらを受け入れて、共に生きていける、本当の強さを。
お母様は、目指します。
可愛いサンダルを履いてね。
ニッコリ、サンダルを見て、息子達を見て、決意を込めて笑うラーヴ王妃に、ブレイブ王は。
「似合うよ、ラーヴ。とっても。」
妻の優しく、どこかすっきりとした気持ちを感じて、穏やかに手を取り、ギュッと握った。
うんうん、しゅるり、ふさ付きの紐がそれぞれ解けて、中の。
「靴?でも、随分隠すところが少ないね?」
「だから、足形を送ってくれ、って言ったんだね、アルディ。」
ブレイブ王には、チョコレート色の皮のサンダル。オープントゥ、つま先が解放されていて、甲は2本の皮の帯が組んでありホールド、踵上にも、皮帯がわたっている。ファング王太子のものは、サイズが小さく、色がオークルだが、同じデザイン。
執務をする時の上着の長い、優雅な王や王太子の服でも似合うようにと、サンダルとはいえ、ビーサン型とはならなかった。
「ハルサ王様やマルグリット王妃様が、執務室で、素足におはきになるって。足がむれなくて、サラッとして、気持ちいいって。サンダルも、竜樹様が、じょうほうくださってできた靴なんだよ。まだ、売り出したばかりなの。人気になり始めてるんだよ。」
最初は、ビーサンていう、プールの後にはくのが欲しかったんだって。ビーサンは、私もはいてるよ。
アルディ王子が説明をする中、ブレイブ王とファング王太子は靴下を脱ぎ、すぽ、とサンダルを履いた。
たっ。トントン。すた、すた、すた。
「おお~!何とも、開放感がある!確かに靴では、足が重い事があるのだよ。楽で、いいぞ、これは。」
「本当、気持ちいいね!」
ニコニコとサンダルを履いて、試しに歩き回る2人。
そこに、ラーヴ王妃が。
「かっ、•••かぁわいいわぁ!す、素敵!」
箱から出したサンダルを、形が崩れないよう、胸にそっと抱く。
アルディ王子が、今までのように、母ラーヴを恐れず、緊張せず懐いてくれた事も、とてもとても嬉しかったのに、その上こんな、思いのこもった、可愛らしいお土産をくれるなんて。
柔らかく優しい色のピンクベージュの布が、甲の真ん中に縦一本、花を作りながら咲いて、脇とつま先はオープン。つま先手前で同じ色の細い皮が3本渡っている。足首も細い皮が5重に踵布と繋がり。ウエッジヒールはかなり低めだが、程よく厚みがあり、履き心地も良さそうだ。
「ミュール、っていう、かかと紐のないステキなやつもあったんだけど、それは歩くとき、パカパカしちゃうかなーと思って、サンダルにしたの。お母様は、カッコいいおしゃれな靴はお持ちだから、可愛いの、ってしてみたのです。」
ラーヴはキリッとした美人なので、身の回りのものは自分の雰囲気に合わせると、スラッとしたスマートなものか、豪華な装飾のものになりがちである。
本人は可愛いものも、好きなのだ。あまり似合わないと思って諦めているけれど、サンダルくらいなら。一点可愛いを使い、生かすように爽やかであまクールなコーディネート、トライしてみようではないか!
「嬉しい。嬉しいわ!ありがとう、アルディ!このサンダルを履いたら、お母様は、ずっとごきげんになれるわ!」
えへへ、と笑うアルディ王子の頭に、チュッとキスをして、ラーヴ王妃はサンダルをいそいそと履いた。侍女が靴脱ぎを手伝い、スポッと履いたら、振り、とつま先を振ってみる。
ラーヴは可愛い息子と、可愛いサンダルに、心の奥底から、ひたひたと満たされ、浮き立つ思いがふーっと、湧いてくるのを感じた。
そうだ。
思えば、アルディを鍛えねばと、その度に苦しそうに咳の発作を起こす息子へと、こうあらねばならぬ、と無理して硬く強張っていた頃は、こんな風に柔らかな気持ちになる事が、なかった。
厳しくあろう、厳しくなければ、治らないのではないか、と思い込んで、辛そうな症状に、優しくしてやりたいのに、それではダメだと、心が荒んで。
現実は、硬い思い込みなど、何にもならなかった。ちゃんと、どんな時に咳が出るのか、注意深く、慎重にみてやれれば、病気が分からないながらも、あんなに苦しくさせる事は、なかったのに。
気持ちを、力強く柔らかく、大きく温かくと保つ事ができなかった。弱かったのだ。
自分が弱いと、幼く可愛い息子にさえ、自分の気持ちの持って行き場のない所を、不自然に、あててしまう。
可愛いを保つ、柔らかさを保つのは、強かでしなやかでなければ、できない事なのだ。
「これからは、お母様は、可愛い、柔らかい、温かいを大事にするわ!そして、強くなるわ!」
「? 私も、強くなりたいなぁ?」
「わ、私も!」
「アルディは、強いわよ。」
何せ、間違いをした母にも、優しい思いを返してくれたのだもの。
そしてファングも、押し付けられた過剰な理想に、嫌だできないと、やさぐれることもなく、育ってくれた。そこが心配でもあるが、アルディが助けると言った事で、気持ちの辛さを言う事ができた。
「ファングも強いけれど、私と一緒で
、柔らかくなれると、いいわね。こうでなきゃ、って自分を苦しめないで、ね。」
弱く儚く見えるものの、本当の強さを。
そしてそれらを受け入れて、共に生きていける、本当の強さを。
お母様は、目指します。
可愛いサンダルを履いてね。
ニッコリ、サンダルを見て、息子達を見て、決意を込めて笑うラーヴ王妃に、ブレイブ王は。
「似合うよ、ラーヴ。とっても。」
妻の優しく、どこかすっきりとした気持ちを感じて、穏やかに手を取り、ギュッと握った。
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