238 / 581
本編
大きな事業にご支援を
しおりを挟む
『おぼん前特集 クラージュ その愛と自由』
大画面テレビには、そのタイトルがゆっくりと浮かび上がり、そしてまた消えていく。背景の写真の少年、クラージュは、ニコリと笑顔で、ジェムの肩を抱いている。
『これは、1人の少年の、短い生涯と、残した大きな事業の物語ーーー。』
母の死、父と正妻からの虐待、家の破産、家仕舞いの後始末だけを押し付けられた経緯、ちょっとだけ世話したが見放した伯爵と家庭教師、浮浪児時代の束の間の幸福、そして、死ーーー。
ナレーションによって説明され、残された人々の証言、再現ドラマもあり。
街では、ここまでで、涙ぐむ人多数。
そして未来へ。
竜樹がレベルアップさせた、環境にも人にもやさしい、植林や手入れで森をも守る葉っぱ事業、プロフェッショナルでリペアなども受けられる靴磨きに、服を大事に、お洒落着と普段着のクリーニング、仕事を円滑にの便利なメッセンジャーに、プロならではの家を特別ピカピカにしてくれる清掃代行の話。
クラージュマークは信頼の証。写真を参考にディフォルメして作られたマーク。クラージュ少年が、笑顔で腰に片手を当てて立っている。
クラージュ商会の売上の一部は、困っている子供を支援する資金に充てられます、とナレーションが言うと、広場前大画面を観ていた人々は、うんうん、頷き、くーっ!と流れる涙を拭いた。
悲しいだけの番組なんて作らない。
どうか、彼を忘れないでーーー。もうすぐお盆の、今日、満を持して放送されたクラージュの番組。
最後は、『忘れないで』という、竜樹がイチオシした、死者の国を舞台にしたアニメ映画の歌を、アミューズの歌声で流した。
アミューズが何か、自分もクラージュのためになる事したい、目が悪くても気にしないで、優しくしてくれたから。と言ったので、歌うたってみる?と音楽大将バラン王兄を頼み、ピアノで伴奏、『忘れないで』を歌わせてみたら。
その一声、目を見張る。
未熟でありながら、それも魅力に変えて。爽やかな少年の、そして情緒あふれる、素直で何とも心惹かれる歌。
耳が良い、声が良い。そして何とも、歌っている風情がいい。竜樹は気にしてなかったが、アミューズは、成長してどうなるかは分からないが、現在そこそこ整った顔なのだ。その上、豊かな表現力がある。
「この子は私が育てる!!」
バラン王兄が、勢い込んで竜樹に言ってきたから、「ハイハイ音楽的にって事ですよね、本人にも希望を聞いてみてからですよ。」と、ガルガルにどうどうしておいた。
アミューズは、「歌が好きだから、教えてもらう~。」と軽い感じ。子供が好きらしいバラン王兄はニッコリだ。
そしていいねが1000と、なかなか減ったのは、やっぱり権利関係に厳しい会社の歌だからだろうか。幸せ支払い担当ぽん太くん、がんばった。その会社はユーモアもあるから、異世界で曲を、って提案を楽しんでくれたかもしれない。
歌が、切なく番組の最後に、関わった番組制作者たちと、インタビューに応えてくれた人達の名前と共に流れ終わる。
いつまでも残るのは、写真のクラージュ。
ほう、と竜樹は番組を見終わって息を吐き出した。寮でくつろぎながら、皆で観た。子供達も、良い子で。ジェムなどは出演していたので、ちょっと照れくさそうだったが、黙って観ていた。
販売され始めたテレビなのだが、値段は頑張ったがまだ若干高めで、貴族や商家では家で見られるようになった。庶民は、これからちょっとお金を貯めて、画面の中くらいか小さめのを買う、という感じだ。まだまだ広場の大画面や郵便局、冒険者組合の備え付け画面で見る事が多いだろう。教会にも順次入っているので、子供などは教会にテレビを観に来たりもする。教会にそんな風に親しんでくれていたら、今後、勉強や、困った時などにも来やすいだろう。
ラジオの方がお手頃で、いつでもどこでも、気軽に音楽を聴ける事が評判になり、手に入れる庶民も増えてきた。そしてクラージュの番組はラジオにも変換され、商店街でも放送された。
テレビやラジオの採用試験中で、番組は日中、ずっとやっている訳ではないが、新聞にテレビ、ラジオの番組予定が載るようになり、皆それを楽しみに待つようになってきた。
葉っぱビジネスの派生として。夏だから柏餅じゃなくて、瑞々しい葉っぱでまるっと包んだ水まんじゅうを販売する事にして、試しに皆で食べつつ、くつろいでいると。
ヨロヨロと、何でも実現バーニー君が。いつもの、細目を、微妙にとんがりまなこにして近づいてくる。
竜樹は焦る。
アワアワワ。何かやったっけ?
「え、え、俺、今回はバーニー君に面倒かけなかったと思うよ?サテリット商会、ニリヤのじいちゃんに、新しくクラージュ商会を立てるの手伝ってもらったし。」
バン!と立ち塞がったバーニー君は。
「それですよ!テレビと、ラジオの量産体制をやっと整えた所に、またデカい商売を!何故、私を呼ばないのですか~!!!」
「え?」
竜樹の目は最初から小さいが、それでも目が点になった。
「この面白そうな商売!魔法の浄化だって関係してそうでしょ!それに、さっきの番組!気になる所が多すぎる!クラージュ少年の両親は、今はどうしてるんですか!?ちゃんと捕まって、罪は何で、借金返しているんですか!?それに、あれじゃあ、一時的に保護して突っ放した伯爵と、家庭教師が悪者になっちゃって、立場がないって番組に文句つけてきませんか!?商売の邪魔されるのでは!?クラージュ少年を殴って死なせた若者達は労働刑って事ですけど、刑期が終わって戻ってきたら、目の敵にされませんか!?子供達危なくないんですか!色々心配すぎます!!!それに、それに、鑑定のお兄さんを~よくも引き抜きましたねえぇぇぇ竜樹さまぁ!」
ぜえ、はあ、ぜえ。
「はい、はい。」
やりたかったのね、この仕事。バーニー君。
確かに、サテリットのじいちゃんも、「私があと20も若ければ!この面白いやり甲斐ある商売を、人に任せるなんて!私がやりたかった!!」くくく、と悔しそうに言っていた。
結局は、サテリット商会の中でも、信頼のおける、落ち着いた男性を紹介してくれたのだ。「この者も、家で苦労した口だから、真面目に親身になってやってくれると思います。」と。そしてその人は、確かに熱意があり、有能だった。1つ月しないで、人を集め、物を準備し、交渉し、しかも丁寧な仕事で、番組に合わせて葉っぱビジネスを始動させられるくらいに。
他の事業も、念入りに準備し、順次開始予定である。
クラージュの行く末をもう少し気にかけてやれば、と後悔する王様も、肝入りの商売って事で、番組の終わり頃に、お言葉を添えてくれた。横槍真似っこ乗っ取りなどは、恐れを知らぬ愚か者でもなければ、出来なくなった。
気持ちに余裕をもって準備ができる。
「ごめんね、バーニー君。忙しいかと思って。」
「忙しいですよ!」
「まあ、お盆の後は、テレビとラジオの採用試験発表に、教科書作り、視覚聴覚の障がいに役立つ機器の生産に、盲導ウルフの視察に、収穫祭と合わせて歌の競演会もあるから。バーニー君、まだまだ君の力は必要です。」
「そうですか!また忙しいんですか!?やってられません!!」
やりたいのか、やりたくないのか、どっちやねん。
エセ関西人で心がツッコミつつ。
鑑定のお兄さん。
サングラスを鑑定してくれた人。
人の役に立つ鑑定、また安くやるから来てね、と言っていた人なのだが、葉っぱビジネスで、他にも使える葉っぱあるのかな?と疑問に思った竜樹が、森の調査に同行し、一緒に鑑定のお兄さんも来てくれたのだ。
「あ、これ、山椒っぽい。木の芽、って言って葉っぱも飾りになるやつ。」
と竜樹が言えば、鑑定して。
「確かに、こちらの木、実の乾燥粉末が調味料になる、って出てます。葉っぱにも香りがあって、食材に添えて使えると。」
面白い。と言ってくれた。
鑑定するのに、漠然と情報を読み取るより、「調味料になるかな?」とか、「食べられるかな?香りは?」とか、考えながら視ると、その情報が鑑定できるのだそうだ。だから、鑑定と一括りに言っても、沢山の物の情報や概念を知っていて問える者と、ただストレートにこれ何だ?と視る者とでは、結果が違ってくる。
その日は、山椒の他に、食事に包んで使える、大きな笹みたいな葉っぱ(殺菌効果あり)や、大人の顔くらいある大きな葉っぱで、片方のふちを2枚に開いて、いなり寿司の油揚げのように袋になる葉っぱ(採った小さい葉っぱを入れれば、適度な湿り気で新鮮に持ち運べる)、尖ったもので文字が書ける葉っぱ、桜餅、柏餅に使える良い香りの葉っぱ、無味無臭で、皿に敷いて彩り美しく、油汚れを皿から遮り、擦れば油を分解する葉っぱ、などが見つかった。
「貴方といると、本当に、面白い鑑定が出来る!こんなの初めて!惚れた!」
「ええっ!?」
「こちらの事業や、ギフトの御方様案件に優先の鑑定士として、優先契約して下さい!是非!お給料は、そんなになくても良いから!」
いえいえそんな訳にも。
と遠慮したが、鑑定士さんにも新しい知識や概念が得られる利があり、それはお金に代えられない、と言うので、今までの7掛けくらいで手を打ってもらった。手が空いたら他の人の鑑定も受けていいから、としている。
「あの鑑定士さん、財産鑑定では定評のある人だったんですよ。美術品とかの。ウチの実家の商会も、割とお世話になった人で。商会の連中はザワついてますよ!何か、優秀で個性的な一匹狼だったりする人間が、こぞってギフトの御方様案件ではまって、取り込まれていく、って。それで皆、楽しそうに仕事してるって。」
ふー、とため息だが、バーニー君、それは君、人ごとではないのでは。
「ううん、まあ、楽しく仕事してくれるなら、良いかな。それから、今日の番組の不足情報は、新聞に追加で掲載されるし、子供達の安全については、ちゃんと人をつけてるよ。まあ、新聞販売所には、神鳥オーブとその子供達が、くっついてくれてるから。ちなみに、クラージュの両親は、子供奴隷売買の罪を犯していたようだよ。ちゃんと捕まって、正妻は無期で火の魔道具に魔法を込める仕事、前当主も死ぬまで癒し魔法の魔石作りだそうだ。」
「おお、酷い人なのに癒し魔法使えるのって、本当複雑な気持ちですね。」
「うん。そうだね。」
竜樹も、うんうん頷く。
「街の若いワル達は、今は刑に服しているから、出所しても危険じゃないように誓約魔法をかける事になった。2度とクラージュのような事、ジェム達だけでなく弱い者に拳を下ろさない為にね。」
「伯爵と家庭教師は?」
「幼い子供を市井に追いやった罪を受け入れて、多大なご寄付をしてくれる、んじゃないかな?多分。してくれますよね。何か言ってきたら、ご厚意なら、遠慮なくいただきます、って言います。」
アルカイックスマイルで、竜樹は手をお金の形にした。
「ひでえ。揺さぶって金を出させるとは!」
バーニー君がのけぞる。
「いえいえ、無理のない範囲で、こちらから提案するのは一回だけですよ。寄付金いただいた方は、きちんと公表します、ってするし、きっとあちらは、何かこんな言い訳するんじゃないかな、こんな事になるとは思わなかった、仕方なかった、出て行くのは彼の意思だった、可哀想に思って寄付金も払ったんです、良い事業だから!とか。言ってくれると思います。追加で彼らにインタビューもするし。」
「逃げ道なしか。」
「お金がなかったら、ボランティアやってくれてもいいしね。」
後に、ピュール伯爵はニコニコとした顔で内心渋々と寄付金を払い。ジャンティ先生はボランティアをやる事に。特にジャンティ先生は、自分がカッコよく正義の人にの理想を、現実にボコボコにされ、へしょへしょしながらも、周りに助けられて、ボランティアを死ぬまで無理なく続ける事となる。
そうなのだ、最初から、沢山の人でちょっとずつやれば良かったんだよ。と竜樹は思ったが、特に何かをジャンティ先生に言う事はなかった。
「バーニー君、夕飯食べて行く?」
「食べます!美味しいものが食べたいです。」
寮の夕飯は、野良猪こま肉のポークチャップ、ご飯、きゅうりサラダ。飲み物は麦茶だ。
王子達と貴族組、子供達が並んで、ご飯をもらっていく。アルディ王子は、サンダルを土産に、お国に里帰り中である。竜樹とバーニー君も並び、そして席に着くと、ニリヤ王子がニコニコ、小さな、おままごとに使うような、お茶碗、お皿、コップ、フォークを持ってきた。これもまた小さなトレイに乗せられて、それが2組ある。
「何ですか?おままごとですか?」
バーニー君が不思議に問うと。
「クラージュにあげる分だよ。」
「かあさまと、あかちゃんのぶんなの。あかちゃんは、おちちだから、かあさまに食べてもらうの。」
竜樹とニリヤが応えた。
2人の食べる分から、ちょっとずつ分けて。最後には、結局竜樹とニリヤがちょちょっ、と食べて終わりにするのだが、こういうのは気持ちである。
食前の祈り。
バーニー君は、いつもより念入りに、真剣に、思いを込めて祈った。ここにいない、死者の国にいる者達のために。
さて、それでは。
「「「いただきまーす!」」」
大画面テレビには、そのタイトルがゆっくりと浮かび上がり、そしてまた消えていく。背景の写真の少年、クラージュは、ニコリと笑顔で、ジェムの肩を抱いている。
『これは、1人の少年の、短い生涯と、残した大きな事業の物語ーーー。』
母の死、父と正妻からの虐待、家の破産、家仕舞いの後始末だけを押し付けられた経緯、ちょっとだけ世話したが見放した伯爵と家庭教師、浮浪児時代の束の間の幸福、そして、死ーーー。
ナレーションによって説明され、残された人々の証言、再現ドラマもあり。
街では、ここまでで、涙ぐむ人多数。
そして未来へ。
竜樹がレベルアップさせた、環境にも人にもやさしい、植林や手入れで森をも守る葉っぱ事業、プロフェッショナルでリペアなども受けられる靴磨きに、服を大事に、お洒落着と普段着のクリーニング、仕事を円滑にの便利なメッセンジャーに、プロならではの家を特別ピカピカにしてくれる清掃代行の話。
クラージュマークは信頼の証。写真を参考にディフォルメして作られたマーク。クラージュ少年が、笑顔で腰に片手を当てて立っている。
クラージュ商会の売上の一部は、困っている子供を支援する資金に充てられます、とナレーションが言うと、広場前大画面を観ていた人々は、うんうん、頷き、くーっ!と流れる涙を拭いた。
悲しいだけの番組なんて作らない。
どうか、彼を忘れないでーーー。もうすぐお盆の、今日、満を持して放送されたクラージュの番組。
最後は、『忘れないで』という、竜樹がイチオシした、死者の国を舞台にしたアニメ映画の歌を、アミューズの歌声で流した。
アミューズが何か、自分もクラージュのためになる事したい、目が悪くても気にしないで、優しくしてくれたから。と言ったので、歌うたってみる?と音楽大将バラン王兄を頼み、ピアノで伴奏、『忘れないで』を歌わせてみたら。
その一声、目を見張る。
未熟でありながら、それも魅力に変えて。爽やかな少年の、そして情緒あふれる、素直で何とも心惹かれる歌。
耳が良い、声が良い。そして何とも、歌っている風情がいい。竜樹は気にしてなかったが、アミューズは、成長してどうなるかは分からないが、現在そこそこ整った顔なのだ。その上、豊かな表現力がある。
「この子は私が育てる!!」
バラン王兄が、勢い込んで竜樹に言ってきたから、「ハイハイ音楽的にって事ですよね、本人にも希望を聞いてみてからですよ。」と、ガルガルにどうどうしておいた。
アミューズは、「歌が好きだから、教えてもらう~。」と軽い感じ。子供が好きらしいバラン王兄はニッコリだ。
そしていいねが1000と、なかなか減ったのは、やっぱり権利関係に厳しい会社の歌だからだろうか。幸せ支払い担当ぽん太くん、がんばった。その会社はユーモアもあるから、異世界で曲を、って提案を楽しんでくれたかもしれない。
歌が、切なく番組の最後に、関わった番組制作者たちと、インタビューに応えてくれた人達の名前と共に流れ終わる。
いつまでも残るのは、写真のクラージュ。
ほう、と竜樹は番組を見終わって息を吐き出した。寮でくつろぎながら、皆で観た。子供達も、良い子で。ジェムなどは出演していたので、ちょっと照れくさそうだったが、黙って観ていた。
販売され始めたテレビなのだが、値段は頑張ったがまだ若干高めで、貴族や商家では家で見られるようになった。庶民は、これからちょっとお金を貯めて、画面の中くらいか小さめのを買う、という感じだ。まだまだ広場の大画面や郵便局、冒険者組合の備え付け画面で見る事が多いだろう。教会にも順次入っているので、子供などは教会にテレビを観に来たりもする。教会にそんな風に親しんでくれていたら、今後、勉強や、困った時などにも来やすいだろう。
ラジオの方がお手頃で、いつでもどこでも、気軽に音楽を聴ける事が評判になり、手に入れる庶民も増えてきた。そしてクラージュの番組はラジオにも変換され、商店街でも放送された。
テレビやラジオの採用試験中で、番組は日中、ずっとやっている訳ではないが、新聞にテレビ、ラジオの番組予定が載るようになり、皆それを楽しみに待つようになってきた。
葉っぱビジネスの派生として。夏だから柏餅じゃなくて、瑞々しい葉っぱでまるっと包んだ水まんじゅうを販売する事にして、試しに皆で食べつつ、くつろいでいると。
ヨロヨロと、何でも実現バーニー君が。いつもの、細目を、微妙にとんがりまなこにして近づいてくる。
竜樹は焦る。
アワアワワ。何かやったっけ?
「え、え、俺、今回はバーニー君に面倒かけなかったと思うよ?サテリット商会、ニリヤのじいちゃんに、新しくクラージュ商会を立てるの手伝ってもらったし。」
バン!と立ち塞がったバーニー君は。
「それですよ!テレビと、ラジオの量産体制をやっと整えた所に、またデカい商売を!何故、私を呼ばないのですか~!!!」
「え?」
竜樹の目は最初から小さいが、それでも目が点になった。
「この面白そうな商売!魔法の浄化だって関係してそうでしょ!それに、さっきの番組!気になる所が多すぎる!クラージュ少年の両親は、今はどうしてるんですか!?ちゃんと捕まって、罪は何で、借金返しているんですか!?それに、あれじゃあ、一時的に保護して突っ放した伯爵と、家庭教師が悪者になっちゃって、立場がないって番組に文句つけてきませんか!?商売の邪魔されるのでは!?クラージュ少年を殴って死なせた若者達は労働刑って事ですけど、刑期が終わって戻ってきたら、目の敵にされませんか!?子供達危なくないんですか!色々心配すぎます!!!それに、それに、鑑定のお兄さんを~よくも引き抜きましたねえぇぇぇ竜樹さまぁ!」
ぜえ、はあ、ぜえ。
「はい、はい。」
やりたかったのね、この仕事。バーニー君。
確かに、サテリットのじいちゃんも、「私があと20も若ければ!この面白いやり甲斐ある商売を、人に任せるなんて!私がやりたかった!!」くくく、と悔しそうに言っていた。
結局は、サテリット商会の中でも、信頼のおける、落ち着いた男性を紹介してくれたのだ。「この者も、家で苦労した口だから、真面目に親身になってやってくれると思います。」と。そしてその人は、確かに熱意があり、有能だった。1つ月しないで、人を集め、物を準備し、交渉し、しかも丁寧な仕事で、番組に合わせて葉っぱビジネスを始動させられるくらいに。
他の事業も、念入りに準備し、順次開始予定である。
クラージュの行く末をもう少し気にかけてやれば、と後悔する王様も、肝入りの商売って事で、番組の終わり頃に、お言葉を添えてくれた。横槍真似っこ乗っ取りなどは、恐れを知らぬ愚か者でもなければ、出来なくなった。
気持ちに余裕をもって準備ができる。
「ごめんね、バーニー君。忙しいかと思って。」
「忙しいですよ!」
「まあ、お盆の後は、テレビとラジオの採用試験発表に、教科書作り、視覚聴覚の障がいに役立つ機器の生産に、盲導ウルフの視察に、収穫祭と合わせて歌の競演会もあるから。バーニー君、まだまだ君の力は必要です。」
「そうですか!また忙しいんですか!?やってられません!!」
やりたいのか、やりたくないのか、どっちやねん。
エセ関西人で心がツッコミつつ。
鑑定のお兄さん。
サングラスを鑑定してくれた人。
人の役に立つ鑑定、また安くやるから来てね、と言っていた人なのだが、葉っぱビジネスで、他にも使える葉っぱあるのかな?と疑問に思った竜樹が、森の調査に同行し、一緒に鑑定のお兄さんも来てくれたのだ。
「あ、これ、山椒っぽい。木の芽、って言って葉っぱも飾りになるやつ。」
と竜樹が言えば、鑑定して。
「確かに、こちらの木、実の乾燥粉末が調味料になる、って出てます。葉っぱにも香りがあって、食材に添えて使えると。」
面白い。と言ってくれた。
鑑定するのに、漠然と情報を読み取るより、「調味料になるかな?」とか、「食べられるかな?香りは?」とか、考えながら視ると、その情報が鑑定できるのだそうだ。だから、鑑定と一括りに言っても、沢山の物の情報や概念を知っていて問える者と、ただストレートにこれ何だ?と視る者とでは、結果が違ってくる。
その日は、山椒の他に、食事に包んで使える、大きな笹みたいな葉っぱ(殺菌効果あり)や、大人の顔くらいある大きな葉っぱで、片方のふちを2枚に開いて、いなり寿司の油揚げのように袋になる葉っぱ(採った小さい葉っぱを入れれば、適度な湿り気で新鮮に持ち運べる)、尖ったもので文字が書ける葉っぱ、桜餅、柏餅に使える良い香りの葉っぱ、無味無臭で、皿に敷いて彩り美しく、油汚れを皿から遮り、擦れば油を分解する葉っぱ、などが見つかった。
「貴方といると、本当に、面白い鑑定が出来る!こんなの初めて!惚れた!」
「ええっ!?」
「こちらの事業や、ギフトの御方様案件に優先の鑑定士として、優先契約して下さい!是非!お給料は、そんなになくても良いから!」
いえいえそんな訳にも。
と遠慮したが、鑑定士さんにも新しい知識や概念が得られる利があり、それはお金に代えられない、と言うので、今までの7掛けくらいで手を打ってもらった。手が空いたら他の人の鑑定も受けていいから、としている。
「あの鑑定士さん、財産鑑定では定評のある人だったんですよ。美術品とかの。ウチの実家の商会も、割とお世話になった人で。商会の連中はザワついてますよ!何か、優秀で個性的な一匹狼だったりする人間が、こぞってギフトの御方様案件ではまって、取り込まれていく、って。それで皆、楽しそうに仕事してるって。」
ふー、とため息だが、バーニー君、それは君、人ごとではないのでは。
「ううん、まあ、楽しく仕事してくれるなら、良いかな。それから、今日の番組の不足情報は、新聞に追加で掲載されるし、子供達の安全については、ちゃんと人をつけてるよ。まあ、新聞販売所には、神鳥オーブとその子供達が、くっついてくれてるから。ちなみに、クラージュの両親は、子供奴隷売買の罪を犯していたようだよ。ちゃんと捕まって、正妻は無期で火の魔道具に魔法を込める仕事、前当主も死ぬまで癒し魔法の魔石作りだそうだ。」
「おお、酷い人なのに癒し魔法使えるのって、本当複雑な気持ちですね。」
「うん。そうだね。」
竜樹も、うんうん頷く。
「街の若いワル達は、今は刑に服しているから、出所しても危険じゃないように誓約魔法をかける事になった。2度とクラージュのような事、ジェム達だけでなく弱い者に拳を下ろさない為にね。」
「伯爵と家庭教師は?」
「幼い子供を市井に追いやった罪を受け入れて、多大なご寄付をしてくれる、んじゃないかな?多分。してくれますよね。何か言ってきたら、ご厚意なら、遠慮なくいただきます、って言います。」
アルカイックスマイルで、竜樹は手をお金の形にした。
「ひでえ。揺さぶって金を出させるとは!」
バーニー君がのけぞる。
「いえいえ、無理のない範囲で、こちらから提案するのは一回だけですよ。寄付金いただいた方は、きちんと公表します、ってするし、きっとあちらは、何かこんな言い訳するんじゃないかな、こんな事になるとは思わなかった、仕方なかった、出て行くのは彼の意思だった、可哀想に思って寄付金も払ったんです、良い事業だから!とか。言ってくれると思います。追加で彼らにインタビューもするし。」
「逃げ道なしか。」
「お金がなかったら、ボランティアやってくれてもいいしね。」
後に、ピュール伯爵はニコニコとした顔で内心渋々と寄付金を払い。ジャンティ先生はボランティアをやる事に。特にジャンティ先生は、自分がカッコよく正義の人にの理想を、現実にボコボコにされ、へしょへしょしながらも、周りに助けられて、ボランティアを死ぬまで無理なく続ける事となる。
そうなのだ、最初から、沢山の人でちょっとずつやれば良かったんだよ。と竜樹は思ったが、特に何かをジャンティ先生に言う事はなかった。
「バーニー君、夕飯食べて行く?」
「食べます!美味しいものが食べたいです。」
寮の夕飯は、野良猪こま肉のポークチャップ、ご飯、きゅうりサラダ。飲み物は麦茶だ。
王子達と貴族組、子供達が並んで、ご飯をもらっていく。アルディ王子は、サンダルを土産に、お国に里帰り中である。竜樹とバーニー君も並び、そして席に着くと、ニリヤ王子がニコニコ、小さな、おままごとに使うような、お茶碗、お皿、コップ、フォークを持ってきた。これもまた小さなトレイに乗せられて、それが2組ある。
「何ですか?おままごとですか?」
バーニー君が不思議に問うと。
「クラージュにあげる分だよ。」
「かあさまと、あかちゃんのぶんなの。あかちゃんは、おちちだから、かあさまに食べてもらうの。」
竜樹とニリヤが応えた。
2人の食べる分から、ちょっとずつ分けて。最後には、結局竜樹とニリヤがちょちょっ、と食べて終わりにするのだが、こういうのは気持ちである。
食前の祈り。
バーニー君は、いつもより念入りに、真剣に、思いを込めて祈った。ここにいない、死者の国にいる者達のために。
さて、それでは。
「「「いただきまーす!」」」
34
お気に入りに追加
173
あなたにおすすめの小説

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる