王子様を放送します

竹 美津

文字の大きさ
上 下
235 / 573
本編

あなたに自由を、幸福を

しおりを挟む
今回、悲しい事が起こるお話です。
苦手な方は、1話飛ばしても。

ーーーーーーーーーーーー

ジェム達はザザッと4つに散開して、それぞれがクラージュを助けるという使命感を持って行動した。

それもクラージュが前もって決めていた方法だ。遅かれ早かれ、こんな事が起こるのではないか、とクラージュは予想していた。

殴られたり蹴られたりした後だから、片足引いたり、お腹を抑えたりしながら、それでも焦る気持ちを脚力に変えて。街中の警備見回り兵達を呼び。ビッシュ親父を呼び。そして若い商店街の戦力になりそうな若者達ーーージェム達にも優しくしてくれる、店の長男や次男などの顔見知り達を呼んだ。
そして残り1つ、サージュとロシェ2人が、クラージュの連れ去りを見張る為に、遠巻きにその場に残った。

「ビッシュ親父!クラージュが、連れていかれちまう!ろくでなし達が、頭のいいクラージュに目をつけた!俺たち殴られたんだ!連れていかれたら、奴隷みたいに酷い目に遭うのに決まってる!」
ジェムの訴えに、ビッシュ親父は目を吊り上げて、酒屋を女房に任せ、助けに来てくれた。駆け込んだジェム達に案内され、壊れた廃屋へ。

戻るとそこには、酷く殴られて倒れたクラージュと、その手首を掴んで引き摺った、狡い大人達が、去りかけていたが、まだ、いた。
間に合った、とジェムは思った。

「クラージュ、凄くあばれて、いっぱい殴られて蹴られた!」
「噛みついて頭ボカッとされた!」
サージュとロシェが、じだじだと足踏みしながら皆に叫ぶ。

ビッシュ親父や街の若い衆、警備兵達は、底辺の狡い大人をとっ捕まえて、吠えた。
「お前ら、ウチの街の子供らに、何しやがる!」
「悪さをしない子供らを痛めつけるとは、とんでもねえ奴だ!」

お縄を頂戴しながら、激しく抵抗し、狡い大人達は、言った。
「何だよ!俺たちが子供の時には、コイツらみたいに誰も優しくなんてしてくれなかったじゃねぇか!狡いだろ!」
「そうだ!少しくらい俺らが使ってやったくらいで、コイツらの味方をしやがって!何でコイツらなんだよ!俺たちだって助けて貰いたかったのに!」
こちらも叫びは必死で、ジェムは、ハッとした。

「うるせえ!お前らは、俺が何度も悪い事はやめろと言ったのに、盗みや恐喝なんかの、悪さばっかりしてただろ!ジェムやクラージュ達はそんな事しねえんだ!」
ボコ、とビッシュ親父が拳を落とす。

嫉妬だ。嫉妬だったのだ。
あれほど執拗に、ジェム達の商売を追い回して潰していったのは、自分らが街中で、親のない子供としてでも与えられなかった優しさを、妬んだからなのだ。
大人だ、と子供のジェム達は思っていたけれど、ビッシュ親父達と比べると、碌でなし達は、まだまだ若い。大人になったかならないか、という所だった。
自分達で、悪い道へ進んだ事は、どうにも言い訳できないけれどーーー悪い事をしないで今まできたジェム達は、まだ運が良い方なんだ、そして運が良いって事を、人が上手くいく事を、妬む者がいる。
しっかりしていなければ、引き摺り下ろされるーーー。

「クラージュ!大丈夫か!」

クラージュは酷い有様だった。
顔をボコボコに殴られて鼻血を出し、抱え上げると手足がブランとしている。
ビッシュ親父が、治療師を呼ぼう、と言ってくれて、若い衆の1人が走って行った。警備兵達が、頭を打っていたら危ないから、動かさない方が良い、と教えてくれたから、道の端、廃屋の扉だった板にクラージュを寝かせて。

「クラージュ、今、治療師が来るって。大丈夫だからな!」
ジェムが、寝ているクラージュの耳元で声をかける。アガットやロシェ達も、その周りで心配そうに見守っている。
クラージュは、ピク、と瞼を少しだけ開けると、首元へ震える手をやり、服の中から、小さな飴色の石を嵌め込んだ、プレートがキラキラしているペンダントを引っ張り出した。そこには何か、文字が刻まれている。
首から取りたいようだったけれど、震える手では上手くいかず、ペンダントごとジェムは押さえて、握った。

「こ、これ•••ちりょうだい、に。」
「そんな事は大人に任せろ!心配すんな!」
ビッシュ親父は言ってくれたけれど、清掃代だって、大分、親父の懐を痛めての事だと、ジェムもクラージュも知っていた。

「よかた•••よかっ、た。私、まだ、じゆう、だ。」
誰かに、押さえつけられて、捕まって、蔑まれたり、利用されたり、しない•••。

「そうだクラージュ!まだ俺たちはお前とやってける!大丈夫だ!」
だから、目を閉じるな!
「クラージュ!!」
「「がんばれ、クラージュ!!」」

しかし、身体全体がぶるぶると震えているクラージュは、到底普通の状態ではなかった。

「ジェム。みんなと、いっしょ、かぞく、みたいで、うれしかった•••。」
すうっ と力が抜けていく手、身体に、ジェムは焦って、ぎゅうぎゅうと手を握り。

「元気になったら家族になってやる!だから、だから、まだ、ダメだ!」
目を瞑っては!

うっすら、開けた瞳は、少し、可笑しそうに笑んで。
すーっ と。
閉じた瞼。


「ビッシュ親父さん、怪我人は!?」

はあはあ、息を切らせて、街の、痩せぎすのおじさん治療師が駆けてくる。呼びに行った若い衆が、先にジェム達が取り囲むクラージュの所へ来て、子供達を分けて、治療師を通そうと。
ジェム達は、黙って少し、治療師の場所を開けて。
荒れる息のまま、治療師は、手に魔力を纏わせて、クラージュの胸をさすり。

ハッとして、グッと唇を噛むと、クラージュの胸から、治療魔法をこれでもか、とかけるが。
「何で、まだ子供だろ、逝くのは早すぎる!戻れ、戻れ!!」

身じろぎもせず、見つめていたジェム達の前で、クラージュはどんどん、冷たくなっていった。









「ビッシュ親父、お墓に埋める代金、ありがとう。ちゃんと、少しずつ、返すから。」
「ああ。ある時に、少しずつで良いからな。だからお前らは、長生きしろよ。」

無縁墓地に、丸っこくて所々歪な、クラージュみたいな石、ジェムの一抱えほどの、それを土まんじゅうに乗せて。
空は青空。

クラージュは再び目を開ける事なく、逝ってしまった。

ジェムに寄越したペンダントは、治療師が石の所だけ、ペキ、と抜いて、プレートは返してくれた。そもそも、石を何かの時にお金の代わりにするように、と、赤ん坊が生まれた時に親が子供に作るものらしい。石も最初から抜けるように出来ている。
今でも細々と作られているが、一昔前に、流行ったのだとか。

残ったプレートには、クラージュの名前と、幸運を祈る言葉が書かれている、と治療師が教えてくれた。
そして、死人には何も出来なかったから、治療代をもらったからには。と、ジェム達、残った浮浪児の、殴られたり蹴られたりしてできた怪我を、全部治してくれた。

優しい人が、いない訳じゃない。
でも、悪い奴らは、やっぱりいる。
その悪い奴らも、全部が全部、最初から悪かった訳じゃない。
それでも、やっぱり、悪い。
その悪いのに、ジェム達だって、なる可能性がある。

クラージュが死んだので、捕まっていた連中は、3年ほどの労働刑になった。クラージュが暴れて、碌でもない連中も噛まれたり少し怪我をしたので、浮浪児達の喧嘩がいきすぎた為の事故、という判断だった。

クラージュが死んだと聞いて、連中は、すっ、と顔色を青くしたが、「あいつがあんなに暴れるから、こっちだって加減が出来なかったんだ!」とわあわあ喚いた。

墓石を前にしたジェムは、石の抜けたペンダントを、首にする。
服の中に、大事に隠す。

クラージュ。俺たちは、全然間に合ってなかった。
バカだな。そんなに暴れて、本当に嫌だったんだろう。少しいうことを聞いたフリをして、自分を守ったって良かった。
俺たちは家族だ、って言えば良かった。
たくさん商売考えてくれて、ありがとう、って、いつもいつも、思った時に伝えたら良かった。

もう何も、クラージュには届かない。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

元捨て子の新米王子様、今日もお仕事頑張ります!

藤なごみ
ファンタジー
簡易説明 転生前も転生後も捨て子として育てられた少年が、大きく成長する物語です 詳細説明 生まれた直後に病院に遺棄されるという運命を背負った少年は、様々な境遇の子どもが集まった孤児院で成長していった。 そして孤児院を退寮後に働いていたのだが、本人が気が付かないうちに就寝中に病気で亡くなってしまいす。 そして再び少年が目を覚ますと、前世の記憶を持ったまま全く別の世界で新たな生を受ける事に。 しかし、ここでも再び少年は生後直ぐに遺棄される運命を辿って行く事になります。 赤ん坊となった少年は、果たして家族と再会する事が出来るのか。 色々な視点が出てきて読みにくいと思いますがご了承ください。 家族の絆、血のつながりのある絆、血のつながらない絆とかを書いて行く予定です。 ※小説家になろう様でも投稿しております

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

婚約破棄されたけど、逆に断罪してやった。

ゆーぞー
ファンタジー
気がついたら乙女ゲームやラノベによくある断罪シーンだった。これはきっと夢ね。それなら好きにやらせてもらおう。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

転生した王妃は親バカでした

ぶるもあきら
恋愛
い、いだーーいぃーー あまりの激痛に目がチカチカする。 それがキッカケの様にある景色が頭にうかぶ、 日本…東京… あれ?私アラフォーのシングルマザーだったよね? 「王妃様、もう少しです!頑張ってください!!」 お、王妃様って!? 誰それ!! てかそれより いだーーーいぃー!! 作家をしながらシングルマザーで息子と2人で暮らしていたのに、何故か自分の書いた小説の世界に入り込んでしまったようだ… しかも性格最悪の大ボスキャラの王妃バネッサに! このままストーリー通りに進むと私には破滅の未来しかないじゃない!! どうする? 大ボスキャラの王妃に転生したアラフォーが作家チートを使いながら可愛い我が子にメロメロ子育てするお話 我が子をただ可愛がっていたらストーリー上では夫婦ながらバネッサを嫌い、成敗するヒーローキャラの国王もなんだか絡んできて、あれれ?これってこんな話だったっけ?? *・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・* 拙い本作品を見つけてくれてありがとうございます。 毎日24時更新予定です。 (寝落ちにより遅れる事多々あり) 誤字脱字がありましたら、そっと教えてくれると嬉しいです。

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

処理中です...