王子様を放送します

竹 美津

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本編

ずるい大人たち

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クラージュは浮浪児の才能があった。

浮浪児の、と言っていいのかどうか、とにかく、街を自由に動いて、ちょっとした稼ぐ方法を見つけるのが、上手かったのだ。

「葉っぱがお金になるなんて、思わなかったよ、おれ。」
ジェムがクラージュに振り返り、背伸びして大きな葉っぱを丁寧にむしり、笑う。
王都の外側に隣接する森の、香りが良くて大きい葉っぱを、飲食店に売り商売にする。飲食店では、その葉っぱに小麦粉の生地と味付けした肉の具を包んで焼いて、皿に出す。
他にも、皿に彩りをと、毒のない綺麗な葉っぱや花を採って、丁寧に運んで。

「私は魔法使えるので、浄化もできます。目の前で浄化してからお渡しするので、料理に使っても安心ですよ!」

とわざわざ店の料理人の前で浄化をしてみせて。

ジェムとクラージュの細々とした葉っぱビジネスは、他の浮浪児達も取り込んで、協力して生きていく事を身に染みさせた。その時出会ったのが、後に一緒に竜樹に保護された子供達、アガットやロシェ達だ。

「ジェム、君の良い所は、親ごさんが正直な人で、その2人や周りの人に愛されて育ったからか、人との折衝に悪い感情がない事だ。浮浪児やりながら悪い事しないでいる、って、結構大変だろ。でもそれが、重要なんだ。居ても良いよ、って街の人たちに思わせてくれる。仲間になった私たち子供らとも、縄張り争いなんかしなくて、手を繋いで協力できて、まとめる力がある。私は、それにとっても助かってる!」
「ええっ、よせよ、はずかしいな。」

ぽわ、と頬を染めるジェム。ニコニコとクラージュは良く、そんな事を言った。
おれの方が、クラージュの考えた商売で助かってるよ、ありがとう。と、ジェムは常々思っていたが、どうも照れ臭くて言えなかった。

葉っぱ商売は上手くいっていたが、それを邪魔する者が現れた。
いつものように葉っぱを持っていくと。
「あれ?今日の分は、もう貰ったよ。」
と料理人から突然言われてしまった。

「今日持ってきたのは、ジェム達の葉っぱじゃなかったのか?まあ、悪いけどうちは早く持ってきてくれた方が良いから、どこの葉っぱでも良いんだが。浄化もしてくれたし、ちゃんと話の出来る大人が付いていたしな。」

葉っぱビジネスの、模倣をする者が現れたのだ。
生活のかかっているジェム達の商売を乗っ取るのは、いかにも酷い。しかし、訴える所もなく、葉っぱは誰の物でもなく自然に生えている。そして力の弱い子供のジェム達は、模倣者に打ち勝つ事が出来なかった。

使ってくれる店にことごとく先回りされ、時にはジェム達の仲間を騙り、そしてある時には、正式に葉っぱ商売を始めましたと大人が挨拶していて。
終いには、葉っぱを採取するところに待ち伏せされ、追い払われた。
それは、街で底辺にいる大人が、何か浮浪児が上手い事やってんな、と狡賢く狙って。

「ひどい!葉っぱ商売は、クラージュが考えたのに!」
「うん•••。」
クラージュは、考えて、でも、葉っぱ商売からは撤退しよう、と沈痛な面持ちでジェム達に言った。

「私たちの商売だ、って言っても、どこにも通用しない。それどころか、今日みたいに待ち伏せされて、今度は殴られたりするかもしれない。命の方が大事だから。」
また次の事、考えるから。

洗濯の代行。掃除できない人の、部屋の片付け。メッセンジャー。靴みがき。
しかし、クラージュが考えた商売は、上手くいきかけると即座に大人に模倣され、子供達は駆逐されていった。
変わらないのは、ビッシュ親父の依頼の街清掃や、商店街の店のお客さんからの荷物持ちくらいだ。

大人たちは、模倣する時、ヘラヘラ笑っては、「また良い商売思いついてくれよな、俺たちが上手くやってやるからよ!」とクラージュとジェム達を笑いものにした。

子供達は惨めで、腹が立って、弱い立場に行きどころのない不安をもって。

「あいつら、腹が立つ!自分で考えりゃいいだろ!大人なんだからさ!」
「そうだよ、そうだよ!」

ビッシュ親父の清掃で貰った金で、今日は2人に一個のパンだけだ。それも、1日1食で。季節は秋から冬に移り始めた。寒い時期は、食べていないと、そして寝る時に何か温かい寝具を調達しないと、本当に、死んでしまう。
それに加えて。

「え•••。」

皆の寝ぐらにしていた、壊れそうだった廃屋を。
「よお、お前ら。俺たちに良い薪をくれて、ありがとうな!」
「本当だぜ!助かる助かる!」
ニヤニヤ笑い。

バキン、ぐわしゃ。
壊れそうだった廃屋は、模倣者の大人達によって、本当に壊されてしまった。

ふぅうううう!
ジェムは、腹が立って腹が立って!

「わあああああぁ!!!!」

大人達に殴りかかったけれど。
そして、それを皆、子供達が加勢してくれたけれども。
子供に遠慮などしない者達によって、ばかすか殴られて、蹴られて、そしてそれを止めに入ったクラージュに、引き離されて。
「•••ちっ!ガキはうぜえな。もう面倒くさいから、お前らの考えの元を作ってる奴、俺らに寄越せよ!」
「そうそう、俺たち優しいからさぁ。1人くらいなら面倒みてやんよ?」
がし、と大人達がクラージュの手首を掴んだ。

ぶるるるっ

クラージュは、悍ましい、という事を、存分に知ってはいたが、またか、またなのか、と掴まれた手首から、身体をなるべく遠くへやった。

「私は、いやだ•••。」
目を瞑り、苦しく吐き出す言葉など、この、コイツらは、聞いてなんかいない。

「お前が色々仕事を考えてんだろ。」
「お前だけなら使ってやんぜ?」
さもなければ、ここで全員、痛い目に遭うか?

「クラージュ!」
「ジェム!ビッシュ親父を呼んで!私は大丈夫だから、皆逃げて!」

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