王子様を放送します

竹 美津

文字の大きさ
上 下
228 / 528
本編

頼りにならない大人たち

しおりを挟む
破産して家財の始末で会ったクラージュは、うっすら微笑みながらも、その日で全部の家の物を処分出来たらしい。

そうして、酒代の未払いや食材にかかるツケ、ドレス類、宝飾品の未払いなど、館や社交での優雅な生活にかかっていた債権は、8割がた処分品と財産の差し押さえ分で補填できたのだ、とビッシュ親父がジェムに教えてくれた。
「どれだけ家のもんに金かけてんだよ。」
ジェムは呆れる。
「全くなぁ。残されてた沢山のドレスや、代々受け継がれてきた食器、一点ものの家具、持ち出され残った宝石なんかが、高値で引き取られたんだとよ。」
随分慌てて、前当主と正妻は出奔したらしい。

そういうビッシュ親父も、あのクラージュが座っていた椅子と、対になるテーブルセットを確保していた。ビッシュ親父とて、クラージュを憎くはないが、商売はまた別の話である。
「まあ、何か危ないな、って気配はしてたから、あまりツケで酒を売らなかったのも良かったんだがな。」
「危ない感じあったんだ?」

使用人の解雇。
ツケが払われないのに新たな注文。

領地から許されざる程、高額な税を取り立てていたのに、家内の経済が破綻したのは。国からの査察で、領内の資金を吸い上げる事にストップがかかったからだ。勿論、財産には差し押さえがされて。

何故なら、そこに住む人達の暮らしを蔑ろにしすぎて、経済活動は著しく滞り、領地内での反乱が起こりそうになったから。
そして、それを収めるだけの器量が、前当主には無い、と判断されたから。
国が介入したのは、そこでしか採れない建材、ライムストーンがあったため。

前当主の横暴で、起こりかけた反乱での死傷者も出て、近隣の領地にも人が流れるなど迷惑もかかり、流石に咎めた王から、当主交代の話しが出た。クラージュに当主を譲り、国からサポートする人材をつけて、立て直しをはかれば良い、前当主と正妻は、領地奥にでも引っ込んで。

「父と、正妻は私に当主を譲るのが、相当嫌だったみたい。領地に戻れば、民から害されるかもしれないし、何か後ろ暗い所もあったのかも。私に領地と爵位を返上するよう、誓約魔法をかけさせて、家を取り潰して、逃げて行ったよ。」

クラージュも、それならば、と何もかもを返上して、父が犯しているかもしれない罪から、逃れたのだった。
それらは、王様直々の命令で前当主を追う者達によって、これから明らかにされるだろう。
要は王様からも、クラージュは情けをもらって、家仕舞いをやる事で許しを得、平民となり、関わりを絶ったのだ。

ジェムは、ふうん、貴族も大変だな、とクラージュを思った。
今は後見人となった、ピュール伯爵の王都での家に寄っているという。
会う事もないか、とジェムは思っていたのだが。

「あ、ジェム~!」

「ん?あれ、クラージュ?」

まだ大画面のなかった広場前で、道案内や迷子などの面倒をみてやり、駄賃を得ていたジェムは、嬉しそうに手を振るクラージュと再会した。

「ジェム。私は本当に、自由になったよ。」
「え、何とか伯爵んちに、いたんじゃないの?」

それがね。
くすす、とクラージュは笑う。

「ピュール伯爵は、私の後見人になる事で、返上した領地をもらえたりするかも、って期待があったみたい。そんな事なかったんだけど。別の、能力ある新しい人が領地を与えられたんだ。そしたら。」

ピュール伯爵の奥さんが、文句を言い出してね。

「私はどうも、妻っていう立場の女の人には、好かれないらしいよ。愛人腹の平民に、無駄飯食らわせて、って色々仕事させられそうだったから。それだったら出ていきたいな、って口にしたら、好きにしなさい、だって。」

ふうん、とジェムは納得した。
誰もが子供1人を抱え込む余裕さえない。貴族だってそうなのだから、平民ならもっとそうだろう。ビッシュ親父に、親しみと恩を感じているジェムだって、本当は誰かに家に連れて行ってもらいたいよ、という気持ちを隠している。
仕方ない。
1人で生きていくしか。

「あの、何とか先生は?」
家仕舞いの時に言っていた、家庭教師の。

「ジャンティ先生ねぇ。」

悪い顔をして、ニシシと笑ったクラージュは、左右に頭を振りながら。

「彼はいい人なんだけど、弱い人なんだよ。理想と現実が分かってないんだ。私に、一緒にいて面倒を見てあげる、って言いたくて、でも実家からは反対されて、10日ほど宿屋に一緒にいたんだけどね。」
生活能力が全くなくて、何をするにもお金がかかって、仕事は実家がらみの家庭教師しかした事なくて、お財布が軽くなるばかりで。
最後には、私が出ていきましょうか、って言ったら。

「力が足りなくてすまない、すまない、って泣いてたよ。」

「泣きたいのは、クラージュじゃん。」

うん、そうとも言う。

ジェムは、その日、クラージュと組んで。
ちょっとした言伝や手紙を、街の中を泳ぎながら届けたり。
重いものを持っている人に、銅貨1枚で荷物持ち手伝います、とやったり。
ビッシュ親父から受けた、街の清掃を手伝ったり。

そんな事を一緒にして、屋台で肉串と、パン屋で一番安くて大きいパンを買って、分けて食べ。
今にも壊れそうな、ジェムのねぐらの廃屋で、一緒に寝床に入った。

「クラージュ、その良さそうな上着は、売ってもっと安いのにした方が良いんじゃないの?」

「ううん、これがあるから、街の人は私たちに頼み事がしやすいんだ。」

身なりで信用は、きっと変わる。
ボロボロの服で、荷物を持つと言うより、ずっと頼みやすい。

ヘェ~、とジェムは感心して、眠くなってきた目を、ゆるゆると閉じた。

「おやすみ、クラージュ。」
「おやすみ、ジェム。」

毛布は無かったが、もらった古いシーツを2人で巻いて、寄り添って眠った。
クラージュは、ホッとした顔をしていた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

こちらの世界でも図太く生きていきます

柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!? 若返って異世界デビュー。 がんばって生きていこうと思います。 のんびり更新になる予定。 気長にお付き合いいただけると幸いです。 ★加筆修正中★ なろう様にも掲載しています。

転生した王妃は親バカでした

ぶるもあきら
恋愛
い、いだーーいぃーー あまりの激痛に目がチカチカする。 それがキッカケの様にある景色が頭にうかぶ、 日本…東京… あれ?私アラフォーのシングルマザーだったよね? 「王妃様、もう少しです!頑張ってください!!」 お、王妃様って!? 誰それ!! てかそれより いだーーーいぃー!! 作家をしながらシングルマザーで息子と2人で暮らしていたのに、何故か自分の書いた小説の世界に入り込んでしまったようだ… しかも性格最悪の大ボスキャラの王妃バネッサに! このままストーリー通りに進むと私には破滅の未来しかないじゃない!! どうする? 大ボスキャラの王妃に転生したアラフォーが作家チートを使いながら可愛い我が子にメロメロ子育てするお話 我が子をただ可愛がっていたらストーリー上では夫婦ながらバネッサを嫌い、成敗するヒーローキャラの国王もなんだか絡んできて、あれれ?これってこんな話だったっけ?? *・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・* 拙い本作品を見つけてくれてありがとうございます。 毎日24時更新予定です。 (寝落ちにより遅れる事多々あり) 誤字脱字がありましたら、そっと教えてくれると嬉しいです。

処理中です...