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エクレとシエル、元王女が体育館に到着したのは、モデルの歩き方練習が始まる少し前だ。
竜樹と王子達は、何だか併設の喫茶店でお試しの仕事があるとかで、先に出かけた。
現在、竜樹はピティエとジェネルーを誘って、玉露とルテじいの話をしている最中だったが、元王女達はそんな事は知らない。
一緒に行った方が、護衛や案内などの、周りの者の手間が軽減されるのだが、今は、あまり特別扱いぽい事は控えた方が良かろう、と竜樹達が話し合って、別々に行く事にした。むろんエクレとシエル元王女達には、何故なのかは教えていない。
いつかシエルが子供達の寮に突撃した時に、それを止めようと、あわあわしていた侍従、ユミディテが1人案内に。それから隠れて護衛が2人付いて。
ユミディテ侍従は、王宮の門を出た所から体育館までの地図を、元王女達に渡して、基本自分達で歩くよう任せた。
「平民の者達は、このように歩いて移動していますよ。文字が読めない者などは、もっと大変で、目印を聞いて尋ねながら行く事もあります。文字が読めて、地図も見られて、良かったですね!さあ、エクレさんもシエルさんも、やってみましょう。よっぽど困ったら、私に聞いても良いですが、基本私は教えませんし、間違っても指摘はしません。」
ニコニコ、と笑顔で、後ろについた。
エエエエ!?
それからエクレとシエルは、あっちへ行きこっちへ行き、分からなくなり、分かりにくい!と地図を書いた者を罵倒し。ヘトヘトになった所で、道の途中、お使いの子供がその辺にいる大人に、お店の場所を聞いているのを見て、ハッとした。
そうだ、聞くって言ってた!
もしや、この侍従じゃない者に聞けば、教えてもらえるのでは?
はた、とユミディテを振り返ると、ニコ、と笑顔が返ってくるのみ。
「エクレ姉様、誰かに聞いてみてよ!」
「何よ、何で私!?シエルが聞いてみてよ!」
わやわやと押し付け合う2人を、ユミディテは、クスクス、と笑って見ていた。竜樹様に言われた通り、この元王女達は、平民としてはまだまだ子供のようなものだなぁ、と。
見かけは若い女性なので、怪しげな男連中に、いかがわしい理由で声でもかけられない限り、お勉強に放っておく事。
ええ、ええ、あの突撃の時の、お礼などではないですけど、黙って見守りましょう、面白いし。
「あ、あの•••!」
「こ、こんにちは!」
「は~い、こんにちは!いらっしゃい!」
人の良さそうな、八百屋店のおかみさんに、おずおずと2人で。
「あの、ちょっと、聞いても良いですか?」
「よ、よろしかったら、道を教えていただきたくて!」
子供達に言葉使いを特訓されて、平易な言葉でのお願いも、何とか丸である。
(うんうん、良いですね。お店の人に聞くのは、いい判断ですよ。ここで店を開き、続ける、という信用があるから、いい加減な事を言ったりしないし。女性に聞くのも、ナンパとかされないですしね。)
地図を見せて、「今どこにいるかも分からなくて」と、疲れた顔の2人に、「随分遠くまで来ちゃったのねえ」とおかみさんは、すももらしき果物を、ちょいちょい、と魔法で出した水で洗って、2個、差し出した。
「え•••私たち、お金、持っていないから•••。」
「はは、いいわよ、疲れた顔して。喉も乾いたでしょ、2個くらい、味見にあげるわ。」
「あ、ありがとうございます。」
「あ、ありがとう。」
そして、はた、と止まる。
ど、どう食べれば?
揃って首を傾げる2人。
ああ~、王女様達は、剥いてもらってたのかな。
伺うユミディテは、おかみさんと、チラッと目が合ったので、目礼をした。
あああ、貴族様のお忍びね。とおかみさんは、うん、うん、頷いて笑った。
「皮ごとガブッと、ね!」
「が、ガブ?」
「皮も、食べるのね•••?」
目を見合わせながら、同時に。恐る恐るカプリ、と齧り付くエクレとシエル。
じゅわ、ほわ。あま~い、おいしいわ、とサクサク食べて、ゴミ箱を示されて種を捨てる。
ホッとした、という顔に、周りもニコッとする。
その間、地図を見ていたおかみさんは。
「体育館に行きたいのね。そしたら、ここの道をずっと真っ直ぐいって、2つめの十字路を、左に行けばいいのよ。」
「ありがとうございます!」
「あ、ありがとう!」
いえいえ、良かったら、次は何か買ってってね。
ニコッとする商売上手に、「え、ええ、もちろん!」「覚えておくわ!」と半ば本気で言っている。
そうだ、こういう、ちょっとした親切。お金儲かる儲からないじゃなくて、してもらって当然だと、偉ぶるのでもなくて。そんな関わり合いに、ありがとうって言えるようになったのは、とても良い事だな。
ユミディテは、後で報告するのに、いいもの見れた、と喜ぶ。
「あ~、さっきの果物、美味しかったわねえ。」
半目で、うっとりとシエルが、すももの味を、疲れて乾いた所にきた快感を、反芻する。
「ほんと、甘くて、すっぱくて、ジュワっとしたものって!」
エクレも、ギュッと口角をあげて、顔が笑っている。
大分回復して、2人の足取りも軽い。
言われた通りに歩けば、体育館が見えてきた。体育館の外に取り付けられた、まだまだ貴重な時計を見れば、時間はちょうど練習の始まる少し前。
ラフィネが、「初めての場所に行く時は、早め早めに行動した方が良いわ。途中で何があるか、分からないから。」と言うので、迷って時間がどれほどかかるか分からないで歩いた、エクレとシエルも、何とか間に合った。
外にテラスのある喫茶店では、竜樹と王子達、ピティエとジェネルーが、席についたパラソルの下で、興奮して話し込み、寛いでいた。
「な、何よ!ゆったり休んじゃって、ずるい!」
「私たちも一緒に連れて行ってくれたら良かったのに!」
そしたらこんなに、疲れなかった!
ムンムン、と近づいて。
「ちょっと!何を休んでいるのよ!?」
「そうよ!私たち、地図を見ながら、歩いて来たんですからね!」
プン!と怒るのに、竜樹は、パッと今までの興奮したピティエ達との会話の口調、表情を、穏やかに変えて。
「ヘェ~!2人で、良く歩いて来れたね!すごいね~!」
「あるいて、きたの、いいなぁ!」
「私たちも、また街に行きたい~!」
「どんなとこ歩いてきたの?エクレ、シエル~!」
王子達が羨ましがるのに、ピョコ!と自慢心がくすぐられ。
「地図が分かりにくくて、ちょっと迷って、お店がいっぱいある所に、出たのよ!野菜や果物を売ってる店に、話を聞いて、教えてもらったんだから!」
「そうよ!その時、特別に、果物食べさせてもらったのよ!」
え~え~!いいな、いいなぁ!!
ちず!たからもの、みつける、ぼうけんみたいね!
果物、どんなの?
「すっごく、甘くて、ちょっとすっぱくて、ジュワァってしたのよ!」
「美味しかったわ!今度は、何か買うわね、って約束したんだから!」
うんうん、と竜樹は頷いて。
「良かったねぇ。親切なお店の人に教えてもらったんだ。今度、お金を渡すから、そこで子供達のおやつになりそうなものを、買ってきてもらおうかな?」
宝物を買ってくる冒険だね!エクレとシエルなら、この難しい任務も、何とかできるんじゃない?
「もちろんよ!」
「できるわ!私達は!」
はい次回も歩き決定。
くす、とユミディテは笑って、竜樹と目を合わせて、うんうん、と次回も任された。
きっと、あの八百屋までの道、エクレとシエルは覚えていまい。どうやって導こうかな?また地図でも書こうか、それとも2人がへばって聞いてくるまで、自由に歩かせようかな?と楽しくユミディテは考えた。
侍従仲間の、タカラや、もはやほとんどカメラマンのミランとも合流して、少しホッとする。これから少し、モデルの練習の見学だ。やはり、元とはいえ王女達。何かあってはと、面白いながらも緊張をしていた。帰りは一角馬の馬車で、皆一緒だから、心配の必要は、減る。
竜樹が立ち上がりつつ。
「ジェネルー様、ピティエ、じゃあ急だけど明日、よろしくお願いします。」
竜樹は、喫茶店の店長に、試したメニューの感想を紙に書いたものを渡して、口頭でも少しアドバイス。
「基本的には、どれも美味しかったよ。あと、氷が入った飲み物は、コースターを敷くといいね。グラスの周りに水滴がつくから。こんな風に、デザインも材料も色々あるから、このお店に合ったものを作ったら良いんじゃない?」
スマホでコースターを見せつつ。
「はい!ありがとうございます。この•••木のこーすたーが、合うかと思います。職人とも相談して、素敵なデザインのものを、作ってみますね!氷入りの飲み物、おかげさまで、この夏、注文も多いんです!」
それから、と店長は、ピティエとジェネルーにも向き直り。
「先程は、大変に貴重な、おいしいお茶を、ありがとうございました!本当に、甘みのある、ちゃんと味わって飲むに相応しい、美味しいお茶でーーーできる事ならば、この喫茶店でも、扱わせていただきたい位です!丁寧に扱う品でしょうから、もし、量を限定で、などで可能ならば、是非、私どもの店も、お心に留めおいて下さい!」
胸に手を当て、キリッと礼をする店長は、よほど美味しかったのだろう、そんな事を言った。
嬉しくなったピティエは。
「気に入って下さって嬉しいです!すぐには無理かもしれないけど、ちゃんと販売の候補に入れさせてもらって、考えてみます!」
と応えていた。ジェネルーは、うんうん、ピティエの交渉に、黙って微笑むばかり。
「さて今日は切り替えて、モデルの練習、頑張ろう!」
竜樹の一声に、おー!と応えたピティエ。元王女達は、唱和タイミングが全く分からないのだった。だとしても、皆、教えてくれれば良いのに。
体育館の、小さい方の部屋で、といっても、ランウェイを歩くより少し大きいくらいの。そこに、続々と、モデル候補が男女とも、集まってきた。
皆、スラリと長身、美しい人々だから、集まるだけで迫力がある。
王子達は言わずもがなだが、竜樹もその中に埋もれて、集団を外から見れば、マントの、端っこが見えるだけだ。
パンパン!
手を叩いて注目させた、キリッとした厳しい顔の年配の女性。モデル候補がゾロっと振り返る。
「皆さん。私はマニエールと言います。主に女性モデルの歩き方を教えます。」
すっ、と一礼をする。
そして、マニエールの隣にいる、ロマンスグレーで体格の良い、お髭も清潔そうに整えたイケオジも、口を開く。
「私はフィエルテです。主に男性モデルの歩き方を担当します。」
胸に手を当て、一礼を。
「さて、皆さん、私達はまだ、モデル歩きの事を、全く知りません!」
「竜樹様、見本の資料の映像、皆さんと見させて下さい!そうしたら、作戦会議を致しましょう!」
ムン!とやる気のある講師2名。
本当は、マナーや姿勢、貴族としての歩き方や、立ち居振る舞いを教える、高名な2人、マニエールとフィエルテなのだ。
教える方も知らない、モデル歩きの方法を、これから皆で見て、考えて、作り上げなければならない。
「はいはい、俺が竜樹です。皆さん、初めまして、よろしくお願いします。では、見本の動画を•••。」
初めて挑戦する、一から作り上げる。
それは、混乱と共に、だが心がどうしようもなく面白そうだと叫ぶ。
やってみよう、やらずにおれるか。
モデル候補達も、それぞれの理由で、ちょっと沸いた。
竜樹の資料の準備を、ワクワクと、待ち構える、ここは舞台に相応しいモデルが、切磋琢磨して育成される、特別な場所。
「さあ。」
さあ!
ファッションショーまでの1つ月、全力で突っ走ろう、いや、堂々と歩こう!
竜樹と王子達は、何だか併設の喫茶店でお試しの仕事があるとかで、先に出かけた。
現在、竜樹はピティエとジェネルーを誘って、玉露とルテじいの話をしている最中だったが、元王女達はそんな事は知らない。
一緒に行った方が、護衛や案内などの、周りの者の手間が軽減されるのだが、今は、あまり特別扱いぽい事は控えた方が良かろう、と竜樹達が話し合って、別々に行く事にした。むろんエクレとシエル元王女達には、何故なのかは教えていない。
いつかシエルが子供達の寮に突撃した時に、それを止めようと、あわあわしていた侍従、ユミディテが1人案内に。それから隠れて護衛が2人付いて。
ユミディテ侍従は、王宮の門を出た所から体育館までの地図を、元王女達に渡して、基本自分達で歩くよう任せた。
「平民の者達は、このように歩いて移動していますよ。文字が読めない者などは、もっと大変で、目印を聞いて尋ねながら行く事もあります。文字が読めて、地図も見られて、良かったですね!さあ、エクレさんもシエルさんも、やってみましょう。よっぽど困ったら、私に聞いても良いですが、基本私は教えませんし、間違っても指摘はしません。」
ニコニコ、と笑顔で、後ろについた。
エエエエ!?
それからエクレとシエルは、あっちへ行きこっちへ行き、分からなくなり、分かりにくい!と地図を書いた者を罵倒し。ヘトヘトになった所で、道の途中、お使いの子供がその辺にいる大人に、お店の場所を聞いているのを見て、ハッとした。
そうだ、聞くって言ってた!
もしや、この侍従じゃない者に聞けば、教えてもらえるのでは?
はた、とユミディテを振り返ると、ニコ、と笑顔が返ってくるのみ。
「エクレ姉様、誰かに聞いてみてよ!」
「何よ、何で私!?シエルが聞いてみてよ!」
わやわやと押し付け合う2人を、ユミディテは、クスクス、と笑って見ていた。竜樹様に言われた通り、この元王女達は、平民としてはまだまだ子供のようなものだなぁ、と。
見かけは若い女性なので、怪しげな男連中に、いかがわしい理由で声でもかけられない限り、お勉強に放っておく事。
ええ、ええ、あの突撃の時の、お礼などではないですけど、黙って見守りましょう、面白いし。
「あ、あの•••!」
「こ、こんにちは!」
「は~い、こんにちは!いらっしゃい!」
人の良さそうな、八百屋店のおかみさんに、おずおずと2人で。
「あの、ちょっと、聞いても良いですか?」
「よ、よろしかったら、道を教えていただきたくて!」
子供達に言葉使いを特訓されて、平易な言葉でのお願いも、何とか丸である。
(うんうん、良いですね。お店の人に聞くのは、いい判断ですよ。ここで店を開き、続ける、という信用があるから、いい加減な事を言ったりしないし。女性に聞くのも、ナンパとかされないですしね。)
地図を見せて、「今どこにいるかも分からなくて」と、疲れた顔の2人に、「随分遠くまで来ちゃったのねえ」とおかみさんは、すももらしき果物を、ちょいちょい、と魔法で出した水で洗って、2個、差し出した。
「え•••私たち、お金、持っていないから•••。」
「はは、いいわよ、疲れた顔して。喉も乾いたでしょ、2個くらい、味見にあげるわ。」
「あ、ありがとうございます。」
「あ、ありがとう。」
そして、はた、と止まる。
ど、どう食べれば?
揃って首を傾げる2人。
ああ~、王女様達は、剥いてもらってたのかな。
伺うユミディテは、おかみさんと、チラッと目が合ったので、目礼をした。
あああ、貴族様のお忍びね。とおかみさんは、うん、うん、頷いて笑った。
「皮ごとガブッと、ね!」
「が、ガブ?」
「皮も、食べるのね•••?」
目を見合わせながら、同時に。恐る恐るカプリ、と齧り付くエクレとシエル。
じゅわ、ほわ。あま~い、おいしいわ、とサクサク食べて、ゴミ箱を示されて種を捨てる。
ホッとした、という顔に、周りもニコッとする。
その間、地図を見ていたおかみさんは。
「体育館に行きたいのね。そしたら、ここの道をずっと真っ直ぐいって、2つめの十字路を、左に行けばいいのよ。」
「ありがとうございます!」
「あ、ありがとう!」
いえいえ、良かったら、次は何か買ってってね。
ニコッとする商売上手に、「え、ええ、もちろん!」「覚えておくわ!」と半ば本気で言っている。
そうだ、こういう、ちょっとした親切。お金儲かる儲からないじゃなくて、してもらって当然だと、偉ぶるのでもなくて。そんな関わり合いに、ありがとうって言えるようになったのは、とても良い事だな。
ユミディテは、後で報告するのに、いいもの見れた、と喜ぶ。
「あ~、さっきの果物、美味しかったわねえ。」
半目で、うっとりとシエルが、すももの味を、疲れて乾いた所にきた快感を、反芻する。
「ほんと、甘くて、すっぱくて、ジュワっとしたものって!」
エクレも、ギュッと口角をあげて、顔が笑っている。
大分回復して、2人の足取りも軽い。
言われた通りに歩けば、体育館が見えてきた。体育館の外に取り付けられた、まだまだ貴重な時計を見れば、時間はちょうど練習の始まる少し前。
ラフィネが、「初めての場所に行く時は、早め早めに行動した方が良いわ。途中で何があるか、分からないから。」と言うので、迷って時間がどれほどかかるか分からないで歩いた、エクレとシエルも、何とか間に合った。
外にテラスのある喫茶店では、竜樹と王子達、ピティエとジェネルーが、席についたパラソルの下で、興奮して話し込み、寛いでいた。
「な、何よ!ゆったり休んじゃって、ずるい!」
「私たちも一緒に連れて行ってくれたら良かったのに!」
そしたらこんなに、疲れなかった!
ムンムン、と近づいて。
「ちょっと!何を休んでいるのよ!?」
「そうよ!私たち、地図を見ながら、歩いて来たんですからね!」
プン!と怒るのに、竜樹は、パッと今までの興奮したピティエ達との会話の口調、表情を、穏やかに変えて。
「ヘェ~!2人で、良く歩いて来れたね!すごいね~!」
「あるいて、きたの、いいなぁ!」
「私たちも、また街に行きたい~!」
「どんなとこ歩いてきたの?エクレ、シエル~!」
王子達が羨ましがるのに、ピョコ!と自慢心がくすぐられ。
「地図が分かりにくくて、ちょっと迷って、お店がいっぱいある所に、出たのよ!野菜や果物を売ってる店に、話を聞いて、教えてもらったんだから!」
「そうよ!その時、特別に、果物食べさせてもらったのよ!」
え~え~!いいな、いいなぁ!!
ちず!たからもの、みつける、ぼうけんみたいね!
果物、どんなの?
「すっごく、甘くて、ちょっとすっぱくて、ジュワァってしたのよ!」
「美味しかったわ!今度は、何か買うわね、って約束したんだから!」
うんうん、と竜樹は頷いて。
「良かったねぇ。親切なお店の人に教えてもらったんだ。今度、お金を渡すから、そこで子供達のおやつになりそうなものを、買ってきてもらおうかな?」
宝物を買ってくる冒険だね!エクレとシエルなら、この難しい任務も、何とかできるんじゃない?
「もちろんよ!」
「できるわ!私達は!」
はい次回も歩き決定。
くす、とユミディテは笑って、竜樹と目を合わせて、うんうん、と次回も任された。
きっと、あの八百屋までの道、エクレとシエルは覚えていまい。どうやって導こうかな?また地図でも書こうか、それとも2人がへばって聞いてくるまで、自由に歩かせようかな?と楽しくユミディテは考えた。
侍従仲間の、タカラや、もはやほとんどカメラマンのミランとも合流して、少しホッとする。これから少し、モデルの練習の見学だ。やはり、元とはいえ王女達。何かあってはと、面白いながらも緊張をしていた。帰りは一角馬の馬車で、皆一緒だから、心配の必要は、減る。
竜樹が立ち上がりつつ。
「ジェネルー様、ピティエ、じゃあ急だけど明日、よろしくお願いします。」
竜樹は、喫茶店の店長に、試したメニューの感想を紙に書いたものを渡して、口頭でも少しアドバイス。
「基本的には、どれも美味しかったよ。あと、氷が入った飲み物は、コースターを敷くといいね。グラスの周りに水滴がつくから。こんな風に、デザインも材料も色々あるから、このお店に合ったものを作ったら良いんじゃない?」
スマホでコースターを見せつつ。
「はい!ありがとうございます。この•••木のこーすたーが、合うかと思います。職人とも相談して、素敵なデザインのものを、作ってみますね!氷入りの飲み物、おかげさまで、この夏、注文も多いんです!」
それから、と店長は、ピティエとジェネルーにも向き直り。
「先程は、大変に貴重な、おいしいお茶を、ありがとうございました!本当に、甘みのある、ちゃんと味わって飲むに相応しい、美味しいお茶でーーーできる事ならば、この喫茶店でも、扱わせていただきたい位です!丁寧に扱う品でしょうから、もし、量を限定で、などで可能ならば、是非、私どもの店も、お心に留めおいて下さい!」
胸に手を当て、キリッと礼をする店長は、よほど美味しかったのだろう、そんな事を言った。
嬉しくなったピティエは。
「気に入って下さって嬉しいです!すぐには無理かもしれないけど、ちゃんと販売の候補に入れさせてもらって、考えてみます!」
と応えていた。ジェネルーは、うんうん、ピティエの交渉に、黙って微笑むばかり。
「さて今日は切り替えて、モデルの練習、頑張ろう!」
竜樹の一声に、おー!と応えたピティエ。元王女達は、唱和タイミングが全く分からないのだった。だとしても、皆、教えてくれれば良いのに。
体育館の、小さい方の部屋で、といっても、ランウェイを歩くより少し大きいくらいの。そこに、続々と、モデル候補が男女とも、集まってきた。
皆、スラリと長身、美しい人々だから、集まるだけで迫力がある。
王子達は言わずもがなだが、竜樹もその中に埋もれて、集団を外から見れば、マントの、端っこが見えるだけだ。
パンパン!
手を叩いて注目させた、キリッとした厳しい顔の年配の女性。モデル候補がゾロっと振り返る。
「皆さん。私はマニエールと言います。主に女性モデルの歩き方を教えます。」
すっ、と一礼をする。
そして、マニエールの隣にいる、ロマンスグレーで体格の良い、お髭も清潔そうに整えたイケオジも、口を開く。
「私はフィエルテです。主に男性モデルの歩き方を担当します。」
胸に手を当て、一礼を。
「さて、皆さん、私達はまだ、モデル歩きの事を、全く知りません!」
「竜樹様、見本の資料の映像、皆さんと見させて下さい!そうしたら、作戦会議を致しましょう!」
ムン!とやる気のある講師2名。
本当は、マナーや姿勢、貴族としての歩き方や、立ち居振る舞いを教える、高名な2人、マニエールとフィエルテなのだ。
教える方も知らない、モデル歩きの方法を、これから皆で見て、考えて、作り上げなければならない。
「はいはい、俺が竜樹です。皆さん、初めまして、よろしくお願いします。では、見本の動画を•••。」
初めて挑戦する、一から作り上げる。
それは、混乱と共に、だが心がどうしようもなく面白そうだと叫ぶ。
やってみよう、やらずにおれるか。
モデル候補達も、それぞれの理由で、ちょっと沸いた。
竜樹の資料の準備を、ワクワクと、待ち構える、ここは舞台に相応しいモデルが、切磋琢磨して育成される、特別な場所。
「さあ。」
さあ!
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