王子様を放送します

竹 美津

文字の大きさ
上 下
229 / 578
本編

初めての•••サポート付きで

しおりを挟む
エクレとシエル、元王女が体育館に到着したのは、モデルの歩き方練習が始まる少し前だ。

竜樹と王子達は、何だか併設の喫茶店でお試しの仕事があるとかで、先に出かけた。
現在、竜樹はピティエとジェネルーを誘って、玉露とルテじいの話をしている最中だったが、元王女達はそんな事は知らない。

一緒に行った方が、護衛や案内などの、周りの者の手間が軽減されるのだが、今は、あまり特別扱いぽい事は控えた方が良かろう、と竜樹達が話し合って、別々に行く事にした。むろんエクレとシエル元王女達には、何故なのかは教えていない。

いつかシエルが子供達の寮に突撃した時に、それを止めようと、あわあわしていた侍従、ユミディテが1人案内に。それから隠れて護衛が2人付いて。

ユミディテ侍従は、王宮の門を出た所から体育館までの地図を、元王女達に渡して、基本自分達で歩くよう任せた。
「平民の者達は、このように歩いて移動していますよ。文字が読めない者などは、もっと大変で、目印を聞いて尋ねながら行く事もあります。文字が読めて、地図も見られて、良かったですね!さあ、エクレさんもシエルさんも、やってみましょう。よっぽど困ったら、私に聞いても良いですが、基本私は教えませんし、間違っても指摘はしません。」
ニコニコ、と笑顔で、後ろについた。

エエエエ!?

それからエクレとシエルは、あっちへ行きこっちへ行き、分からなくなり、分かりにくい!と地図を書いた者を罵倒し。ヘトヘトになった所で、道の途中、お使いの子供がその辺にいる大人に、お店の場所を聞いているのを見て、ハッとした。

そうだ、聞くって言ってた!
もしや、この侍従じゃない者に聞けば、教えてもらえるのでは?

はた、とユミディテを振り返ると、ニコ、と笑顔が返ってくるのみ。

「エクレ姉様、誰かに聞いてみてよ!」
「何よ、何で私!?シエルが聞いてみてよ!」

わやわやと押し付け合う2人を、ユミディテは、クスクス、と笑って見ていた。竜樹様に言われた通り、この元王女達は、平民としてはまだまだ子供のようなものだなぁ、と。
見かけは若い女性なので、怪しげな男連中に、いかがわしい理由で声でもかけられない限り、お勉強に放っておく事。
ええ、ええ、あの突撃の時の、お礼などではないですけど、黙って見守りましょう、面白いし。

「あ、あの•••!」
「こ、こんにちは!」
「は~い、こんにちは!いらっしゃい!」
人の良さそうな、八百屋店のおかみさんに、おずおずと2人で。
「あの、ちょっと、聞いても良いですか?」
「よ、よろしかったら、道を教えていただきたくて!」

子供達に言葉使いを特訓されて、平易な言葉でのお願いも、何とか丸である。

(うんうん、良いですね。お店の人に聞くのは、いい判断ですよ。ここで店を開き、続ける、という信用があるから、いい加減な事を言ったりしないし。女性に聞くのも、ナンパとかされないですしね。)

地図を見せて、「今どこにいるかも分からなくて」と、疲れた顔の2人に、「随分遠くまで来ちゃったのねえ」とおかみさんは、すももらしき果物を、ちょいちょい、と魔法で出した水で洗って、2個、差し出した。
「え•••私たち、お金、持っていないから•••。」
「はは、いいわよ、疲れた顔して。喉も乾いたでしょ、2個くらい、味見にあげるわ。」
「あ、ありがとうございます。」
「あ、ありがとう。」

そして、はた、と止まる。
ど、どう食べれば?
揃って首を傾げる2人。

ああ~、王女様達は、剥いてもらってたのかな。
伺うユミディテは、おかみさんと、チラッと目が合ったので、目礼をした。
あああ、貴族様のお忍びね。とおかみさんは、うん、うん、頷いて笑った。
「皮ごとガブッと、ね!」
「が、ガブ?」
「皮も、食べるのね•••?」

目を見合わせながら、同時に。恐る恐るカプリ、と齧り付くエクレとシエル。
じゅわ、ほわ。あま~い、おいしいわ、とサクサク食べて、ゴミ箱を示されて種を捨てる。
ホッとした、という顔に、周りもニコッとする。
その間、地図を見ていたおかみさんは。
「体育館に行きたいのね。そしたら、ここの道をずっと真っ直ぐいって、2つめの十字路を、左に行けばいいのよ。」
「ありがとうございます!」
「あ、ありがとう!」

いえいえ、良かったら、次は何か買ってってね。
ニコッとする商売上手に、「え、ええ、もちろん!」「覚えておくわ!」と半ば本気で言っている。
そうだ、こういう、ちょっとした親切。お金儲かる儲からないじゃなくて、してもらって当然だと、偉ぶるのでもなくて。そんな関わり合いに、ありがとうって言えるようになったのは、とても良い事だな。
ユミディテは、後で報告するのに、いいもの見れた、と喜ぶ。

「あ~、さっきの果物、美味しかったわねえ。」
半目で、うっとりとシエルが、すももの味を、疲れて乾いた所にきた快感を、反芻する。
「ほんと、甘くて、すっぱくて、ジュワっとしたものって!」
エクレも、ギュッと口角をあげて、顔が笑っている。
大分回復して、2人の足取りも軽い。
言われた通りに歩けば、体育館が見えてきた。体育館の外に取り付けられた、まだまだ貴重な時計を見れば、時間はちょうど練習の始まる少し前。

ラフィネが、「初めての場所に行く時は、早め早めに行動した方が良いわ。途中で何があるか、分からないから。」と言うので、迷って時間がどれほどかかるか分からないで歩いた、エクレとシエルも、何とか間に合った。

外にテラスのある喫茶店では、竜樹と王子達、ピティエとジェネルーが、席についたパラソルの下で、興奮して話し込み、寛いでいた。

「な、何よ!ゆったり休んじゃって、ずるい!」
「私たちも一緒に連れて行ってくれたら良かったのに!」

そしたらこんなに、疲れなかった!
ムンムン、と近づいて。

「ちょっと!何を休んでいるのよ!?」
「そうよ!私たち、地図を見ながら、歩いて来たんですからね!」

プン!と怒るのに、竜樹は、パッと今までの興奮したピティエ達との会話の口調、表情を、穏やかに変えて。
「ヘェ~!2人で、良く歩いて来れたね!すごいね~!」
「あるいて、きたの、いいなぁ!」
「私たちも、また街に行きたい~!」
「どんなとこ歩いてきたの?エクレ、シエル~!」
王子達が羨ましがるのに、ピョコ!と自慢心がくすぐられ。

「地図が分かりにくくて、ちょっと迷って、お店がいっぱいある所に、出たのよ!野菜や果物を売ってる店に、話を聞いて、教えてもらったんだから!」
「そうよ!その時、特別に、果物食べさせてもらったのよ!」

え~え~!いいな、いいなぁ!!
ちず!たからもの、みつける、ぼうけんみたいね!
果物、どんなの?

「すっごく、甘くて、ちょっとすっぱくて、ジュワァってしたのよ!」
「美味しかったわ!今度は、何か買うわね、って約束したんだから!」

うんうん、と竜樹は頷いて。
「良かったねぇ。親切なお店の人に教えてもらったんだ。今度、お金を渡すから、そこで子供達のおやつになりそうなものを、買ってきてもらおうかな?」
宝物を買ってくる冒険だね!エクレとシエルなら、この難しい任務も、何とかできるんじゃない?

「もちろんよ!」
「できるわ!私達は!」

はい次回も歩き決定。
くす、とユミディテは笑って、竜樹と目を合わせて、うんうん、と次回も任された。
きっと、あの八百屋までの道、エクレとシエルは覚えていまい。どうやって導こうかな?また地図でも書こうか、それとも2人がへばって聞いてくるまで、自由に歩かせようかな?と楽しくユミディテは考えた。
侍従仲間の、タカラや、もはやほとんどカメラマンのミランとも合流して、少しホッとする。これから少し、モデルの練習の見学だ。やはり、元とはいえ王女達。何かあってはと、面白いながらも緊張をしていた。帰りは一角馬の馬車で、皆一緒だから、心配の必要は、減る。

竜樹が立ち上がりつつ。
「ジェネルー様、ピティエ、じゃあ急だけど明日、よろしくお願いします。」
竜樹は、喫茶店の店長に、試したメニューの感想を紙に書いたものを渡して、口頭でも少しアドバイス。
「基本的には、どれも美味しかったよ。あと、氷が入った飲み物は、コースターを敷くといいね。グラスの周りに水滴がつくから。こんな風に、デザインも材料も色々あるから、このお店に合ったものを作ったら良いんじゃない?」
スマホでコースターを見せつつ。
「はい!ありがとうございます。この•••木のこーすたーが、合うかと思います。職人とも相談して、素敵なデザインのものを、作ってみますね!氷入りの飲み物、おかげさまで、この夏、注文も多いんです!」
それから、と店長は、ピティエとジェネルーにも向き直り。
「先程は、大変に貴重な、おいしいお茶を、ありがとうございました!本当に、甘みのある、ちゃんと味わって飲むに相応しい、美味しいお茶でーーーできる事ならば、この喫茶店でも、扱わせていただきたい位です!丁寧に扱う品でしょうから、もし、量を限定で、などで可能ならば、是非、私どもの店も、お心に留めおいて下さい!」
胸に手を当て、キリッと礼をする店長は、よほど美味しかったのだろう、そんな事を言った。

嬉しくなったピティエは。
「気に入って下さって嬉しいです!すぐには無理かもしれないけど、ちゃんと販売の候補に入れさせてもらって、考えてみます!」
と応えていた。ジェネルーは、うんうん、ピティエの交渉に、黙って微笑むばかり。

「さて今日は切り替えて、モデルの練習、頑張ろう!」
竜樹の一声に、おー!と応えたピティエ。元王女達は、唱和タイミングが全く分からないのだった。だとしても、皆、教えてくれれば良いのに。


体育館の、小さい方の部屋で、といっても、ランウェイを歩くより少し大きいくらいの。そこに、続々と、モデル候補が男女とも、集まってきた。
皆、スラリと長身、美しい人々だから、集まるだけで迫力がある。
王子達は言わずもがなだが、竜樹もその中に埋もれて、集団を外から見れば、マントの、端っこが見えるだけだ。

パンパン!
手を叩いて注目させた、キリッとした厳しい顔の年配の女性。モデル候補がゾロっと振り返る。

「皆さん。私はマニエールと言います。主に女性モデルの歩き方を教えます。」
すっ、と一礼をする。

そして、マニエールの隣にいる、ロマンスグレーで体格の良い、お髭も清潔そうに整えたイケオジも、口を開く。

「私はフィエルテです。主に男性モデルの歩き方を担当します。」
胸に手を当て、一礼を。


「さて、皆さん、私達はまだ、モデル歩きの事を、全く知りません!」

「竜樹様、見本の資料の映像、皆さんと見させて下さい!そうしたら、作戦会議を致しましょう!」

ムン!とやる気のある講師2名。
本当は、マナーや姿勢、貴族としての歩き方や、立ち居振る舞いを教える、高名な2人、マニエールとフィエルテなのだ。
教える方も知らない、モデル歩きの方法を、これから皆で見て、考えて、作り上げなければならない。

「はいはい、俺が竜樹です。皆さん、初めまして、よろしくお願いします。では、見本の動画を•••。」

初めて挑戦する、一から作り上げる。
それは、混乱と共に、だが心がどうしようもなく面白そうだと叫ぶ。

やってみよう、やらずにおれるか。

モデル候補達も、それぞれの理由で、ちょっと沸いた。
竜樹の資料の準備を、ワクワクと、待ち構える、ここは舞台に相応しいモデルが、切磋琢磨して育成される、特別な場所。

「さあ。」
さあ!

ファッションショーまでの1つ月、全力で突っ走ろう、いや、堂々と歩こう!

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜

はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。 目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。 家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。 この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。 「人違いじゃないかー!」 ……奏の叫びももう神には届かない。 家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。 戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。 植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

最強陛下の育児論〜5歳児の娘に振り回されているが、でもやっぱり可愛くて許してしまうのはどうしたらいいものか〜

楠ノ木雫
ファンタジー
 孤児院で暮らしていた女の子リンティの元へ、とある男達が訪ねてきた。その者達が所持していたものには、この国の紋章が刻まれていた。そう、この国の皇城から来た者達だった。その者達は、この国の皇女を捜しに来ていたようで、リンティを見た瞬間間違いなく彼女が皇女だと言い出した。  言い合いになってしまったが、リンティは皇城に行く事に。だが、この国の皇帝の二つ名が〝冷血の最強皇帝〟。そして、タイミング悪く首を撥ねている瞬間を目の当たりに。  こんな無慈悲の皇帝が自分の父。そんな事実が信じられないリンティ。だけど、あれ? 皇帝が、ぬいぐるみをプレゼントしてくれた?  リンティがこの城に来てから、どんどん皇帝がおかしくなっていく姿を目の当たりにする周りの者達も困惑。一体どうなっているのだろうか?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

処理中です...