王子様を放送します

竹 美津

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本編

ビーサン、キタァ!

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「ビーサンの試作品、キタァ!」

竜樹がわ~い!と両手をバンザイして。
平民向けの幾つかの店の靴職人と、それを纏める靴商店長が一緒に、バンザーイした。何故かハルサ王様も。ノリがいい。
竜樹はニコニコだが、職人と靴商店長は、お疲れタハハの苦笑気味。
貴族向けの靴店の店主と職人も、ちょっとお疲れ気味だが、ふふふ、と微笑をたたえて。自分たちの作ったサンダルやミュールの試し履きの番が回ってくるのを待っている。

結局王子達がモデルをやる事になり、また、元王女エクレとシエルもデザイナー、クロースの作る浴衣を着てファッションショーに出る事になった。
今日は寮に靴関連の人達を呼んでみた。
子供達にもビーサンを履いてみて欲しかったから、ちょうど良かったと言える。

アルディ王子は、ビーサンかサンダルを、里帰りのお土産にしたいそうだ。
モジモジしているピティエももちろん、貴族組も揃っている。
そっと控えめにラフィネも、そしてシャンテさんにツバメも。タカラは嬉しそうに入り口近くで待機しているし、王子達を撮影するミランは、相変わらずのカメラマンだ。

そして、そして。マルグリット王妃様、ハルサ王様だけでなく、なんと王太后様と先王様も、いらしていて。
護衛はマルサだけでなく、交流室の壁際、入り口を出た所、など、厳重に立った。
寮がやんごとなくなっているし、何ならスーリール達ニュース隊も、商品登録前の抜け駆けや類似商品の出回りを避け、商品が出来て発売してから放送するための、ニュース撮影にワクワクだ。
商品登録は、今日の帰りの足で。ハルサ王様からも直々の添え書きをもらい、竜樹にも売り上げの一部を入れるようにして、靴商店長が済ませる予定。

平民向け靴職人が苦笑気味なのは、なかなかお会いできない王族様達と、何だか非公式に、ざっくばらんに試し履きの機会、なんて、しかもこんな急に。ヤケクソでもなければやってられるか、が少しあるかもしれない。
物はいいもの作ったんだから、後はどうなっても、知るかー!俺たちがちゃんとした礼儀なんか、知るかー!と、はっちゃけ気味なのだ。

むろん、非公式、として、平民靴職人、商店長の礼儀は、取沙汰さない、と最初にハルサ王から発言してある。

「竜樹様が欲しいとおっしゃった、ビーサンをお見せしますね。サイズも、男性用女性用、子供用と幾つか作りましたので、合うものがあるか履いてみて下さい。」
靴商店長が、大きな箱を布包みした中から、ビーサンを山のように出した。大きさ順に。素朴な軽いコルクのような木肌の肌触りに、鼻緒も色鮮やかだ。

竜樹がまず、と、ソワソワ靴下を脱ぎ、適当に大きさを足に合わせて、これかな、と履いてみる。

キュム、とゴムのような感触に、軽さ。

足の指が解放される、爽快感!
ぎゅ、と足の指に力を入れて踏み締めても、しっかりホールドして返すクッション性。
鼻緒は、柔らかな布や、硬く織った平織りの紐など、バリエーションも豊富である。

「うわぁ~!やっぱり、良いね!凄く気持ちよくて柔らかい底だね!うんうん、良い良い!」

ぎゅむぎゅむ、履いて嬉しそうに歩く竜樹のニコニコに、ふっ、と息を吐いた靴商店長と職人が、良かった!と胸を撫で下ろした。

「これ、底の部分の原材料は、木の皮なんですって?」
「そうなのです。コルクより柔らかくて軽い、ムギムギの木、という樹の皮で出来てまして。樹皮を剥いでも、来年にはまた新しく樹皮が出来るので、そう高くなく、繰り返し材料を採る事ができます!」

うんうん、価格も大事だもんね、と歩き回る竜樹に、3王子達がしびれを切らした。
「ししょう!ぼくの、びーさん!」
「はいてみたいよ!靴下脱いでいい?」
「試し、した~い!」

「私も!女性用のは、はなお?可愛いわね!」
「うむうむ、私も是非!」
マルグリット王妃とハルサ王が言い。

「おほほ。私も、まずはビーサンなるもの、体験しても良いかしら?」
「私も履いてみよう。」
王太后様と先王様も、控えめに、だが興味津々に。
この、ノリがいいハルサ王様の両親である。王太后様は茶目っ気があって、先王様は新しもの好きなのだそうだ。

女性達は椅子に座り侍女さんに靴下を脱ぐ世話をされ、男どもは、さっと自分で脱いだ。ニリヤとネクターは、おとと、と片足でトントンゆらゆらしたが、コケなかった。オランネージュは、三角座りして脱いでいる。

それを見ながら、子供達と貴族組は、ヘェ~、といい子に順番待ちをしている。
元王女エクレとシエルは、はやはや、とビーサンのデザインに目を走らせて、吟味中。順番は後だが、目星はつけたいと。

どれがいいかな?大きさを合わせて、鼻緒の好みも選び、王族達が履く。アルディ王子も、ハルサ王に促され、じゃあ、と3王子達と一緒に選んでいる。
元王女達が、私達も!と内心焦るところだが、まさか言えない。という自制心が、この頃芽生えてきて、幸いである。黙って待って、でもギンギンな視線に、マルグリット王妃が顔を背けて隠れ、クスリ、と笑った。う、うん、と咳払い、さて、と誤魔化す。

「•••さらっと、してるね!」
「何か、気持ちいいね!」
「お水に、このまま、浸かれるんだよね?」
「歩きたくなる~!」
3王子達とアルディ王子の、小さい足、爪が、ちまっとしている。その形も、丸かったり角ばっていたり、それぞれだ。

「これで川遊びをするのね。」
王太后様が、嬉しそうに、ふわふわ、と歩いている。
素足って、何とも気持ち良いのだ。

「そうですわ、スフェール王太后様!竜樹様が言っていた、川床、というのを、是非来年は作りたいわ!もちろん、川に入れるように、降りられる段々をつけて、水着を着て、ビーサンを履いて!」
「民達の遊ぶ場所も、もちろん邪魔しないように、うまくやろう。王にも休みが、必要である!」
「私達も、呼んでくれるか?」
威厳たっぷりな先王様が、ぎゅむ、ぎゅむ、と足の指をグーパーしつつ、むふふと微笑んで。
「もちろん!父上、母上!」
「もちろんですわ!オール先王様!スフェール王太后様!一緒に遊びましょう!」
「使ってない時は予約を取って、貴族が利用できるように、有料で貸し出すといいですよ。」
竜樹は貧乏性なので、空きにしとく、というのが勿体無いのだ。

そうねそうね、うふふ、ははは!
ニコニコしている王族に、「よろしかったら、試作品ですがお持ち下さい。」と靴商店長が言い、きゃきゃ!と女性組と3王子達、アルディ王子が喜んだ。
「売り出しいつからですか?その日から、プール行く時に、外で皆と履きたいんです。」
「このままで、改良点なくいけそうなら、7日後には、最初のビーサンが売り出せると思います。底の加工は、難しくないのですが、鼻緒の製作が間に合わないかと思います。どれほど売れるかも、新しい商品で分かりませんから、まずは少しずつ出して、その間に作り溜めておきます。」

うんうん。

「じゃあ皆も、履いてみさせてもらおうよ。」
竜樹が声をかけ、おずおず、と貴族組から。御前失礼致します、と皆、胸に手を当て、礼をして。うむうむ、と、にこやかに王族達が頷き。

「うわ、肌触りが、凄くいい!」
プレイヤードが驚く。
トントン、タタタ、とその場で足踏みする。
「これ、履いたままで、足の指の運動できそう。」
エフォールが車椅子に座ったまま、にぎゅ、にぎゅ、と足の指を握る。
ピティエは、鼻緒が平織りの紐の、藤色で。
「す、スースーする。でも、何だか。足が風に当たるって、新鮮だなぁ。」

新しいものを試すって、何でこんなにワクワクするのだろうか。

ジェム達にも、おいでおいでと竜樹は手招き。
ペコリ、ペコリと、王族の前を胸に手を当て礼、を真似て。視力の弱いアミューズには、アガットが手とり耳打ち、一緒に礼。恐る恐る、ビーサンが乗った折りたたみ机に近寄る。
元王女達は、ラフィネに、焦って前へ前へ行くのは、大人の女性としては、はしたないわよ。と艶然と微笑まれたのを思い出し、グッと我慢、子供達の後から、そっと近づく。
そして、鷹の目で、気に入ったビーサンをさっと履いてみている。

履き始めれば、わちゃ!と、いつものように。
「面白~い!」
「きもちいー!」
パタパタ!とそこらを走り回る。
子供達にも気に入ってもらえたか、と竜樹はニッカリ笑った。

「そしてこちらが、竜樹様へ特別に作りました、つっかけサンダルです!」
「おおお!待ってました!」

ジャジャン!
何の変哲もない、カランと鳴る軽い木の底に、甲は皮の赤、ビーサンと違って靴下を履いていてもつっかけられる、サンダル。
「これで洗濯物や布団を干す時とかに、さっとつっかけて外に出られるよー!」
ありがとうありがとう、ブンブン。
靴商店長の手を取り上下にニギニギ。
カランカラン、と履いて歩くたび、平和な音がする。

「それ、音がとても可愛いわね。」
「お庭で履くものなの?」

マルグリット王妃とスフェール王太后様が、目を見張ってつっかけを見ている。
「ちょっとだけ外に出たい、とか、ちょっとご近所まで、の時に使うんですよね。多分この国の人は、家の中でも靴だから、需要はなさそうなんだけど、欲しかったのでお願いしちゃいました。」
「•••履いて、みたいわ!」
「私も!」
靴商店長が、ええ、もちろんお作りします、と請け負い。
「そしてお願いします!需要があるかどうか、少しだけ売らせて下さいませんか?」
「ええ、それは良いですが。」
「•••実は私、試しに家で履いて、使ってみたんです。ちゃんとした靴より楽で、良さそうなんですよねえ。」
皆やっぱり家でまで靴は、窮屈だったのだ。

「ビーサン、サンダルは、試作品を皆様このままお持ち下さい。本当は、これを使っていただいた後に、完成品をお贈りしたいのですが。」
「もし、改良したら使い勝手が良くなりそうだったら、すぐ言いますね。そうなったら、お金を払いますから、改良した製品を作ってもらえますか?問題なければ、こちらで全く構わないですよ。勿体無いし。」
「私もそれで良くてよ。」
「ええ、私も。」
男性王族は、ただただ頷くばかりである。

「庶民向けのサンダルやミュールは、貴族向けを売り出してから、売り出すんだって?」
「はい。デザインも違うのですが、貴族様より早く取り入れてしまっては。貴族様向けの靴店と、お互いに食い合うようになってしまいますし。後を追いかけつつも、庶民向け専用の、かつデザインも機能も、そしてお値段も、ちょうど良い品を、売りたく思います。」
うんうん。住み分け大事。

「ありがとうございます、靴商店長、職人の皆さん。是非たくさん売れるといいです。よろしくお願いします。」
「いやいや!ギフトの御方様に、礼など!こちらこそ、商機をいただき、ありがとうございます!そして私どもはここで、後ろに下がらせていただきます。ここからは、貴族様向けの靴を作られている工房に、お任せします。」
「はい!」

すっ、と前に出た、高級靴店の店主。
職人も、弁えて礼をした。
「私どもの商品を願って下さり、本日、幸いに思います。まずは、王妃様と王太后様の、ミュールを見ていただいて、宜しいですか?」
丁寧な挨拶に、恭しく差し出された靴箱。

「ええ。ありがとう。」
「楽しみよ、とっても。」

侍女達がビーサンを脱がせて、そそそと仕舞って。ミュールの箱を受け取り、王妃様と王太后様に、蓋を開けて中を見せる。

ヒールが少しあって、赤のザックリした皮が、甲の上でクロスする。つま先が開いていて、尖らず四角い底。
足首のところにストラップ。
踵はフリー。
王太后様のものは、デザインは同じだが、色が白で。
どちらも、大人も履ける、シンプルで上品な、それでいて開いたイメージのある品。

「なんとも、素敵ね。」
「ええ。これなら、執務室で履いていても、蒸れないし楽だし、何といっても可愛いわ。ちょっとした用事なら、これで済ませられそう。」

王妃が履いて歩いてみるが、ご夫人方が普段履いている靴より、ヒールも控えめ、歩きやすく。
「良いわね•••!」
「ええ!良いですよね!」

うふふ、と笑い合う王妃と王太后。
仲良き事は、美しきかな。

ここからは、王族主催、靴ファッションショーの開催中、になる。
寮の一室だけれども。

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