王子様を放送します

竹 美津

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本編

若者よ荒野を目指せ

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プレイヤードは、あの時の、暗闇カフェでの母の発言を、気にしてないと思っていた。母に期待などしていなかった、と。

何しろ、ずっと妹のフィーユにかかりきりで、プレイヤードの事は何もしようとしなかった、いや、大人しくしてろと押さえつけだけはした、母である。
フィーユは必要だが、プレイヤードは要らない、とはっきり言った。
何なら父と離婚もすると。
まあ今は離れで、父とプレイヤードとは没交渉で暮らしているのだが。

「プレイヤードを、育てる自信が、ありません。 •••て、母様が言ったんだ。」
「プレイヤード様に?」
「うん。あと父様に。」
ふー、と深く息を吐き、プレイヤードは、ギュッとして、こんがらがった感情の糸を吐き出す事にする。

「元々、母様は、私の事を育てたりは、してなかった。目が見えないのだから、部屋で大人しくしてなさい、って怒って言うばっかりで。」
「うん。」「うん。」

「障がいがあるなんて、恥ずかしい子供で、人に見せられないと思っているみたい。」
「あぁ、俺も父さんと母さんの家にいた時は、お客さんに挨拶するな、隠れてろ、とか言われたよ。」
アミューズは、今から考えれば、とても寂しかった生活を振り返る。
必要だと言って欲しかった。そのために必死で頑張った。でも結局は要らないと言われた。今は、竜樹父さんが、ラフィネ母さんが、何かと引き換えじゃなくても、ただ大事にしてくれる。寂しかった心に温かい手を当てて、気持ちを沢山注いでくれる。

「•••私は家族には言われなかったけど、自分で部屋に篭ってた。たまに来る親戚やお客様から、見えなくて、できない事で叱られたり、外に出さない方が良いのでは?とか、言われて•••力がなくなっちゃった。」
ピティエは、ショボ、と俯く。

プレイヤード、アミューズ、ピティエは、3人、うんうん、と見えない者あるあるに頷く。

「酷いよね。」
「うん、ひどい。」
「竜樹様の世界では、白杖や盲導犬?で出かけたり、仕事したり、趣味を楽しんだり、してるっていうもんね。何で、私たちの世界では、恥ずかしい事で、隠されるように、されなきゃ、ならないんだろう。」

「「「何でなの?」」」

3人の疑問は、ここでは答えられる事がない。

ただただ、ロペラが、じっと黙って目を瞑って聞いていた。
それは、どこかが弱い者を下に見る、人の愚かな所。少し人と変わった所のある人を、受け入れられない心。誰かを犠牲にして、それをする事で、一つの集団の結束を高めて、自分達を上にあげるのだ。私達は、まともなのだと。

境目は朧で、何かあれば誰だって、簡単に外側に押しやられてしまうのに。
定住せずに旅暮らしのロペラは、自らも集団の外側にいる事が多かったから、それを知っている。それを利用もして、自由にしてきたとも思う。

3人の見えない者同士の疑問に、きっと人は、自分の常識をかき混ぜられると思う。
変わっていれば集団から排斥されると同時に、集団の外からの見方、情報を、人は求めるからだ。だからロペラだって、吟遊詩人などやっていられる。

「私は外に出たかった。いろんな事知りたかったし、明日は何が知れるかな、って、すごくワクワクして。じっとしてるなんて出来なかった。母様は、自分の思い通りに大人しくしていない私を、とっくの昔に、見捨てていたんだな、って、言われた時にハッキリ思った。それは良いんだ。私には、気持ちを分かってくれる父様がいるし。」
「うん。」「うん。」

「母様に言われるのは、いい。と思ってた。でも、仲間の、友達の、ピティエに、自信がないって、切り捨てる言葉を言われた!って思って、すごく、すごく、嫌だ!って思った!」
ぐぐ、とプレイヤードが口を噛み締める。

「•••そうか。プレイヤード様は、自信がない、って、切り捨てる言葉だと思ったんだね。」
「•••うん。」
そうか。ピティエは、しんみりそれを聞いて、テーブルの下で、手をもみもみして、考え、考え。

「•••私は、弱い私に、人が傷つけられる事なんか、ないと思ってた。自信がない、っていう、弱い気持ちが、人を傷つける事も、あるんだね。ただ•••私は、切り捨てるつもりはなくて、自信がないけど、アミューズとプレイヤードとの、ラジオはやってみたいと思ってて。昨日の夜に、自信がなくなる事を言われたんだ。」

「何を言われたの?」

『ギフトの御方様だって、可哀想なアンタたちを助けてやるって名目で、儲けたいだけだと思うわよ!弱いって、ずるいわよね!ちゃんとした私みたいに働かなくて良いんだから!』

『何言ってんのよ!笑っちゃうわ!得があるからに決まってるでしょ!なのに懐いちゃって、馬鹿よね~!きっとギフトの御方様だって、面倒くさいと思ってるわ!』

「私は、竜樹様は、可哀想だから、なんて私達を見下げて、助けた訳じゃない。って、竜樹様に聞いてもいい、って言ったけど、『じゃあ聞いてご覧なさいよ!まあ、可哀想な子供のアンタに遠慮して、本当の事は言わないかもだけど!』って言われて。」
「•••誰に、そんな事言われたの!?」
「竜樹様はそんなのと絶対違うって、私達、知ってるのに!」

ふんふん!と鼻息荒く、3人は怒る。
だって、道を示してくれたのに。
隠されてたのに、それを表に出してくれて、大丈夫、やっていけるよ、って。見下した気持ちなど、一切感じなかった。

「•••もう、辞めさせられちゃったけど、うちの、私付きだった侍女が。夕べ、私の白杖を盗んで壊そうとしてーーー壊したら、私が侍女に頼って、特別手当ももらえて、言う事聞かせられると思ったみたい。最近、私、自分のこと自分でやるようになったから、お金も、もらえないし、面白くなかった感じ。」
「それって。」
「何でピティエが、その侍女の言うなりになんか、ならなきゃいけないんだよ!」
「•••うん。ずっとやだったから、戦ったんだ。でも、竜樹様に聞こうと思ったけど、夢で、かわいそうに、って笑う竜樹様が出てきて。恥ずかしいけど、少し朝方、泣いちゃった。」
「それで竜樹父さんに、可哀想だから、哀れだから、優しくしてくれるの?って聞いたんだ。」
「うん。」

「最初、『簡単に言えば、人が助かる事をやるのが、自分のためになるから』って言われて、ちょっとショボっとしたんだ。でも、ちゃんと聞いたら、侍女の言ってた事とは、全然違う事だった。」

『人って、人と関わらずには、いられないんだ。』

『自分の事を全部自分でできる人は、いないんだよ、ピティエ。』

『完璧な人なんていない。誰でも、誰かの助けが必要で、それはぐるぐるめぐってる。世界は完璧じゃない。いつだって、どこかで、足りない事があって、誰かが何かを求めてる。自分はその中で、何をする?何ができる?って、俺が自分で考えた時、目の前にあった事をひとつひとつこなしたら、皆と巡り合った、って感じかな。』

『皆といると嬉しい』

『可愛いな、って思う事はあるけどね。』

『可哀想、って、人が自分勝手にばっかり生きないためのシステムだから、それも利用しちゃえば良い』

『可哀想でしょ、慰めて!で元気になったら、ありがとう、がんばるね!で良くない?』

ピティエは、竜樹が言った事を、一言一句違わず覚えている。

「竜樹様が言う、自分の為になるから、は、簡単な損得じゃなくて。ううん、いっそ、損得だっていいんだ、って思った。竜樹様が私達にしてくれる事で、竜樹様も得するんだったら、それって、いい事だよね。」
「うんうん。辞めた侍女が言うような、やな感じ全然しないよ!」
「しないー!」

「それで、私、簡単に自信なくしちゃったな、何だか弱くて恥ずかしいな、って思って。自信なくても、頑張るには、どうしたらいい?って、皆で、今日のテーマで、話したいなって、思ったんだ。ーーーきっと私は、いつも自信満々じゃ、いられないから。それでも、頑張ってみたいーーー仕事だって、したいし、皆と話したいし、外だって出たい!怖いけど、自分の部屋で何もしないで怖がって震えてるより、おしゃれをしたり、出かけて皆と会う方が、ずっと楽しいから。」
「うん、俺も!」
「私も!」

ジャカジャカジャン!ジャジャン♪

ロペラが、ここで音楽だよ!
と、挟んできた。
はっ、と3人は黙る。

「それではここで一曲、歌います。『若者よ荒野を目指せ』」

ロペラは、夢を持ち、誰も踏破した事のない荒野を目指す若者の、その勇気を称える曲を、朗々と、歌った。

それから後は、どうやったら、自信もてる?や、ラジオ番組をやるには、お話上手になるには、とさまざまな話をして、盛り上がって3人のラジオ番組は完成した。
満足げに部屋から出てきた3人と1人に、竜樹は、ツバメをよいよいしながら、良かったみたい?と、ラフィネと顔を見合わせて、微笑んだ。

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