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本編
話してみて
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「じゃあ、最初どうにする?一応、録音しながら慣れてみる?」
ラジオの試験番組を録音する、とピティエ、プレイヤード、アミューズ、それから吟遊詩人のロペラで、寮の個室に籠り、さあ!という所で。
プレイヤードの、意気込んだ、ふすっ、という鼻息と共に、口開き。
受けてアミューズは、
「うん、録音になれよう!」
4人分のマイクと繋がった録音機のボタンを、ピッと入れて。
「まだどんな話するか、話し合ってなかったねー。ラジオって、最初から何話すか、いっぱい決めておくのかな?」と。
「それじゃ、話が面白くないんじゃない?台本があったら、劇みたいになっちゃうし。」
何しろラジオ番組の例の『早川みずほの、おなじみクラシック⭐︎ラジオ!』と、球技大会の時しか、3人は見本になるラジオを聞いた事がないので、何もかもが手探りだ。
「みずほもだけど、球技大会の、ルムトンとステューは、お話上手だったねー。」
「大道芸人で、お話で笑わせてたんだって。」
「私たちが、最初から上手く話すのは、難しいかも?」
積極的に話すアミューズとプレイヤードと違って、もじもじ、むぐむぐしていたピティエが、2人に、思い切って、といった感じで話しかける。
「あの、あの!私、話したいな、と思ったテーマがあって!それを言うから、まずは自由に、番組みたいに、誰かが聞いてると思って、話をしてみない?」
ピティエが頑張ってきっかけを作ってくれたなら、アミューズとプレイヤードに否やはない。
「じゃあ、番組みたいに話してみよっか!」
「良いね良いね!最初は、番組名を言うんでしょ。何にする?」
「アミューズ、プレイヤード、ピティエの、お喋りラジオで!」
じゃかじゃーん!
ロペラが気を利かせて、ジングルを流す。
ハタ! と気合いの入る3人が、番組名をコール!
「アミューズ」
「プレイヤード」
「ピティエの」
「「「お喋りラジオ!」」」
「皆さんこんにちは、初めまして。俺は新聞売りをやってる、アミューズです!」
「初めまして、よろしくお願いします。この間、球技大会でブラインドサッカーに出た、プレイヤードです!」
「は、初めまして。私も、ブラインドサッカーに出ました、ピティエです。この3人に共通する特徴で言えば、皆、視力が弱いんだよね。」
「うんうん、そう。だから、見えてない世界をお話する事は、できるよ。」
「ラジオは声だけだから、皆さんと今は同じって事だね。俺たちのお喋り、楽しんでもらえたら、うれしいです。」
滑り出しは好調である。
「何だかピティエが、話したいテーマがあるって言ってたけど。」
アミューズとプレイヤードが、どうぞ!と身を乗り出してマイクにスタンバイ、ピティエの言葉を待った。
「私、私は、昨日の夜は、何だかこのラジオをやる、自信がなくて•••。」
とピティエが言った時。
「•••自信がないって、言わないで!!」
プレイヤードが、ふるふる、と身体を震わせ、拳を握り込み。
はっ、とアミューズもピティエも、そしてロペラも。
無言になって、無音が続く•••のは、まずい、とロペラが、ほんの僅かな音で、リュートをポロポロと鳴らす。
気持ちを落ち着かせる、穏やかな音色。
「プレイヤード様。自信がない、って言っちゃダメなのは、何でなの?俺は、俺はさぁ。」
アミューズが、何とか口を開き、言葉を繋ぐ。
「竜樹父さんに、目が悪いって事、ずっと隠してたの。」
アミューズは、はっきりとは見えない目を、ぱち、ぱち、する。
「隠してた時はさ。家がなくて軒先や路上や空き家で皆と暮らして、いつ食べられるか分からなかった時や、その前の父ちゃんと母ちゃんがいて邪魔者にされてた時より、ずーっと安心だったんだけど、その分、怖かったの。いつ、目が悪い奴は要らない、って言われるかって、皆は、竜樹父さんなら、そんな事、言わないかもよ、って。でも、言うのも怖いし、言わなくても怖いし。バレた時は、もう、ヒヤヒヤ~って、死んじゃいそうに、心臓がギュッてしたんだけど。」
うん、とピティエが頷く。
プレイヤードは、ふ、ふ、と息を吐きながら、激情を流して、それでもアミューズの話を聞いている。
「目が悪い、ってバレても、竜樹父さんは、俺の事、大事にしてくれた。すごくホッとしたんだ。何だ、大丈夫だったじゃないか、言えばよかった、もっと早く。って思ったけど、俺はやっぱり、自分からじゃ言えなかったと思う。」
「うん。」
「それで、バレてから、自由に思った事、こんなふうに見えてるよ、とか、これはできる、できない、とか、言えるようになったら、すごく、気持ちが軽いんだ。嬉しくて、嬉しくて、竜樹父さんが俺にも良くわかるように、遊びも勉強も、工夫してくれて。皆ともっと、楽しくできるようになった。」
「うん。」
「•••うん。」
「だからね。」
すう、とアミューズが息を吸う。
「ピティエ様が、自信がないな、って思った事も、プレイヤード様が、自信がないって言わないで、って思ったことも、話してみればいいじゃない、って思うんだ。話すと、軽くなるから。我慢してると、重くなる。どんどん、怖くなる。だから。」
「プレイヤード様、どうして、自信がないって、言っちゃダメなの?」
ラジオの試験番組を録音する、とピティエ、プレイヤード、アミューズ、それから吟遊詩人のロペラで、寮の個室に籠り、さあ!という所で。
プレイヤードの、意気込んだ、ふすっ、という鼻息と共に、口開き。
受けてアミューズは、
「うん、録音になれよう!」
4人分のマイクと繋がった録音機のボタンを、ピッと入れて。
「まだどんな話するか、話し合ってなかったねー。ラジオって、最初から何話すか、いっぱい決めておくのかな?」と。
「それじゃ、話が面白くないんじゃない?台本があったら、劇みたいになっちゃうし。」
何しろラジオ番組の例の『早川みずほの、おなじみクラシック⭐︎ラジオ!』と、球技大会の時しか、3人は見本になるラジオを聞いた事がないので、何もかもが手探りだ。
「みずほもだけど、球技大会の、ルムトンとステューは、お話上手だったねー。」
「大道芸人で、お話で笑わせてたんだって。」
「私たちが、最初から上手く話すのは、難しいかも?」
積極的に話すアミューズとプレイヤードと違って、もじもじ、むぐむぐしていたピティエが、2人に、思い切って、といった感じで話しかける。
「あの、あの!私、話したいな、と思ったテーマがあって!それを言うから、まずは自由に、番組みたいに、誰かが聞いてると思って、話をしてみない?」
ピティエが頑張ってきっかけを作ってくれたなら、アミューズとプレイヤードに否やはない。
「じゃあ、番組みたいに話してみよっか!」
「良いね良いね!最初は、番組名を言うんでしょ。何にする?」
「アミューズ、プレイヤード、ピティエの、お喋りラジオで!」
じゃかじゃーん!
ロペラが気を利かせて、ジングルを流す。
ハタ! と気合いの入る3人が、番組名をコール!
「アミューズ」
「プレイヤード」
「ピティエの」
「「「お喋りラジオ!」」」
「皆さんこんにちは、初めまして。俺は新聞売りをやってる、アミューズです!」
「初めまして、よろしくお願いします。この間、球技大会でブラインドサッカーに出た、プレイヤードです!」
「は、初めまして。私も、ブラインドサッカーに出ました、ピティエです。この3人に共通する特徴で言えば、皆、視力が弱いんだよね。」
「うんうん、そう。だから、見えてない世界をお話する事は、できるよ。」
「ラジオは声だけだから、皆さんと今は同じって事だね。俺たちのお喋り、楽しんでもらえたら、うれしいです。」
滑り出しは好調である。
「何だかピティエが、話したいテーマがあるって言ってたけど。」
アミューズとプレイヤードが、どうぞ!と身を乗り出してマイクにスタンバイ、ピティエの言葉を待った。
「私、私は、昨日の夜は、何だかこのラジオをやる、自信がなくて•••。」
とピティエが言った時。
「•••自信がないって、言わないで!!」
プレイヤードが、ふるふる、と身体を震わせ、拳を握り込み。
はっ、とアミューズもピティエも、そしてロペラも。
無言になって、無音が続く•••のは、まずい、とロペラが、ほんの僅かな音で、リュートをポロポロと鳴らす。
気持ちを落ち着かせる、穏やかな音色。
「プレイヤード様。自信がない、って言っちゃダメなのは、何でなの?俺は、俺はさぁ。」
アミューズが、何とか口を開き、言葉を繋ぐ。
「竜樹父さんに、目が悪いって事、ずっと隠してたの。」
アミューズは、はっきりとは見えない目を、ぱち、ぱち、する。
「隠してた時はさ。家がなくて軒先や路上や空き家で皆と暮らして、いつ食べられるか分からなかった時や、その前の父ちゃんと母ちゃんがいて邪魔者にされてた時より、ずーっと安心だったんだけど、その分、怖かったの。いつ、目が悪い奴は要らない、って言われるかって、皆は、竜樹父さんなら、そんな事、言わないかもよ、って。でも、言うのも怖いし、言わなくても怖いし。バレた時は、もう、ヒヤヒヤ~って、死んじゃいそうに、心臓がギュッてしたんだけど。」
うん、とピティエが頷く。
プレイヤードは、ふ、ふ、と息を吐きながら、激情を流して、それでもアミューズの話を聞いている。
「目が悪い、ってバレても、竜樹父さんは、俺の事、大事にしてくれた。すごくホッとしたんだ。何だ、大丈夫だったじゃないか、言えばよかった、もっと早く。って思ったけど、俺はやっぱり、自分からじゃ言えなかったと思う。」
「うん。」
「それで、バレてから、自由に思った事、こんなふうに見えてるよ、とか、これはできる、できない、とか、言えるようになったら、すごく、気持ちが軽いんだ。嬉しくて、嬉しくて、竜樹父さんが俺にも良くわかるように、遊びも勉強も、工夫してくれて。皆ともっと、楽しくできるようになった。」
「うん。」
「•••うん。」
「だからね。」
すう、とアミューズが息を吸う。
「ピティエ様が、自信がないな、って思った事も、プレイヤード様が、自信がないって言わないで、って思ったことも、話してみればいいじゃない、って思うんだ。話すと、軽くなるから。我慢してると、重くなる。どんどん、怖くなる。だから。」
「プレイヤード様、どうして、自信がないって、言っちゃダメなの?」
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