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本編
かわいそうの夢
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お金の事ばっかり言うのは、お金の力じゃなければ、大事にされないからだ。グリーズは、本当には、誰にも大事にされてないんだ!!
その言葉は、グリーズの真実を突いていた。
実家からは、ピティエのいるアシュランス公爵家でしっかりお勤めして、然るべき年齢になれば、どこぞへ嫁にいき。その間の小遣いは自分の給料からで、こちらに頼ってはくれるな、と父母から言われている。やり手の商人になるくらいだから、基本無駄な金は使わないのだ。
無理に結婚相手を押し付けたりされない所はいいが、もう巣立ちしたものとみなされて、関わり合いは年に1度もなかった。
それには、グリーズの、すぐ何でも面倒くさがる、そのくせ自分の利には敏い、あまり良くない性格を鑑みて、人の間で苦労してみろ。という両親の気持ちがあったりもするのだが、本人には理解できていない。
彼氏はいないし、執事カフェのアロンジェだって、グリーズがお客様だから大事にしてくれるだけで、もちろん私的に何か言ってくる事もない。本当は、質の良い常連客だったら、時折チョコっとカードに一言くれたりもするのだが、グリーズは貰った事がない。
同僚は最近のグリーズに呆れて、あまり話をしたくない、という表情を見せるようになった。
ピティエのように、兄ジェネルーや両親が、何をやった、失敗した成功した、と一緒に和気藹々とする事、なんてグリーズにはないのだ。
だから。
こんなにも面白くない思いをさせるピティエは、グッサリと傷つけてやらねば。
グリーズの気が済まない。
拘束されながらも、怒りで荒くなる鼻息、ふん!と笑って。
「•••あ~あ!あんたは良いわよね~ぇ!みんなが可哀想に、哀れに思って、何の足しにもならない着替えや買い物ぐらいで、褒められたりして!まるで小さい子供じゃない!」
この部屋にいる者、皆が、グリーズを引っ立てていくタイミングを測っている。
ピティエが初めて怒りを表して戦っているから、ピティエのために、キリのいい所まで、ちゃんと言いたい事を、話させてやりたいのだ。
「ギフトの御方様だって、可哀想なアンタたちを助けてやるって名目で、儲けたいだけだと思うわよ!弱いって、ずるいわよね!ちゃんとした私みたいに働かなくて良いんだから!」
ピティエは罵られて、カッと血が湧いた。だからかえって、静かな口調になった。
「ちが、違う。私は確かにできない事もあるけど。竜樹様は、可哀想だから、なんて私達を見下げて、助けた訳じゃない。儲けるのだって、そうじゃないと、必要な事業が続かないから、って言ってたもの。」
うんうん、と父公爵も兄ジェネルーも頷く。そんな、得するから、だけで携わる人にできる事業じゃない。だからって利益がなければ、それを軽視すれば、事業は理想論だけで終わってしまう。
「何言ってんのよ!笑っちゃうわ!得があるからに決まってるでしょ!なのに懐いちゃって、馬鹿よね~!きっとギフトの御方様だって、面倒くさいと思ってるわ!」
「そんな事ない、絶対違う!竜樹様に聞いたっていい、違うって言ってくれるから。」
「じゃあ聞いてご覧なさいよ!まあ、可哀想な子供のアンタに遠慮して、本当の事は言わないかもだけど!」
ニシャあ、と笑うグリーズは、これでギフトの御方様に何を言われても、きっとピティエは、疑いの心を消せないだろう、とにらんだ。呪いの言葉だ。ザマアミロ!
ソファに座って腕組みし、2人を見守っていた父公爵が、落ち着いた声で、言い争いの終わりを告げる。
「ピティエ。グリーズの憶測なんて、もう聞かなくていい。ギフトの御方様に、明日聞いてみてご覧。きっと、ちゃんとお話ししてくれるに違いないよ。ピティエは、竜樹様を、信じているだろう?」
うん。
ピティエは竜樹を信じている。
その顔、感触を思い浮かべれば、ただ黙って顔を触らせてくれた、優しい、素朴な。そして笑った口の表情が。
「聞いてみる。」
ふす~、と息を吐いて、胸の前に拳をつけて、何度も深呼吸する。
そんなピティエに、言い聞かせるために、父公爵はゆっくり喋った。
「グリーズは、やはり解雇とする。このような考えの者を、このまま雇って、同じ家の中にいては、いつ誰が害されるか分からないからだ。信用ができない人物を、許す事はできない。私はこの家の、安心安全を守る責任がある。」
コックリ、とピティエは頷く。
「竜樹様の事について、ピティエは考え直して謝って欲しい、と言っていたけど、それすら許されない無礼なのだよ、ピティエ。」
「•••わかりました、父様。」
ショボ、と項垂れる。
「ピティエが意地悪されていた事だって、許されない。ピティエがもし、仕事を任されて、グリーズみたいにしたら、ちゃんと働いているとは、言えないだろう?ピティエはどうして、私達に、言えなかったのかい?」
グリーズが何か言いかけたが、その口を布でグッと塞いで、警備の2人によって身体を縄で戒められた。
もうお前は喋らなくていい、と目線で父公爵が伝えたからだ。
「告げ口するみたいで、嫌で•••。それに、私が、やる気がなくて、何もできなかったから•••。竜樹様に相談したら、毎日会う人なら、ちゃんと敵にしないで真摯に話をしてみて、通じなかったら、その人の助けを借りないで、色々できるようになればいい、って教えてくれたから。私、グリーズにも気持ちを言ってやって、自分の事ができて、嬉しくて、それで良かったから。」
一足飛びに成長する事はできない。
ピティエなりに、グリーズと戦って、自分の尊厳を勝ち得たのだ。
大人からしてみれば、最速最善は、グリーズの怠慢や悪意を両親か、もしくは兄のジェネルーに言う、だったろうが。
最速でなくてもいい。最善でなくても。
「そうか。うんうん、良く言えたね。自分の気持ちを言うのは、大事だよ。でも、もしグリーズが逆恨みに思って、ピティエを傷つけようとしたら、って私達は心配に思ってしまうんだ。ピティエの気持ちを無視して、物事を進めはしないから、今度は、私達にも相談しておくれ。いつでも待っているからね。」
「•••はい、父様。あの、あの。親戚の、エグランティエ侯爵家や、マージ商会の取引の事は、どうなりますか?」
心配そうに聞いてくる、ピティエの胸を痛ませるほどの事もない。
「今日見た映像を、エグランティエ侯爵家や、マージ商会にも送ってやろうよ。それでも何か言ってくるような連中とは、信用のおける付き合いはできまい。一見、損をするようでも、今後の事を考えたら、信用できる付き合いができる商会や、親戚と付き合う方が、家のためになる。」
取引は、やめたらこちらだけが損なのではなく、マージ商会だって損をするのだしね。
ピティエは父母と、兄に、囲まれてトントン、と背中や肩を叩かれた。
信じていいんだよ。力になるよ。
ピティエに向けられる悪意を、そのままには決してしておかない、と。
モゴゴ!と何かを叫んでいるグリーズは、今夜着の身着のまま実家へ帰す。
説明用の映像と、魔道具モニターを持って、ジェネルーと警備の1名が一角馬車に乗り、グリーズを送る。もう一夜たりともこの家に置いておかない、という、家族の強い思いがあるのだ。
「ピティエは、もう寝なさい。明日は大事な日だろう?」
「はい、ジェネルー兄様、お手数かけて、すみません。」
何でもない事だよ。ピティエの背中をトントン、と叩いて、ジェネルーは戦闘意欲に弾む足どりで、グリーズを引っ立てて行った。
ピティエは、部屋に戻る。
大事な白杖を、サイドテーブルに置き、ベットに入って目を瞑る。
興奮したからか、一度覚めた眠気は、なかなか訪れない。
「きっと、竜樹様は、違うって言って下さるんだから。私達が可哀想だから、じゃないって。きっと。」
ギュッと、枕を握る。
薄くかいた手汗が、気持ち悪くて。
ピティエは、竜樹が。
「かわいそうに。」
と言って笑う夢をみた。
そうして少し、朝方、泣いた。
その言葉は、グリーズの真実を突いていた。
実家からは、ピティエのいるアシュランス公爵家でしっかりお勤めして、然るべき年齢になれば、どこぞへ嫁にいき。その間の小遣いは自分の給料からで、こちらに頼ってはくれるな、と父母から言われている。やり手の商人になるくらいだから、基本無駄な金は使わないのだ。
無理に結婚相手を押し付けたりされない所はいいが、もう巣立ちしたものとみなされて、関わり合いは年に1度もなかった。
それには、グリーズの、すぐ何でも面倒くさがる、そのくせ自分の利には敏い、あまり良くない性格を鑑みて、人の間で苦労してみろ。という両親の気持ちがあったりもするのだが、本人には理解できていない。
彼氏はいないし、執事カフェのアロンジェだって、グリーズがお客様だから大事にしてくれるだけで、もちろん私的に何か言ってくる事もない。本当は、質の良い常連客だったら、時折チョコっとカードに一言くれたりもするのだが、グリーズは貰った事がない。
同僚は最近のグリーズに呆れて、あまり話をしたくない、という表情を見せるようになった。
ピティエのように、兄ジェネルーや両親が、何をやった、失敗した成功した、と一緒に和気藹々とする事、なんてグリーズにはないのだ。
だから。
こんなにも面白くない思いをさせるピティエは、グッサリと傷つけてやらねば。
グリーズの気が済まない。
拘束されながらも、怒りで荒くなる鼻息、ふん!と笑って。
「•••あ~あ!あんたは良いわよね~ぇ!みんなが可哀想に、哀れに思って、何の足しにもならない着替えや買い物ぐらいで、褒められたりして!まるで小さい子供じゃない!」
この部屋にいる者、皆が、グリーズを引っ立てていくタイミングを測っている。
ピティエが初めて怒りを表して戦っているから、ピティエのために、キリのいい所まで、ちゃんと言いたい事を、話させてやりたいのだ。
「ギフトの御方様だって、可哀想なアンタたちを助けてやるって名目で、儲けたいだけだと思うわよ!弱いって、ずるいわよね!ちゃんとした私みたいに働かなくて良いんだから!」
ピティエは罵られて、カッと血が湧いた。だからかえって、静かな口調になった。
「ちが、違う。私は確かにできない事もあるけど。竜樹様は、可哀想だから、なんて私達を見下げて、助けた訳じゃない。儲けるのだって、そうじゃないと、必要な事業が続かないから、って言ってたもの。」
うんうん、と父公爵も兄ジェネルーも頷く。そんな、得するから、だけで携わる人にできる事業じゃない。だからって利益がなければ、それを軽視すれば、事業は理想論だけで終わってしまう。
「何言ってんのよ!笑っちゃうわ!得があるからに決まってるでしょ!なのに懐いちゃって、馬鹿よね~!きっとギフトの御方様だって、面倒くさいと思ってるわ!」
「そんな事ない、絶対違う!竜樹様に聞いたっていい、違うって言ってくれるから。」
「じゃあ聞いてご覧なさいよ!まあ、可哀想な子供のアンタに遠慮して、本当の事は言わないかもだけど!」
ニシャあ、と笑うグリーズは、これでギフトの御方様に何を言われても、きっとピティエは、疑いの心を消せないだろう、とにらんだ。呪いの言葉だ。ザマアミロ!
ソファに座って腕組みし、2人を見守っていた父公爵が、落ち着いた声で、言い争いの終わりを告げる。
「ピティエ。グリーズの憶測なんて、もう聞かなくていい。ギフトの御方様に、明日聞いてみてご覧。きっと、ちゃんとお話ししてくれるに違いないよ。ピティエは、竜樹様を、信じているだろう?」
うん。
ピティエは竜樹を信じている。
その顔、感触を思い浮かべれば、ただ黙って顔を触らせてくれた、優しい、素朴な。そして笑った口の表情が。
「聞いてみる。」
ふす~、と息を吐いて、胸の前に拳をつけて、何度も深呼吸する。
そんなピティエに、言い聞かせるために、父公爵はゆっくり喋った。
「グリーズは、やはり解雇とする。このような考えの者を、このまま雇って、同じ家の中にいては、いつ誰が害されるか分からないからだ。信用ができない人物を、許す事はできない。私はこの家の、安心安全を守る責任がある。」
コックリ、とピティエは頷く。
「竜樹様の事について、ピティエは考え直して謝って欲しい、と言っていたけど、それすら許されない無礼なのだよ、ピティエ。」
「•••わかりました、父様。」
ショボ、と項垂れる。
「ピティエが意地悪されていた事だって、許されない。ピティエがもし、仕事を任されて、グリーズみたいにしたら、ちゃんと働いているとは、言えないだろう?ピティエはどうして、私達に、言えなかったのかい?」
グリーズが何か言いかけたが、その口を布でグッと塞いで、警備の2人によって身体を縄で戒められた。
もうお前は喋らなくていい、と目線で父公爵が伝えたからだ。
「告げ口するみたいで、嫌で•••。それに、私が、やる気がなくて、何もできなかったから•••。竜樹様に相談したら、毎日会う人なら、ちゃんと敵にしないで真摯に話をしてみて、通じなかったら、その人の助けを借りないで、色々できるようになればいい、って教えてくれたから。私、グリーズにも気持ちを言ってやって、自分の事ができて、嬉しくて、それで良かったから。」
一足飛びに成長する事はできない。
ピティエなりに、グリーズと戦って、自分の尊厳を勝ち得たのだ。
大人からしてみれば、最速最善は、グリーズの怠慢や悪意を両親か、もしくは兄のジェネルーに言う、だったろうが。
最速でなくてもいい。最善でなくても。
「そうか。うんうん、良く言えたね。自分の気持ちを言うのは、大事だよ。でも、もしグリーズが逆恨みに思って、ピティエを傷つけようとしたら、って私達は心配に思ってしまうんだ。ピティエの気持ちを無視して、物事を進めはしないから、今度は、私達にも相談しておくれ。いつでも待っているからね。」
「•••はい、父様。あの、あの。親戚の、エグランティエ侯爵家や、マージ商会の取引の事は、どうなりますか?」
心配そうに聞いてくる、ピティエの胸を痛ませるほどの事もない。
「今日見た映像を、エグランティエ侯爵家や、マージ商会にも送ってやろうよ。それでも何か言ってくるような連中とは、信用のおける付き合いはできまい。一見、損をするようでも、今後の事を考えたら、信用できる付き合いができる商会や、親戚と付き合う方が、家のためになる。」
取引は、やめたらこちらだけが損なのではなく、マージ商会だって損をするのだしね。
ピティエは父母と、兄に、囲まれてトントン、と背中や肩を叩かれた。
信じていいんだよ。力になるよ。
ピティエに向けられる悪意を、そのままには決してしておかない、と。
モゴゴ!と何かを叫んでいるグリーズは、今夜着の身着のまま実家へ帰す。
説明用の映像と、魔道具モニターを持って、ジェネルーと警備の1名が一角馬車に乗り、グリーズを送る。もう一夜たりともこの家に置いておかない、という、家族の強い思いがあるのだ。
「ピティエは、もう寝なさい。明日は大事な日だろう?」
「はい、ジェネルー兄様、お手数かけて、すみません。」
何でもない事だよ。ピティエの背中をトントン、と叩いて、ジェネルーは戦闘意欲に弾む足どりで、グリーズを引っ立てて行った。
ピティエは、部屋に戻る。
大事な白杖を、サイドテーブルに置き、ベットに入って目を瞑る。
興奮したからか、一度覚めた眠気は、なかなか訪れない。
「きっと、竜樹様は、違うって言って下さるんだから。私達が可哀想だから、じゃないって。きっと。」
ギュッと、枕を握る。
薄くかいた手汗が、気持ち悪くて。
ピティエは、竜樹が。
「かわいそうに。」
と言って笑う夢をみた。
そうして少し、朝方、泣いた。
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