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本編
刺すように本当の事を言う
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アシュランス公爵家の家族と、執事に侍女頭。警備の者が2名。
そして問題のグリーズ。
ひと時前まで、団欒をしていた部屋に皆で集まった。執事と侍女頭、警備とそしてもちろんグリーズは、立って。家族はソファに座る。
ジェネルーの操作で、テーブルに置かれた魔道具モニターに、パッと。先ほどの、ピティエの部屋にグリーズが侵入して、白杖を奪って去った映像が映る。
まぁ!なんと!
父と母は思わず声を漏らし、サッと険しい顔になる。執事と侍女頭は、キロリとグリーズを見る。それを受けて、グリーズは、苦く歯を食いしばる。
「ピティエの白杖を持ち出して、何を?」
「庭で壊そうとしてたんです。私が見咎めて、止めました。」
ピティエがこの家で悪口を言われていて、そしてそれが誰か言いたくはなさそうだったから。
「私の一存で、家の中に何ヶ所か、神の目をつけたのです。先ほども、ピティエは寝ているな、と思って自室で魔道具モニターを眺めてたら、突然グリーズが入ってきたのが見えたから、追って庭で捕まえたんです。」
ジェネルーが、ふん!と鼻息荒く、グリーズを睨む。
「わ、私は、ピティエ様がちゃんと眠られているか、確認しただけです!そうしたら、白杖に、虫が付いていたんです!払おうとして•••。」
「あのランプの光だけで、虫がわかったと?それにしても窓から払えば良かったし、ピティエに説明もなしに?」
「そ、それは申し訳なかったですけど•••。」
「けど、何だ。」
とジェネルー。むかっ、としてグリーズは言葉を突っ込む。
「けど!私はピティエ様の白杖を壊そうとなんて、してません!ジェネルー様が勘違いされただけです!」
ふうん。
ジェネルーはグリーズの言葉に反論はせずに。だが魔道具モニターの画面をピピピといじって、また新しい映像を出した。
廊下をグリーズと、もう1人侍女が、話しながら歩いている。
『何で私達が、ピティエなんかの服を衣装部屋に持って行かなきゃならないのよ!あ~あ、面倒!』
グリーズがプリプリして、バシ!と手に持った寝巻きを叩く。
『呼び捨て~。様つけなよ。誰が聞いているか、分からないじゃない。衣装部屋に持っていけば、ご自分で着てくれるんだからさ、前より良いじゃない。』
もう一人の侍女が、ひそりと咎める。
『どうせお貴族様は、洗濯も掃除も自分でしないんだから!自分で支度する、なんて聞いて呆れるわ!どうせならこっちに特別報酬、回せっていうの!お金を下々に回す、それが貴族の仕事でしょ!そうでもしなきゃ、あんな薄気味悪い奴の面倒見なんて、やってらんないわ!あの目!動かなくて、見えない癖に、こっちをじっと見てきてさ。ジトっとして、あ~ヤダヤダ!こっちの言う事、黙って聞いてりゃ良いのに、最近偉そうだし、居るだけで邪魔なのよ!』
『•••私達だって、洗濯はしないじゃない?』
『そりゃそうよ。私達は洗濯女じゃないもの!』
ピティエは、悪口には慣れていた。
主にグリーズが、直接部屋に篭りきりのピティエに、常々言ってきたからだ。
それでも、薄気味悪い、という言葉には落ち込む。自分では、気持ち悪くしてる、つもりなんかないのに。そう見えるのだろうか。
ピティエは段々と、俯いてゆく。
ジェネルーが、ピティエの背中を、ゆっくりとさする。そんな事ないよ、と言いたげに。
『とにかく、こっちにもお金を回してもらわなきゃね。それにしても、ギフトの御方様だか何だか知らないけど、欠陥がある奴ばっかりに優しくして、どっかおかしいんじゃないの?世の中を回してて大事にされなきゃなのは、私達みたいな、ちゃんとした人間なんだから!それとも、チビで不細工らしいから、自分よりもっと欠陥のある人間を周りに集めて、自分を慰めてるのかしらね?』
竜樹がこれを聞いていたら、ちゃんとした人間なんていない、皆それぞれ、できない事や、弱い所もあると、ピシッと言うだろう。
そうして、ピティエは、竜樹への言葉に、すっ、と腹の底がすわった。
自分の事を言われるより、もっとずっとイヤだ。
竜樹様は、そんな人じゃない!
会った事もないのに、竜樹様の事、貶めてほしくない!
『ギフトの御方様の事まで言ったら、本当に怒られるわよ!』
『誰も聞いてないわよ!あ~あ、ギフトの御方様が白杖なんかピティエに渡すから、私の特別報酬が。いっそ壊してやろうかしら。そうすれば、結局は自分だけで生きていくなんてできない、って身に染みるわよね。』
ダラダラとやる気なさそうなグリーズに。
『グリーズ、お金の事ばっかり言うけど、執事カフェにまた注ぎ込むつもり?ブロマイド見せてもらったけど、執事カフェのアロンジェさんて、ピティエ様に似てるわよね?髪も紺だし。何だかんだ言って、ピティエ様の事が好きなんじゃないの?』
半目で突いてくる同僚に。
『ま、まさか!ちっとも似てないわ!でも、ピティエが執事カフェのアロンジェさんみたいにチヤホヤしてくれたら、さぞかしスッとするでしょうね~!あはは!』
ふつ、と画面が止まって。醜悪な顔で笑っているグリーズと、むん、と口を閉めているもう1人の侍女の顔が映っている。
部屋の中にいる人々は、揃ってグリーズを冷ややかな目で見下した。ただ1人、ピティエを除いて。
ピティエは、真っ直ぐグリーズの方を向いている。瞳は深く、覗き込めば落っこちそうに、瞬きもせず。けれど、手のひらをぐぐぐと拳に。
グリーズは、むぐぐっ、と口を閉じて、何故かピティエを睨んだ。
私が、こんなに窮地に陥ってるのは。オマエの、セイダ!
「この映像の他にも、さすがに使用人部屋に神の目をつけるのは遠慮したけれど、私達の部屋や、庭、廊下などに設置した物から、グリーズがピティエに対して悪い感情を持っている証拠映像が撮れている。」
ジェネルーは、もはや淡々と追い詰める。
「そんなにピティエが嫌なら、この家を出て行ってもらおう。」
ピティエの父、アシュランス公爵家当主の決然とした言葉に、当然、と皆が頷く。
「•••で、すよね?」
グリーズの言葉が切れ切れに。
誰も返事をしない。だからもう一度、グリーズは縋って、言った。
「紹介状は、書いて、もらえるんですよね?」
真正面からジッと見てくる、ピティエの顔は、もうグリーズには見られない。もういい。ここじゃない所で働けば、ピティエとも2度と会わないし。居心地の悪い、底の底まで見てくる視線を避けて。
「仕えている主人の悪口を言い、その上、実際に虐げる者を、他の所に紹介はできない。責任がとれない。」
ビシリと告げる父公爵に、たちまち不満顔で言い募る。
「私はご親戚のエグランティエ侯爵家からの推薦で来たんですよ!そちらの面目を潰す事になっても良いんですか!?それに、ウチの実家のマージ商会が、取引をやめたら、この公爵家だって痛手じゃないんですか!」
すう、と父公爵が、反論しようと息を吸った時。
「グリーズをやめさせなくても、良いです。父様。•••ただ、竜樹様を貶したのを、考え直して謝ってもらえれば。」
ピティエが、静かに、言葉を落とした。
言われたグリーズは、目を剥いて、カッと。
「はぁ!?何で私が、そんな事で謝らなきゃならないのよ!?単なる噂話でしょ!?あんた馬鹿なんじゃないの!?•••痛い!離してよ!」
警備の2人が、ギリ、とグリーズの手首を掴み、後ろに回した。暴れないようにだ。
「•••グリーズはずっと、私に意地悪な事をしてきたよね。服は汚れの目立たない灰色ばかり。勝手にやりやすいように、私の事を決めていって。ちょっとでも面倒かければ、面倒臭い、何も1人で出来ない半端者、って蔑んで。それも嫌だったけど。」
「竜樹様達と一緒にいて、ざっくばらんに、ワイワイと、仲間にしてくれて、その中でも「自分の気持ち」を、大事にされてわかった。」
「目が良く見えないからって、意地悪されるのが、そっちの方が、普通じゃないんだって。」
ふる、ふる、と拳が震える。
「竜樹様の顔がどんなか、なんて、私は見えないから、知らないと思っているでしょう。でも、どんな顔か、私は知ってる。ちゃんと触らせてくれたんだ。彫りの深い顔じゃなくて、あっさりしてて、目は小さくて。口は笑ってる。」
カッコいい顔かどうか、なんて分からないけど。
「私にだって分かる。竜樹様は、とっても優しいお顔。」
「見た事もないグリーズが、貶めるような顔じゃない!とっても良いお顔なんだ!」
「ピティエ•••。」
ジェネルーが、さす、さす、と背中をさすると、震えるピティエの激情が伝わってくる。
「竜樹様が、弱い者を集めて優しくして下さるのは、何故かなんて、私は知らない。けど、でも知ってる事もある。赤ちゃんに夜、お乳をあげるために、何度も起きて、夜泣きをあやして、オムツを替えて。子供達に美味しいご飯を作ったり、遊ばせたり、金策したり。自分をチヤホヤして欲しいからなんかじゃ、絶対にできない事だ!実際に誰も竜樹様をチヤホヤなんか、してないよ、皆、気安くて、安心して、仲が良くて!私はグリーズより竜樹様の事、知ってる!グリーズが間違ってるって、絶対に言える!」
「だから何なのよ!やっぱりアンタもおかしいわよ!稼いだかと思えば得にもならない事ばっかりやって、馬鹿じゃないの!?信じらんない!ちょっと、痛いってば!」
身を捩り暴れる。その度に拘束が強まる。
「•••得か損か、お金の事ばっかり言うのは、お金の力じゃなければ、大事にされないからだ。グリーズは、本当には、誰にも大事にされてないんだ!!」
ピティエが、こんなに腹の底から怒りを顕にした事はない。
そうして、どこか痛い、認められない、本当の事を言われた人ほど。
くわっ、と口をかっぴらき。
は、は、は。
言葉が出ない。
な、な、な。何ですってぇぇぇ!!??
そして問題のグリーズ。
ひと時前まで、団欒をしていた部屋に皆で集まった。執事と侍女頭、警備とそしてもちろんグリーズは、立って。家族はソファに座る。
ジェネルーの操作で、テーブルに置かれた魔道具モニターに、パッと。先ほどの、ピティエの部屋にグリーズが侵入して、白杖を奪って去った映像が映る。
まぁ!なんと!
父と母は思わず声を漏らし、サッと険しい顔になる。執事と侍女頭は、キロリとグリーズを見る。それを受けて、グリーズは、苦く歯を食いしばる。
「ピティエの白杖を持ち出して、何を?」
「庭で壊そうとしてたんです。私が見咎めて、止めました。」
ピティエがこの家で悪口を言われていて、そしてそれが誰か言いたくはなさそうだったから。
「私の一存で、家の中に何ヶ所か、神の目をつけたのです。先ほども、ピティエは寝ているな、と思って自室で魔道具モニターを眺めてたら、突然グリーズが入ってきたのが見えたから、追って庭で捕まえたんです。」
ジェネルーが、ふん!と鼻息荒く、グリーズを睨む。
「わ、私は、ピティエ様がちゃんと眠られているか、確認しただけです!そうしたら、白杖に、虫が付いていたんです!払おうとして•••。」
「あのランプの光だけで、虫がわかったと?それにしても窓から払えば良かったし、ピティエに説明もなしに?」
「そ、それは申し訳なかったですけど•••。」
「けど、何だ。」
とジェネルー。むかっ、としてグリーズは言葉を突っ込む。
「けど!私はピティエ様の白杖を壊そうとなんて、してません!ジェネルー様が勘違いされただけです!」
ふうん。
ジェネルーはグリーズの言葉に反論はせずに。だが魔道具モニターの画面をピピピといじって、また新しい映像を出した。
廊下をグリーズと、もう1人侍女が、話しながら歩いている。
『何で私達が、ピティエなんかの服を衣装部屋に持って行かなきゃならないのよ!あ~あ、面倒!』
グリーズがプリプリして、バシ!と手に持った寝巻きを叩く。
『呼び捨て~。様つけなよ。誰が聞いているか、分からないじゃない。衣装部屋に持っていけば、ご自分で着てくれるんだからさ、前より良いじゃない。』
もう一人の侍女が、ひそりと咎める。
『どうせお貴族様は、洗濯も掃除も自分でしないんだから!自分で支度する、なんて聞いて呆れるわ!どうせならこっちに特別報酬、回せっていうの!お金を下々に回す、それが貴族の仕事でしょ!そうでもしなきゃ、あんな薄気味悪い奴の面倒見なんて、やってらんないわ!あの目!動かなくて、見えない癖に、こっちをじっと見てきてさ。ジトっとして、あ~ヤダヤダ!こっちの言う事、黙って聞いてりゃ良いのに、最近偉そうだし、居るだけで邪魔なのよ!』
『•••私達だって、洗濯はしないじゃない?』
『そりゃそうよ。私達は洗濯女じゃないもの!』
ピティエは、悪口には慣れていた。
主にグリーズが、直接部屋に篭りきりのピティエに、常々言ってきたからだ。
それでも、薄気味悪い、という言葉には落ち込む。自分では、気持ち悪くしてる、つもりなんかないのに。そう見えるのだろうか。
ピティエは段々と、俯いてゆく。
ジェネルーが、ピティエの背中を、ゆっくりとさする。そんな事ないよ、と言いたげに。
『とにかく、こっちにもお金を回してもらわなきゃね。それにしても、ギフトの御方様だか何だか知らないけど、欠陥がある奴ばっかりに優しくして、どっかおかしいんじゃないの?世の中を回してて大事にされなきゃなのは、私達みたいな、ちゃんとした人間なんだから!それとも、チビで不細工らしいから、自分よりもっと欠陥のある人間を周りに集めて、自分を慰めてるのかしらね?』
竜樹がこれを聞いていたら、ちゃんとした人間なんていない、皆それぞれ、できない事や、弱い所もあると、ピシッと言うだろう。
そうして、ピティエは、竜樹への言葉に、すっ、と腹の底がすわった。
自分の事を言われるより、もっとずっとイヤだ。
竜樹様は、そんな人じゃない!
会った事もないのに、竜樹様の事、貶めてほしくない!
『ギフトの御方様の事まで言ったら、本当に怒られるわよ!』
『誰も聞いてないわよ!あ~あ、ギフトの御方様が白杖なんかピティエに渡すから、私の特別報酬が。いっそ壊してやろうかしら。そうすれば、結局は自分だけで生きていくなんてできない、って身に染みるわよね。』
ダラダラとやる気なさそうなグリーズに。
『グリーズ、お金の事ばっかり言うけど、執事カフェにまた注ぎ込むつもり?ブロマイド見せてもらったけど、執事カフェのアロンジェさんて、ピティエ様に似てるわよね?髪も紺だし。何だかんだ言って、ピティエ様の事が好きなんじゃないの?』
半目で突いてくる同僚に。
『ま、まさか!ちっとも似てないわ!でも、ピティエが執事カフェのアロンジェさんみたいにチヤホヤしてくれたら、さぞかしスッとするでしょうね~!あはは!』
ふつ、と画面が止まって。醜悪な顔で笑っているグリーズと、むん、と口を閉めているもう1人の侍女の顔が映っている。
部屋の中にいる人々は、揃ってグリーズを冷ややかな目で見下した。ただ1人、ピティエを除いて。
ピティエは、真っ直ぐグリーズの方を向いている。瞳は深く、覗き込めば落っこちそうに、瞬きもせず。けれど、手のひらをぐぐぐと拳に。
グリーズは、むぐぐっ、と口を閉じて、何故かピティエを睨んだ。
私が、こんなに窮地に陥ってるのは。オマエの、セイダ!
「この映像の他にも、さすがに使用人部屋に神の目をつけるのは遠慮したけれど、私達の部屋や、庭、廊下などに設置した物から、グリーズがピティエに対して悪い感情を持っている証拠映像が撮れている。」
ジェネルーは、もはや淡々と追い詰める。
「そんなにピティエが嫌なら、この家を出て行ってもらおう。」
ピティエの父、アシュランス公爵家当主の決然とした言葉に、当然、と皆が頷く。
「•••で、すよね?」
グリーズの言葉が切れ切れに。
誰も返事をしない。だからもう一度、グリーズは縋って、言った。
「紹介状は、書いて、もらえるんですよね?」
真正面からジッと見てくる、ピティエの顔は、もうグリーズには見られない。もういい。ここじゃない所で働けば、ピティエとも2度と会わないし。居心地の悪い、底の底まで見てくる視線を避けて。
「仕えている主人の悪口を言い、その上、実際に虐げる者を、他の所に紹介はできない。責任がとれない。」
ビシリと告げる父公爵に、たちまち不満顔で言い募る。
「私はご親戚のエグランティエ侯爵家からの推薦で来たんですよ!そちらの面目を潰す事になっても良いんですか!?それに、ウチの実家のマージ商会が、取引をやめたら、この公爵家だって痛手じゃないんですか!」
すう、と父公爵が、反論しようと息を吸った時。
「グリーズをやめさせなくても、良いです。父様。•••ただ、竜樹様を貶したのを、考え直して謝ってもらえれば。」
ピティエが、静かに、言葉を落とした。
言われたグリーズは、目を剥いて、カッと。
「はぁ!?何で私が、そんな事で謝らなきゃならないのよ!?単なる噂話でしょ!?あんた馬鹿なんじゃないの!?•••痛い!離してよ!」
警備の2人が、ギリ、とグリーズの手首を掴み、後ろに回した。暴れないようにだ。
「•••グリーズはずっと、私に意地悪な事をしてきたよね。服は汚れの目立たない灰色ばかり。勝手にやりやすいように、私の事を決めていって。ちょっとでも面倒かければ、面倒臭い、何も1人で出来ない半端者、って蔑んで。それも嫌だったけど。」
「竜樹様達と一緒にいて、ざっくばらんに、ワイワイと、仲間にしてくれて、その中でも「自分の気持ち」を、大事にされてわかった。」
「目が良く見えないからって、意地悪されるのが、そっちの方が、普通じゃないんだって。」
ふる、ふる、と拳が震える。
「竜樹様の顔がどんなか、なんて、私は見えないから、知らないと思っているでしょう。でも、どんな顔か、私は知ってる。ちゃんと触らせてくれたんだ。彫りの深い顔じゃなくて、あっさりしてて、目は小さくて。口は笑ってる。」
カッコいい顔かどうか、なんて分からないけど。
「私にだって分かる。竜樹様は、とっても優しいお顔。」
「見た事もないグリーズが、貶めるような顔じゃない!とっても良いお顔なんだ!」
「ピティエ•••。」
ジェネルーが、さす、さす、と背中をさすると、震えるピティエの激情が伝わってくる。
「竜樹様が、弱い者を集めて優しくして下さるのは、何故かなんて、私は知らない。けど、でも知ってる事もある。赤ちゃんに夜、お乳をあげるために、何度も起きて、夜泣きをあやして、オムツを替えて。子供達に美味しいご飯を作ったり、遊ばせたり、金策したり。自分をチヤホヤして欲しいからなんかじゃ、絶対にできない事だ!実際に誰も竜樹様をチヤホヤなんか、してないよ、皆、気安くて、安心して、仲が良くて!私はグリーズより竜樹様の事、知ってる!グリーズが間違ってるって、絶対に言える!」
「だから何なのよ!やっぱりアンタもおかしいわよ!稼いだかと思えば得にもならない事ばっかりやって、馬鹿じゃないの!?信じらんない!ちょっと、痛いってば!」
身を捩り暴れる。その度に拘束が強まる。
「•••得か損か、お金の事ばっかり言うのは、お金の力じゃなければ、大事にされないからだ。グリーズは、本当には、誰にも大事にされてないんだ!!」
ピティエが、こんなに腹の底から怒りを顕にした事はない。
そうして、どこか痛い、認められない、本当の事を言われた人ほど。
くわっ、と口をかっぴらき。
は、は、は。
言葉が出ない。
な、な、な。何ですってぇぇぇ!!??
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