王子様を放送します

竹 美津

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本編

最高の布陣で臨んだ試合は

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ブラインドサッカーをやるのに、コートにサイドフェンスを立てなければならない。サイドをニリヤの身長ほど、1メートル位の板に囲われた中でプレーするのである。
体育館だが、魔道具で一瞬にして短い芝生の生えた床になり、床を踏む音で競技の邪魔をしないようにもする。

スタッフが準備の間中、今日の吟遊詩人が一節聞かせてくれる。女性で、ウィンと言う。今日の戦いに相応しい名前である。
そして選曲も、さあ堂々と、戦いの海に乗り出そう、夜明けを目指して!と勇ましい。バンドの概念を竜樹が教えたので、それらしくバックでギター代わりのリュートと、ドラムと、ピアノとが、ジジャーン!タッタカタ、ポロリンと空間を揺らす。
伸びる声、高音が最後の音を、すっ、と体育館の中、響きに余韻を持たせて消えていく。

パチパチパチパチ!拍手が鳴って、ペコリとお辞儀をしたウィンは、さあ、お次は司会の方々に!と笑顔ではけた。ドラムとリュートとピアノも、スタッフの侍従さんに台ごと運ばれて仕舞われた。

「さて、予定を大幅に変えて、後半に予定されていたブラインドサッカー。チーム竜樹と、チームフードゥルの騎士達の対戦ですが、皆さんブラインドサッカーって、聞いたことないですよね?」
アルトがパージュに問いかける形で話を進める。

「恥ずかしながら私も、この球技大会で初めて、ブラインドサッカーの名前を聞きました。」
パージュが落ち着いた声で応える。

「少し説明を致しますね。ブラインドサッカーとは、視力に障がいがある方達と、見えている晴眼者とが、協力して戦う競技なんです。4人の、フィールドで戦う選手達は、アイマスクをして完全に見えない状態にします。ボールには金属が入っていて、転がると音がします。その音を頼りに、足で蹴ってボールを運び、相手方の守るゴールにボールが入れられれば、点が入ります。接触して転倒すると危ないので、アイマスクは緩衝材が入って頭を守っていますし、ボールを持った選手に向かって行く時は、ボイ!と声を出さなければなりません。」

「おお、難しそうですね?」
「音や声、気配。視力以外の感覚を鋭くさせて、戦う種目なんですよ。」
ニコニコ、とパージュさんが説明を続ける。

「ゴール前で、相手方の攻撃、来た球を弾かなければならないゴールキーパは、晴眼者か弱視の選手。ゴールキーパーは、手を使ってもいいのです。また守りの時に、選手達に指示も出します。フィールドに出るのはその5人。」
「フードゥルの騎士達、ちょうどその人数ですね。」
「ちょうど良いですね!」

「それと、声で助ける、ガイドという役割の人が1人います。晴眼者で、相手側のゴール裏にいて、そう、ゴールしようと攻め込む時に、色々な情報を味方に指示します。相手の位置、味方の位置、ゴールまでどのくらい距離があるか、シュートできるか。また、晴眼者の監督もいて、こちらはサイドフェンスの外側、味方側に立って、真ん中の位置を知らせると共に、フィールド中頃の攻めたり守ったりと、全体的な指示を出します。」
「覚えられるかな。」
「子供達でもできるので、大丈夫。習うより慣れろですよ。この競技では、音が重要です。フィールド付近の音以外は、遮断する魔道具が使われます。観客席で音を出しても大丈夫ですが、しかし、真剣に戦う者達の音を聞くことも醍醐味なので、どうぞタオルを存分に振って、静かに応援してください。ゴールした時に、音は、一定の時間開放されます。その時は、盛大に拍手喝采!して下さい!選手達にも伝わりますよ!」

「精鋭の子供達がフィールドに入り、準備を始めましたね。目にアイパッチを貼っています。その上からアイマスクを。フードゥルの騎士達に、やり方を見せてるんですね?」

フィールドに入る選手は、ピティエ、プレイヤード、アミューズ、ジェムの4人。負けるわけがない布陣だ。フードゥルの騎士達が、本当に目を隠すのか?と疑っているので、率先して目を隠し始めた。
竜樹チームは、紺色のビブス、番号の書かれたタンクトップ型のゼッケンを被って着た。フードゥルの騎士達チームは朱色である。どちらを応援するか、わかりやすい。

抗議してきたフードゥルの騎士達だけだと、ガイドと監督が足りないので、竜樹はカルネ王太子を呼んだ。
呼ばれてカルネ王太子は、済まなそうに、ガックリとして。

「竜樹様、本当に、もう、本当に•••。」

「いえいえ、カルネ王太子殿下、心中お察ししますよ。ですが協力して、この場を乗り切りましょう!私たちの目指す所は一緒ですから!」
ニコッとショボショボ目で笑う竜樹、悪い顔を解いて。癒される、この確かに派手ではない、しかし人の良さそうな、お顔。とカルネ王太子はお助け好感度100%を感じ、瞼とお腹に手を当てた。

「まず監督はカルネ王太子殿下がやってください。競技は初めてでも、指示を出すのに慣れてらっしゃるだろうから。あと、ガイドに、フードゥル側から、誰か一人お願いします。真剣に戦いましょう!その方が、騎士達も納得します。平和の球技大会です。その志を、無にする事なく、意地でも丸く収めてやりましょうよ!大人の力を見せてやりましょう!絶対こちらの精鋭チームは負けませんから、大丈夫ですよ。」
カルネ王太子の背中をトントン叩く。

「はい、はい。乗り切りましょう、やらせて下さい!妹達に甘くない、私直属のまともな騎士達の中から、ガイドを1人、選びます!」
塩垂れていた表情のカルネ王太子だったが、キリリ!と顔を引き締めて。

姉妹王女の横暴を止めるどころか、加担したアイツらは、かなり叱責して、本国に帰らせる所だったのだ。しかし、飛びトカゲの都合がつかなくて、少し留めておかれた。元凶は王女達だったが、ここまでゆるゆるに周りが甘かったとは思いもせず、高位貴族の息子達だし、また騎士達もカルネ王太子の前では、仕方なく従った風を装っていたので、排斥が甘かった。
甘い、甘い、甘すぎる!
カルネ王太子は、帰国したら、いや、今現在から、ビシリと鞭を入れることを決意した。

竜樹チームの。
ゴールキーパーは、ロシェ。
ガイドは、ネクター。
そして監督は、満面の笑みのオランネージュである。

「勝って当たり前、そして負けたら竜樹に申し訳が立たない!それに戻されて甘くされた王女様達と、これからお国の事をやっていくのが、ちょう面倒だし!パシフィストの国のためにも、本気を出して、絶対勝つぞ、おー!」
「「「おー!!」」」

本音ダダ漏れのオランネージュに、人質から開放されたスーリールが寄っていき。
「オランネージュ殿下!皆さん!頑張って下さい!」
「スーリール!災難だったね、無事で良かった!リポートこれからも、頼むよ!」
はい!とニコニコ、ニッコリのスーリールである。


「•••機嫌直してよ、ニリヤ~。」

むん。ぷん。
ニリヤはむっとして、竜樹のなでなでに、チラリと目を流して、ぷむ、とほっぺたを膨らませた。

「ぼくも、何か、したかった。おてつだい、できる!」
「うう~ん、出してあげたいのは、やまやまなんだけど、さぁ~。」

あれ以上の布陣はない。最高の選手で立ち向かいたいじゃないか、万が一もある、いや、ない、けど、でもな。

「う~ん。じゃあ、相手が全くダメそうだったら、後半、出てみる?でも、約束だよ、相手がそこそこいい点取りそうだったら、どうあっても、変えてあげられない。お国の困りごとが関わってるから、これは、外せないんだ。」
「!ほんと?ししょう!やくそく、する!ちょっとで、いいの。すこしの、おてつだいなの!いいこ、するから!」
パッ!と振り返って、ニコニコと竜樹の膝に乗り上げるニリヤ。監督のオランネージュに、インカムでスーリールに伝言を頼む。オランネージュからは、大きなマル!で返事が来た。

「よし!それじゃ、フィールドの側で待ってよう!ラフィネさん、子供達をお願いします!タカラもお願いね!皆、楽しんでね!」
「「「は~い!」」」
「エクレとシエルは、おとなしくしていること!余分な事したら、多分、カルネ王太子殿下が血を吐くくらい傷むからね!!あと、脅しじゃなくてお国との関係がどうなるかわかりません。責任とれないだろ?大人になるんだろ?自重する事!」
「「•••はぁ~い。」」
しょんもり、と肩をすくめる姉妹元王女に、ニリヤと同じ位の、私たちできる!なんだけど、わかってるのかなぁ?と竜樹は体育館の天井、上へ視線を投げ、ふーっとため息を吐いた。


フードゥルの騎士達は、腕組みをし般若のような顔のカルネ王太子に、スパッと刺された。まあ見えていないんだが。

「いいか。お前たちのした事は、妹達のやった事と同じ、この国との国交を危うくする重い罪だ!自分達が甘々としているから、妹にも甘々できるのだな!勝負をしてもらえるのは、竜樹様の温情、勝って妹達を連れ帰る事になったら、お前たちに平民となってもらい、妹達も平民とし、一緒に暮らすといい!それでもお前たちには望みの事であろう、そんなに好きな妹達と一緒にいられるのだからな!負けたら負けたで、恥をかき母国に帰り、お前達の親から今後の身の振り方を教えてもらえ!我が騎士団には、私の意思に反して自分の感情や利のみで動く者はいらん!どんな高位の貴族出身だからといっても、見逃されない罪はある!竜樹様には、本気でかかって来いと言われている。私は真剣に勝負する。それが礼儀だからだ!お前たちも騎士の端くれなら、精々真剣に戦え!」

勝つも負けるも闇よ。
しかし、騎士達はめげなかった。
「私たちが平民になろうとも、きっと国に帰れば王女殿下達は、他の守護をする者達に、庇ってもらえます!」
「それなら、連れ帰り、あんなギフトなどに大きな口を叩かせないのが騎士道!」
「私たちは王女様達の為ならば•••!」

推しを助ける(つもりで皆を窮地に陥らせている)、妄想のカッコいい自分に酔ってるんじゃないよ。ピヨピヨ仲間め!

竜樹だったら、そう言うかもしれない。

それにしても。
騎士達は思う。
見えない、って、すごく、こう。
心もとないな?
若干の不安に、冷や汗がたらり。
しかし、自分達は騎士なのだから。剣の技だって、そう苦もなく習得できた、優れた人間なのだから。
子供達や、視力に障がいのある者達など、あのヒョロっこい奴に、小さい者達に、流石に負ける事はないだろうと。

「それでは、試合を始めます。笛が鳴ったら開始ですよ。前半3分の1刻、後半も3分の1刻。ハーフタイム、間の休憩は6分の1刻です。」

チャリチャリチャリリン!

ボールが音を立てて置かれる。

ピィーッ!

チャリチャリリリン!

ザッ!
プレイヤードがボールを追う。ドリブル。
竜樹チームのフィールドの4人が、ザザッと散らばりながら相手ゴールへ。
オランネージュが、いいよ!そのまま、まっすぐプレイヤード!と指示を出す。
ネクターが、プレイヤード、相手いない!キーパーあと3歩!シュート!と叫ぶ。

バシィィン!!

ゴールの右端、プレイヤードのシュートは突き刺さり、ゴールした。

フードゥルの騎士達チームは、まだ真ん中辺りで、ウゴウゴ取り残されて。
全くプレイヤード達に着いて行けなかった。
唯一目が見えるゴールキーパーは、反応したが、追いきれなかった。

ワァァァァァア!!
拍手と歓声が。
あんな小さな身体で。
目も見えなくて。
ガタイのいい騎士達を、さっと振り抜けて。
スルスルとゴールを決めた!!

紺色のタオルが観客席でクルクルブンブン舞う。
その中には、応援に来ていたプレイヤードの父、ルフレ公爵当主アルタイルの姿も。必死で紺色のタオルをぶん回し、普段の落ち着いた様子をかなぐり捨てて、プレイヤード!やった!と叫んだ。

ピティエの一家も来ていて、特に兄のジェネルーが興奮してグワッと立ち上がり、慌ただしく座って、タオルを目にやり咽び泣いた。まだ、ピティエは走っただけなのに、である。

しかし、鮮やか!
観客席の者達は、音を頼りにあそこまで動ける、魅せる竜樹チームに、惚れ惚れした。
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