王子様を放送します

竹 美津

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本編

寝込みを襲うはずが

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「明日は球技大会だから、早く寝て元気満々にしとこ!」
「「「は~い!」」」

寮で夕飯も食べ終わり、お風呂に入って歯も磨いて浄化もして。皆して交流室に布団を敷き、わーっ!とその上でゴロゴロ。
竜樹はツバメを、侍女シャンテさんから受け取って。は~いツバメも寝るから、暴れないで寝るんだよ~危ないからね~ と声をかけた。皆の真ん中に寝転ぶと、よいよい、と、小さいおててをアグアグッと口に入れるツバメをおやすみに促す。

ラフィネが灯りをすうっと落とす。目が馴染めば、見えてくる薄暗闇の世界。コロコロしていた子供達も、静かになり、す、す、すー、スヤァ•••と眠りの国へ。



それから二刻程も経っただろうか。
妹シエルは、自分の部屋で、ベットの上、悶々としていた。

子供と一緒の就寝時間なんて、そんな早く眠れないに決まっている。子供達は目一杯働いて遊んで、勉強もして、と、疲れて健康に眠れるが、妹シエルは子供達と意識的に遊ばないようにしているので、それほど疲れもせず。
毎晩眠るまで、その日にあった屈辱的な出来事を反芻する時間になっている。

姉エクレは、子供達と一緒になって遊んでいる。毎日、良く眠れているらしい。それも面白くない。
ずっとシエルの我儘に便乗して、うまいことやってきた癖に。
妹シエルを、抜けた美人と称する姉の嫉妬は、分かっていた。私の方が美人なのだから、それくらいは仕方ない、許してあげる。自分にとっても思い通りになる事が多かったし。

上から目線で、そんな事を思っていたのだが、姉がとりなしてくれないと、我儘が本当に、ただの我儘になり、呆れられ、相手にされないのだ。甘えてもダメ、怒ってもダメ。
この美貌が、微塵も通用しない。

絶対、眉間に足跡があるせいだ。

妹シエルは、自分を正当化して、腹を立てる事しかできなかった。自分が何もできない未熟者だと、ただのピヨピヨだと、認めてしまえば、恐ろしい事になる。どうやって生きていけばいいか、分からなくなる。
弱い自分を守る為の、偽りのプライド。
一旦自分の価値観を壊して、今の自分を素直に認めてしまえば、姉エクレのように穏やかになれるのに。自分のちっぽけさを知り、成長もできるのに。


(どうしてくれよう•••悔しい!ギフトを手に入れさえすれば•••そう、そうだわ。せっかく同じ屋根の下で暮らしているんだもの、既成事実ってやつよ!)

ガバリ!起き上がって、子供達にも寝巻き姿は見られてしまっているし、このまま、しどけない姿で、寝込みを襲おう!最低でも一緒の布団で寝てしまえば、王女と同衾したとして、責任を負わせる事ができよう。

いそいそと起き出し、そーっとドアを開ける。
廊下に出て。
キィー。
隣の部屋から丁度出てきた人物。はた、と目が合う。
姉のエクレだった。

「あら、シエル、どうしたの?」
「お、お姉様こそ、こんな時間に、何よ!」

(まさか、エクレ姉様まで寝入りを襲いに•••まさか、まさか!負けないわよ!)
むん、と口を尖らせる。

「私は子供達の見回りよ。ちゃんと寝ているか、布団がお腹に掛かっているか、夜にラフィネさんが見回っているっていうから、一緒に行ってやり方を教わろうと思って。」
「へ、へえー。」

(ラフィネ、さん、ですって!ただの平民に、お姉様も落ちたわね!)
ふふん、と勝った気分で一緒に交流室へ行く。
もう廊下に出た時点で分かってはいたが、赤ん坊の泣き声が、近づけば近づく程、大きくなる。

交流室は、薄暗い。
その真ん中にいるはずの竜樹は、ツバメを抱っこしたまま、よい、よい、よいよ~、とあやして、子供達の布団の周りを静かに回っていた。

うるさいなー。早く泣き止ませればいいのに。とシエルは「オムツかお乳かなんじゃ」シィーッ。
静かに!とジェスチャーで厳しく咎められ、はたまたこれも、面白くない。

姉エクレは、ラフィネに従って子供達を一人一人、布や毛布でお腹をくるんでやり、健康具合などをチェックしている。
密やかな、月の光、夜。

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