王子様を放送します

竹 美津

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本編

意見交換会、紛糾のたね

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「王様から、一言、意見交換会開催のご挨拶がございます。」

宰相のイケオジ、ホロウが、マイクのボタンをカチッと押して、拡声しながら仕切った。
しん、とした、それでいて熱気溢れる会場内に、王様の声が響く。

「皆、本日は集まってくれてありがとう。」

ふにゃ、うあぁぁぁ~ん!

赤ちゃん、泣いた。

子供達も、あかちゃんないてる~、とか言って、シー!なんてされてる。
子供連れてきてね、と言ったのだから、そりゃあるよね、こんな事。泣いている赤ちゃんの親は、必死で泣き止ませようと、抱き上げてよいよいしている。

「ふっふふ。元気な子供達だ。泣いていても良い良い、今日は子供達が主役だ。『ゆるい自由な雰囲気で』が、ギフトの御方、竜樹殿のお好みである。粗相は咎めないから、安心して参加しておくれ。」

王様の言葉に、皆、ホッとしている。
小さな子供達に、長時間、お利口にしててね、というより、現実的だろう。目指すは子供番組のコンサートで、観ている子供達が一緒にお歌を歌ったり、座席で踊ったりする、あの雰囲気だ。

「さて、まずはこちらの画面を見て貰いたい。」

指し示す頭上、王様の言葉が、上を指す王様の映像と共に、スクリーンに次々と文字になって流れている。

はっ、と、竜樹の直筆のお誘いによって連れてこられた、聴覚に障害がある者達が目を見張った。
王様の、お話が、私達でも読めるんだーーー。

「こちらに、今日の発言の全てが文字となって流れるようにした。魔道具による文字放送のテストにもなっている。まだ少し、変に変換される事があるが、許されよ。後ほど、書いた文字が音声になって出てくる魔道具も配る。聴覚に障害のある者たちも、安心して参加してもらいたい。」
おおお、そんな魔道具が?家にも欲しいな、などと感嘆の声が漏れ聞こえる。うんうん、と王様は頷いて。

「後ほど魔道具の詳しい説明もあろう。それでは初めて開催する、意見交換会というものを、ギフトの御方様の主導で、私達は存分に楽しむ事にしようではないか。ここでは、男性、女性、大人、子供、そして身分、障がいのあるなしに関わらず、意見を活発に言う事が出来る。皆が明日の為に試行錯誤できるのだ。大変喜ばしい日である。私と王妃も、楽しみにして参った。テレビの教育番組や、新しくできるラジオ番組、作りたい教科書の事。建設的な意見を待っている。それからーーー。」
王様が一つ、呼吸をして、目を瞑り。
そしてパチッと開いて、真っ直ぐに、ゆっくり話し出す。

「教科書が出来、人員の準備をして。来年の春から、この国の全ての子供達に、読み書き計算を教会で教える、義務教育を行う事に決めた。」

義務教育、の所で、皆が驚き、さわわっ、と会場に声ならぬ吐息がさわめいたのが、竜樹にも分かった。

「市井に埋もれた才能を発掘すると共に、国民皆の生活の、全体的な底上げに、寄与する事になると思う。国民の知識が上がり、情報が素早く皆に行き渡り、それぞれが協力し工夫していく事で、皆の領地の発展も望めよう。じわりじわりと効果が現れるのを、楽しみに、子供達を育てようではないか。ーーーそれでは、皆、今日一日、よろしく頼む。竜樹殿、よろしくお願いする。」

さて、これからが本番だぞ!

宰相ホロウから、「ではギフトの御方様、竜樹様にお話いただきます。」とバトンを渡されて、深呼吸。

王様が、貴賓席の毛氈に下がり、靴を脱いで王妃様と寄り添って、フカフカクッションに座った。

スクリーンの前に立って、竜樹は、ぐるりと会場を見回す。

3王子達は、先程、また後でねー、と口々に言って、会場の前方の真ん中、貴賓席の毛氈に座っている。
王妃様の弟、ヴェリテ国のフレ・ヴェリテ叔父様や、ワイルドウルフ国のアルディ王子も、興味津々、参考にと参加。フカフカクッションにもたれて、寛いでお茶を飲んでいる。
会場左後ろでは、スーリール達ニュース隊。テレビのリポートもあるし、開かれた意見交換会なのだ。
もちろんバラン王兄も、ラジオ番組の話を逃すまいと参加している。婚約者のパージュさんが隣に、にこやかに。
マルサは竜樹の護衛で、スクリーンから見切れて控えている。
その側で、ミランはカメラを持ち、王子様番組用の撮影。
タカラは、ぎゅむ、と口をつぐんで、竜樹よりも緊張している。

ファヴール教皇の近く、会場前方右端の毛氈には、ジェム達や教会の子供達が座る。見本の教育番組を観て、どんな反応を示すか見たいところ。
アミューズも、落ち着いて座り、お茶を飲みながら、教会の視力の弱い子、エピと並んでいる。エピは、光を眩しがるのだが、今日は子供用サングラスをしているから、疲れないだろう。似合うように作ったので、何だか洒落ているのが微笑ましい。

前を向けば、会場満杯に埋まる貴族達。


「皆さん、先程、ご挨拶に回らせていただきました、ギフトの人、畠中竜樹と申します。今日は、進行を、宰相のホロウ様と協力して、私、竜樹が致します。よろしくお願いします。」

胸に手を当て、そっと目線を落として、直る。

「お茶でも飲みながら、聞いて下さい。赤ちゃんのオムツ替えや、子供達が興奮し過ぎてしまったり、ぐずったりした時には、いつでもすぐ側の控えの間を使って大丈夫です。侍女さん達が、誘導してくれますよ。」

会場の壁にぐるりと控える侍女さん達が、すっ、と手を前に組んで、ご挨拶する。

「まずは、今日の予定をお話ししますね。これから、ちょっとだけ、意見を交換する練習を致します。意見を言いたい人は、手を挙げて、指されたら、マイクのボタンを押してから発言する、マイクのボタンは入れっぱなしにしない、などですね。失敗しても良いので、ここで場を温めて、皆が意見を言いやすい雰囲気を、作っていきましょう。緊張しないで、ゆったりといきましょうね。聴覚に障がいがある方には、発言するための魔道具、板に書いた文字が、声になって発されるものを、今、侍女さん達が個々にお渡ししていきます。発言する時は、魔道具をマイクに近づけて下さいね。」

ニコニコと、威圧感の全くない竜樹が、ゆっくりと喋るのに、皆は何となく緩む。さわさわと小声で話したり、リラックスムードだ。

「練習が済んだら、お昼に軽くお食事しながら、教育番組とラジオ番組の、私がいた世界での、見本を皆さんに見て聞いていただきます。今日のお昼は、米粉を使ったパンの、サンドイッチです。小麦粉じゃないので、小麦がダメな人でも、食べられます。味がどんなものか、こちらもお楽しみに。」

小麦粉じゃないの!?と、アレルギーを持った娘を持つお母さんが、さわわ!と興奮した。これは絶対に質問する、はしたなくても構わない、と握り拳で話を聞く。

「その後は、質疑応答を少し。今、教育番組や、ラジオ番組、教科書を作る人員を募集していますが、まずは試しに、就職試験になる、お試し番組作り、教科書作りをしてもらいたいと思っています。それには、幾人かで、グループを作ってもらって、得意な分野を持ち寄って、話し合いながら作り上げる必要がありますね。今日一日では番組や教科書は作れないので、グループを作るところまでやって、就職試験に申し込みまで、を出来たら良いなと思ってます。疑問にはその都度お答えしますよ。」

「申し込みは、1週間ほど期間を設けて受け付けていますから、今日グループが作れなくても、安心して下さい。仲良しグループで申し込むのもいいですが、うまく分担できるように人をスカウトして、チーム作りをするのも良いですよ。地方の方で申し込みしたい時は、テレビ電話で日中は受付係に繋がるようにしておきますから、そちらで申し込みを。一人で作りたい人も、歓迎します。そしてーーー。」

ピン、と人差し指をたてて。
「この就職試験は、テレビで放送します。出来上がったお試し番組も流しますし、審査の様子も放送します。王子達とニュース隊、そして私が、作成中のチームを訪れて、リポートもしますから、皆さん張り切って作って下さい。」

え。テレビに映るの!?
誰かが発した声に、竜樹は答える。
「そうですよ、テレビに映ります。就職したら、放送される番組を担当するのですから、どんどん慣れていきましょう。」

ニココ!と有無を言わせぬ笑顔である。

「さて、話は変わりますが、皆さん、おやつのおせんべい、この茶色いお菓子ですね。食べていただけましたか?食べた人は、手をあげてみて?」

はーい!
元気な子供達と、女性達と、そして男性達も少し、手をあげる。

「はい、では、そこの元気なルテ伯爵家のガトー君。マイクのボタン押してみて。そう、そう。おせんべい、どうだった?」

そばかすの散る、赤髪の、まだまだちみっとした少年を選んで指す。
呼ばれたガトーは、ぽち、とマイクのボタンを押すと、恥ずかしそうに。

「おいしかった•••カリカリして、食べたことない味がした。」

「はい、ありがとうね。そう、食べた事ない味がしたんだね。これね、これもお米で出来てるんだ。皆が気に入って食べたら、お菓子屋さんに出るかもですよ。あと、緑茶と合うよ。」

「へー。ぼく、紅茶にしちゃった。買って食べてみたい、です。」

「気に入ってもらえたら、嬉しいよ。では、マイクのボタンを押してみてね。そうしたら、声が大きくなるの、切れるからね。」

ポッチリ。

「はい、上手にお話できました。こんな風にやり取りしていきますね。では、今日、着ていく服をどうしたら良いか、迷った人、手を上げてみて下さい。」

はーい!
女性の殆どと、男性が少し。
「はい、では、そこの美しいあなた、ルジュ侯爵家のクラシャン嬢。まずはマイクのボタンを押して。魔道具の板に、ペンがついています。取ってみて。試しに板に何か書いてみてください。」
10代後半と思われる、ストレート金髪で色白可憐な、娘さん。聴覚に障がいを持つ、ルジュ侯爵家のクラシャン嬢は、指されて頬を赤らめながら。

『わたし は クラシャン です。美しいと 言ってくれて ありがとう。』

「いえいえ。本当の事ですからね。書いた字を相手に見せて、会話する事もできます。もう一度、喋らせたい時は、話す、と書かれたボタンを。消す時は、消す、と書かれたボタンを押してください。繰り返し使えます。」

『分かりました! かんたん! お話しできて 嬉しいです!』

「こちらこそ、お話できて光栄です!素敵なお洋服ですね。クラシャン嬢に似合っています。」

『ピンクの服にするか 白にするか 迷って 白にしました。』
『淡い 黄色の コサージュが つけたかったから。』

「コサージュ。胸についた、花の飾りですね。なるほど、合ってます。迷ったかいが、ありましたね!」

『ありがとう ございます!』

「はい、お話聞かせてくれて、ありがとうございました。では、マイクのボタンを押して、音声を切ってみて下さい。音声が入ってる時は、ボタンの上のランプが、緑に光っていますから、見分けがつきます。」

ポッチリ。

ギフトの御方様は、私達貴族の名前を、それも子供や、家からあまり出ない聴覚障がいの娘の名前を、何故分かるのだろうか?まさか、会ってもいないのに皆、覚えているってことはあるまいし、事前に打ち合わせしていたのだろうか?

主に男性達が、そんな予想をしている。
種明かしをすれば、スマホの翻訳アプリをかざすと、人の名前が、みょん、と画面に出るのである。神器、すごい。

はい!
と、問いかけもしていないのに、1人の男性が手を上げる。

「はい、オラージュ子爵家のトネール様。」
中肉中背の、壮年の、苦い顔の。いかにも厳しい領主です!なトネールを指せば、野太い声がマイクで拡声される。

「この国の子供全員に、義務教育をとの事ですが、費用はどこから?それに、王様のお言葉を否定するつもりはないが、何も庶民に読み書きを教えずとも、私達貴族が良く勉強し、導いてやれば、下手な知識は必要ないのでは?勘違いして、こちらの言う事を聞かなくなっても困るのだし。」

はいこれきた。
王様の話、めっちゃ否定してる。
まあ、知識がつけば、搾取する領主や、頼り甲斐のない領主を打ち倒して、なんて考えも出るかも。それは、危機感として間違ってはいない。

「費用は国庫から出ます。皆さんが納めた税金からですね。それから、貴族の方々が導けば、というのは、半分合ってます。何故なら、高等教育を受けられるのが、今は、ほぼ貴族の方々だけだからです。それか、裕福な商家の方ですね。これは、国民の知識の底上げをしつつ、貴族の方々により良く導いてもらおうという話でもあります。ただ、優秀で才能のある市井の者に、今までよりも教育の機会を与えてはどうか、とは思いますね。何故ならーーー。」

「私は、つい先日、神の独り言を聞いてしまいまして。」

ゆったり、と間をとって。

『庶民に比べて、貴族は、位が高ければ高いほど婚姻に血が近くて、強い魔法の因子がぶつかり合う影響で、見えなかったり聞こえなかったりする者も多い。』

「ーーーーーと、ね。 貴族の皆さん、責任あるが故に、お相手が誰でも良いって訳にはいかないですよね。それに、こうすれば絶対に障がいが起こらない、なんて神様は言ってません。ただ、事実として、貴族の方々の家に、障がいのある方も多いのでは?決してその方々を貶める訳ではありませんが、今後の選択肢として、高貴で政略的に都合の良い、近い血もあってもいいし、才能ある新しい血を入れても良いんじゃないかな、と私は愚考した次第です。」

は?

ざわっ!!!と会場が揺れた。

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