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本編
サングラスと盲導ウルフ
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竜樹は、意見交換会の招待状を送る時、神様からの隠し障がい者リストを存分に使って、一言直筆で添えた。
例えば、視力の弱いルフレ公爵家長男プレイヤードの場合はこうである。
『当日は、プレイヤード君に会えるのを楽しみにしています。』
ギフトの御方様から、直筆でこうお願いされたら。受け取った方は、一瞬、ギョッとするだろう。そうして思いつくはずだ。テレビに出ていた、車椅子の、パンセ伯爵家のエフォールの事を。竜樹の発案で作られたカラダスキャナーのお陰で、下半身麻痺を治療した、そしてプールに通って段々と歩きはじめたその姿を。
会場の王宮では、竜樹が、ルフレ公爵家長男プレイヤードと、またこちらも視力の弱いアシュランス公爵家のピティエ青年とに、話をしている所だ。
「それでは、ピティエ様も、視力は目の前に出された指の数が、手のひら一つ分くらい近くても、分かるかどうか、という視力なんですね。」
「は、はい。それに、光がとても眩しく感じられるんです。それでも、光を浴びた方が、良いんでしょうか。」
それで、部屋のカーテンを閉めきっていたのだな。
「眩しいのに、無理して光を見ない方が良いですよ。頭痛がしたり、疲れちゃいそうですもんね。ちょうど良い光を浴びられるように、専用のメガネがあると良いですね。」
「専用のメガネ?」
「遮光メガネ、っていう、眩しい光を、ちょうど良く減らしてくれて、その上物のコントラストがくっきり見えて暗くならない、色付きのメガネを、本当は作りたいんですけど、まだサングラスまでしか出来てないんですよ。光を減らすけど、暗く見えてしまうのです。そういうのの開発にも、ご協力いただけたら、嬉しいですね。」
うんうん、とアシュランス公爵家の一同は頷いて、実物を是非見せて欲しいです、と食いついた。
「試作品があるんですが、かけてみられます?」
竜樹の後ろに控えていた侍女さんの、手にしたバスケットの中から、大人用のサングラスが差し出される。
「あ、え、は、はい。」
ピティエがオドオドと返事をしたので、これは了承だな。と竜樹は、失礼します、手を触りますね、と一言、そっとピティエの手を取る。そこに、サングラスを乗せた。ピティエは、もそもそとサングラスを触って確かめると、竜樹に、「ど、どうやって、つければ?」と聞いてきた。見えないのだから、ピティエはメガネを見た事がないのだ。
サングラスのつるを伸ばして、手を取って、そっと両耳にかけてやる。
大きさは、ちょっと大きかったかな、と竜樹は、個人個人での調整の必要を感じた。
「あ、あ、眩しくない!」
ホッとして、喜色のこもった声で、周りを見回して、ピティエは。
「これ、良いです、良いです!いつも眩しくて外に出られなくて、ここに来るまでも、眩しくて、連れてきてもらうのに疲れちゃうな、って思ってたんだけど、これなら!」
うんうん。教会にも何人かいた、目が悪いって報告があった子供達にも、協力を願った甲斐があった!その中に、光が眩しい、疲れちゃう、っていう子がいたのである。
色がついているだけじゃなくて、紫外線をカットするレンズを作るのに、職人と試行錯誤したのだ。紫外線という概念からの出発だったが、女性向けの、日焼けをしなくさせる石の粉、というものがあり、それを特殊な塗料で塗布する、という方法で作ってみた。
とても珍しい、物のみの鑑定の魔法を持っているという人にお金を払って見てもらい、効果は確かめ済みである。
ちなみにこのメガネの開発に、鑑定のできる人はとても興味を持ち、次回も少ない手数料くらいで鑑定するから、持ってきてね、と言われている。
こんなふうに、人の役に立つ鑑定は、鑑定冥利に尽きるのだそうだ。
竜樹はニコリと。
「では、今日はそれをお持ち下さい。帰りにかけて帰りたいでしょう。少し大きいから、後日職人と話し合いながら、ちょうどいいのを作りましょうね。」
「は、はい!ありがとうございます!」
「さんぐらす、かっこ、いい!」
「見た目かっこいいの、重要だよね!」
「大丈夫?重くない?」
3王子の突っ込みに、お、重くないですよ、などと応え。
「サングラスは、普通の人でも眩しさ軽減のためにかけたりできますよ。瞳の色が薄い人には、良かったはず。水が煌めいて魚が見づらい時の釣り用なんてのもあったし、色々に作れるかも。」
アシュランス公爵家の一同、特に兄のジェネルーが、我が家で是非サングラス事業を後押ししましょう、と乗り気であった。
「それで、あの、先程言っていた、白杖や盲導犬というのは、どんなものですか?」
プレイヤードの父、アルタイルも、身を乗り出して竜樹に聞いてくる。
ここで、ササーッと侍女さんが竜樹にタブレットを差し出して。
「具体的には、こちらにある写真、動画や本も参考にしていただきたいんですが。」
と見せながら軽く説明をする。
白杖は、周りの人に、視覚に障がいがあるよ、と分かってもらいつつ、障害物を探りながら歩ける杖。盲導犬は、段差や交差点、階段などを教えたり、障害物を避けて歩いたり、時には穴ぼこや危険があれば指示に従わない、などしてサポートしてくれるパートナーである事。
「まだ盲導犬は育成してないですけど、是非これもやりたくて、そうすれば視力が弱くても、街中や外に歩いていく機会ができますから•••。」
「ええ、ええ。それは良いですね!犬は、よほど利口な犬でなければならないでしょうね。それこそ、ガーディアンウルフくらいに。」
「ガーディアンウルフ?」
プレイヤードの父、アルタイルは、手を少し広げて、嬉しそうに揚々とガーディアンウルフについて教えてくれた。
「我が領地にいる、森の狩人のパートナーとしても繁殖している、人間の友ですよ。野生のものでも人好きで、こちらが害さなければ、歯を剥く事はありません。森で迷子の子供を案内してくる、なんて事もあります。我が領地の旗のシンボルにもなっていますから、ガーディアンウルフを狩ることは、ありません。」
「ふん、ふん。」
「狩のパートナーになれば忠誠心深く、知能は成人した人と同じくらいあると言われています。一旦家族としたものは、守り通すし、大きな獣にも立ち向かっていく力があるのに、絶対に人には牙を向けません。ガーディアンウルフの主人となるには、ちゃんとその個体に、お伺いをたてねばなりません。気に入らないと、パートナーにはなってくれないから、乞い願う時には、こちらも真摯に向き合う必要があります。様々な獣の痕跡を教えてくれて。寿命も100年あまりと、長生きなので、一度パートナーになれば、そうそう離れる事はありません。私にもパートナーのガーディアンウルフがいて、ハンナといいます。とても優しいウルフです。」
「ガーディアンウルフ、盲導犬にならないですかね。」
はた、とアルタイルは手を広げたまま、口を開いて。
考えて。
「そういえば•••ハンナも、プレイヤードが階段で危ない時や、誰かにぶつかりそうな時、自然に身体や前足で誘導したり、していたっけな•••。うん、うん。いけるかも。」
「ハンナみたいなガーディアンウルフが、私についててくれるの?」
プレイヤードは、嬉しそうにアルタイルに顔を向けて笑った。
「私、ガーディアンウルフのパートナーに、なれる?」
「いけません!」
ピシッと否定を叩きつける。プレイヤードの母、トレフル夫人だ。
「どこが良くないですか?お話聞かせてください?」
竜樹はめげずに、にこやかに。
「母様。私、ガーディアンウルフとパートナーになりたいです!」
「ダメよ!獣と生活するなんて、もうたくさん!これ以上増やさないでちょうだい!まだ小さいフィーユだっているのよ!噛まれたらどうするの!それに、白い杖?皆に目が見えないって丸わかりでしょう?そうして暮らすなんて、恥晒しよ!生活には困らないのだから、お部屋にいれば良いじゃない!」
グッ、とアルタイルは黙って目線を下げた。
でも、プレイヤードは、俯かなかった。
「じゃあ、私だけ離れに住みます。白い杖を使う時は、名前を名乗りません。それでもダメなら、家を出ます。母様と縁を切ります。竜樹様、私は、らじおの番組を作って、暮らしていく事、できますか?」
おいおいおい。
まてまて。
「•••!!好きになさい!!私はあなたの事、もう知らないから!!」
プレイヤードの妹のフィーユを抱きしめて、トレフル夫人はそっぽを向いた。
「まあまあ。まあまあ。ガーディアンウルフが本当に盲導犬、盲導ウルフに向くかもまだ分からないのに、決めてしまう事はないでしょう?トレフル夫人も、これまで、とてもプレイヤード君の事では、胸を痛めてらしたのですよね?自分を責めたりなさった?思い通りにならない事は、ままありますよね?」
そっぽを向いたまま、じわり、とトレフル夫人の瞳が涙ぐむ。
「わ、私は、ただ、大人しく暮らしていてくれたらと•••。」
うんうん。
「トレフル夫人。プレイヤード君は、こんなにも生き生きとして、元気に溢れています。それを抑えて、ひっそり生きていけ、ていうのは、多分、彼の命を殺す事なんです。トレフル夫人が、プレイヤード君の事で、逆に自分の気持ちが抑え付けられているように、お二人は、家族でも、こうしていきたい!って事が、違うんですね。それは別に、誰のせいでもなくて、ただそれだけですよ。」
「それではどうすべきだと、おっしゃるの!?」
それは。
「プレイヤード君。一気に縁を切る、なんて言わないで、少し離れて冷静になってみる?まだ君は子供で、お家に守られながら巣立つ準備をしてもいい年頃だよ。そうして周りに手伝ってもらいながら、力をつけていって、母様にやっていけるよ、って認めてもらおう?」
「少し離れる?離れに住むだけじゃなくて?」
王宮の、新聞売りの子のいる寮に、泊まりにおいで。
「そこには、アミューズ、っていう、やっぱり視力の弱い子がいるから。そこで彼は、新聞売りの仕事をちゃんとしているよ。遊んだりもできるし、家の中を知ってるだけで巣立つより、いいでしょう。なんなら、ピティエ様も来ます?」
「いいですね。ピティエ、行っておいで?」
え、ええ!?
とあわあわしているピティエに、兄のジェネルーがどしどしと勧める。
「ピティエ、友達いないだろ。歳は離れているが、同じ視力の弱さを抱えた子達と、遊んでおいで。ダメならすぐ帰ってきても良いから。」
「じゃあ、そういう事で。」
竜樹が締めて、それでは着替えなどの荷物の支度をして、明日午後にはまた王宮にいらっしゃい、となった。
「寮で、3人で、ラジオ番組の就職試験の、お試しラジオ番組作りをすると良いですよ。」
「「就職試験!?」」
そう。お試しもなしに、実際の番組を作らせられません。
「さて、お話はまだしたいところですが、段々時間も過ぎてきました。また意見交換会が終わったら、細部をお話致しましょう。ラジオの事も意見交換会で話し合いますから、分からない事はどんどん聞いて下さいね。」
ではではまた。
竜樹が胸に手を当てると、アシュランス公爵家とルフレ公爵家の面々は、ある者達は希望をもち、ある者達は穏やかに微笑んで、ある者はしょんぼりと不安に、そしてある者は硬くしこった気持ちで。それぞれ複雑に思いを噛み締めて目礼した。
「まだまだ意見交換会、始まったばかりだね。」
「どの家も、色々ございますね。」
タカラが花に埋もれて、それを取りに来た侍女さんに渡して、ふーと息をした。
「今日は、ボン様にも会っておかなきゃね。」
美術館の事と、あと、肖像画工房の事と。
「新設の、アニメーション作成会社の候補生達に、挨拶しなきゃ!」
例えば、視力の弱いルフレ公爵家長男プレイヤードの場合はこうである。
『当日は、プレイヤード君に会えるのを楽しみにしています。』
ギフトの御方様から、直筆でこうお願いされたら。受け取った方は、一瞬、ギョッとするだろう。そうして思いつくはずだ。テレビに出ていた、車椅子の、パンセ伯爵家のエフォールの事を。竜樹の発案で作られたカラダスキャナーのお陰で、下半身麻痺を治療した、そしてプールに通って段々と歩きはじめたその姿を。
会場の王宮では、竜樹が、ルフレ公爵家長男プレイヤードと、またこちらも視力の弱いアシュランス公爵家のピティエ青年とに、話をしている所だ。
「それでは、ピティエ様も、視力は目の前に出された指の数が、手のひら一つ分くらい近くても、分かるかどうか、という視力なんですね。」
「は、はい。それに、光がとても眩しく感じられるんです。それでも、光を浴びた方が、良いんでしょうか。」
それで、部屋のカーテンを閉めきっていたのだな。
「眩しいのに、無理して光を見ない方が良いですよ。頭痛がしたり、疲れちゃいそうですもんね。ちょうど良い光を浴びられるように、専用のメガネがあると良いですね。」
「専用のメガネ?」
「遮光メガネ、っていう、眩しい光を、ちょうど良く減らしてくれて、その上物のコントラストがくっきり見えて暗くならない、色付きのメガネを、本当は作りたいんですけど、まだサングラスまでしか出来てないんですよ。光を減らすけど、暗く見えてしまうのです。そういうのの開発にも、ご協力いただけたら、嬉しいですね。」
うんうん、とアシュランス公爵家の一同は頷いて、実物を是非見せて欲しいです、と食いついた。
「試作品があるんですが、かけてみられます?」
竜樹の後ろに控えていた侍女さんの、手にしたバスケットの中から、大人用のサングラスが差し出される。
「あ、え、は、はい。」
ピティエがオドオドと返事をしたので、これは了承だな。と竜樹は、失礼します、手を触りますね、と一言、そっとピティエの手を取る。そこに、サングラスを乗せた。ピティエは、もそもそとサングラスを触って確かめると、竜樹に、「ど、どうやって、つければ?」と聞いてきた。見えないのだから、ピティエはメガネを見た事がないのだ。
サングラスのつるを伸ばして、手を取って、そっと両耳にかけてやる。
大きさは、ちょっと大きかったかな、と竜樹は、個人個人での調整の必要を感じた。
「あ、あ、眩しくない!」
ホッとして、喜色のこもった声で、周りを見回して、ピティエは。
「これ、良いです、良いです!いつも眩しくて外に出られなくて、ここに来るまでも、眩しくて、連れてきてもらうのに疲れちゃうな、って思ってたんだけど、これなら!」
うんうん。教会にも何人かいた、目が悪いって報告があった子供達にも、協力を願った甲斐があった!その中に、光が眩しい、疲れちゃう、っていう子がいたのである。
色がついているだけじゃなくて、紫外線をカットするレンズを作るのに、職人と試行錯誤したのだ。紫外線という概念からの出発だったが、女性向けの、日焼けをしなくさせる石の粉、というものがあり、それを特殊な塗料で塗布する、という方法で作ってみた。
とても珍しい、物のみの鑑定の魔法を持っているという人にお金を払って見てもらい、効果は確かめ済みである。
ちなみにこのメガネの開発に、鑑定のできる人はとても興味を持ち、次回も少ない手数料くらいで鑑定するから、持ってきてね、と言われている。
こんなふうに、人の役に立つ鑑定は、鑑定冥利に尽きるのだそうだ。
竜樹はニコリと。
「では、今日はそれをお持ち下さい。帰りにかけて帰りたいでしょう。少し大きいから、後日職人と話し合いながら、ちょうどいいのを作りましょうね。」
「は、はい!ありがとうございます!」
「さんぐらす、かっこ、いい!」
「見た目かっこいいの、重要だよね!」
「大丈夫?重くない?」
3王子の突っ込みに、お、重くないですよ、などと応え。
「サングラスは、普通の人でも眩しさ軽減のためにかけたりできますよ。瞳の色が薄い人には、良かったはず。水が煌めいて魚が見づらい時の釣り用なんてのもあったし、色々に作れるかも。」
アシュランス公爵家の一同、特に兄のジェネルーが、我が家で是非サングラス事業を後押ししましょう、と乗り気であった。
「それで、あの、先程言っていた、白杖や盲導犬というのは、どんなものですか?」
プレイヤードの父、アルタイルも、身を乗り出して竜樹に聞いてくる。
ここで、ササーッと侍女さんが竜樹にタブレットを差し出して。
「具体的には、こちらにある写真、動画や本も参考にしていただきたいんですが。」
と見せながら軽く説明をする。
白杖は、周りの人に、視覚に障がいがあるよ、と分かってもらいつつ、障害物を探りながら歩ける杖。盲導犬は、段差や交差点、階段などを教えたり、障害物を避けて歩いたり、時には穴ぼこや危険があれば指示に従わない、などしてサポートしてくれるパートナーである事。
「まだ盲導犬は育成してないですけど、是非これもやりたくて、そうすれば視力が弱くても、街中や外に歩いていく機会ができますから•••。」
「ええ、ええ。それは良いですね!犬は、よほど利口な犬でなければならないでしょうね。それこそ、ガーディアンウルフくらいに。」
「ガーディアンウルフ?」
プレイヤードの父、アルタイルは、手を少し広げて、嬉しそうに揚々とガーディアンウルフについて教えてくれた。
「我が領地にいる、森の狩人のパートナーとしても繁殖している、人間の友ですよ。野生のものでも人好きで、こちらが害さなければ、歯を剥く事はありません。森で迷子の子供を案内してくる、なんて事もあります。我が領地の旗のシンボルにもなっていますから、ガーディアンウルフを狩ることは、ありません。」
「ふん、ふん。」
「狩のパートナーになれば忠誠心深く、知能は成人した人と同じくらいあると言われています。一旦家族としたものは、守り通すし、大きな獣にも立ち向かっていく力があるのに、絶対に人には牙を向けません。ガーディアンウルフの主人となるには、ちゃんとその個体に、お伺いをたてねばなりません。気に入らないと、パートナーにはなってくれないから、乞い願う時には、こちらも真摯に向き合う必要があります。様々な獣の痕跡を教えてくれて。寿命も100年あまりと、長生きなので、一度パートナーになれば、そうそう離れる事はありません。私にもパートナーのガーディアンウルフがいて、ハンナといいます。とても優しいウルフです。」
「ガーディアンウルフ、盲導犬にならないですかね。」
はた、とアルタイルは手を広げたまま、口を開いて。
考えて。
「そういえば•••ハンナも、プレイヤードが階段で危ない時や、誰かにぶつかりそうな時、自然に身体や前足で誘導したり、していたっけな•••。うん、うん。いけるかも。」
「ハンナみたいなガーディアンウルフが、私についててくれるの?」
プレイヤードは、嬉しそうにアルタイルに顔を向けて笑った。
「私、ガーディアンウルフのパートナーに、なれる?」
「いけません!」
ピシッと否定を叩きつける。プレイヤードの母、トレフル夫人だ。
「どこが良くないですか?お話聞かせてください?」
竜樹はめげずに、にこやかに。
「母様。私、ガーディアンウルフとパートナーになりたいです!」
「ダメよ!獣と生活するなんて、もうたくさん!これ以上増やさないでちょうだい!まだ小さいフィーユだっているのよ!噛まれたらどうするの!それに、白い杖?皆に目が見えないって丸わかりでしょう?そうして暮らすなんて、恥晒しよ!生活には困らないのだから、お部屋にいれば良いじゃない!」
グッ、とアルタイルは黙って目線を下げた。
でも、プレイヤードは、俯かなかった。
「じゃあ、私だけ離れに住みます。白い杖を使う時は、名前を名乗りません。それでもダメなら、家を出ます。母様と縁を切ります。竜樹様、私は、らじおの番組を作って、暮らしていく事、できますか?」
おいおいおい。
まてまて。
「•••!!好きになさい!!私はあなたの事、もう知らないから!!」
プレイヤードの妹のフィーユを抱きしめて、トレフル夫人はそっぽを向いた。
「まあまあ。まあまあ。ガーディアンウルフが本当に盲導犬、盲導ウルフに向くかもまだ分からないのに、決めてしまう事はないでしょう?トレフル夫人も、これまで、とてもプレイヤード君の事では、胸を痛めてらしたのですよね?自分を責めたりなさった?思い通りにならない事は、ままありますよね?」
そっぽを向いたまま、じわり、とトレフル夫人の瞳が涙ぐむ。
「わ、私は、ただ、大人しく暮らしていてくれたらと•••。」
うんうん。
「トレフル夫人。プレイヤード君は、こんなにも生き生きとして、元気に溢れています。それを抑えて、ひっそり生きていけ、ていうのは、多分、彼の命を殺す事なんです。トレフル夫人が、プレイヤード君の事で、逆に自分の気持ちが抑え付けられているように、お二人は、家族でも、こうしていきたい!って事が、違うんですね。それは別に、誰のせいでもなくて、ただそれだけですよ。」
「それではどうすべきだと、おっしゃるの!?」
それは。
「プレイヤード君。一気に縁を切る、なんて言わないで、少し離れて冷静になってみる?まだ君は子供で、お家に守られながら巣立つ準備をしてもいい年頃だよ。そうして周りに手伝ってもらいながら、力をつけていって、母様にやっていけるよ、って認めてもらおう?」
「少し離れる?離れに住むだけじゃなくて?」
王宮の、新聞売りの子のいる寮に、泊まりにおいで。
「そこには、アミューズ、っていう、やっぱり視力の弱い子がいるから。そこで彼は、新聞売りの仕事をちゃんとしているよ。遊んだりもできるし、家の中を知ってるだけで巣立つより、いいでしょう。なんなら、ピティエ様も来ます?」
「いいですね。ピティエ、行っておいで?」
え、ええ!?
とあわあわしているピティエに、兄のジェネルーがどしどしと勧める。
「ピティエ、友達いないだろ。歳は離れているが、同じ視力の弱さを抱えた子達と、遊んでおいで。ダメならすぐ帰ってきても良いから。」
「じゃあ、そういう事で。」
竜樹が締めて、それでは着替えなどの荷物の支度をして、明日午後にはまた王宮にいらっしゃい、となった。
「寮で、3人で、ラジオ番組の就職試験の、お試しラジオ番組作りをすると良いですよ。」
「「就職試験!?」」
そう。お試しもなしに、実際の番組を作らせられません。
「さて、お話はまだしたいところですが、段々時間も過ぎてきました。また意見交換会が終わったら、細部をお話致しましょう。ラジオの事も意見交換会で話し合いますから、分からない事はどんどん聞いて下さいね。」
ではではまた。
竜樹が胸に手を当てると、アシュランス公爵家とルフレ公爵家の面々は、ある者達は希望をもち、ある者達は穏やかに微笑んで、ある者はしょんぼりと不安に、そしてある者は硬くしこった気持ちで。それぞれ複雑に思いを噛み締めて目礼した。
「まだまだ意見交換会、始まったばかりだね。」
「どの家も、色々ございますね。」
タカラが花に埋もれて、それを取りに来た侍女さんに渡して、ふーと息をした。
「今日は、ボン様にも会っておかなきゃね。」
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