164 / 518
本編
見えない2人を呼び合わせ
しおりを挟む
「お話中、失礼を承知でお願い致します!ギフトの御方様、今、そちらの、ルフレ公爵家のプレイヤード君の、見えない目を治すお話をしてらっしゃる?」
ルフレ公爵家の陣地(敷かれた毛氈)の隣、これまた貴族一家、壮年の身体の大きな男性が話しかけてきた。
隣の貴族一家は、親だろうか中年の男性と女性に、息子か壮年の男性に、そう、そこまではいかにも貴族らしく姿勢の良い、そして真剣に穏やかに微笑みを浮かべた3人と。
一人だけ、シュンと背中を丸めてふわふわクッションに座る痩せ型の青年。肩より長いストレートの藍色の髪が、俯いた顔にかかって。両手に持つ小さな花が集まって咲く、青紫の紫陽花の花束にも、髪が降りかかっている。
お隣の壮年の男性は、礼をしながら。
「すみません、気が逸ってしまって。というのも、私の弟、ピティエも、生まれながらに視力が弱くて。ギフトの御方様に本日御目通りし、少しでもお願いできればと、希望をもって参った次第です!ルフレ公爵家の皆様、ギフトの御方様にお願い申し上げます!どうか、お話を、一緒に伺う訳にはいきませんか?」
うんうん、と竜樹は頷いた。
聞きたいよね、そういう話。そしてやっぱりこの2人、お願いしてきてくれた!
心の中でホッとする。
そうなのだ。竜樹は企んだ。ルフレ公爵家のプレイヤード君と、お隣のアシュランス公爵家のピティエ青年が、自分にお願いしてきてくれるように、わざと挨拶周りもしたし、隣り合うようにもした。
ピティエ青年の兄、ジェネルーの申し出に、ルフレ公爵家一家は快く頷き、アシュランス公爵家も合同で、竜樹と話をする事になった。
「ピティエ。お花をギフトの御方様に、差し上げて。」
ジェネルーが促すも、しょんぼり、もじもじと。
「あ、あの、あの、この花、良い香りもしないから。ごめんなさい!」
そろそろ、と花束を差し出すピティエの瞳は憂いを帯びて、灰緑色にしょぼしょぼ瞬く。
「いえいえ、綺麗な花ですよ。ピティエ様は、どうしてこの花を選ばれたんですか?」
竜樹が、そっと花を受け取る。
「その、あの。あの、えと。」
「はい、はい。ゆっくり喋って大丈夫ですよ。」
カァ、と顔に朱を上らせて。
「に、匂いがする花、私は苦手で。ご、ごめんなさい、プレイヤード君のこと、貶めてる訳じゃないです!ただ、私が苦手で、だから、匂いのない、それでフワッと、花びらがいっぱいある、花が、触って気持ちいいなと思ったから•••。」
「ほんとだ、おはな、によいしないね。」
「色々なお花があるね!」
「私にも匂わせて~!」
3王子は、スズランと紫陽花を交互にくんかくんかしている。
「2人とも、自分が思う、素敵な花を持ってきてくれたんですね。ありがとうございます。」
竜樹の言葉に、両家ホッとした雰囲気。
「さて、どちらの方も、治るか治らないか、気になる事でしょうから、早速言いますと。」
「「はい。」」
「私も専門家じゃないので、詳しくはないのですが、この世界では、生まれつきの弱視だと、まだ治らない、と思います。カラダスキャナーで見ながら後天的な網膜剥離なんかは治るし、飛蚊症も白内障も治癒の魔法で治るんですが、治癒の魔法って、生まれついての元々あった状態以上には、良くならないようなんです。多分、皆さん、治癒は試されたと思うんですが。」
「「は、はい•••。」」
しょんぼり。皆の眉が下がる。
「視力については、少し調べたんです。新聞売りの子供達の中で、行動が何だか変だな、と思った子がいまして。よくよく見てみると、視力が弱い事が分かって。」
「アミューズよ、ね。あたまいいの。」
「神経衰弱、すごく上手だよね。」
「覚えてるんだよ。読み上げたカードを。」
3王子も知ってる、8才のアミューズの為に、竜樹も視力について勉強したし、子供達も工夫して遊んでいる。
「プレイヤード君。君の目は、どんな風に見えているの?そしてそれは生まれつきなの?」
竜樹の問いかけに。
「はい。光があるのが分かるな、っていうくらいで、はっきり見えないのです。生まれつきです•••。」
「そうなの。よく眠れている?」
「?はい、夜はぐっすりです。朝、光がさしてくるの分かるから、そうすると、寝てられない!って起きます。お散歩するの、好きだから、一日中いっぱい動いて、バタンって寝ます。」
うんうん、いいねいいね。
「お部屋で大人しくして、って言っているのに、出掛けたがるから困っているんです。頬の怪我だって、付き人を待たないでどんどん歩いて、木に引っ掛けて•••。」
母親のトレフルが、苦々しい顔で言う。
「お母さんは、心配しますよね。怪我も痛そうだし。でも、光を朝ちゃんと浴びたり、動く事はいいんですよ。目って、見るだけじゃなくて、睡眠にも関わっているんですって。だから、良く眠れている事は、とっても良い事なんです。」
「私の目、よく見えないけど、眠るのは良くできてるの?」
自分の顔に手をやるプレイヤード。
「そうだよ。見ることはちょっと不得意だけど、良く眠らせてくれる、いいお目目なんだよ。」
そっとプレイヤードの手に、竜樹は手を重ねて。
「ああぁ。だから私は、良く眠れないのかぁ。」
ピティエが、はたと気づいた風で、頭を抱える。
「そうなんだな!ピティエは、どうせ見えないから、って言って、朝も夜も部屋のカーテンを開けずに暗くしたままだし、あまり動かず部屋でじっとしている事が多いものな•••。」
兄のジェネルーが、なるほど、と頷いた。
「それが分かっただけでも、お話できて良かった。ピティエ、まずは朝にはカーテンを開けような。」
「は、はい。ジェネルー兄上。」
むふふ。
竜樹はほくそ笑む。
治せないのに、なぜ2人を呼び合わせたのか、といえば。
「お二人とも。私のいた世界で、視力が弱い人たちが、どんなふうに工夫して生活してるか、知りたくありませんか?」
「「!知りたいです!」」
「うんうん。それとね、お二人にお仕事をお願いしたくて。ラジオ番組を、作ってみない?」
らじお番組???
ルフレ公爵家の陣地(敷かれた毛氈)の隣、これまた貴族一家、壮年の身体の大きな男性が話しかけてきた。
隣の貴族一家は、親だろうか中年の男性と女性に、息子か壮年の男性に、そう、そこまではいかにも貴族らしく姿勢の良い、そして真剣に穏やかに微笑みを浮かべた3人と。
一人だけ、シュンと背中を丸めてふわふわクッションに座る痩せ型の青年。肩より長いストレートの藍色の髪が、俯いた顔にかかって。両手に持つ小さな花が集まって咲く、青紫の紫陽花の花束にも、髪が降りかかっている。
お隣の壮年の男性は、礼をしながら。
「すみません、気が逸ってしまって。というのも、私の弟、ピティエも、生まれながらに視力が弱くて。ギフトの御方様に本日御目通りし、少しでもお願いできればと、希望をもって参った次第です!ルフレ公爵家の皆様、ギフトの御方様にお願い申し上げます!どうか、お話を、一緒に伺う訳にはいきませんか?」
うんうん、と竜樹は頷いた。
聞きたいよね、そういう話。そしてやっぱりこの2人、お願いしてきてくれた!
心の中でホッとする。
そうなのだ。竜樹は企んだ。ルフレ公爵家のプレイヤード君と、お隣のアシュランス公爵家のピティエ青年が、自分にお願いしてきてくれるように、わざと挨拶周りもしたし、隣り合うようにもした。
ピティエ青年の兄、ジェネルーの申し出に、ルフレ公爵家一家は快く頷き、アシュランス公爵家も合同で、竜樹と話をする事になった。
「ピティエ。お花をギフトの御方様に、差し上げて。」
ジェネルーが促すも、しょんぼり、もじもじと。
「あ、あの、あの、この花、良い香りもしないから。ごめんなさい!」
そろそろ、と花束を差し出すピティエの瞳は憂いを帯びて、灰緑色にしょぼしょぼ瞬く。
「いえいえ、綺麗な花ですよ。ピティエ様は、どうしてこの花を選ばれたんですか?」
竜樹が、そっと花を受け取る。
「その、あの。あの、えと。」
「はい、はい。ゆっくり喋って大丈夫ですよ。」
カァ、と顔に朱を上らせて。
「に、匂いがする花、私は苦手で。ご、ごめんなさい、プレイヤード君のこと、貶めてる訳じゃないです!ただ、私が苦手で、だから、匂いのない、それでフワッと、花びらがいっぱいある、花が、触って気持ちいいなと思ったから•••。」
「ほんとだ、おはな、によいしないね。」
「色々なお花があるね!」
「私にも匂わせて~!」
3王子は、スズランと紫陽花を交互にくんかくんかしている。
「2人とも、自分が思う、素敵な花を持ってきてくれたんですね。ありがとうございます。」
竜樹の言葉に、両家ホッとした雰囲気。
「さて、どちらの方も、治るか治らないか、気になる事でしょうから、早速言いますと。」
「「はい。」」
「私も専門家じゃないので、詳しくはないのですが、この世界では、生まれつきの弱視だと、まだ治らない、と思います。カラダスキャナーで見ながら後天的な網膜剥離なんかは治るし、飛蚊症も白内障も治癒の魔法で治るんですが、治癒の魔法って、生まれついての元々あった状態以上には、良くならないようなんです。多分、皆さん、治癒は試されたと思うんですが。」
「「は、はい•••。」」
しょんぼり。皆の眉が下がる。
「視力については、少し調べたんです。新聞売りの子供達の中で、行動が何だか変だな、と思った子がいまして。よくよく見てみると、視力が弱い事が分かって。」
「アミューズよ、ね。あたまいいの。」
「神経衰弱、すごく上手だよね。」
「覚えてるんだよ。読み上げたカードを。」
3王子も知ってる、8才のアミューズの為に、竜樹も視力について勉強したし、子供達も工夫して遊んでいる。
「プレイヤード君。君の目は、どんな風に見えているの?そしてそれは生まれつきなの?」
竜樹の問いかけに。
「はい。光があるのが分かるな、っていうくらいで、はっきり見えないのです。生まれつきです•••。」
「そうなの。よく眠れている?」
「?はい、夜はぐっすりです。朝、光がさしてくるの分かるから、そうすると、寝てられない!って起きます。お散歩するの、好きだから、一日中いっぱい動いて、バタンって寝ます。」
うんうん、いいねいいね。
「お部屋で大人しくして、って言っているのに、出掛けたがるから困っているんです。頬の怪我だって、付き人を待たないでどんどん歩いて、木に引っ掛けて•••。」
母親のトレフルが、苦々しい顔で言う。
「お母さんは、心配しますよね。怪我も痛そうだし。でも、光を朝ちゃんと浴びたり、動く事はいいんですよ。目って、見るだけじゃなくて、睡眠にも関わっているんですって。だから、良く眠れている事は、とっても良い事なんです。」
「私の目、よく見えないけど、眠るのは良くできてるの?」
自分の顔に手をやるプレイヤード。
「そうだよ。見ることはちょっと不得意だけど、良く眠らせてくれる、いいお目目なんだよ。」
そっとプレイヤードの手に、竜樹は手を重ねて。
「ああぁ。だから私は、良く眠れないのかぁ。」
ピティエが、はたと気づいた風で、頭を抱える。
「そうなんだな!ピティエは、どうせ見えないから、って言って、朝も夜も部屋のカーテンを開けずに暗くしたままだし、あまり動かず部屋でじっとしている事が多いものな•••。」
兄のジェネルーが、なるほど、と頷いた。
「それが分かっただけでも、お話できて良かった。ピティエ、まずは朝にはカーテンを開けような。」
「は、はい。ジェネルー兄上。」
むふふ。
竜樹はほくそ笑む。
治せないのに、なぜ2人を呼び合わせたのか、といえば。
「お二人とも。私のいた世界で、視力が弱い人たちが、どんなふうに工夫して生活してるか、知りたくありませんか?」
「「!知りたいです!」」
「うんうん。それとね、お二人にお仕事をお願いしたくて。ラジオ番組を、作ってみない?」
らじお番組???
33
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします
吉野屋
ファンタジー
竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。
魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。
次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。
【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】
幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる