王子様を放送します

竹 美津

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本編

意見交換会

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「こちら、受付かね?いただいた招待状はこちらだが。」
「ようこそお越し下さいました。ディマンシュ男爵夫妻様、ご子息エグレット様、ご息女モワノー様。こちら、発言する時にご利用頂ける、マイク一式になります。お胸に付けさせていただきますね。マイクの横に付いているボタンを一度、カチッと押せば、声が大きく皆さんに聞こえるようになります。もう一度押せば、切れますので、一度会場に入りましたら、確かめてみて下さい。入れっぱなしだと、喋っている事が全て大きく拡声されてしまうので、お気をつけて。」

ディマンシュ男爵一家は、目を白黒させて、ピンマイクを受付の侍女さん達に付けてもらった。
男爵は45歳になったばかり、お腹の出っ張りが気になるお年頃だが、まだ頭髪は薄くなっていない。妻は5歳年下で、歳の割には若く保たれて可愛らしいおばさまである。剣が苦手で文系の息子エグレットは19歳、活発で陽気な娘のモワノーは10歳だ。その全員にマイクが付けられて、娘にまで!?とビビリつつ、案内の者に促され、会場入りする。

「やはり私共が一番最初か。会議方式かパーティ方式か、分からなかったので、時間通りに来てみたのだが。」
パーティだったら、開始時間より少し遅れて来るのがマナーである。主催者側の支度を急がせない為で、階級が高くなるほど会場入りが遅くなる。会議なら時間厳守だ。
今日はそのどちらとも誰も分からなかったので、会議かパーティか、その間を取っている。ディマンシュ男爵が会場に入る頃には、階級の高い者でも、馬車に乗り王宮の正門に集まり始めていた。

ディマンシュ男爵は会場の後ろの方に案内される。まあ、位から言って前の方はありえない。ディマンシュ男爵一家様、とカードが置かれた毛氈の1スペースに。
正面には、大きなスクリーンが天井から掛かっている。

「どうぞ、お靴を脱いでこちらでお寛ぎ下さい。」
毛氈だけではなく、人数分のふかふかクッションも置かれて。
「ほ、本当に靴を脱ぐのだね。」
「はい。ギフトの御方様の母国では、お部屋の中では靴をお脱ぎになるのですって。今回は、そのお部屋の様式をとっているのです。奥様お嬢様達には、よろしければ室内用布靴がございます。」
「お願いしたいわ。」
「わ、私も。」
女性の裸足は、例え絹の靴下を履いていたとしても、こういった集まりの場では晒さない。
侍女さんが、籠に入った、伸縮性のある布靴をそっと差し出す。
「あ、ピンクのがいいな!」
モワノー嬢が、籠の中をチラッと見て言う。まだ最初の参加者だから、選び放題だ。ニコリと侍女さんは、ピンクの布靴をそっと置いた。

カチッ「あ、あ。」
『あ、あ。』

おおお、大きくなった。
ピンマイクを試して、驚くディマンシュ男爵に、夫人も、息子も、そして娘もマネして一言入れてみる。
カチッと切って、その場に座り込むと、スクリーンに次々に花畑や絶景の映像が映り、さりげなく吟遊詩人がリュートを爪弾いている。その内、画面を分割して、ホツリとテレビ電話の映像が映り出した。家族で観ているらしい、遠隔地の貴族である。食べ物を用意しつつ、子供も含めて寛いで準備中の様子が映る。

へー、何て観ていると。

「こんにちは。ようこそいらっしゃいました、ディマンシュ男爵様、ご家族様。」
目のショボショボした、黒髪黒目の。
そして、マントにエメラルドの留め具の。
「あ、はい、あの?!」
まさか、ギフトの御方様!?

「私はギフトの人、ハタナカタツキと申します。今日は来て下さって、ありがとうございます。」
「第一王子、オランネージュです。」
「第二王子、ネクターです。」
「だいさんおうじ、ニリヤです。」
王子様方まで!?

慌ててディマンシュ男爵達は立ち上がろうとし、礼を取ろうと、の所で、いやいや、と毛氈の端っこに竜樹が膝を付いて座ったので、立つ訳にもいかず、ドギマギと中途半端な礼のみをした。

「まあまあ、お座りになって。今日は、ざっくばらんに、沢山の方とお話できたらな、って思ってるんですよ。」
「私共にまで声をかけて下さり、恐縮です。」
どうぞリラックスして。と言われても、男爵では到底同列では話せない高貴な方々である。どうしたって緊張してしまう。夫人も、息子も、娘もである。娘のモワノーは、若干オランネージュにポポッとなった。

「どうですか、男爵様の所では。ご子息様は、後を継がれて、領地の運営をなさるんでしょうか。」
「はい、そうですね。今も、私を手伝ってくれてます。」
「なるほど。親孝行な息子さんを持って幸せですね。私共は、テレビ業界にも人手が欲しいし、教会の学校にも人手が欲しいし、教科書を作る人も欲しいしで、今絶賛募集中な事が沢山あるんですよ。後々どんな仕事かお話しますけど、息子さんは、何か得意な事があったりします?」
竜樹は、ニコニコと愛想良く話しかける。
「あ、あの、私は、剣が苦手で、どうも身体を動かすのは上手くできなくて。その代わり、勉強は好きで良くやりました。文章を綴る方が、計算よりは得意です。あと、歴史も好きで。」
息子のエグレットは、おずおずと。
ほうほう、なるほど。
「きょうかしょ、つくる?れきしのおべんきょ、おもしろくばんぐみする?」
「兼業でもいいから、面白い発想のひと、募集してるんだよ。」
「分かりやすく教えるには、その何倍も知識を持ってないと、なんだって。テレビの仕事も面白そうだし、何かを作るのって、楽しいんだって。教会の教育やテレビに関わるかどうか、分からなくても、言うだけタダだから、今日は、面白がって参加してみてね。」
3王子も言い添えて。

「お嬢さんには、お勉強する時どんなだと分かりやすいかな?とか教えて欲しいな。ご夫人は、勉強方法にも一家言おありでしょうね。女性の意見も大事にしたいと思ってますので、今日はどうぞよろしく。」
「は、はい!」
「はい!」
じゃあ、また後でね。
と竜樹と3王子は、次の参加者の所へ移っていく。

はふー、と息を漏らして、ディマンシュ男爵は、息子に声をかけた。
「まさかウチから、テレビや教科書への関わりがあるとも思えないが、お声をかけて下さったのは、嬉しい事だね。」
「本当ね。ギフトの御方様は、身分で人を見下さない方だとは聞いていたけれど、目の当たりにすると、やはりびっくりしてしまうわ。」
「オランネージュ様•••。」
「教科書かぁ~。」
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