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本編
お片付け 後
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そうこうしている内に、ネクターの嵐桃シェイク屋さんまで来た。
「ネクター、サン!」
「あ、みんなぁ!迎えに来てくれたの?」
ネクターの嵐桃シェイク屋さんは、ちょうど終了時頃に完売となった。準備した材料が全て捌けるのは、気持ちの良いものである。
ショー支配人が片付けの指揮を取り、ネクターは机にかけていた布を畳む。サンはくったり椅子に腰掛けて、うつらうつらしているから、竜樹が抱っこしてやった。
「サンもお疲れ様。いっぱい働いたね。」
竜樹の首に、短くて細い腕を絡ませたサンは、むにゃ、と口を動かした。
「いっぱい、うれた。サンがんばった、よ。」
「よしよし、良くやりました。」
売り上げを袋に詰めながら、ショー支配人がネクターに。
「完売ですから、売り上げは期待出来ますよ。夜には、ご報告できますから、楽しみに。本日はお疲れ様でした。」
「今日は、みんなありがとう。お疲れ様でしたー。」
ネクターも従業員のみんなに挨拶をして、お疲れ様して先に上がる。
「さっきまで、クレールお祖父様と、ミゼリコルドお祖母様も来ていたんだよ。完売に喜んで下さって。あと、ニリヤのテレビもニコニコ見てた。」
「じいちゃまと、ばぁちゃまが?やったー!」
ふふふ、と笑いながら、新聞売りのブースへと歩く。
向かう途中で、ジェム達やアルディ王子に会った。
「おおーもう片付け終わったんだ。迎えに行くとこだったんだよ。」
「子供新聞は、午後早くに完売したから、あとはおかしの片付けだけだったんだ。おかしも、最後のほうでおみやげに、って、ほとんど売れた!」
おーおー、良かった良かった。
「あしたの新聞のげんこう、子供記者の分、午後のんびり店番してる時にかけたよ。あしたの新聞も、たのしみだなー。」
「おお~仕事早いね。じゃあ本部に腕章返して、みんなで帰ろっか。」
「「「はーい!」」」
馬車でガタゴト王宮の寮に帰る。
ツバメは寮で良い子でお留守番していて、モゾモゾしながらお世話係のシャンテさんによいよいされていた。
竜樹は、鈴が中に入っている布のおもちゃをおみやげに、ツバメに持たせると、ちり、ちりん、と鈴が鳴った。
みんなでお風呂に入り、電池切れのねむねむ子供達を丸洗いして、まずは夕飯。竜樹と3王子達とアルディ王子は、報告会と称して王様、王妃様と食事だから、そこで寮から王宮に戻る。寮の管理人夫婦の分のおみやげたい焼きなどを、少しお皿に分けておいた。
王宮でお出迎えの侍従侍女さんに、タカラのトートバッグから残りのお土産を出して、竜樹が。
「侍従侍女さん達におみやげだよ。たい焼きはオーブンで焼き直して、外をカリッとさせてあったかいのを食べるのも美味しいよ。」
と言うと、受け取った侍従さんがニココ!と。
「ありがとうございます!流石は竜樹様です、助かりました!」と予想以上に喜んだ。
「助かった?」
はい。
「王宮で執務をされていた王様が、テレビをご覧になって、たい焼き食べてみたいなぁとか、私も行ってみたかったなぁ、と仰って。今回は王妃様もフリーマーケットにお出かけになりましたから、少しお寂しかったのではないでしょうか。お仕事ばかりで、お出かけもままならない王様に、おみやげで雰囲気だけでも。」
「そうかそうか。お役に立てたなら、良かったよ~。」
うんうん、頷く。
「私どもも、もちろん残ったものをいただきます。ありがとうございます!たい焼きは、味が幾つもあるのですよね。王様に伺って、選んで頂きましょう。」
ニッコニコの侍従さんは、おみやげ袋を胸に抱いて、いそいそと退出していった。
「みんな、無事にフリーマーケットが終えられて、良かったな。私もテレビで、様子を見ていたが、なかなか楽しい催しだった。フレ殿も、楽しんで頂けたかな?」
オランネージュの叔父で、マルグリット王妃の弟の、フレ・ヴェリテも一緒に食卓を囲んでいる。
「はい、楽しかったですよ!ウチの国でも、小さな村で、物々交換の市なんかはあるんですけど、貴族も参加して大きくやると、また違うんですね。テレビも効果的だったし、写真館や嵐桃も良かった。一般参加のお店の者も、お客さんも、皆、楽しそうでしたね!」
「うんうん。楽しまれたのなら、何より。ゆっくりこの国で、良い所を見てやっておくれ。アルディ殿下も、新聞売りのお店はいかがでしたかな?」
キラキラの瞳で、匙ですくい、もぐっとお皿に盛った親子丼を食べたアルディ王子は、口の中のご飯を飲み込んで、お茶をひとくち飲む。
「はい、ハルサ王様。子供新聞を買って、その場で読んでくれる人もいたり、質問してくれる人もいたり、しました。文字が大きくて、読みやすいからって、お客さまが良く買ってくれて、完売もしたし。お店に出て売ってると、中には難しいお客さまもいるんだけれど、ジェム達がうまく相手をしてくれて、色んな人と話す、いいけいけんになりました!」
「ほうほう。アルディ殿下の学びになったなら、これほど嬉しい事はない。今日は疲れたろうから、よく食べて、ゆっくりお休み下さい。」
「はい!ありがとうございます!」
もぐ!と勇んで親子丼をまた一口。
オランネージュの写真館は、かなりの売り上げをあげた。肖像画は、高くて貴族しか頼めないが、写真なら銀貨1枚でその時の今を残せるとあって、平民達も大喜びだった。
はぐはぐとオランネージュも食べながら、三つ葉入りのお出汁のスープを飲んで。
「郵便も出来たから、孫の写真を、離れてくらしているお祖父様とお祖母様に送る、だから2枚欲しい、って人も結構いたんです。2枚目は、銅貨2枚上乗せだったんだけど、よく売れました。カメラの前では、きんちょうする人も多くて、笑顔になってもらうのに工夫しました。お店をやるのは、楽しいし、私も勉強になりました!」
「ほうほう、それは良かった。まずは楽しいを学べた事は、良かったな。お店は、続けていくと、いい時も悪い時もあるから、楽しいばかりではないだろうが、オランネージュ。これからも写真館について、お店の勉強をしていくといい。将来の為にもなろう。」
「はい!父上!」
これからの写真館の先行きも順調と思われる。
竜樹が出会った、肖像画工房、グラン公爵家のしがない三男、ボンの話も出て、新しく産業が起こると、廃れるものもあるね、という話になった。
「肖像画工房の者達には、残念な結果になってしまったなあ。小さい所を切り捨てたくはないが、時代の変化は仕方ないとも言える。どうにか仕事を見つけられれば良いのだが。」
「それについては、少し考えがあります。」
竜樹がお茶をすすーっと飲んで、ふは、と息吐き。
「アニメーション、を提案してみようかな、と。」
「あにめーしょん? とは?」
王子達が好んで見る昔話や、餡パンのヒーローの番組のように、止まった絵を、一枚一枚変えて映していくと、絵が動いているように見える。仕組みの理解には、パラパラマンガがわかりやすいだろう。後で王様に見せてあげよう。
「教会の、ファヴール教皇からも、子供達や学びを受けてこなかった人向けの、勉強の番組を作ってくれって言われてます。短い番組の中に、ちょっと可愛い、わかりやすいアニメがあったら、親しみが湧くし、続けて見てもらえるのでは?って思います。それには、肖像画のような細密な絵じゃないけれど、沢山絵を描かなきゃなんですよね。」
解雇された人たちが、もし良いって言えば、番組に誘ってみるつもりです。
「おお、おお!それは良い!」
「それから、肖像画工房も、やり方を少し変えて、細々とでも残るように、案を考えたいと思っています。まあ、工房の職人さんに受け入れてもらえれば、ですけれど。」
人はゲームのコマのようには動かない。
だから、少しでも話し合いができるように、仕事仲間だった、グラン公爵家の、ボンの紹介が必要だ。
「具体的には、どんな案が?」
「肖像画を描く時、ずっと同じ格好でポーズをとるのって、大変ですよね。だから、モデルのセットをしたら、写真を撮って、それで描けるように。そうしたら、忙しい人でも肖像画を頼めます。もちろんその場の空気感なんかは、プロの手にお任せになるんですが。」
それから、描いた肖像画を、写真で絵はがきにして、代替わりなんかの時に、お知らせができたら、いいかも?
名刺なんかもいい。写真でやってくれ、って言われるかもしれないが、写真館と提携して、選べるようにするのも良い。
写真は、絵よりも、経年劣化する。写真より重厚で、長く保存ができるのが肖像画のいい所、ってテレビや新聞でお知らせして。もちろん写真を貶す訳ではないけれど、得意な所が違う。
額縁に入れて豪華に大きさも出せるし、代々、受け継がれていけるし。
それに、絵ならではの、修正や自由な描き込みもきくし。一緒に描きたい人物を、一緒にポーズとってもらわなくても、それぞれに写真を撮って絵で合成もしたり。
「ふむ、ふむ。そう聞くと、肖像画も捨てたものではないな。」
「でしょう。元々貴族の方達向けの職業だろうし、そこで食べていければ。写真に慣れておくのも、いい事なんじゃないかなって思います。」
職人さんが、納得してくれると良いのだけど。
「なるほど。王都の肖像画工房が、率先して変化すれば、地方の工房もついて行きやすいだろう。」
「写真じゃなくて絵を頼む、って、余裕があって贅沢な事ですものね。文化として、残っていくと良いです。」
王様が親子丼とカシオン風サラダを食べ切って、お茶を飲む。給仕が、オーブンでカリカリに焼いて温めた、たい焼きを2匹。胡麻入り餡とカスタードを、優雅にお皿で出すと、王様はピカッと目を光らせて、楽しそうにお手拭きで手を拭いた。
「うむ。竜樹殿、どうか、肖像画工房の力になってやっておくれ。美術館の話も、グラン公爵家のボン次第だが、実現すると良いな。」
「そうですね!」
にぎ、と手でたい焼きを掴んで、カプリ、と頭から噛み付く。王様、たい焼きは頭から派らしい。
「もぐ。もぐ。たい焼きは、手掴みがマナーなのだろう?食べている!という感じがするな。ふふふ、皮は香ばしいし、胡麻餡は、こっくりと甘い。食べてみたかったのだ!竜樹殿、おみやげありがとう!」
「いえいえ、喜んで頂けたら良かったです。」
オランネージュ、ネクター、ニリヤ、アルディ王子は、梨を切ったものを、ガラスの器からデザートフォークで食べている。王妃様もフレ殿下も、竜樹も梨。
しばらく甘味に、無言になっていると、一匹たい焼きを食べ終わった王様が、ネクターに水を向けた。
「ネクターの嵐桃シェイク屋さんも、完売したそうじゃないか。一つ一つの事にキチンと成果を出すのは、難しい事だが、良くやったな。嵐桃を嫌がる少し難しいお客様にも、ショー支配人に協力してもらって、乗り切れたと聞いている。」
「はい!食べ物のお店だから、安全だよ、っていうのは大事だ、ってショー支配人が言っていて。一人では、どうして良いかわからなかったけれど、ショー支配人が助けてくれました。私も目の前でお味見に飲んでみる事で、納得していただけて。お客様のほとんどは、おいしいって喜んで声をかけてくれて、私もうれしかったです!」
「うむうむ。王族として、率先してお味見したのは、偉かったな。ネクターも、嵐桃の事業に、これからも注目していくと良いだろう。」
「はい、父上!」
2匹目のたい焼きに手を出して、カプリと噛み付くと、とろーり温かいカスタード餡が。
「もぐ。ニリヤも、良く沢山リポートできた。父様も、テレビを見ていて、お店の事がよくわかって、フリーマーケット行きたいな、って思ったぞ。魅力が伝わった!いっぱい歩いたろう。疲れたか?」
「つかれたけど、おもしろかったのです。とうさま。また、みんなで、やりたいです。」
「うんうん。ちょっと聞いた所では、お店をやって、売れても売れなくても、今度は最初から工夫して頑張りたい。一年準備できれば、もっとお店がよくできた。フリーマーケットで売れば、無駄がなくなって、助かる。物を作っている者達は、お客様の直の声を聞いて、参考になるなど、来年に期待する声が多数届いているな。」
全体の収支はこれから出るが、赤字になってなければ、来年もやろう。
「ほんと!?とうさま!」
「本当だとも。机を運んだり片付けたりで、荷運び日雇いの民にもお金が流れるし、周りの店にも経済的効果がある。金銭感覚を養う事で、子供達の、領地経営の学びのきっかけになるとも、報告の者は言っていたな。」
「お店やさん、楽しかったねえ。来年もできるかもしれないんだ。」
オランネージュが言えば。
「うん、すごく楽しかった。さっきお金の報告もらって。1杯のシェイクを売って、お金をもらって、生活するって、大変なことなんだ、って少しわかった。」
ネクターも、しみじみ応える。
「ぼくも、テレビで、もっとみんなのこと、おしらせしたいよ~。」
ニリヤも、やる気になっている。
「お店やさんやると、お客様と、ちょくせつお話しできるのいいよね。城に居ただけじゃ、全然知ってなかったこと、知れるし。」
アルディ王子も、接客に興味を持って。
「私も、沢山楽しませてもらいましたわ。ブーツって歩きやすいし、久々に自由を満喫できました。貴方に、ちょっと素朴な、ペーパーウェイトをおみやげに買いましたのよ。金銭的価値はないけれど、とても可愛い、葉っぱの模様が入った丸いガラスのものなの。」
「おお、マルグリット!私におみやげとは、嬉しいぞ。執務室で使えるだろう、大事にする。」
「使ってもらえたら、嬉しいわ。後で執務室にお持ちしますわね。」
仲良し夫婦のあったかトークに子供達もフレも、微笑ましく。
「マルグリットは王妃だから、警備上まあ普段からちょくちょく、という訳にはいかないだろうが。それでも今までより、女性もブーツを履いて歩いて活動的に過ごす、その模範となるというのも、これからの我が国には必要だろう。女性目線、というのだったな、竜樹殿?」
「はい、重要な目線です。そういえば、女性の更年期についての特集の番組を、まだやってませんでしたね。王妃様の調査をお聞きして、まとめて、『サンテ!みんなの健康』でやりたいですね!」
「ええ、是非、是非!」
「更年期って何ですか?」
フレが、マルグリット王妃に聞く。
なかなか当事者の女性から声を発しなければ、わからない人も多いだろう。
「フレも知っておいた方がいいわ。女性がある年齢になってくると、身体の中で変化が起こって、ほてったり疲れやすかったり、調子が悪くなってくる事があるのよ。人によるけれど。男性でも更年期、あるらしいわよ。」
「いっぱい、すとれる、だめなの!フレおじさま!」
「すとれる?」
ニリヤが教えてくれるが、それは、「ストレスね。無理な仕事や生活したりと、ひどく重圧に感じる事があると、いけないらしいですよ。」
首を捻るフレに、簡単に教えて。
「詳しくは、番組を見てもらえば、誰にでも分かるようにつくりましょう。」
「そうしましょう、そうしましょう!」
食べるのも終わって、くつろぎながらダベる。王様は、この時間が持てる事を、幸せだと思っている、と前に竜樹に言っていた。
「それと、教育番組には、王子達、アルディ王子、ジェム達にも手伝ってほしいんだ!エフォール君も、やるかな?女の子も少し、登場してくれるといいなあ。」
「おてつだい?なに?」
「なになに、竜樹!」
「「お手伝い、するよー!」」
お勉強を、知らない、分からない子達の気持ちになって、どうしたらいいの?って番組の中で、一緒に悩んでほしいの。
そうして、分かった!て答えを見つけて解決する役をやってほしい。
「詳しくは、スマホで教育番組の例を見せるから。」
「上映会ですわね!」
「おお、久々だな!」
でも、上映会は、明日以降に。
「今日は、みんな疲れているだろうから。」
そうだね、そうだね、となって、食事会は終えた。
フレは、私にも見せていただけるのですか?と竜樹に戸惑いながら聞いたが、もちろん是非に!とウェルカムされて、ホッと一息ついた。
「ここまで聞いて見られないと、気になりますからね。」
「そうですよねえ。」
竜樹が、王子達と、一緒に寝る部屋への帰り道。歩きながら、目を半分つむってこっくりし出したニリヤを、抱っこする頃。
グラン公爵家のしがない三男、ボンは、家で家族(と嫁に行った姉と甥)に囲まれて、美術館について熱々に話をしていた。
「ネクター、サン!」
「あ、みんなぁ!迎えに来てくれたの?」
ネクターの嵐桃シェイク屋さんは、ちょうど終了時頃に完売となった。準備した材料が全て捌けるのは、気持ちの良いものである。
ショー支配人が片付けの指揮を取り、ネクターは机にかけていた布を畳む。サンはくったり椅子に腰掛けて、うつらうつらしているから、竜樹が抱っこしてやった。
「サンもお疲れ様。いっぱい働いたね。」
竜樹の首に、短くて細い腕を絡ませたサンは、むにゃ、と口を動かした。
「いっぱい、うれた。サンがんばった、よ。」
「よしよし、良くやりました。」
売り上げを袋に詰めながら、ショー支配人がネクターに。
「完売ですから、売り上げは期待出来ますよ。夜には、ご報告できますから、楽しみに。本日はお疲れ様でした。」
「今日は、みんなありがとう。お疲れ様でしたー。」
ネクターも従業員のみんなに挨拶をして、お疲れ様して先に上がる。
「さっきまで、クレールお祖父様と、ミゼリコルドお祖母様も来ていたんだよ。完売に喜んで下さって。あと、ニリヤのテレビもニコニコ見てた。」
「じいちゃまと、ばぁちゃまが?やったー!」
ふふふ、と笑いながら、新聞売りのブースへと歩く。
向かう途中で、ジェム達やアルディ王子に会った。
「おおーもう片付け終わったんだ。迎えに行くとこだったんだよ。」
「子供新聞は、午後早くに完売したから、あとはおかしの片付けだけだったんだ。おかしも、最後のほうでおみやげに、って、ほとんど売れた!」
おーおー、良かった良かった。
「あしたの新聞のげんこう、子供記者の分、午後のんびり店番してる時にかけたよ。あしたの新聞も、たのしみだなー。」
「おお~仕事早いね。じゃあ本部に腕章返して、みんなで帰ろっか。」
「「「はーい!」」」
馬車でガタゴト王宮の寮に帰る。
ツバメは寮で良い子でお留守番していて、モゾモゾしながらお世話係のシャンテさんによいよいされていた。
竜樹は、鈴が中に入っている布のおもちゃをおみやげに、ツバメに持たせると、ちり、ちりん、と鈴が鳴った。
みんなでお風呂に入り、電池切れのねむねむ子供達を丸洗いして、まずは夕飯。竜樹と3王子達とアルディ王子は、報告会と称して王様、王妃様と食事だから、そこで寮から王宮に戻る。寮の管理人夫婦の分のおみやげたい焼きなどを、少しお皿に分けておいた。
王宮でお出迎えの侍従侍女さんに、タカラのトートバッグから残りのお土産を出して、竜樹が。
「侍従侍女さん達におみやげだよ。たい焼きはオーブンで焼き直して、外をカリッとさせてあったかいのを食べるのも美味しいよ。」
と言うと、受け取った侍従さんがニココ!と。
「ありがとうございます!流石は竜樹様です、助かりました!」と予想以上に喜んだ。
「助かった?」
はい。
「王宮で執務をされていた王様が、テレビをご覧になって、たい焼き食べてみたいなぁとか、私も行ってみたかったなぁ、と仰って。今回は王妃様もフリーマーケットにお出かけになりましたから、少しお寂しかったのではないでしょうか。お仕事ばかりで、お出かけもままならない王様に、おみやげで雰囲気だけでも。」
「そうかそうか。お役に立てたなら、良かったよ~。」
うんうん、頷く。
「私どもも、もちろん残ったものをいただきます。ありがとうございます!たい焼きは、味が幾つもあるのですよね。王様に伺って、選んで頂きましょう。」
ニッコニコの侍従さんは、おみやげ袋を胸に抱いて、いそいそと退出していった。
「みんな、無事にフリーマーケットが終えられて、良かったな。私もテレビで、様子を見ていたが、なかなか楽しい催しだった。フレ殿も、楽しんで頂けたかな?」
オランネージュの叔父で、マルグリット王妃の弟の、フレ・ヴェリテも一緒に食卓を囲んでいる。
「はい、楽しかったですよ!ウチの国でも、小さな村で、物々交換の市なんかはあるんですけど、貴族も参加して大きくやると、また違うんですね。テレビも効果的だったし、写真館や嵐桃も良かった。一般参加のお店の者も、お客さんも、皆、楽しそうでしたね!」
「うんうん。楽しまれたのなら、何より。ゆっくりこの国で、良い所を見てやっておくれ。アルディ殿下も、新聞売りのお店はいかがでしたかな?」
キラキラの瞳で、匙ですくい、もぐっとお皿に盛った親子丼を食べたアルディ王子は、口の中のご飯を飲み込んで、お茶をひとくち飲む。
「はい、ハルサ王様。子供新聞を買って、その場で読んでくれる人もいたり、質問してくれる人もいたり、しました。文字が大きくて、読みやすいからって、お客さまが良く買ってくれて、完売もしたし。お店に出て売ってると、中には難しいお客さまもいるんだけれど、ジェム達がうまく相手をしてくれて、色んな人と話す、いいけいけんになりました!」
「ほうほう。アルディ殿下の学びになったなら、これほど嬉しい事はない。今日は疲れたろうから、よく食べて、ゆっくりお休み下さい。」
「はい!ありがとうございます!」
もぐ!と勇んで親子丼をまた一口。
オランネージュの写真館は、かなりの売り上げをあげた。肖像画は、高くて貴族しか頼めないが、写真なら銀貨1枚でその時の今を残せるとあって、平民達も大喜びだった。
はぐはぐとオランネージュも食べながら、三つ葉入りのお出汁のスープを飲んで。
「郵便も出来たから、孫の写真を、離れてくらしているお祖父様とお祖母様に送る、だから2枚欲しい、って人も結構いたんです。2枚目は、銅貨2枚上乗せだったんだけど、よく売れました。カメラの前では、きんちょうする人も多くて、笑顔になってもらうのに工夫しました。お店をやるのは、楽しいし、私も勉強になりました!」
「ほうほう、それは良かった。まずは楽しいを学べた事は、良かったな。お店は、続けていくと、いい時も悪い時もあるから、楽しいばかりではないだろうが、オランネージュ。これからも写真館について、お店の勉強をしていくといい。将来の為にもなろう。」
「はい!父上!」
これからの写真館の先行きも順調と思われる。
竜樹が出会った、肖像画工房、グラン公爵家のしがない三男、ボンの話も出て、新しく産業が起こると、廃れるものもあるね、という話になった。
「肖像画工房の者達には、残念な結果になってしまったなあ。小さい所を切り捨てたくはないが、時代の変化は仕方ないとも言える。どうにか仕事を見つけられれば良いのだが。」
「それについては、少し考えがあります。」
竜樹がお茶をすすーっと飲んで、ふは、と息吐き。
「アニメーション、を提案してみようかな、と。」
「あにめーしょん? とは?」
王子達が好んで見る昔話や、餡パンのヒーローの番組のように、止まった絵を、一枚一枚変えて映していくと、絵が動いているように見える。仕組みの理解には、パラパラマンガがわかりやすいだろう。後で王様に見せてあげよう。
「教会の、ファヴール教皇からも、子供達や学びを受けてこなかった人向けの、勉強の番組を作ってくれって言われてます。短い番組の中に、ちょっと可愛い、わかりやすいアニメがあったら、親しみが湧くし、続けて見てもらえるのでは?って思います。それには、肖像画のような細密な絵じゃないけれど、沢山絵を描かなきゃなんですよね。」
解雇された人たちが、もし良いって言えば、番組に誘ってみるつもりです。
「おお、おお!それは良い!」
「それから、肖像画工房も、やり方を少し変えて、細々とでも残るように、案を考えたいと思っています。まあ、工房の職人さんに受け入れてもらえれば、ですけれど。」
人はゲームのコマのようには動かない。
だから、少しでも話し合いができるように、仕事仲間だった、グラン公爵家の、ボンの紹介が必要だ。
「具体的には、どんな案が?」
「肖像画を描く時、ずっと同じ格好でポーズをとるのって、大変ですよね。だから、モデルのセットをしたら、写真を撮って、それで描けるように。そうしたら、忙しい人でも肖像画を頼めます。もちろんその場の空気感なんかは、プロの手にお任せになるんですが。」
それから、描いた肖像画を、写真で絵はがきにして、代替わりなんかの時に、お知らせができたら、いいかも?
名刺なんかもいい。写真でやってくれ、って言われるかもしれないが、写真館と提携して、選べるようにするのも良い。
写真は、絵よりも、経年劣化する。写真より重厚で、長く保存ができるのが肖像画のいい所、ってテレビや新聞でお知らせして。もちろん写真を貶す訳ではないけれど、得意な所が違う。
額縁に入れて豪華に大きさも出せるし、代々、受け継がれていけるし。
それに、絵ならではの、修正や自由な描き込みもきくし。一緒に描きたい人物を、一緒にポーズとってもらわなくても、それぞれに写真を撮って絵で合成もしたり。
「ふむ、ふむ。そう聞くと、肖像画も捨てたものではないな。」
「でしょう。元々貴族の方達向けの職業だろうし、そこで食べていければ。写真に慣れておくのも、いい事なんじゃないかなって思います。」
職人さんが、納得してくれると良いのだけど。
「なるほど。王都の肖像画工房が、率先して変化すれば、地方の工房もついて行きやすいだろう。」
「写真じゃなくて絵を頼む、って、余裕があって贅沢な事ですものね。文化として、残っていくと良いです。」
王様が親子丼とカシオン風サラダを食べ切って、お茶を飲む。給仕が、オーブンでカリカリに焼いて温めた、たい焼きを2匹。胡麻入り餡とカスタードを、優雅にお皿で出すと、王様はピカッと目を光らせて、楽しそうにお手拭きで手を拭いた。
「うむ。竜樹殿、どうか、肖像画工房の力になってやっておくれ。美術館の話も、グラン公爵家のボン次第だが、実現すると良いな。」
「そうですね!」
にぎ、と手でたい焼きを掴んで、カプリ、と頭から噛み付く。王様、たい焼きは頭から派らしい。
「もぐ。もぐ。たい焼きは、手掴みがマナーなのだろう?食べている!という感じがするな。ふふふ、皮は香ばしいし、胡麻餡は、こっくりと甘い。食べてみたかったのだ!竜樹殿、おみやげありがとう!」
「いえいえ、喜んで頂けたら良かったです。」
オランネージュ、ネクター、ニリヤ、アルディ王子は、梨を切ったものを、ガラスの器からデザートフォークで食べている。王妃様もフレ殿下も、竜樹も梨。
しばらく甘味に、無言になっていると、一匹たい焼きを食べ終わった王様が、ネクターに水を向けた。
「ネクターの嵐桃シェイク屋さんも、完売したそうじゃないか。一つ一つの事にキチンと成果を出すのは、難しい事だが、良くやったな。嵐桃を嫌がる少し難しいお客様にも、ショー支配人に協力してもらって、乗り切れたと聞いている。」
「はい!食べ物のお店だから、安全だよ、っていうのは大事だ、ってショー支配人が言っていて。一人では、どうして良いかわからなかったけれど、ショー支配人が助けてくれました。私も目の前でお味見に飲んでみる事で、納得していただけて。お客様のほとんどは、おいしいって喜んで声をかけてくれて、私もうれしかったです!」
「うむうむ。王族として、率先してお味見したのは、偉かったな。ネクターも、嵐桃の事業に、これからも注目していくと良いだろう。」
「はい、父上!」
2匹目のたい焼きに手を出して、カプリと噛み付くと、とろーり温かいカスタード餡が。
「もぐ。ニリヤも、良く沢山リポートできた。父様も、テレビを見ていて、お店の事がよくわかって、フリーマーケット行きたいな、って思ったぞ。魅力が伝わった!いっぱい歩いたろう。疲れたか?」
「つかれたけど、おもしろかったのです。とうさま。また、みんなで、やりたいです。」
「うんうん。ちょっと聞いた所では、お店をやって、売れても売れなくても、今度は最初から工夫して頑張りたい。一年準備できれば、もっとお店がよくできた。フリーマーケットで売れば、無駄がなくなって、助かる。物を作っている者達は、お客様の直の声を聞いて、参考になるなど、来年に期待する声が多数届いているな。」
全体の収支はこれから出るが、赤字になってなければ、来年もやろう。
「ほんと!?とうさま!」
「本当だとも。机を運んだり片付けたりで、荷運び日雇いの民にもお金が流れるし、周りの店にも経済的効果がある。金銭感覚を養う事で、子供達の、領地経営の学びのきっかけになるとも、報告の者は言っていたな。」
「お店やさん、楽しかったねえ。来年もできるかもしれないんだ。」
オランネージュが言えば。
「うん、すごく楽しかった。さっきお金の報告もらって。1杯のシェイクを売って、お金をもらって、生活するって、大変なことなんだ、って少しわかった。」
ネクターも、しみじみ応える。
「ぼくも、テレビで、もっとみんなのこと、おしらせしたいよ~。」
ニリヤも、やる気になっている。
「お店やさんやると、お客様と、ちょくせつお話しできるのいいよね。城に居ただけじゃ、全然知ってなかったこと、知れるし。」
アルディ王子も、接客に興味を持って。
「私も、沢山楽しませてもらいましたわ。ブーツって歩きやすいし、久々に自由を満喫できました。貴方に、ちょっと素朴な、ペーパーウェイトをおみやげに買いましたのよ。金銭的価値はないけれど、とても可愛い、葉っぱの模様が入った丸いガラスのものなの。」
「おお、マルグリット!私におみやげとは、嬉しいぞ。執務室で使えるだろう、大事にする。」
「使ってもらえたら、嬉しいわ。後で執務室にお持ちしますわね。」
仲良し夫婦のあったかトークに子供達もフレも、微笑ましく。
「マルグリットは王妃だから、警備上まあ普段からちょくちょく、という訳にはいかないだろうが。それでも今までより、女性もブーツを履いて歩いて活動的に過ごす、その模範となるというのも、これからの我が国には必要だろう。女性目線、というのだったな、竜樹殿?」
「はい、重要な目線です。そういえば、女性の更年期についての特集の番組を、まだやってませんでしたね。王妃様の調査をお聞きして、まとめて、『サンテ!みんなの健康』でやりたいですね!」
「ええ、是非、是非!」
「更年期って何ですか?」
フレが、マルグリット王妃に聞く。
なかなか当事者の女性から声を発しなければ、わからない人も多いだろう。
「フレも知っておいた方がいいわ。女性がある年齢になってくると、身体の中で変化が起こって、ほてったり疲れやすかったり、調子が悪くなってくる事があるのよ。人によるけれど。男性でも更年期、あるらしいわよ。」
「いっぱい、すとれる、だめなの!フレおじさま!」
「すとれる?」
ニリヤが教えてくれるが、それは、「ストレスね。無理な仕事や生活したりと、ひどく重圧に感じる事があると、いけないらしいですよ。」
首を捻るフレに、簡単に教えて。
「詳しくは、番組を見てもらえば、誰にでも分かるようにつくりましょう。」
「そうしましょう、そうしましょう!」
食べるのも終わって、くつろぎながらダベる。王様は、この時間が持てる事を、幸せだと思っている、と前に竜樹に言っていた。
「それと、教育番組には、王子達、アルディ王子、ジェム達にも手伝ってほしいんだ!エフォール君も、やるかな?女の子も少し、登場してくれるといいなあ。」
「おてつだい?なに?」
「なになに、竜樹!」
「「お手伝い、するよー!」」
お勉強を、知らない、分からない子達の気持ちになって、どうしたらいいの?って番組の中で、一緒に悩んでほしいの。
そうして、分かった!て答えを見つけて解決する役をやってほしい。
「詳しくは、スマホで教育番組の例を見せるから。」
「上映会ですわね!」
「おお、久々だな!」
でも、上映会は、明日以降に。
「今日は、みんな疲れているだろうから。」
そうだね、そうだね、となって、食事会は終えた。
フレは、私にも見せていただけるのですか?と竜樹に戸惑いながら聞いたが、もちろん是非に!とウェルカムされて、ホッと一息ついた。
「ここまで聞いて見られないと、気になりますからね。」
「そうですよねえ。」
竜樹が、王子達と、一緒に寝る部屋への帰り道。歩きながら、目を半分つむってこっくりし出したニリヤを、抱っこする頃。
グラン公爵家のしがない三男、ボンは、家で家族(と嫁に行った姉と甥)に囲まれて、美術館について熱々に話をしていた。
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家族もチート!?な貴族に転生しました。
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チート過ぎる転生貴族の改訂版です。
内容がものすごく変わっている部分と変わっていない部分が入り交じっております
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異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます
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※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。
7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。
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※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
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