王子様を放送します

竹 美津

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本編

お片付け 後

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そうこうしている内に、ネクターの嵐桃シェイク屋さんまで来た。
「ネクター、サン!」
「あ、みんなぁ!迎えに来てくれたの?」

ネクターの嵐桃シェイク屋さんは、ちょうど終了時頃に完売となった。準備した材料が全て捌けるのは、気持ちの良いものである。
ショー支配人が片付けの指揮を取り、ネクターは机にかけていた布を畳む。サンはくったり椅子に腰掛けて、うつらうつらしているから、竜樹が抱っこしてやった。
「サンもお疲れ様。いっぱい働いたね。」
竜樹の首に、短くて細い腕を絡ませたサンは、むにゃ、と口を動かした。
「いっぱい、うれた。サンがんばった、よ。」
「よしよし、良くやりました。」

売り上げを袋に詰めながら、ショー支配人がネクターに。
「完売ですから、売り上げは期待出来ますよ。夜には、ご報告できますから、楽しみに。本日はお疲れ様でした。」
「今日は、みんなありがとう。お疲れ様でしたー。」
ネクターも従業員のみんなに挨拶をして、お疲れ様して先に上がる。

「さっきまで、クレールお祖父様と、ミゼリコルドお祖母様も来ていたんだよ。完売に喜んで下さって。あと、ニリヤのテレビもニコニコ見てた。」
「じいちゃまと、ばぁちゃまが?やったー!」
ふふふ、と笑いながら、新聞売りのブースへと歩く。
向かう途中で、ジェム達やアルディ王子に会った。

「おおーもう片付け終わったんだ。迎えに行くとこだったんだよ。」
「子供新聞は、午後早くに完売したから、あとはおかしの片付けだけだったんだ。おかしも、最後のほうでおみやげに、って、ほとんど売れた!」
おーおー、良かった良かった。
「あしたの新聞のげんこう、子供記者の分、午後のんびり店番してる時にかけたよ。あしたの新聞も、たのしみだなー。」
「おお~仕事早いね。じゃあ本部に腕章返して、みんなで帰ろっか。」
「「「はーい!」」」

馬車でガタゴト王宮の寮に帰る。
ツバメは寮で良い子でお留守番していて、モゾモゾしながらお世話係のシャンテさんによいよいされていた。
竜樹は、鈴が中に入っている布のおもちゃをおみやげに、ツバメに持たせると、ちり、ちりん、と鈴が鳴った。

みんなでお風呂に入り、電池切れのねむねむ子供達を丸洗いして、まずは夕飯。竜樹と3王子達とアルディ王子は、報告会と称して王様、王妃様と食事だから、そこで寮から王宮に戻る。寮の管理人夫婦の分のおみやげたい焼きなどを、少しお皿に分けておいた。

王宮でお出迎えの侍従侍女さんに、タカラのトートバッグから残りのお土産を出して、竜樹が。
「侍従侍女さん達におみやげだよ。たい焼きはオーブンで焼き直して、外をカリッとさせてあったかいのを食べるのも美味しいよ。」
と言うと、受け取った侍従さんがニココ!と。
「ありがとうございます!流石は竜樹様です、助かりました!」と予想以上に喜んだ。

「助かった?」
はい。
「王宮で執務をされていた王様が、テレビをご覧になって、たい焼き食べてみたいなぁとか、私も行ってみたかったなぁ、と仰って。今回は王妃様もフリーマーケットにお出かけになりましたから、少しお寂しかったのではないでしょうか。お仕事ばかりで、お出かけもままならない王様に、おみやげで雰囲気だけでも。」
「そうかそうか。お役に立てたなら、良かったよ~。」
うんうん、頷く。
「私どもも、もちろん残ったものをいただきます。ありがとうございます!たい焼きは、味が幾つもあるのですよね。王様に伺って、選んで頂きましょう。」
ニッコニコの侍従さんは、おみやげ袋を胸に抱いて、いそいそと退出していった。



「みんな、無事にフリーマーケットが終えられて、良かったな。私もテレビで、様子を見ていたが、なかなか楽しい催しだった。フレ殿も、楽しんで頂けたかな?」
オランネージュの叔父で、マルグリット王妃の弟の、フレ・ヴェリテも一緒に食卓を囲んでいる。
「はい、楽しかったですよ!ウチの国でも、小さな村で、物々交換の市なんかはあるんですけど、貴族も参加して大きくやると、また違うんですね。テレビも効果的だったし、写真館や嵐桃も良かった。一般参加のお店の者も、お客さんも、皆、楽しそうでしたね!」
「うんうん。楽しまれたのなら、何より。ゆっくりこの国で、良い所を見てやっておくれ。アルディ殿下も、新聞売りのお店はいかがでしたかな?」

キラキラの瞳で、匙ですくい、もぐっとお皿に盛った親子丼を食べたアルディ王子は、口の中のご飯を飲み込んで、お茶をひとくち飲む。
「はい、ハルサ王様。子供新聞を買って、その場で読んでくれる人もいたり、質問してくれる人もいたり、しました。文字が大きくて、読みやすいからって、お客さまが良く買ってくれて、完売もしたし。お店に出て売ってると、中には難しいお客さまもいるんだけれど、ジェム達がうまく相手をしてくれて、色んな人と話す、いいけいけんになりました!」
「ほうほう。アルディ殿下の学びになったなら、これほど嬉しい事はない。今日は疲れたろうから、よく食べて、ゆっくりお休み下さい。」
「はい!ありがとうございます!」
もぐ!と勇んで親子丼をまた一口。

オランネージュの写真館は、かなりの売り上げをあげた。肖像画は、高くて貴族しか頼めないが、写真なら銀貨1枚でその時の今を残せるとあって、平民達も大喜びだった。

はぐはぐとオランネージュも食べながら、三つ葉入りのお出汁のスープを飲んで。
「郵便も出来たから、孫の写真を、離れてくらしているお祖父様とお祖母様に送る、だから2枚欲しい、って人も結構いたんです。2枚目は、銅貨2枚上乗せだったんだけど、よく売れました。カメラの前では、きんちょうする人も多くて、笑顔になってもらうのに工夫しました。お店をやるのは、楽しいし、私も勉強になりました!」
「ほうほう、それは良かった。まずは楽しいを学べた事は、良かったな。お店は、続けていくと、いい時も悪い時もあるから、楽しいばかりではないだろうが、オランネージュ。これからも写真館について、お店の勉強をしていくといい。将来の為にもなろう。」
「はい!父上!」

これからの写真館の先行きも順調と思われる。

竜樹が出会った、肖像画工房、グラン公爵家のしがない三男、ボンの話も出て、新しく産業が起こると、廃れるものもあるね、という話になった。
「肖像画工房の者達には、残念な結果になってしまったなあ。小さい所を切り捨てたくはないが、時代の変化は仕方ないとも言える。どうにか仕事を見つけられれば良いのだが。」

「それについては、少し考えがあります。」
竜樹がお茶をすすーっと飲んで、ふは、と息吐き。

「アニメーション、を提案してみようかな、と。」

「あにめーしょん? とは?」

王子達が好んで見る昔話や、餡パンのヒーローの番組のように、止まった絵を、一枚一枚変えて映していくと、絵が動いているように見える。仕組みの理解には、パラパラマンガがわかりやすいだろう。後で王様に見せてあげよう。

「教会の、ファヴール教皇からも、子供達や学びを受けてこなかった人向けの、勉強の番組を作ってくれって言われてます。短い番組の中に、ちょっと可愛い、わかりやすいアニメがあったら、親しみが湧くし、続けて見てもらえるのでは?って思います。それには、肖像画のような細密な絵じゃないけれど、沢山絵を描かなきゃなんですよね。」
解雇された人たちが、もし良いって言えば、番組に誘ってみるつもりです。

「おお、おお!それは良い!」

「それから、肖像画工房も、やり方を少し変えて、細々とでも残るように、案を考えたいと思っています。まあ、工房の職人さんに受け入れてもらえれば、ですけれど。」
人はゲームのコマのようには動かない。
だから、少しでも話し合いができるように、仕事仲間だった、グラン公爵家の、ボンの紹介が必要だ。

「具体的には、どんな案が?」
「肖像画を描く時、ずっと同じ格好でポーズをとるのって、大変ですよね。だから、モデルのセットをしたら、写真を撮って、それで描けるように。そうしたら、忙しい人でも肖像画を頼めます。もちろんその場の空気感なんかは、プロの手にお任せになるんですが。」

それから、描いた肖像画を、写真で絵はがきにして、代替わりなんかの時に、お知らせができたら、いいかも?
名刺なんかもいい。写真でやってくれ、って言われるかもしれないが、写真館と提携して、選べるようにするのも良い。
写真は、絵よりも、経年劣化する。写真より重厚で、長く保存ができるのが肖像画のいい所、ってテレビや新聞でお知らせして。もちろん写真を貶す訳ではないけれど、得意な所が違う。
額縁に入れて豪華に大きさも出せるし、代々、受け継がれていけるし。
それに、絵ならではの、修正や自由な描き込みもきくし。一緒に描きたい人物を、一緒にポーズとってもらわなくても、それぞれに写真を撮って絵で合成もしたり。

「ふむ、ふむ。そう聞くと、肖像画も捨てたものではないな。」
「でしょう。元々貴族の方達向けの職業だろうし、そこで食べていければ。写真に慣れておくのも、いい事なんじゃないかなって思います。」
職人さんが、納得してくれると良いのだけど。

「なるほど。王都の肖像画工房が、率先して変化すれば、地方の工房もついて行きやすいだろう。」
「写真じゃなくて絵を頼む、って、余裕があって贅沢な事ですものね。文化として、残っていくと良いです。」

王様が親子丼とカシオン風サラダを食べ切って、お茶を飲む。給仕が、オーブンでカリカリに焼いて温めた、たい焼きを2匹。胡麻入り餡とカスタードを、優雅にお皿で出すと、王様はピカッと目を光らせて、楽しそうにお手拭きで手を拭いた。
「うむ。竜樹殿、どうか、肖像画工房の力になってやっておくれ。美術館の話も、グラン公爵家のボン次第だが、実現すると良いな。」
「そうですね!」
にぎ、と手でたい焼きを掴んで、カプリ、と頭から噛み付く。王様、たい焼きは頭から派らしい。

「もぐ。もぐ。たい焼きは、手掴みがマナーなのだろう?食べている!という感じがするな。ふふふ、皮は香ばしいし、胡麻餡は、こっくりと甘い。食べてみたかったのだ!竜樹殿、おみやげありがとう!」
「いえいえ、喜んで頂けたら良かったです。」
オランネージュ、ネクター、ニリヤ、アルディ王子は、梨を切ったものを、ガラスの器からデザートフォークで食べている。王妃様もフレ殿下も、竜樹も梨。
しばらく甘味に、無言になっていると、一匹たい焼きを食べ終わった王様が、ネクターに水を向けた。

「ネクターの嵐桃シェイク屋さんも、完売したそうじゃないか。一つ一つの事にキチンと成果を出すのは、難しい事だが、良くやったな。嵐桃を嫌がる少し難しいお客様にも、ショー支配人に協力してもらって、乗り切れたと聞いている。」
「はい!食べ物のお店だから、安全だよ、っていうのは大事だ、ってショー支配人が言っていて。一人では、どうして良いかわからなかったけれど、ショー支配人が助けてくれました。私も目の前でお味見に飲んでみる事で、納得していただけて。お客様のほとんどは、おいしいって喜んで声をかけてくれて、私もうれしかったです!」
「うむうむ。王族として、率先してお味見したのは、偉かったな。ネクターも、嵐桃の事業に、これからも注目していくと良いだろう。」
「はい、父上!」

2匹目のたい焼きに手を出して、カプリと噛み付くと、とろーり温かいカスタード餡が。

「もぐ。ニリヤも、良く沢山リポートできた。父様も、テレビを見ていて、お店の事がよくわかって、フリーマーケット行きたいな、って思ったぞ。魅力が伝わった!いっぱい歩いたろう。疲れたか?」
「つかれたけど、おもしろかったのです。とうさま。また、みんなで、やりたいです。」

「うんうん。ちょっと聞いた所では、お店をやって、売れても売れなくても、今度は最初から工夫して頑張りたい。一年準備できれば、もっとお店がよくできた。フリーマーケットで売れば、無駄がなくなって、助かる。物を作っている者達は、お客様の直の声を聞いて、参考になるなど、来年に期待する声が多数届いているな。」

全体の収支はこれから出るが、赤字になってなければ、来年もやろう。

「ほんと!?とうさま!」
「本当だとも。机を運んだり片付けたりで、荷運び日雇いの民にもお金が流れるし、周りの店にも経済的効果がある。金銭感覚を養う事で、子供達の、領地経営の学びのきっかけになるとも、報告の者は言っていたな。」

「お店やさん、楽しかったねえ。来年もできるかもしれないんだ。」
オランネージュが言えば。
「うん、すごく楽しかった。さっきお金の報告もらって。1杯のシェイクを売って、お金をもらって、生活するって、大変なことなんだ、って少しわかった。」
ネクターも、しみじみ応える。
「ぼくも、テレビで、もっとみんなのこと、おしらせしたいよ~。」
ニリヤも、やる気になっている。
「お店やさんやると、お客様と、ちょくせつお話しできるのいいよね。城に居ただけじゃ、全然知ってなかったこと、知れるし。」
アルディ王子も、接客に興味を持って。

「私も、沢山楽しませてもらいましたわ。ブーツって歩きやすいし、久々に自由を満喫できました。貴方に、ちょっと素朴な、ペーパーウェイトをおみやげに買いましたのよ。金銭的価値はないけれど、とても可愛い、葉っぱの模様が入った丸いガラスのものなの。」
「おお、マルグリット!私におみやげとは、嬉しいぞ。執務室で使えるだろう、大事にする。」
「使ってもらえたら、嬉しいわ。後で執務室にお持ちしますわね。」
仲良し夫婦のあったかトークに子供達もフレも、微笑ましく。

「マルグリットは王妃だから、警備上まあ普段からちょくちょく、という訳にはいかないだろうが。それでも今までより、女性もブーツを履いて歩いて活動的に過ごす、その模範となるというのも、これからの我が国には必要だろう。女性目線、というのだったな、竜樹殿?」
「はい、重要な目線です。そういえば、女性の更年期についての特集の番組を、まだやってませんでしたね。王妃様の調査をお聞きして、まとめて、『サンテ!みんなの健康』でやりたいですね!」
「ええ、是非、是非!」

「更年期って何ですか?」
フレが、マルグリット王妃に聞く。
なかなか当事者の女性から声を発しなければ、わからない人も多いだろう。

「フレも知っておいた方がいいわ。女性がある年齢になってくると、身体の中で変化が起こって、ほてったり疲れやすかったり、調子が悪くなってくる事があるのよ。人によるけれど。男性でも更年期、あるらしいわよ。」

「いっぱい、すとれる、だめなの!フレおじさま!」
「すとれる?」
ニリヤが教えてくれるが、それは、「ストレスね。無理な仕事や生活したりと、ひどく重圧に感じる事があると、いけないらしいですよ。」

首を捻るフレに、簡単に教えて。
「詳しくは、番組を見てもらえば、誰にでも分かるようにつくりましょう。」
「そうしましょう、そうしましょう!」

食べるのも終わって、くつろぎながらダベる。王様は、この時間が持てる事を、幸せだと思っている、と前に竜樹に言っていた。

「それと、教育番組には、王子達、アルディ王子、ジェム達にも手伝ってほしいんだ!エフォール君も、やるかな?女の子も少し、登場してくれるといいなあ。」
「おてつだい?なに?」
「なになに、竜樹!」
「「お手伝い、するよー!」」

お勉強を、知らない、分からない子達の気持ちになって、どうしたらいいの?って番組の中で、一緒に悩んでほしいの。
そうして、分かった!て答えを見つけて解決する役をやってほしい。

「詳しくは、スマホで教育番組の例を見せるから。」
「上映会ですわね!」
「おお、久々だな!」

でも、上映会は、明日以降に。
「今日は、みんな疲れているだろうから。」
そうだね、そうだね、となって、食事会は終えた。
フレは、私にも見せていただけるのですか?と竜樹に戸惑いながら聞いたが、もちろん是非に!とウェルカムされて、ホッと一息ついた。
「ここまで聞いて見られないと、気になりますからね。」
「そうですよねえ。」

竜樹が、王子達と、一緒に寝る部屋への帰り道。歩きながら、目を半分つむってこっくりし出したニリヤを、抱っこする頃。

グラン公爵家のしがない三男、ボンは、家で家族(と嫁に行った姉と甥)に囲まれて、美術館について熱々に話をしていた。
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