王子様を放送します

竹 美津

文字の大きさ
上 下
144 / 561
本編

写真館にて

しおりを挟む
オランネージュの写真館は、2か所に分かれている。会場の東西、どちらの写真館でも、貴族も平民も撮影してくれるが、列は2つに分かれていて、カメラも2台ある。待ち時間が長そうなので、トラブルを避ける為だ。尚、並び順は、早い者が先で、身分の差で入れ替えはご法度である。
近いので東側の方へ行くと、丁度オランネージュはそこにいた。猫耳のキャスケット帽をかぶって。

「はい~撮りますよ、笑って笑って。」
「赤ちゃん可愛いね~、ほらこっち向いて~。猫ちゃんだよ~ニャンニャン!」

簡単に背景に布が張ってあり、人物が映えるようになっている。照明もキラッと照らして、顔映りもいい。カメラマンの横に並び、カメラのレンズの上で。オランネージュが、エフォールに作ってもらった、お気に入りの猫ちゃんぬいぐるみを、ニャンニャン、と振った。キャキャ!と笑う赤ちゃんの視線も、笑顔も、バッチリである!

何枚か撮影したら、お客様に、写した画面を見せながら、どれが良いですかね~?これなんか、笑顔がよく撮れてますよ、なんてお話して決めて、それを魔道具でプリントする。ピッと印刷機にデータを送って、レバーをガチャン、ぐーっと押して、ぐるぐる取手を回すと、どういう仕組みか、ウニーとピカピカの写真が出てくる。
それを、お客様も、ワクワクと見つめて。ふわぁ、と歓声。

「素敵に撮れたわ!ブロマイドみたい!」
「ああ、家に飾っておこう!良い記念になるね。子供の成長を、ちょくちょく撮りたいけど、この写真館って、今日だけなのですか?」
オランネージュがすかさず。
「写真館は、2ヶ所、貴族向けと平民向けで、街中に開店しますよ!今日はその2店が協力して、りんじの写真館をやってるんです。また、何かの記念に、今度は街中の写真館におこしください。今日みたいに、簡単なお化粧直しや、姿をととのえてくれる、びよういん達も、写真館にいますからね!」

あと、飾るためのフレームもこちらで売ってます!いくつか、フレームが選べますよ!素朴な木のフレーム、キラキラした色ガラスのもの、金属の洗練されたもの、同じく金属だけど、ふるい色を出したエレガントなやさしいフレーム。写真の保護もできますから、よかったら、ゆっくり選んで、写真を入れて帰られては?

「まあ!どれか、いただきたいわ!どれにしようかしら•••。」

う~ん商売上手。
お客様の対応が一旦途切れた所で、竜樹はオランネージュに声をかけた。
「お~いオランネージュ。写真館、繁盛してるね。」
「あ、竜樹ぃ!」
タタタ、と駆け寄ってくるオランネージュは、頬を紅潮させて、興奮しているようだった。一生懸命、報告してくれる。

「お店やさんて、楽しいね!皆、良い記念だね、って笑ってくれるんだよ。厳しい顔したお爺さんなんかも、この猫ちゃんぬいぐるみのトリコ!ちょっと目元が微笑んでくれるだけで、良くなるから!」
ウフフ、とイタズラっぽく笑う。

「良かったなぁオランネージュ。」
「うん!もう片方の西の写真館にも、午後から行くつもり。会場もすこしまわりたいけど、なんだか写真館がたのしいから、どうしようかなぁ!」
猫ちゃんぬいぐるみをギュッと抱きしめ、フリフリ振って、キラキラお目目のオランネージュだった。

「やっぱり、写真、人気ですよね•••。」
何故かショボン、としたグラン公爵家のボンに、オランネージュが気付き、声をかける。
「初めまして。私は第一王子、オランネージュです。竜樹と一緒ってことは、何か困ったことがある人なのかな?写真、人気だと、まずかった?」
ハッ、と、オランネージュの前で写真館の繁盛を残念がるという失言に、焦ったボンは、ササっと跪こうとし。いやいや、今日は礼は、いいからね、とフリフリ手を振ってオランネージュが王子の微笑みをするのに、口をぎゅむと閉じて、胸に手を当てて目礼をした。

「お声がけいただき、光栄に存じます。私、グラン公爵家の三男、ボンと申します。本日は、ギフトの御方様に同行させていただき、困り事を何とかするきっかけを、考える機会をいただきました。」
「やっぱり、困り事があるんだね。それって何?」
ん?何だい?
ニパァ~と笑うオランネージュは、逃がさない。ボンはタジタジとなって、う、う、と唸った。
「いやあ~、グラン公爵家のボン様は、俺に頼りきるんじゃなくて、自分で考えてみたいんだって。」
竜樹が助け舟を出すが。
「それって、それほど困ってないってこと?何でもいいから、キッカケがあるなら、って思うじゃない?」
うっ、うう!
ガーン!とボンはショックを受けて、胸を抑える。

「竜樹は、自分では、子供は育てるけど、実務はお任せしてくれるし、やるもやらないも、やり方を私たちに合うように、どう工夫するかも、任せてくれるから。聞いてみたらいいじゃない?何に困ってるか。」
う、ううう。ガクン。
あ、落ちた。
「そ、そうですね。私の些細な、些細な矜持にこだわって、機会を逃しては、絵画のこれからの発展に、暗雲が。」
んむむむむ、と悩ましく唸って、はー、とため息をつく。
いやいやいや。
「矜持大事。自分が頑張るために必要なら、だいじにするんだよ?」
「いえっ!もう!私など、私の絵画の腕で矜持など!」
ぶるるるる、と頭と手をいやいやいやと振って下がっていくボン。あちゃー。自分で自分を卑下しなくて良いんだよ~。

「私、一休みしたかったんだ!隣の出店に、間引いた未熟なかんきつの、美味しい果実水が出てるから、座って皆んなでのまない?ゆっくり話しようよ。」
ウフッ面白そう!
オランネージュ、心の声が漏れてるよ。

オランネージュの従者が、果実水を人数分お盆に乗せて買ってきてくれた。写真館の休憩室で、ボンの話を、オランネージュと竜樹とタカラとマルサで聞く。仮の間仕切りをしただけの、オープンなスペースなので、オランネージュに付いた護衛などは、姿の見える所で守っている。

「のもうのもう!これも、竜樹の案で出てきた果実水だよ。もっと幼い果実は、精油をとって、髪につけたりするんだって。」
「地方では、自家製で酢みたいに使っていたんだよねえ。」
コク、コク。さっぱり酸っぱくて、美味しい。
「•••で?ボン、何を困っているの?」
ボンは、指をもじもじ絡ませながら、話を始めた。
「私は、絵が好きなんです。」
うん、うん。

グラン公爵家は、絵画の収集に熱心な家柄で、家に沢山の絵画や美術品があったそうだ。幼い頃から美しい物や絵画に触れて育ったボンは、それらがとても好きだった。親達も美術品について一家言あったので、ボンも熱心にそれを吸収した。知識だけでなく、油絵や水彩、陶芸に彫刻と、貪欲に技術を習得した。

「というか、他の事が、私、全くできませんで•••。政治もダメ、計算も、文章も、美術に関してでなければ、どれもダメ。人付き合いはできるけど、領地の為に、細々とした売り込みが出来ない。美しいものについてなら、幾らでも話ができるのですが•••。」
「バラン王兄みたいだね。」

いやいや、とボンは眉を下げる。
「バラン王兄殿下のように、音楽で芸術に貢献できるような、そういう働きができる訳ではないのです。」

何か職を奉じる事ができなければ、遊びの人生になってしまう。ボンの父や母、祖父母に兄達は、お金に困っている訳じゃなし、お前は美術品に触れていれば、それで良いんじゃない、なんて、甘やかしてくれるのだが。

うん、貴族って優雅だな。
竜樹は遠い目になった。ジェム達を思えば、贅沢なのだが、人により悩みは様々だ。

「私は、美術の何らかで、職を得たかった。一通りはできるんです。でも、突き抜けた才能は、どの作品にも、ない•••。整っていて、よく出来た作品だね、とは言われても、嫌われてもいいから人をガツンと引き寄せる魅力は、ない。私は、それでも他の事ができない。だから。」

肖像画を描く、工房に入りました。



ああ~。

「それで写真。」
「はい•••。写真は素晴らしいです。見たままの美しさ、時を閉じ込めて、ありありと記録できる。私も写真に魅了されましたが。仕事の肖像画は。」

ボンは、貴族の坊ちゃんの道楽、と言われながらも、工房で幾許かの給金を得て、働いていた。だが、写真が出来て、王様一家が撮影したり、ブロマイドが売られたりすると、皆の興味は絵画から写真に移ってしまった。

「実際、注文は減っています。写真館ができると噂を聞いて、皆それを待っているのです。工房は、まだ技術が拙い者、見習いを首切りしました。時代はどんどん変わっていく。肖像画が、今以上に隆盛する事はないでしょう。そして私も、首切り、されました。」
すまないな、首を切られて困る者は、切る事が出来ない。ボン様は、貴族だしお金に困ってないから、大丈夫だろう?

「私は、整った真面目な絵しか描けません。だから、肖像画工房は、天職のように感じていました。才能に、ちょっと諦めもあったけど、仕事にまあまあ満足して働いていました。でも、もう仕事が出来ません。私一人なら良いけれど、甥っ子が。」

嫁いだ姉の子が。絵の才能があるのだ。

「もちろんまだ子供で、拙い技術です。でも、人をハッとさせる、輝きがある。このフリーマーケットでも、似顔絵と絵葉書を売っています。私はそれを、ちょっと悔しいと思いますけど、応援したい。でも。」

人物も、風景も、写真があれば絵画は、要らないんじゃないか。時代遅れだ。

「そんな風に言う人も、いるのです。」

「そんな訳、あるかー!」
竜樹は思わず叫んだ。
そうしてグビッと果実水を飲むと、はーどうしたもんか、と頭を抱えた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

憧れのテイマーになれたけど、何で神獣ばっかりなの⁉

陣ノ内猫子
ファンタジー
 神様の使い魔を助けて死んでしまった主人公。  お詫びにと、ずっとなりたいと思っていたテイマーとなって、憧れの異世界へ行けることに。  チートな力と装備を神様からもらって、助けた使い魔を連れ、いざ異世界へGO! ーーーーーーーーー  これはボクっ子女子が織りなす、チートな冒険物語です。  ご都合主義、あるかもしれません。  一話一話が短いです。  週一回を目標に投稿したと思います。  面白い、続きが読みたいと思って頂けたら幸いです。  誤字脱字があれば教えてください。すぐに修正します。  感想を頂けると嬉しいです。(返事ができないこともあるかもしれません)  

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

処理中です...